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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第三章
28/44

野球の終わりに1

「「「千年さん!後片付けは僕たちがやります!」」」

「んあ?いいよ、私がやるやる」

「「「千年さんは僕たちの野球の試合手伝ってくれたんですから、そんなことしなくても……」」」

「いいのいいの私も好きで手伝ってたんだから」

「「「いや、でもさすがに……」」」

「あそこのお兄ちゃんも手伝ってくれるから大丈夫」

「「「でも自分たちで始めたことだから、片づけまでしっかりやらないと、っていつも先生が……、だから……」」」

「うん確かにそうだな、でも今日はいい、気持ちだけ受け取っておくよ、ありがとうな」

「「「やっぱり僕たちもやります」」」

「いいってば、早く帰らないとお母さんが心配するぞ?」

「「「これ手伝ってから帰ります」」」

「いいってば」

「「「いや、やります」」」

「帰りなさいって」

「「「嫌です」」」

「帰れっつってんだろ!こっちにもいろいろ事情があるんだよ!年上の言うことは聞け!お前たちのそういうのも自分勝手って言うんだぞ!」

「「「ひ、ひいぃ!」」」

…………。

と、いうわけで。

 五崎小の子も二叶小の子も帰り支度をしている中、錆まくったトンボを青柳さんが、ブラシを僕が持って先ほどまで野球をしていて軽くぼこぼこになった内野の地面を均していく。ホームベースから見て反時計回りに、僕は青柳さんの後ろをついて行きながらぐるぐると周回していく。

 現在時刻は五時過ぎくらいだろうか。冬というだけありあたりはもう若干薄暗くなってきている、西の空の色が群青色と沈みゆく太陽のオレンジ色がないまぜになっていてとても幻想的な風景となっている。

 なるほど、青柳さんが子供たちにあんなこと言ったのも頷ける。暗くなってから子供たちを家に帰すのは確かにちょっと不安だ。

 言い方は……、あれだったが……。

 青柳さんはトンボを掛けながら時折、まだベンチに座っていて一向に帰る素振りを見せない小学生を見つけると、「親の迎えを待ってるのか?」などと話しかける。

「五時に迎えに来るって言ってたのに、まだ来ないんです………。」

「私の携帯で家に電話してみるか?」

そんな感じのことを青柳さんが何度も繰り返すので、僕は何度もそこで渋滞にあい(青柳さんがトンボをかけてくれないと僕がブラシをかけられない)、なかなか地均しが進まない。

いや、まぁ別にいいんだけど。

それを待っている間、各々集団を作ったりして帰路につく小学生たちを僕はぼぉっと眺める。

「じゃーな!次は絶対勝つからな!」

「またやろうな!」

五崎小のグループと、二叶小のグループがそんなことを言い合いながら分かれていく。ひぃ君は、どうして一年も二叶小の子たちと野球を続けているのか僕が聞いたとき、分からないと答えたが、その光景を目の当たりにした僕は、なんだかんだ言って結局、勝ち負けとかあまり関係なく試合をするのが楽しいから一年もこんなこと続けてるんだろうなぁ、と思った。

 ひぃ君と言えば、試合が終わった後飛びつかんばかりの勢いで僕のもとへかけてきたかと思うと、「お兄さんすごかったよ⁉僕もお兄さんみたいに格好良くキャッチすることができるかな⁉」と、今までびくびくしながら僕に接していたのが嘘のように、溌剌とそう聞いていた。僕が「うん、頑張れば意外といけるよ」と、そんなことを言ったら、ひぃ君は目を輝かせて「うん!」と言って頷き、「僕も頑張る!お兄さん、また一緒に野球しようね!」そう言って、向こうの方で作られている五崎小の三人のグループの中に走って行ってしまった。

「また一緒に野球しようね、か。」

僕は呟く。

「悪い少年、何度も待たせて、……というかもう交換しようか、トンボとブラシ。そっちの方が…………って、うん?どうした少年?」

 今日あったことを思い出しながらぼぉっとしていた僕の顔を覗き込んで青柳さんは言った。

「いや、何でもないです」

「そうか……」

 


ここまで読んでいただき有難うございました。

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