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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第一章
8/44

朝1


       白


「お前が‼……」

そんな自分の寝言にびっくりして僕は目を覚ました。夢を見ていたのだろうけれど、どんな夢を見ていたのかはわからない。悪夢だった気がする。

朝だ、カーテンの奥が明るい。部屋を見渡すと一瞬自分の部屋じゃなかったから戸惑ったけど、すぐに青柳さんの家に泊まったんだということを思い出す。

部屋の時計を見る。七時十分ちょい過ぎ

今日は一時限目から授業のある大学へ向かうにはまだ時間の余裕がある。

上半身を起こしてぼぉっとする、二度寝をするかこのまま起きてしまうか思案中だ、ここが運命の分かれ道……、二度寝したら多分五割、いや七割くらいの確率で寝過ごしてしまって大学の授業に遅刻してしまうだろう、何度も経験済みだからこれは確かだ。

二度寝をしたら確実に遅刻する可能性が出てくる。

……なんだかこれでは結局僕が遅刻するのかしないのか分からなくなってしまうが、可能性の話だし……それに何より眠くて頭が回らない……。

……まぁ、遅刻しない可能性もあるわけだし、可能性があることというのは努力次第で百パーセント実行可能なので、僕は二度寝をした後に頑張って起きることにした。

よし、これで僕が遅刻することは確実にない。

よくよく考えてみれば青柳さんが起こしてくれると言っていたし、そんなに心配することでもなかったかもしれない。青柳さんはもう起きてしまったのか部屋を見渡した時には姿が見当たらなかった、トイレにでも言っているのかな?

再び布団の中に潜り込む

冬の寒さというものはとにかく厳しくて、毎回布団から出たら凍死してしまうのではないかと思うくらいだ。この寒さの中布団の外から出てまで活動しようとする人間は異常な生き物なのかもしれない。

大学に通い始めて一人暮らしを始める前、実家に住んでいた頃、僕はこの季節の朝の寒さを味わうと外で飼っていた犬が本当に凍死しているんじゃないかと布団にくるまりながら本気で心配していた。まぁ、犬は平気そうだったが……。全身にもさもさした毛が生えている分寒さには強いらしい。

それでも僕は心配で、夜中、温かくできるように犬小屋に毛布を詰め込んでやったことがあった。不思議と犬が喜んでいるように見えて、何だやっぱり寒かったんじゃないか、でもこれで安心だ、と満足してその日眠りについたのだが翌朝起きてみれば、毛布は小屋から引っ張り出されたうえにずたずたに引き裂かれており、犬はといえば小屋の中ですやすや寝ていた。

もしかしたら僕のにおいのついた僕の毛布が気に入らなかったのかもしれない。

結果、僕は掛布団だけで冬の寒い中一晩寝たのがいけなかったのか風邪をひき、親からは毛布を一つ無駄にしたことについて叱られるという、まぁ、僕は自分を犠牲にしてまで飼い犬を助けてあげようとしたのに犬ってのは勝手な奴だよねっていう話、いや自業自得か……。

寒い分布団と毛布の温かさ心地よさと言ったらなくこれが分からない犬は可哀想な生き物だなぁ、とか考えながら僕は布団の中で体を横向きにして膝を軽く曲げ両手を太ももに挟むという自分にとって寝るのにはベストの体勢になる。

思わずこのままいつまでも眠っていたくなる。僕は人類史上初めての冬眠をする人間なのかも知れないな。

「ん~」

と、そこで

僕の背後でそんな声を上げながら何かが動いた。

真後ろだ、すぐそこにいる。

びっくりして固まってしまった僕は自分の首筋に生暖かい風があたるのを感じる。

「………。」思わず息を殺す。そして頭をよぎる一つの可能性。

自分でも信じられないくらいのスピードでその可能性について検証していく、

……なぜ、確か最初に寝たときは別々に寝たはずだ……僕が寝た後に行動が起こされていたとしたら……いやふつうその時に起きるだろう僕……でも確かに起きた時いなかったし……でも何のために……寝ぼけて?……寒かったから?

