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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第三章
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二度目の朝1

  千


こいつ抱き枕の才能があるな、ベッドで静かに身を起こしながら私は思った。

 午前九時、不覚にも軽く寝過ぎてしまった。

 昨日の野球の試合で思った以上に疲れがたまっていたのかもしれない。それともやっぱり抱き枕が良すぎたのか、私は夢も見ないほど熟睡していた。

「スー、スー」

 隣で寝ている少年の寝顔を覗き込む、彼もまたよく眠っているようだった。久しぶりに動いて私以上に疲れたのかもしれない。

 それとも少年もまた、私に抱き枕にされて寝たことで何となく安心して眠ることができたのか、あと二日くらい寝ていそうだ。

 寝ている少年の髪を優しくなでる。

 昨夜はあの時みたいにこの子が夜中に暴れるなんてことはなかった、久しぶりに熟睡することができているんじゃないだろうか。今までよく眠れなかった分それを取り戻すように今眠っているように見えて、本当に二日は眠ったままでいそうだ。

 少年を起こさないようにゆっくりとベッドから離れる。それから少年に布団をかけなおしてやって、その後私は両腕を天井に伸ばしてぐぐーっと伸びをした。

……………九時、か………。

九時か!

私は立って伸びをしたままびっくりして時計を二度見する。

そしてリビングの床に布団を敷いて寝ている凛に目を向けた。

 やっべぇ………、凛を起こすの忘れてた………。

 今日は日曜。凛を早く起こさなきゃいけない日だった。

凛は毎週日曜の早朝にテレビで放送されているアニメを見る事をいつも楽しみにしている。

 しかし自分一人では朝早く起きることができないので、アニメが放送される時間帯より前にいつも起きている私に自分を起こすよう言っているのだ。凛は土曜の夜になるといつも自分を起こすよう念を押して何度も口うるさく言ってくる、昨日もそうだった、それほど楽しみにしていた。

 ………えっと、これはまずいな、未曾有の事態だ……。

 私はおろおろしながらとりあえずテレビをつけてみることにした。二人を起こさないようにリモコンの電源ボタンを押した後すぐに消音ボタンを押す。チャンネルをあちこちに回し番組表も確認する。

 完全にアニメは終わっていた。

 …………そりゃそうだ、確認するまでもない……。

 なんでうちのテレビは録画機能がついていないんだ……。

 テレビを消す。

 それから私は現実から逃れるように再びベッドの布団に潜り込み、少年を後ろから抱きしめる。

 少年!私はどうしたらいいんだっ!

「うわっ!」その瞬間少年がそう声を上げてこっちを向いた。

「あれ、なんだ起きてたのか……。おはよう少年、昨日のこと覚えてる?」

「………変な風に言わないでくださいよ……。別にそういう事したわけじゃないんですから………。ん、おはようございます青柳さん。……今何時ですか?」

「九時」

 少年の頭を撫でまわしながら私がそう言うと。

「えっ!」

と、そのことに驚いたように少年がガバッと身を起こし。

「えっ!」

凛もまたそう声を上げ、私の背後で布団からガバッと身を起こした。

「お前も起きてたのかよ!」

「「アニメが……!」」

 そして二人は声をそろえてそう言うのだった。………こいつら………。

 そんなに見たいんだったら早起きしろよ……。



「いやいやこの時期無理矢理起こす、されない限り布団から身を起こすのはきつい、だよ、ねっ?白君。」

「ですよね……、寒くて布団から出られないですよね。」

「「ねーっ!」」と、顔を向い合わせ二人で声をそろえて言う。仲良いなこいつら。

 いつの間にか被害者の会が結成されたらしく、昨日の昼は三人それぞれテーブルの端に座って食べていたのに、私と向かい合って少年と凛が肩を並べて朝食を摂っていた。

 ちなみに今日の朝食のメニューは食パンに、目玉焼きに、サラダに、コーンポタージュ、以上。

 全部私が用意した。

「お前らマジでふざけるなよ、努力もしないで被害者面するのは良くないことだからな?」

私は二人に向かって言う、できるだけ気迫を込めて。

「ねぇねぇ白君」

「何ですか凛さん」

「私たち何か悪いことする、したかな?ただ眠る、していただけだよね?」

「そうですね」

「私、昨夜頼む、したんだよ?何度も明日は早く起こす、してね?って。白君も聞く、していたよね」

「確かに聞きました」

「それで千年は分かってるって、って言う、したよね?」

「言いましたね」

「だから私は安心して寝ることができる、だった。おかげで熟睡することができる、だったよ。……だけど起きる、してみればあらびっくり」

「どうしたんですか?」

「時間は九時、アニメは終わる、してる。……千年は私との約束を破る、したんだよ?」

「それはひどい」

「そのことで千年を問い詰めれば「私は悪くない、そもそも早起きしなかったお前が悪い」の一点張り!」

「それはひどい!」

「これってどっちが悪いのかな?」

「それは……」

そこで二人は同時に私の方をちらりと見た。

 ……………こういうのって、いつどこで打ち合わせしてるんだろう………。あと凛、お前気づいてないかもしれないけれど途中から若干日本語が流暢になってきてたからな?どうゆう理屈だよ、それ……。

「だ、だったら目覚ましでもかければいいだろ目覚まし、目覚ましは約束を破らない。」

私はそんな二人に対して怯まずに言った。ここで少しでも謝る素振りを見せれば私の負けだ。ここは凛の保護者として毅然とした態度でいなければ……。

「あれってさ、音が不快」凛が吐き捨てるようにそう言った。

こいつ……。

 お前をそう言う風に育てた覚えはない。いったい誰に似たんだ?

「分かった、そう言うならもう起こす約束なんかしねぇ、一人で勝手に起きろ。」

私は言った。

「あぁっ!え、ちょっ、ちょっと、待つ、してよ!……千年は約束破る、したんだよ?そういうこと言う、したらいけないの!今は私の方が千年より強いのっ!」

「さて少年」

目の前でワーキャー喚きだした凛のことを無視して、私は少年の方に顔を向ける。


ここまで読んでいただき有難うございました。

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