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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第一章
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あの人

今日はきりのいいところまで投稿しようかと思います。

いつだっただろうか……今年の夏と秋の間ごろ、買い物の帰り道だったか、何だったかよく覚えていないけどその時僕はあるものを見た。

それは猫の死体

車に轢かれたのか路地で臓物をぶちまけて死んでいた。

近づいてみてみると猫の目は見開かれていて黒目の部分が異様に大きい、口がだらしなく開いておりそこから血が垂れ出ていた、背中の毛が逆立ったまま硬直して死んでいる。

しばらくその場に呆然と立ち尽くしていた僕は、はっと我に返ると走って家に帰った。まるでなにかから逃げるように。

家に帰ってそれからベッドの上で毛布をかき集めるとそこに顔をうずめて、

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。」

そう何度も謝った。多分、猫に対して……。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい

必死で生きていただろうに、もっと生きたかっただろうに。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい

こんな僕が生きていてごめんなさい、死ぬべきなのは僕の方なのに。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。」

何度も謝った、何度も何度も。

そのうちどうでもよくなってきて、普通に昼飯を食って、そのあとそのベッドで夕方まで昼寝をしていた僕はやっぱり死んだ方がいい。

でもアスファルトに頭を叩き付けたぐらいじゃ死なないらしく、普通に意識を失って、普通にそのあと肝心なところの記憶をふっとばして目を覚まして、普通に見知らぬ部屋に寝かされることに気づいた僕は、普通にパニックに陥っていた。

あれ?あれれれれれ?

本気でここは誰?私はどこ?状態だった。

しばらくして僕は僕だということを思い出した僕は、じゃあ今僕の記憶の中にあるものはどこからが夢でどこからが現実だったのだ?ということになりあれもしかして今までのこと全部夢だった?僕が高校を卒業して大学に入ってからのクソみたいな八か月間全部夢だったのか?

僕は今やっと悪夢から解放されたんじゃ……。

とかなんとか訳の分からんことが頭の中に浮かんだけど、少し冷静になってみるとリアルに八か月間の記憶が残っていることから、それはないなということが分かったところで、……少しがっかりしたところで。

じゃあここはどこだ?と思い僕はベッドから体を起こそうとした。

「痛っ⁉」

体を起こそうとしたら頭の後ろに激痛が走った。なぜか僕はそれを蜂に刺された痛みだと思い蜂を振り払おうと頭の後ろに手をやった。

「痛っ⁉」手で触れたら蜂なんてそこにはおらず(そもそもなんで蜂に刺されたのだと思ったのだろうか)痛かったので慌てて手を放す。

短い間に二度同じリアクションをする僕だった。

ゆっくりと体を起こして、恐る恐る再び頭の後ろに今度はゆっくりと手を当ててみると、そこは髪の上から触れただけでもわかるくらい異様にボコッと膨れ上がっていた。

……たんこぶ?

……えっと、なんで僕の頭の後ろにこんなものが……、それになんだかさっきから頭痛と吐き気があるのだけれど…………いったい僕の身に何が⁉

落ち着け、落ち着け!思い出すんだ!……た、確か、僕は十二月のクソ寒い中アホみたいに夜の散歩をしていたはず。……その記憶はある。

それから、……それから確か……音楽を聴いていたら、上から人が降ってきて……。

あれは夢?

……いや、違う、あれは夢じゃない。あの時僕はその人の肩が自分の顔にぶつかって、僕もその人も一緒に倒れて、僕は地面に頭を打って、

それで、

それで、……死ねなかったんだ。

その時後悔したのを確かに覚えている。

急激にベッドの上の自分が冷静になっていくのを感じた。

「それで、このザマか。」

ベッドの上を思いっきり殴った……誰のベットかは知らない。それからその手で自分の額を抑える。

多分、この展開はアレだろう。その降ってきた人か、それとも通りかかった人かはしらないけれど気を失った僕を発見したその人が親切にも自宅へと連れ帰って介抱してくれたとかいう……アレだろう。……僕なんかにそんなことしなくてもよかったのに。死体を介抱するようなもんだよ、何の意味もない。

