第1話
SD大賞1のための新作です。
'痛みのない世界'を入れようかと思いましたが、あれはまだまだ自己満足で書きたいので別にしました。いいえ、こちらもなかなか自己満足の書き方ですが。
とりあえず、読んでいただければ嬉しいです
設定は重いが、基本ほのぼのです。悪役がいません。
ピピピピピピ
目覚ましの音がして目が覚めた。
ハローワールド。世界の皆様、おはようございます。前田剛志です。今日から高校二年生。
目覚し時計を止めて部屋を出た。一階に下りたら台所に入って朝食の準備を始める。
この家には俺と親父しかいない。家事はほとんど俺がやっているが休日には親父も手伝う。朝食は毎日交代で準備する。昼食はそれぞれ自分で買う。晩ごはんは、親父がよく遅くなるから、俺がほぼ毎日作る。二人で食べる時があれば一人で食べる時もある。
今日の朝食は俺の番だ。ところが、準備の途中に誰かが居間に入ってきた。言うまでもなくこの家の主であり俺の親父こと前田尊だ。
「おはよう、剛志」
「ウッス。早いな親父。もうちょっと寝てもいいんじゃないか?」
「はは、目が冴えてでね」
そう言って、親父は朝食の準備を手伝ってきた。まあ、こんな日もあるだろう。二人でご飯の準備が早く出来た。朝ニュースをBGMにして、親子二人で食べた。
「今日が入学式だね。バイトはないんだろう?」
「ああ。授業も午前だけ。放課後は特に予定ない」
「僕も今日は定時に帰るつもり」
晩ごはんは二人分ということか。
「あ、晩ごはんはこちらが用意するよ」
「え、マジで?」
これは珍しい。まあ、そう言ってくれるなら厚意に甘えるとするか。
食べ終わったら部屋に戻り、二度寝すーーじゃなかった。制服に着替える。うちの学校は制服に関して校則が緩い。例えば、俺は普段ネクタイをつけない。縛れている感じがいだな。今日は入学式だからつけるけど。
学校に行く支度を終えてまた一階に下りる。行く前に俺は母ちゃんの仏壇に挨拶する。
(母ちゃん、行ってくる)
「あ、そうそう。今日は僕の再婚相手を紹介するからできれば18時前に帰ってきてほしいと言ったかったんだ」
「急にそんな爆弾を落としてんじゃなぇよ」
今朝からの珍しい態度はこれが理由か!?別に反対しねぇけどタイミングというモンがあんだろうが!このヘラヘラ親父!ったく
「はは、すまないね。これでも緊張してたんだ。真由美には僕が謝るから」
「っていうか、家で紹介するというとこは…」
「うん。今日から一緒に暮らす予定」
「こんな堂々と母ちゃんの仏壇が立てられているのにあっちは大丈夫か?」
母ちゃん自身は親父が人生を捨てずに進み続けることが嬉しいと思う。多分。
「ああ、真由美のことは伝えたから、大丈夫そうだ。家族だから。と言ってくれたよ」
「ずいぶんと心が広いんだな」
「家族思いで優しい人だからね」
ならば、その言葉を信じよう。
***
通学中、幼馴染と居合わせた。
「よ」
「よ。じゃねぇよ。遅刻しねぇのに何パン食いながら歩いてんだテメェ。家戻って二度寝してから出直してこい。つうか行儀悪い。」
「わけわかんねぇヤツからオカンになるのやめろや。確かに行儀悪いけど」
そんな挨拶で俺たちは一緒に通学路を歩く。
紹介しよう。俺の隣にパンを食ってる野郎は小学校からのつれ、高村幸雄だ。俺と同じく今日から高校二年。
そう、野郎だ。俺には可愛い美少女の幼馴染がいねぇ。世間辛い。まあ、こいつとの日々も結構楽しいけど。それに、こいつには借りがある。返せるかどうかも分からない大きな借りだ。つっても本人は気にしてねぇし気づいてもしねぇ。だから俺はこいつの隣に歩いていく。
