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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第三章
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探し物1

一応、僕が昨晩青柳さんの胸なんかには夢中になっておらず、ちゃんと彼女の話を聞いていたことを証明するために、青柳さんがベッドの中で僕に真心教会について話したことをかいつまんで話すと、こうだ。

 なんでもこの町一帯の小・中学校(といっても小さい町なので合わせて四校しかないらしいが…)にはそれぞれ「生徒相談室」が設けられているそうで、まぁ、ここだけ聞けば何ら珍しい話でもないのだが……、その小・中学校の「生徒相談室」を受け持つ臨時職員として、真心教会のシスターが派遣されているそうだ。あくまで生徒の相談を受けるだけ……。普通、宗教的中立性を保つために国公立の学校では宗教活動を行うわけにはいかないので、あくまでもシスターとしてではなく、小中学校の一臨時職員として、真心教会のシスターは生徒と接しているそうだ。

「真心教会の一番偉い奴がこの町の教育委員会にこねがあってな、この町の小中学校、さらには高校も含めて、そこの職員はそいつに頭が上がらないんだと」

 ベッドの中で青柳さんはささやくように僕にそう言っていた。

「へぇ」裏話だ、裏話。少しだけワクワクしてしまう。

「んで、真心教会が生徒相談室の臨時職員を受け持ったのはいいんだけど、最初は全然相談に来る生徒がいなかったんだ」

「子供は悩みが無くていいですね」

「違う違う、大なり小なり悩みを抱えている生徒はいるんだけど、やっぱり「生徒相談室」というところに行くのは抵抗があるんだろうな」

「あぁ、なるほど……。確かに見ず知らずの人に自分の悩みを打ち明けることなんて、簡単にはできないですよね……」

「………。そう、だからもっと気軽に生徒から悩みを打ち明けてもらえるように真心教会は各々の「生徒相談室」にあるものを設置したんだ」

「設置した?」

「その、なんだ、なんて言うのかな……。昔でいうところの目安箱、じゃないけれど……、生徒が悩みを書いた紙を、設置した箱にいつでも投書できるようにしたんだ。それで投書があった場合、その悩みの解決策を各々の臨時職員が返事を出す……、まぁ、生徒と職員間の文通みたいなもんかな……」

「へぇ、それはなかなかいいですね」

「だろ?」

「ええ」


とまぁ、そんな話をしつつ昨晩は二人とも眠りについたわけだが……。

しかしこの目安箱(?)、一つ難点があった。あまりにも気軽に相談ができてしまうあまり、その、言ってはなんだけど、結構どうでもいい相談が来たりしてしまうのだ……。

例えば、週末に野球をするのだけれど人数が足りない、だとか。

例えば、公園でキーホルダーをなくしたのだけれど見つからない、とか。

さすがにそんな事普通の生徒相談室に相談されても困る。頑張って自分でどうにかしろとしか言えないだろう。

しかし真心教会はそうは言わなかった。

頭領(ドン)と真理亜は子供好きだからなぁ、子供の頼みを端から端まで全部請け負っちゃうんだよ」

 教会から出て目的の場所である公園まで向かう途中、青柳さんはそう言った。

「もはや、相談事じゃなくて頼みごとになっちゃってるし……、「生徒相談室」という名の「何でも屋」になっちゃってるんだよ、あそこは」

 青柳さんが口から煙を吐く、彼女の後ろを歩いていた僕は一瞬、煙草でも吸っているのかな?と思ったが、ただ単に彼女の溜息が外の気温の低さのせいでそのまま白い息となって口から漏れただけのようだ。

「それで、あまりもの依頼の多さに、なんだかんだ真心教会に縁のある私や、くー君だったりがその手伝いをしているってわけ」

「えっと、協会に縁があるって……、それはつまり、青柳さんと喜助君が真心教会の宗教を信仰しているってことでいいんですか?」あんまりそうは見えないんだけど……。

「んー?……それは……」とそこで青柳さんは言葉を濁し、僕と並んで歩く喜助君の方を振り返って見ると、何やら二人で無言の相談事を始めた。

「違うよ」と、喜助君。

 ちなみに、どうでもいいことかもしれないが、くー君は上に群青色のコートと首に赤茶色のマフラーを巻いただけで、それ以外の恰好は先ほどと同じままだった。つまりは女の子の恰好のままなのだけれど、本人曰く「着替えるのが面倒だからこのままでいい」だそうだ。どうやらこの子、自分の外見についてはかなり無頓着のようだ。まぁ、女の子の恰好をしていても不自然じゃないからいいのかもしれないけれど……。

「僕たちはただ単に、頭領(ドン)真理亜姐(ねえ)達と知り合いだったから駆り出されただけ」喜助君は淡々と無表情でそう言う。

「そうなんだ」なんだかいまいち釈然としない僕。

「ま、今回みたいな雑用ばっかやらされているわけだ、少年。マジもんの相談事はちゃんとあいつらがやってるんだけどな」

 今回というのは……、今回やる事は、五崎小学校三年一組の福園結花ちゃんが公園で無くしたと思しき小さい熊のぬいぐるみが付いたキーホルダーを探すことだった。

 記念すべき僕の初仕事である。……まぁ、仕事と言えるほど大層なものではないかもしれないが。

 なんでもそのキーホルダーは友達と一緒におそろいで買った思い出の品らしく、その友達に自分がキーホルダーを無くしたことに気づかれる前に早く見つけてほしいんだとか……。無くしたのが木曜、今日が日曜なのでもう無くして三日はたっているわけだ。

「その本人は、えっと……結花ちゃんは?今どうしているんですか?」他人にやらせておいて自分では探そうとしないだなんて何ともけしからんことのように思うが……。

「家族全員で温泉旅行だって」

「……この雪の中ですか……」

「ヘリコプターにでも乗って行くんじゃないのか?」

 ははは…、と僕は苦笑いをする。まぁ、青柳さんのそれは冗談として、今朝から雪もやんでいるようだし、タイヤにチェーンを巻いていれば遠出ができなくもないだろう……。いや、案外近場で済ませるのかな?

「ま、何にしても私たちは言われたことをやるだけだな」と青柳さん。

「そうだよ」とくー君。

何だろう……、二人を見ているとなんだか、ただ単に教会の手伝いをしているってわけでも無さそうな気がするんだよなぁ……。

僕はそんな二人を見てそう思った。




ここまで読んでいただき有難うございました。

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