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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第三章
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探し物4

再び公園に戻ってきたとしても、やる事は最初と何も変わらなかった。最初と違う点を挙げるとすれば、探し物をする人数が三人から一人になったくらいだ。

 喜助君は、僕がしゃがみ込んで雪をかき分けながら探し物をしている間ずっと僕の背後に立っていて、二つとも開いた傘を各々両手で持ち、僕が頼んだわけでも無いのにその片方を僕の真上にかざしてくれていた。

 しかし喜助君の僕に対する傘の位置取りが微妙なため、空から降る雪はほとんど僕にかかってしまっているし、傘に積もった大量の雪が時々僕の頭の上に落ちてきたりもして、もはや喜助君のその行為は、ほとんど僕に対する嫌がらせのようになってしまっていた。傘に積もった雪が僕の頭の上に落ちるたびに「ごめん……」と、感情が何一つこもっていない声で喜助君が謝るので、彼に悪気はないのだと思うのだが…………多分。

 ベチョベチョの雪で服をビチョビチョにしながらキーホルダー探索は続いた。時折、雪の中にそれらしい感触を手に感じるのだが、大体が石や枝木だったりで、そのたびに心の中で小さく一喜一憂する。

 ほとんど役に立ちもしない傘差して、ただ立って見ているだけなら喜助君も手伝えばいいのに、なんてことを思ったりしはじめた僕だったが、喜助君は立っている間きょろきょろと周りを見渡しているだけで何もしなかった。いや、傘を差してくれていたわけなんだけど……、それもマイナスで働いちゃってるわけだし……。本当にこの子は何をしに来たんだろう……。

 探す場所を替えようと、僕は立ち上がって伸びをする。背骨がパキポキと音を立てる。

 その時だった。

さきほどまでずっと僕がしゃがみ込んで探していたところ、僕が少し雪を掘り返していたところに、何やら茶色い物体が見えた。

ずっとしゃがみ込んで、自分の手元を注視しながら探していたので、立って自分の探していた所を全体的に見渡して初めてそれに気が付いた。

まさか、とは思いつつも、またぞろ木の枝か何かだろうと思いながらダメ元で手を伸ばして雪に埋もれているその物体をつかむ。すると、茶色い物体と一緒に、キーホルダー特有の金具が雪の中からずるずると顔を出す。手にした茶色い物体は小さい熊のぬいぐるみだった。

「え」思わず僕はそんな声を出す。

 探し求めていたキーホルダーが、僕がさっきまで探していた場所にあって、場所を替えようとした時にそれが見つかったのだからこんな声も出る。

「あった……」

僕はただただ驚いていた。

「あったね」と、喜助君。まるでそれが当然のことであるかのような、平然とした声だった。

「あったよ⁉喜助君!僕、見つけた!」喜助君に向かい、僕は声を大にして言う。

「知ってるよ」

 驚きはそのまま喜びへと徐々に僕の中で変わっていき、まじまじと改めてそのキーホルダーを見つめつつ、探していたものと特徴が完全に一致していることを確認すると、とにかくこの見つけたキーホルダーを青柳さんに見せたくて、すぐに教会へと足を向けた。

 思わず早足になる。

「それを見つけたとしても、帰ったら紅田さん、青柳さんに殺されるかもね……」

「…………。」

 思わず遅足になる。



 今更ながら自分のしでかしたことの重大さに気が付いた、キーホルダーを見つけたことで少し冷静になることができた。僕は頭を抱えて道路にしゃがみ込みたい気持ちになりながらも、喜助君からもらった傘を差して、喜助君と並んでとぼとぼと教会へ向かう。

「そうだよね……、青柳さん絶対に怒っているよね、っていうか、僕を殴った時点で完全にキレちゃってるよね……」

「足が出ないだけまだましだよ、あれは」喜助君が恐ろしいことをさらりと言う。「一度、人に暴力振るって病院送りにしたことがある」

 …………。

 絶句する僕。

「え?あ、その、青柳さんが?」

 そう聞くと喜助君は黙って頷いた。

「え?子供って、え?え?なんでそんなことになったの?」

「……中学生にいつもカツアゲとかいじめを繰り返していた高校士グループがいたらしくて、たまたまその現場を見かけた青柳さんが、そのグループの六人のうちの三人を病院送りにしたんだって」

「…………」

 今度こそ僕は頭を抱えて道路にしゃがみ込んだ。

 その話を聞いて若干僕を納得させてしまっている青柳さんの存在って………。

 体の震えが止まらなかった。

 ブルブルブルブルブルブルブル…………、寒さのせいだろうか………。いや違うな。

「大丈夫だよ、紅田さんそんなに悪いことしていないし……、さっき僕ああ言ったけどあれは冗談だよ、殺されないって……多分。それにこの話、五年も前の話らしいから」

 今じゃ青柳さんも丸くなってるよ、と喜助君がしゃがみ込む僕の頭の上からそんな言葉をかけてくれる。

「そもそも僕にはなんで青柳さんがあんなに怒っているのか、分からない」

 そんな喜助君の疑問に僕はゆらりと立ち上がりながら答える。

「あれは、完全に僕が悪いよ……、青柳さんは見捨てないって、あの時、ああいってくれたのに、……僕があんなこと言っちゃったから………」

「?」

 何一つ具体的なことが言えないでいる僕に、喜助君はただ首をひねるだけだった。

 …………青柳さんと一緒にいることができても、まだまだあいつとさよならすることは難しいらしい。

 僕は今すぐ道路に倒れ込んでそのまま雪に埋もれてしまいたい衝動に駆られながらも、視界に入ってきた真心教会の建物に向かって一歩一歩、重苦しい気持ちで歩みを進めていった。


ここまで読んでいただき有難うございました。

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