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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第一章
6/44

千年1

千から下は、千年視点となります。


       千


あの子には何を言っても無駄だ、とは言わない。ただ何も言えなかった、何かを言うと私があの子から何か怖いことをされそうな気がして……。

そんな臆病な自分に嫌悪感を抱きつつ私、青柳千年は眠りについた。ベッドを少年に貸しているからテーブルをどけてリビングのカーペットの上に布団を敷いて、だ。

しかし少年の私に必死に訴えかけるあの姿が脳裏にしつこく蘇ってきて眠れない。

右手が震えている…、私はその手をもう片方の手で優しく包み込みそれからギュッときつく握りしめた。

正直怖かった

なめてた、私はただ、少年のどこか身にまとっている厭世的な雰囲気と、あの死んだ目から何か生きていくうえで悩み事でもあるのかな?と思って軽々しく聞いただけだった、

どうせつまらないことで悩んでいるのだろうなぁ、と

生きていてもつまらないだとか、生きるのに疲れただとか、生きている意味が分からない、生まれてこなきゃよかった、私は誰からも愛されていない、私はよくわからないけど不幸だ、とか

あの子もよくいるネガティブな発想をファッションのように身にまとって気取っているだけの子なんだろうなぁと思っていた。

それなら、それでよかった。と言うよりできればそっちの方がよかった……。

そういう子は話を聞いてやるだけでどこか満足してくれるし、話を聞いてやって変なものでも見るような目で見てやれば相手は自分が人とは違う特別な存在なんだ、常人とは人生観の違う存在だから他人のように頑張って生きなくていいんだと自己肯定させてやることができるから。ある意味それで相手の悩みは解決したと言える。

もちろん私の場合そのままでは済ませてやらないけど。

まぁ、大抵の子は途中でそんなことどうでもよくなってきて勝手に自分からその身にまとった思想を脱ぎ捨てる。つまり真に解決してくれるのは時間だと言えるだろう。

あの子もそうなんだろうなぁと思っていた

期間限定の思想家もどきなんだろうなぁ、と。

違った、そんな健全で、朗らかで、微笑ましくて、善良で、清純で、浅はかなものじゃなかった。あの子は

意味不明

あの子が私に悲鳴を上げるように叫んで私に何かを訴えかけていたけど、日本語を聞いているような気がしなかった……、火星人とでも喋っている気分

気持ちが悪かった

今すぐこの部屋から追い出したかった。

……まぁ、そんなことしないけど

「どうして誰も僕を助けてくれないんですか」と彼は言ったが、それだけは意味を理解して聞き取ることができたが、……あんなの誰も助けられるわけがない意味不明なんだから。

あの子が何かに苦しんでいるのは確かなのだけどその何かが分からない、

多分あの子自身もよくわかっていない、分かろうとしていない。

彼は助けを求めようとしている自分をわざと訳が分からなくすることで抑え込んでいるのかもしれない。

僕はもう自分に何も期待しない」から、「僕は僕を助けない」から。

それが何を意味するかはやっぱり分からないけど。

多分、あの子は…………

いや

今日会ったばかりの子についていろいろ考えすぎだ、もうよそう。根拠なんてどこにもないし、これ以上はただの決めつけになってしまう。

暗い部屋の中、少年のことを考えるのを中断し、私はただぼぉっと部屋の天井を眺める。

ベッドの方からは少年が寝付けないのか、ガサゴソと布団の中で体の向きを変える音がが時折聞こえる。他人の部屋のベッドだから寝づらいというのもあるだろうけれど、あの子には睡眠障害か何かあるのかもしれない、目の下のくまを見てそう思った。

同じく私も今夜は眠れそうにないけれど、とりあえず目を瞑る。頭の中で少年の声がこだまするが気にしない。とにかく頭の中を空っぽにしよう

それから全身の力を抜いて、一定のリズムで深く呼吸をすればいつかは眠れるはずだ。

修行僧が座禅を組んで心を無にするかのように、私は布団の中で仰向けになって心を無にしようとする。

そこから眠るのに四十分はかかったと思う。


四時五十分

布団の前に置いておいた私の腕時計はそんな時間を指していた

私は確かに寝たはずだったのだが、やっと寝ることができたはずだったのだが、……そんな時間に目を覚ましてしまった

やっと寝ることができたのに………

そんな自分の眠りの浅さを軽く呪いながら私は目を覚ます原因となった『音』に耳を傾けた。

「うううぅぅ、ううぅぅぅ」

そんな小さくも大きくもない声量のうめき声がどこからか聞こえてくるのだ。

最初は、またこのアパートの外で若者が騒いでいるのか、そうじゃなかったら猫が喧嘩でもしているのか、と思ったが、違う。

声は部屋の中から聞こえてくる。

………もしかして、幽霊、とか?………まさかね、

私は幽霊なんて信じないし、そもそもいたとして何なんだ、私は幽霊に悪さされたりするようなことなど何もしていない、はず。………そもそも幽霊に何の権利があって人に乗り移ったり呪ったりするのだ、そんなのわがままだろう、自分勝手すぎる。……そ、それになんで死んだ瞬間、人間がそんな能力身に着けるんだ、そ、そんなのずるい、私はど、どう闘えばいい……?

「ううぅぅぅ、うううぅぅぅぁぁぁ」

…………。

幽霊なんて怖くもなんともない私は、とりあえず部屋を明るくするために照明のリモコンを四つん這いになって探し回る

あれ?ない、ない、……確か近くに置いておいたはずなのに……

中々見つからない。

そんな状況に別に焦りも何も感じていない私は、場合によっては少年を起こそうとベッドの方に目を向ける

すると、

「うううぅぅぅ、ううぅぅ」

うめき声の正体が知れた。

「しょ、少年……?」


ここまで読んでいただき有難うございました!

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