探し物3
それから私とくー君は、うなだれている少年を半ば強引に引きずるようにして教会へと帰っていった。
道中、何やら少年に興味を持ったらしいくー君が、いろいろ少年に対して話しかけていたのだが、少年はあぁ、とか、うん、とか、素っ気ない返事を返すだけでいまいち盛り上がりに欠けていた。はっきり言って少年はそんなくー君を鬱陶しがっていたわけだけどくー君はそのことを気にした様子もなく、教会についたころには満足そうにしていた。いや、やっぱり無表情なわけだけれど、なんとなくくー君の一挙一動と雰囲気からそれが見て取れる。
「ただいまー」と、冗談のようなことを言って礼拝堂の扉を私は開ける。中には頭領がいるだけだった。
「早かったですね、……おや、紅田さんと喜助はどうしたのですか?」
「少年は玄関のところのストーブで温まってるよ。くー君も一緒にいる。」
「そうですか」
私は二列に並べられた長椅子の、入ってきた私から見て右側の、一番後ろの椅子に腰かけた。
頭領は礼拝堂の一番奥の所でこちらを向いて立っているので、つまりは私と頭領の間は結構な距離があるのだが、建物内も建物の外も今日は静かな上、この礼拝堂、声が良く響くので、特別声を大きくせずとも不思議とお互いの声が聞こえにくいという事はなかった。
「外はどうでしたか?」
「また降り出したよ。少年もいたし、だから早めに切り上げて帰ってきた。」
「では、キーホルダーは見つからなかったという事ですか……」
「悪いね、積雪がひどかったもんで」
「いいのですよ、こちらもほとんどダメ元でしたし、天気が良ければまた明日にでも探しましょう」
「ダメ元で人を動かすなよ……」
「あの少年、あなたどういうつもりですか?」突然、頭領が話を切り替えた。
「どういうつもりって……、別に?普通にあの子にもここの手伝いをしてもらおうと思っているんだけど……」
「あの子は、普通の人間なのでしょう?」
「そうだよ?」
はぁ、とそこで頭領がため息をつくのが分かった。
「何だよ、別に夜の方の手伝いをさせるわけじゃないんだから良いだろ」
「…………凛は、元気ですか?」
「何だよ、急に、…………あぁ、元気だよ、元気すぎて最近生意気になってきたくらいだ」
「そうですか」
「…………。」
「…………。」
チッ、と軽く舌打ちをして私は立ちあがる。
「どうしたのですか?」
「あんたと居ると自分が矮小な存在であるかのような気がしてならないから、ここから出ていくんだよ。気分が悪い」
「そうですか」
「……………なぁ、あんた、あの少年を見てどう思った?」
「可愛らしい、まるで幼い子供のような心を持った純朴な青年だと思いますが……」
「……そっか」
「あなたと一緒に住む、と言い出した時の凛に似ていましたね」
「………だよな、私もそう思う。…………じゃあ、今日はもういいんだろ?私帰るわ、なんか、疲れた……」
さっきからずっとうなだれたままの少年をどうしようか、とそんなことを考えながら扉に手を掛ける。
「一つ、いいですか?」
「なんだよ」
私は振り返らなかった。
「………あなた、煙草は今でも吸っているのですか?」
その質問を聞いて、私はわざと大きく舌打ちをすると「吸ってるよ」と、忌々しく言った。
それからまた何か聞かれるんじゃないかと思った私は逃げるように扉を開けて外に出て、すぐに扉を閉める。
ふぅ、と、閉じた扉に背をもたれかけさせ上を向いて息を吐いた。
「今日はもう帰って良いってさ、どうせだから三人で昼飯でも…」そう言いながら前を向き、首を動かしてくー君と少年の姿を探す。
しかし。
「……あれ?」玄関に二人の姿はなかった。
白
雪を踏みしめながら歩く人の足音が二つ、僕と喜助君のものだ。
僕が黙って教会から出ていくと、なぜだか喜助君も僕の後ろをついてきた。
「喜助君は教会にいていいよ僕一人で行くから」
僕は振り返りもせずに早口で喜助君にそう言った。行こうとしている場所はもちろん先ほどの公園だ。
「紅田さん、傘差した方が良いよ。風邪ひくから」
僕は足を止めて振り返る。彼が差すにしては大きめの傘を差して喜助君は立っていた。彼の右手には折りたたまれたままの傘がもう一つ。喜助君は僕を見ると「使う?」といった風に右手の傘を僕に差し出してきた。
それを無視して僕は進行方向に体を向け、再び歩みを進める。それを見て喜助君も同じように再び歩き始めた。
「青柳さんにまた怒られるよ?」
「だから?」
「………紅田さんは一体何がしたいの?」
「…………。僕は………、青柳さんと一緒にいたいだけだよ……」
まったく、子供相手に僕は何を言っているんだ……。
きっとまた、僕の言葉の意味が分からなかった喜助君から質問が飛んでくるだろうな、と思った僕は、どうやって喜助君との会話を打ち切ろうか、と、次の喜助君の質問に対する適当な返事を頭の中で模索する。
「それが今公園に向かっている理由?」
「そう」
「そう……」
しかしそれで納得してしまったのか、喜助君はそう言ったきり、公園に着くまでもう口を開かなかった。
ここまで読んでいただき有難うございました。