雑談しながらの通学路はあっという間だった。学校についた頃に幸雄が食ってたパンももうなくなってた。校門を通って学生たちが集まってる場所に向かう。もちろん、クラス分けが表示されてる場所だ。
「剛志、名前見つかった?」
「一、二組にはねぇな…お、三組だ」
「俺もだ。今年は同じクラスか。ま、よろしくな」
「おう。よろしく」
「他に誰がいるのかな…」
「教室に行けばわかるだろ」
「それもそっか」
そして俺たちは二階にある二年の教室に向かった。行ってみれば以外に一年のときから縁のある人が多かった。
「クセの強いヤツが多いぞ、このクラス。どうなってんだ?」
「善人集まりの生徒会員が二人もいるしな。今年は忙しくなりそうだ」
「…類は友を呼ぶってやつか。面倒はごめんだぞ」
「言っとくがお前もそう変わんねぇぞ、剛志」
「俺はそこまでお人好しじゃねぇ。まあ、これも縁だ。それなりにこのクラスを楽しむとすっか」
「へへ、その意気だぜ。…あ、」
「幸雄?」
入り口を見てた幸雄に、俺はあいつの視線の先を追った。一人の女子生徒が入ってきたところだった。眼鏡をかけていて、長い黒髪が後ろにリボンで結んで、制服がきっちりしていてスカートもちょうど膝の上。大人しそうな娘だ。見知りの覚えはねぇから実際わからんが。
「知り合いか?」
「一年の時に同じクラスで、席が隣同士の時期があった」
「…それで?」
「俺が惚れた娘だ。今確認した。また同じクラスと知ってこんなに嬉しいとは」
「やれやれ。…ん?」
もう一度幸雄の好きな娘を見ると彼女は俺の席の前の席に座っている。あ、いい忘れたが俺は今幸雄の机にくつろいでいる。そして、幸雄本人は今俺を羨ましがってる目で見てる。
「剛志〜」
「んだよ。別に取らねぇよ」
「そうだけど、そうじゃない〜」
「ったく、めんどくせぇな」
そんなやりとりをしているうちに先生がやって来た。そして、入学式が始まる。
***
授業終わった。帰ろう。
「剛志、帰ろうぜ」
「ああ」
「あ、晴明も一緒に帰ろうぜ」
幸雄が声をかけたのは影山晴明。他の連中が部活や委員会で用事に出てるなか、晴明は俺たちと同じどこにも入ってないのだ。だから、放課後に予定はないと思うが、
「悪ぃ、俺今日バイトが入ってるんだ」
「そっか。それじゃ、また今度な」
「おう。またな、幸雄、剛志」
「ああ。バイト、頑張りな」
そう挨拶して、晴明は軽く手を振って教室を出た。
「そんじゃ、二人で放課後デートすっか」
「あ、急用思い出した」
「待って!ぼっちにしないで!」
「そこは一人にしないでだろうが」
「え、さすがにそれ言うのキモいわ」
俺たちはふざけてしながら下校した。
「今日は剛志の家で遊ぶか」
「いや、悪い。今日は俺の家はちょっと…」
「そう」
「幸雄はいずれ知ることだし教えとくわ。親父の再婚の相手が来るんだ」
「へえ、尊さん再婚するんだ。でも、お前ん家、仏壇はどうする?」
「あっても大丈夫らしい。相手は家族思いで優しい人だそうだ」
「すげぇ人のようだな」
「ま、親父が選んだ相手だ。俺はとやかく言うつもりはねぇ」
「お前らしいな」
「晩ごはんはあっちが用意するから、約束の時間まで超ヒマだ。つぅわけで、幸雄、何か時間つぶしのアイデアを出せ。三秒以内にな」
「いきなりの無茶ぶり!?」
「はい、い〜ち、時間終了」
「二と三は!?」
「知らねぇな。男は一だけ覚えれば生きていけるんだ」
「どこの長官殿だ、テメェ!?数学の点数は!?」
「86」
「何で一だけ覚えてそんな高い点数取れるんだよ!?ああ〜、もういい!公園!公園行こうぜ!」
こうして、俺たちの遊び場は公園で決まった。
***
公園にて、
「いい天気だな〜」
「そうだね〜」
