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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第三章
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探し物2


       千


 公園に着くと、まぁ、当たり前のように公園も一面真っ白なわけで……。「これ探し物するの無理じゃね?」となるわけだ……。

 ちなみに、休日の昼前だというのに、寒さのせいか公園には私たち以外誰もいない。

「そうですねー」

「そうだね」と、少年とくー君ののんきそうな声。

私は二人の方を見る。

 二人は公園内のブランコを楽しそうにこいでいた。くー君は相変わらず無表情で楽しんでいるのかどうかはいまいち怪しいのだが……。

 思わず私はその二人の様子を二度見してしまう。

「…………」

まぁ、もう何も言わねぇよ。

 何も言わない代わりに足元の雪で手ごろな雪玉を作り二人に向かって投げつけることにした。

 まずは少年。しかし少年はこれを見事に全てかわして見せた。少年はフフンと勝ち誇ったような顔をして私を見る。

「……くっ!」

 少年については後でぶん殴ることを心に決め、私は次にくー君を狙った。

 くー君に私の投げたすべての雪玉が命中する。雪だらけになってもくー君はやはり無表情だ。

「……よけろよ」

 雪玉を投げつけられても微動だにせずにブランコに座り続けているくー君を見て、私は思わずそう言った。

「よける理由がないんだけど」

「あるだろ、痛くないのか?」

「別に、全部服の上に青柳さん、当ててくれてるし……」やめろそれを言うな恥ずかしい。「厚着しているから全然痛くないよ」

 ………それでも何か投げつけられれば、本能的に避けようとすると思うのだが……。

相変わらず不思議な子だ。

「こんなことしてないで早く探し物しましょうよ」

「よし少年そこを動くな、ちょっとぶん殴るから」

 そもそもお前らがなぁ、と言いながら少年とくー君に近づいて行く。さすがにこれにはくー君も身の危険を感じたのかさっとブランコから離れて逃げ出した。しかし私の標的はあくまで少年だ、少年も苦笑いしながら、雪で走りづらそうにしながらも私から逃げる。

「待て逃げるな!」

 お前最近あれだろ!私の事、なめてるだろ!

