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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第一章
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千年2

耳を傾ける、うめき声は少年から発せられているようだ。カーテンの隙間から漏れるアパートの外灯の光に照らされた少年が「ううぅぅ、うぅぅ」とうめき声をあげ布団の中で足をじたばたと動かしている。それこそ何かにのりうつられているのではないかと思うくらいに激しく。

恐る恐る這って少年の寝ているベッドに近づく

「お、おい⁉」

顔をのぞかせて見ると少年は自分の首筋に自分の右の爪を突き立てて肌に食い込ませていた、血こそ出てはいないが、本人は顔をしかめてとても苦しそうにしている。

寝ているのか起きているのかよく分からない、目は瞑っているが、体はじたばたと動いており、右手の力は緩む気配がない。

私は慌てて少年の首からその手を引きはがそうとするが、少年の逆の手がその右手を抑えているので抵抗する力が強く難しい。

……そもそも少年が寝ていてうなされているのか、寝ぼけているのか、分からない状況なのだが、私は少年を起こす気にはなれなかった。今、少年を起こしたらこの子が、私が、どうなってしまうのか分からなくて怖かったから……。

私はとにかく右手を首から引き離そうと引っ張って、首にかかる力を少しだけ緩めるので精いっぱいだった。

十分間くらいそのままだっただろうか……、結局少年が自ら急に首から手を放した。

後半は、私は疲れてほとんど少年の手に自分の手を添えるだけの形になっていたので、その瞬間に勢い余って私が後ろにひっくりかえることはない

はぁ、……疲れた、一体なんだったんだ………、「‼」

少年の顔を見た、目が、開いている。

………起きた?

「お、おい、少年?」

私がそう話しかけるが、少年はこちらを見ようともしない。ただ天井をじっと見つめていた。私も天井に目を向けてみるがそこには何もない、そして再び目線を天井から少年の顔に向けると少年の目はすでに何事もなかったかのように閉じられており、「スー、スー」と寝息が聞こえてくる。

寝た?……いや、元々寝ていたのか?………もう訳が分からない。

何なんだこの子は

まさか本当に幽霊に取りつかれていたわけでもないだろう(そう信じたい)、夢遊病か何かかもしれないかそれにしてはちょっと過激すぎやしないか?自分で自分の首に爪を立てるなんて……。

寝ている少年の首をそっと撫でようとしてその手を止める、

手が冷たい……このままではこの子を起こしていしまうかもしれないな………。

そこで私は自分の手にはぁっと吐息を吹きかけ両手をこすり合わせた

少しは温かくなった自分の手で改めて少年の首をなでる、血は出ていないようだが、爪の食い込んだ後がはっきりと指先で感じられた、もしかしたら肌が裂けているかもしれない。

………なんで自分でこんなことを…………。

「君は一体何なんだ?……なぜ君はそうなってしまった、何が苦しくて君はそうなった?……何が君をそうさせた?教えてくれ。」

少年の安らかな寝顔にそうささやきかけたが、もちろん返事はない。

ちょっと、というかかなり寝足りない気がしたが、私はもうこのまま起きておくことにした。この場から離れると再び少年がうめき声をあげるんじゃないかと不安だったので、私はベッドの側面を壁にし、そこに背中を預け体育座りをして座る。

「スー、スー」

少年はさっきまでの騒ぎようがウソのように静かに寝息を立てている。

時計を見る。

五時十五分過ぎ、もう早朝と言っても差し支えのない時間だが、さすがに外はまだ真っ暗だ、

結局二時間も眠れなかったな私……、

そう言えば少年を何時に起こせばいいのか聞いていなかったな、明日は学校があると言っていたか……、とりあえず七時くらいに起こせばいいだろう。

それまであと約二時間。二時間後、少年はどんな顔をして起きるだろうか……、

ちゃんと起きてくれるだろうか……、ちゃんとというのは一度起こせば二度寝しないですんなり起きてくれるとかそういうことじゃなくて、

何事もなかったように起きてくれるだろうか、普通に起きてくれるだろうか、ちゃんとリセットされるだろうか、昨日のことなんて忘れて起きてくれるだろうか、

つまり私が言いたいのは

起きたとき、まだ少年が壊れていたら嫌だな……。

明日の朝、少年とどんな会話をしようか、そんなことを考える。そして

「……少し、寒いな………。」

私は少年の寝息を後ろに聞きながら一人そうつぶやいた。



ここまで読んでいただき有難うございました!

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