俺と幸雄はそれぞれジュース缶を持って、そしてもう一本をベンチの上に、ベンチで腰を下ろした。元々俺たちはテンションが低いほうだ。こんなふうに落ち着いた場所で光景を眺めているだけことは多少ある。そんな俺たちの目の前に何かが通っている。
「チビだ」
「チビだな」
そう、チビな女の子だ。制服を着てるが中学生か?私服だったら小学生に間違えた自信があるわ。
「ねえ、そこの二人」
「ん?」
「俺たちのことか?」
「そうよ。あんたたち、さっき私のことバカにしてたでしょ」
「なんだ、聞こえたのか」
「それは聞こえてたわよ!真正面に通ったらいきなりチビ呼ばわりとか何事ですか!?」
「だってチビだもん」
「謝罪どころか二度言われた!?しかも面に向かって!?」
「ははは、元気なおチビちゃんだな」
「それ呼び方!?もうヤダ!指摘しても反省する気ゼロだよ、この二人!!」
面白えだなこいつ。からかいの甲斐があるぞ。ま、それはそれとして、
「悪ぃ、悪ぃ。失礼な発言のお詫びとしちゃあなんだが、お前を助けてやるよ」
「え?」
「捜し物してたんだろ?それを見つけるの手伝うと剛志が言ってるんだ」
「なぜ、知ってるの?…は、もしかしてずっと見てたんですか!?」
「別にずっとじゃねえぞ。茂みからお尻が出ていて好奇心で監視してたらそのお尻の持ち主が一時間も公園をウロウロしてたんでね」
「お尻見てたの!?変態!?ロリコン!?」
「ちげぇよ。つぅか、女の子が軽々お尻言ってんじゃねぇよ」
「まあまあ。暗くなる前に済ませようぜ。っと、その前に、ハイ」
幸雄は置いていたもう一本のジュース缶をチビに渡した。俺は一足先に公園を回っていく。
「一時間も探し回して疲れたろ。これで水分を取るといいぜ。俺たちは先に行くから」
「ありが、とう……ってあんたたち私の捜し物は何か知ってるの!?ちょっと待ってええ!!」
***
17時前、チビの捜し物がやっと見つけた。あいつの捜し物とはなんと、一個のビー玉だった。そのビー玉をチビは呆然と見てた。
「本当に……見つけた……」
それを見てる俺は無言であいつの頭を撫でた。チビは驚いて、開いた目玉でこっちを見た。そして、あいつはビー玉を持ってた手を握って大事に抱いてるように胸に当てた。
「よかった〜」
そうして間もなく、チビは立ち直ったようで手を引いた。
「あの…手伝ってくれて本当にありがとうございました」
「気にすんな。お詫びだと言ったろ」
「…未だにチビ呼ばわりでお詫びの意味がないと思いますが」
「あれ?」
「ははは、こりゃ一本取られたな。また次の機会ということで」
そんな俺たちの反応を見て、チビは可笑しく思ったか口角を少し上げた。そう思いきや、あいつはいい勢いで背筋伸ばして俺たちに注意した。
「だ〜か〜ら〜、私はチビじゃありません!ただ少し他の娘と比べて身体が小さいだけです!いい?次またチビとか言ったら今度こそ承知しませんからね!」
そうやって、チビが元気一杯な態度を俺たちに見せた。へえ、こいつ、分かってんじゃねぇか。
「そうかい。ま、頭の隅に入れておくよ。じゃあな、チビ。次は大事なモンを手放さないようにな」
「そっちこそ。次に会う時は女性の扱いを学んできてくださいね。ロリコンさんとそのお友達さん。それでは」
そう言い残したチビは走って帰った。
「俺たちも帰ろっか」
「そうだな。家帰ったらシャワー浴びな。紹介する息子が土臭いったら尊さん可哀想」
「言うまでもねぇっつうの。ってかお前も土臭いわ」
「確かにな。はっはっはっは」
「ったくよ。げっハッハッハ」
俺と幸雄は笑いながら隣り合わせで夕日に向かって歩いていく。
「ところで剛志、お前、ロリコンだったの?」
「ロリコンじゃなぇ」
いい感じに終わらせたいのに、何ぬかすんだ、ボケ幸雄。