真心教会3
ストーブのあった、休憩室のようなところに戻ると、…………戻ると………。
「キャー!くー君、こっち!こっちむいてぇ!」
「もっと、こう!こう、かわいい感じでポーズとってみて、うん!そう!」
「キャー!かわいー!」
なんか……………、頭領さんと真理亜さんと同じ修道服を着た三人の女性が、一人のおかっぱ頭の女の子を取り囲んで写真を撮っていた。その三人ともがかなり本格的な一眼レフのごついカメラを手にし、ものすごい勢いでシャッターを切っている。
「あなた達!こんなところで何をやっているのですか!」
頭領さんがそんな三人に向かって怒鳴り声を上げる。
目の前の三人が同時に首をすくめ、いきなりのことに僕も思わず体を震わせてしまった。
三人がこちらをゆっくり振り返る。
「え」僕はその三人の顔を見て唖然としてしまった。
三人とも、同じ顔だ…………。
修道服で顔以外のところがほとんど隠れてしまっているのでそれが顕著に見て取れた。顔が全く同じだ、背丈も同じ……。
「藍!蒼!葵!毎回毎回あなた達はっ、いい加減にしなさい!」
「「「いい加減にして、この具合なんですよぅ」」」
三人の声がきれいにそろう。これにもさすがにぎょっとした。
「やかましい!さっさと自分たちの仕事に戻りなさい!」
「「「……は~い」」」
声を揃えて不承不承、三人はどこへ向かうのか廊下の奥へと引っ込んでいった。
「あ、じゃあ私もこれで」真理亜さんもそう言って三人について行く。
その場には頭領、青柳さん、僕、先ほどまで写真を撮られていた謎の女の子、が残される。
「あの、青柳さんあの三人は一体……」
「ん?頭領や真理亜とおんなじでこの教会のシスターだよ」
まぁ、それは見たらわかるが……。
「あの、三人とも同じ顔だったんですけど……」
「三つ子だよ」
「三つ子ですか……」
ああなるほど納得、とはならない。なるわけがない。
三つ子ってあんなに似ているものなのか?クローンか何かだと思ってしまうくらい、似ていた。
「喜助、いつもいつも申し訳ありませんね、うちの三人が」
と、頭領さんがさっきまで三人の被写体になっていた女の子に向かって言った。
喜助………、名前?
「いいよ、暇だったし」無表情な女の子は抑揚のない声でそう言った。……そう言って「誰?」と、僕の方を向く。
「あ、えっと、僕は紅田白って言って、えーっと」
「今日から私たちと一緒に教会の手伝いをしてもらうことになっているんだ」青柳さんが僕の言葉を継ぐ。
「夜も?」と女の子。
夜?
「んにゃ、昼だけ」
「そ、………僕の名前は熊西喜助、これからよろしく紅田さん」
女の子はそう言って僕に右手を差し出してくる。最初は何のことか分からないでいた僕だったが、握手を求められているのだという事に気が付き、慌ててその手を握った。
「え、よろしくって………、この子は」僕は青柳さんの方を見る。
「ああ、くー君も教会の手伝いをしているんだ」
「くー君?」
「熊西喜助だからくー君」
「ああ、名字からとったわけですか……、ん?……君?んん?」
僕は目の前の女の子の顔を覗き込む。女の子はそんないきなり顔を近づけてくる僕に嫌がる素振りは見せず、真正面から僕の目を見据えていた。
「………あー、くー君。多分少年が勘違いをしている。いや、そりゃそうだよな、なんでお前は女の子の恰好しているんだよ」
「三人に着替えさせられたんだよ」
「着るなよ」
くー君と呼ばれるこの子は今、真っ白なブラウスを上に着ていて、下は膝下まである葵スカートを穿いていた。
えーっと待てよ、二人のやり取りを聞くに、つまりこの子は………。
「え?もしかしてこの子、男の子なんですか?」
「そうだよ」
喜助君は表情も変えずに、抑揚のない口調でそう僕に返事をした。
「あ、そうなんだ……」
そう言われてみれば確かに声を聴けば、男の子っぽさがあるような……。うーん。それにしても女の子の恰好をしているとはいえ、顔が女の子の顔にしか見えない………。
「もういいですか?」
ずっと僕たちの会話が終わるのを待っていたのか頭領さんは、僕が喜助君が男だという事を知ったところで声を大きくしてそう言った。
正直まだ心の整理がついていないのだが、僕は頭領の方を向くと黙って頷いた。
「さて今日の手伝いは、あなた達三人でおこなってもらいます。やってもらう依頼はこれ」
頭領さんはいつの間にか手に持っていた折り曲げられた紙を開くと、その両端を指でつまみ、何やら文字が書かれている方を僕たちに向けた。
僕、青柳さん、喜助君の三人がその文面を覗き込む。そこにはこう書かれていた。
「 探し物をしてもらいたいです。 三年一組 福園結花 」
ここまで読んでいただき有難うございました。