他人に迷惑をかけてしまった自分に僕は嫌悪感でいっぱいになっていった。

「はぁ」

ここどこだろ……。

僕はベッドから上半身を起こした状態でゆっくりと首を横に回しながら部屋を見渡す。

部屋の広さはうちのアパートの部屋に似ているけれど(1LK、リビングは八畳だ)間取りとか内装が全然ちが……

「……。」

「……。」

女性と目が合う。

「……。」

驚いた顔をして無言で僕を見ている女性

「あ、う、えっと。」

困惑する僕

変な空気が流れる室内!

女性はテーブルを挟んでベッドの横にいてカーペットの上にあぐらをかいて座っていた。

タートルネックのヒートテックを着ている黒髪の女性、見たところ年齢は二十代半ば。

全然気が付かなかった……。この角度なら僕の視界にも入っていてよかったものなのに……。

っていうか、今まで僕ずっとこの人に見られていた⁉

その事実に気づくとすぐに僕の中で恥ずかしい、という思いがものすごい勢いでこみ上げてきた。

うわぁ、やばい、本気で今すぐ死にたい……、特に「それで、このザマか」のくだりあたりは見られたくなかった……。

まるで全く知らない女性に自分の裸を見られたような気分だった。自分の顔が赤くなっていくのを感じる。

「大丈夫か、少年」

女性が僕を見て言った。

しょ、少年?僕の事だろうか。

と思ったが

もちろん見渡してもこの部屋には僕とこの女性しかおらず、その女性は僕のことを指して言っているのだと分かった。

まぁ、僕のこと見て言っていたんだからわざわざ確認することでもないんだけどね。

「た、多分」

そう僕は曖昧な返事をした。

実際、頭の後ろは痛いし、頭痛はあるわ吐き気はあるわで個人的にはあまり大丈夫とは言えなかったのだが。

この人にとって僕の何が大丈夫なら僕が大丈夫と言えるのか分からなかったので、僕は、まぁ、意識ははっきりしているし、人間生きているだけで大丈夫と言えるのなら大丈夫なのかな、と思ったが、ここで大丈夫だと言ってこの人に安心されて僕の扱いがぞんざいになっては実際頭痛とか吐き気がある僕にとっては困る。だからと言ってここで大丈夫じゃないと答えてこの人に必要以上に心配をかけられるのも面倒だろう。

多分、大丈夫

僕は医者じゃないから確実なことなんて分からない。

……そもそもなんでこの人僕を病院に連れて行かなかったのだろうか、という疑問がその時僕の頭に浮かんだ。

別に難癖をつけるつもりはないが、頭を打って気を失っていたら普通救急車とかをよんで病院に連れていくんだと思うのだけど。僕をほっといてその場を離れるとかならまだ分かるけど、怪我の具合もわからない人間を自宅に連れ込んでまで介抱するか?

「どれどれ」

女性はそう言ってベッドの近くまで来て僕の頭の後ろを覗き込んだ

さっきまでテーブルを挟んで正面からこの女性を見ていたからよく分かんなかったけど、この人髪が長い、サラサラの髪をゴムとかでまとめず背中まで伸ばしている、それでいて不潔感は全くない。

「たんこぶできているな痛い?」

女性の声とともに漏れる彼女の吐息が僕の首筋をくすぐる、彼女からシャンプーの匂いか分からないけれど、その匂いと煙草のにおいが混ざり合って独特の匂いがした。嫌な臭いじゃない。

「はい、痛いです。」

正直にそう言うと女性は僕の乗ったベッドに腰掛けた、自然とお互いの距離が近くなる。

女性は僕の頭の後ろに自分の左手をあてた、それから僕のおでこにも右手をあてる。

…………ちょっと待って!なんだかこれ恥ずかしい!

彼女は何を…⁉

その前にこの女性は一体何者なんだ⁉

「ちょっと目、つぶってて」

「え……?」

「いいから、おまじないかけてやるよ。」


ここまで読んでいただき有難うございました!

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