………。

考えても埒が明かない。

僕は意を決して振り向くことを決意した。

いまだに首筋に当たる生温かく湿った風、聞き覚えのある先ほどの声、姿が見当たらないあの人

それらの証拠を基にすればもうほとんど疑いようのない自分の仮説を胸に秘めて

僕は振り向く。

……僕の隣に青柳さんが寝ていた

……まぁ、ね。これしかないよね、これで青柳さんじゃなかったら逆にびっくりだよ。いや、まぁ、そうじゃなくても十二分に驚いているんだけど……。

寝起きで二度も驚くなんて、寿命が大幅に縮んだかもしれない。

「スー、スー」

青柳さんは静かに寝息を立てながら横を向いて、つまりは僕と向かい合わせになってすやすや眠っている。……僕と同じベッドで。

……ちょっと待って、ショックが後から来た……。

落ち着け、落ち着け僕、紅田白十九歳、未成年、未経験、やかましいわ。

な、な、ななな、なんで青柳さんが僕と同じベッドに?青柳さんは確か昨晩カーペットの上に布団を敷いて寝たはずなのに。

「スー、スー」

近い、とにかく近い、大きさからみてシングルベッドに二人寝ているのだからそりゃあもう近い。さっきから僕の首元に青柳さんの息が吹きかかってきている。

最初は青柳さんにからかわれていて、寝起きドッキリでも仕掛けられているのではないかとか思ったけれど、どうやら違う。青柳さんは本当に寝ているようだ、寝顔が……、昨晩見た時には考えられないほど腑抜けきってしまっている。昨晩は凛としていて、タバコを吸う姿がかっこいいクールビューティとはこのことなのか、と言う物腰だったのに今の青柳さんはなんだか……かわいい。

寝顔なんて誰でもこんなものなのだろうけれど、まるで青柳さんの裏の顔でも見ているようだ、ギャップがすごすぎる。

しばらくして少しだけ冷静になった僕はじっと青柳さんの寝顔を観察してみた。

別に下心なんて全くない。

この人本当に何者なのだろうか。人の真上から降ってくるし、僕の頭痛と吐き気をおまじないとか言っていすぐに直しちゃったし無言の圧力が半端じゃないし、どこか身にまとっている雰囲気が今まで見てきた人たちとは全く違って見える。……別に一目ぼれしたとかそう言うわけじゃないけど。

悪い人ではないと思うんだけど謎が多すぎる……。

……さて、さっきはびっくりして思わず布団から飛び出しそうになったけど、よくよく考えてみれば、冷静になって考えてみれば、天国だな、これ。

なおさら布団から出たくなくなってしまった。

昨夜知り会ったばかりの男女二人が同じベッドで寝ているといういかがわしい場面といえども、別に僕が布団から出ないことや青柳さんを今起こさないことをとがめる人はいないだろう。僕はあくまで布団の外が寒いから布団から出ないわけで、僕の真横にある青柳さんの神秘的な寝顔はそのおまけのようなものだ、別にそれが僕が布団から出たくない決定的な理由なわけではない。が、

もう、学校なんてどうでもいいや。

青柳さんが僕を起こしてくれることはなくなったけど、このまま青柳さんの寝顔を見ながら眠ってしまおう。

そう思って青柳さんの寝顔を頭に焼き付けてから眠ろうとしたその時

「ん~、うぅん」

青柳さんがそう唸って寝返りをうった、……僕方向じゃない方向に。

ちなみに青柳さんが隣で寝ていることをさっきまで知らなかった僕はほとんどベッドの真ん中で寝ており、青柳さんはその隣、人一人がちょうど寝れるくらいのギリギリのスペースで寝ている。その青柳さんが僕が寝ている方向とは逆の方向に寝返りをうつということはつまり

―――――お、落ちる‼

ベッドから落ちることを意味していた。


ここまで読んでいただき有難うございました!

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