 少年と私は雪をまき散らしながら公園中を走り回った。

「はぁっ、はぁっ、ちょっ青柳さん!僕、もう……」

疲れたのか、少年が足を止める。

「捕まえたぁ!」

 足を止めた少年に飛びついて私はタックルする。二人ともそのまま雪の上に倒れた。

「はぁっ、はっ、はぁ、ハハ、アハハハハハハ!」ふざけられているとでも思ったのか、少年が快活に笑う。

「おい少年、今からお前を笑えなくしてやるから覚悟しろ」

「フフッ、嫌ですよ……、あっ!ちょっと待って、服の中に雪を入れるのはやめてください!本当に勘弁してください!ああっ、冷たいですって!うわぁっ!」

「アハハハハハハ!」少年のそのリアクションが面白くて、私も声を上げて笑う。

 ひとしきり少年と私は雪の上で転がりながら遊び終えると(あれ、なんでこんなことしてたんだっけ……?)お互いに服に着いた雪を払いながら立ち上がる。

「傍から見たら青柳さん、性犯罪者にしか見えなかったよ」

 くー君が私たちの元に歩いてきてからそう言った。

「やかましい」くー君の額にチョップ。

 やはりくー君は微動だにしない。

「探し物をするにしても、この雪じゃそれも難しそうですよね……。雪に埋もれちゃってるでしょうし……。」

「だよなぁ、結花ちゃんも家族旅行に行く前に、この公園の雪かきぐらいしていけばよかったのにな」

「過酷すぎるでしょう、それは……」

「ま、とりあえず何とかやってみるか」

と、いうわけで、特に当てがあるというわけでも無いので、私たち三人は手分けして手当たり次第に探してみることにした。

 のだが、当然。

「見つからないね」

「見つかるわけないよな」

「…………。」

開始から一時間ほどたっても一向に見つからない。くー君と私が諦めムードの中、少年だけがいまだに一人黙々と探し続けているという有様だった。

 しかも不幸なことに雪まで降り始めている、それはただの雪ではなく水分を多く含んだベドッとしたもので、ほとんどみぞれに近かった。

 もうこれ以上は厳しいかな。これくらいの雪だったら私とくー君は平気だけど、少年がこの寒さの中濡れて、体調を崩しかねない。

「少年、このままやっても埒あかないし、そろそろ教会に戻って……」

花壇のところにしゃがみ込んで雪をまき散らしながら掻き分けている少年の背中に向けて、私は一旦教会に戻る旨を告げようとするのだが……。

「おかしい、おかしい、ない、ナイ!おかしいオカシイ!こんなに探しているノニ、探してって頼マレタノニ!どうして僕は、ボクハ、探し物の一つもろくにでナインダ!こんなの、こんなノ、僕、死ンダホウガ……」

 そうぶつぶつ少年が呟きだしたのを聞いて言葉に詰まった。

「…………。」

 あー、マジか……。なんか少年のスイッチが入ってしまっているじゃねぇかよ。

 思わず舌打ちしてしまいそうになるのを私はこらえる。

 ちらりと横目でくー君の反応を窺うと、くー君はそんな少年の背中を異様なものを見るかのような目で凝視していた。眉を少しだけひそめ、今日初めて表情らしい表情を見せたといえる。

 それからくー君は私の方を向くと「何これ?」と目で訴えかけてくる。

 私はくー君に向かって苦笑いを見せることしかできなかった。

「少年、雪が積もってるからしょうがないって、ひとまず教会に戻ろう、な?」

私はできるだけ優しい声で少年の背中にそう声をかける。

「嫌ダ!嫌です、まだ、……まだ探シマス。僕、ちゃんとしますカラ、だ、ダカラ、助けて!み、見捨テナイデェ………」

「…………」

 思わず私は表情が凍り付く。そして胸の奥から怒りがこみあげてくるのが分かった。

 さすがに、さすがに少年のこの様子にはいら立ちを覚えざるを得ない。この子は一体どういう思考回路をしているのだ。何がどうなれば探し物を見つけられなかっただけで、私が少年を見捨てなければならないんだ?

 それは、私を馬鹿にしているということと何ら変わりない発言だ。

 私は、少年の服の後ろの首襟をつかんで無理やり引っ張り上げた。少年が「ひっ!」と怯えたような声を発する。

「青柳さん…」隣でくー君が私に何か言おうとしたが、私はそれを無視した。

少年の体を乱暴にこちらに向ける。それから彼の両肩を両手でつかんだ。

少年は怯えたような顔をしている。別に私に怯えているわけではないのだろう……。

「お前なぁ!いい加減にしろっ!」

「うぅぅ……」

私の怒鳴り声に押されるようにして少年の体が揺れる。

「お前はまだそんなことを言っているのかよ!誰が見捨てるって?私がか⁉ふざけるなよ!あの時言っただろうが、私はお前を見捨てないし、裏切らない!あぁ⁉お前はあれか?私がそのことを冗談で言ったとでも思ってんのか⁉なめんじゃねぇよ!ぶっ飛ばすぞ!」

 ぶっ飛ばすぞ、そう言ったときにはもう手が出ていた。黒い革手袋をはめた自分の右手を拳に固め、少年の右頬にその拳をめり込ませる。

 ドシャッ、と、音を立てて雪の上に少年は倒れ込む。

「あ」とくー君が、声を漏らした。

 それから倒れ込んだ少年を見ながら肩で息をしている私に向かって、「素が出ちゃったね、青柳さん」と茶化すようなことを口にする。

 そんなくー君を私は軽く睨んだ。

 くー君は微動だにしない。




ここまで読んでいただき有難うございました。

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