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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第三章
20/44

再会1



      白


ある日の土曜、昼前、僕は近所のスーパーに来ていた。

「うーん」

昼ご飯を買いに来たのだけれど中々考えがまとまらない。

惣菜・弁当コーナーのに陳列された弁当を買って帰ればそれで済むのだろうけれど、ていうかそうしたい。

でもここ最近僕は昼食をサンドウィッチにしているのだ。

食パン二つにレタスとハムとスライスチーズを挟んでからしマヨネーズつけたやつ、読んでいた小説に出てくる女性が毎日それを昼食にしているというのを読んで真似して僕もやってみた

それが意外とおいしくて、手軽で、何より単価が安いのでここ最近続けていた、十日ほど。

飽きた……。

さすがに十日も同じものを食べ続ければ飽きるか。

最初は簡単に作れる、と思いながらサンドウィッチを作っていたのも、実際作り終わってみれば手がマヨネーズやらでベットベトになっているし、パンの耳の処理には困るし、食いづらいしでなんだかもう面倒くさくなってきてしまっている。

なれというのは怖い、楽な作業も慣れてしまえば楽ではなくなってしまうのだから。

その点弁当はいい、何も手を加える必要がないから。

ふたを開けて食すのみ。

それに何よりおいしいし、僕が作ったサンドウィッチより断然おいしいし。まぁ、十日も食べ続けたサンドウィッチに僕が飽きてきているからそう思うだけかもしれないけれど。

僕は今昼食のために弁当を買うか、食パンを買うかで迷っている

惣菜・弁当コーナーの横に並べられたお弁当たちを眺めながら。今現時点では7:3くらいで弁当が勝っている。

でも弁当って何気に高いんだよなぁ、やっぱりサンドウィッチにしようかなぁ。

食パン買うだけだったら安くで済むし……。

途中経過、5:5でイーブンだ、食パンが意外な追い上げを見せ始めた。

いや別にお金がないわけではない、今月の仕送りだってまだ有り余っている。ただなんか昼食を安くで済ませる方法を知っているのにそれを実行しないことに罪悪感を感じている。

罪悪感を感じている……。

あれ、これなんか日本語おかしいな、罪悪感ってもう感じちゃっているからそれをさらに感じることになってしまっていないか?

腹痛が痛いみたいな感じ……。

まぁ、どうでもいいか。

それよりも今日の昼食だ

「うーん」

とそこで僕が弁当の前でうんうん唸っていたら

突然何者かに後ろから蹴りを浴びせられた。

「痛っ!」

太ももに衝撃が走る

僕がいきなりのことに驚いて振り返ると僕の後ろには見知った女性が立っていた。

「よう」

その女性は青柳凛だった。

目ににらみを利かせながら、してやったりとでも言うかのようなニヤケ顔で僕を見ている。

黒いコートに首にはマフラー、下はスカートだった。足には黒のストッキングをはいている。

「り、凛さん⁉」

な、なんで凛さんがここに?

と、僕は一瞬思ったが、僕の自宅から青柳さんの自宅がそんなに離れているわけでもないから別に利用するスーパーがかぶっていてもなんらおかしくはないか。

それにしてもこんなところで再会するとは思わなかった。

もしかして僕が気付いていないだけで、知り会う前にも何度かこのスーパーで青柳さんとすれ違ったことがあるのかもしれない。

「何してんの?」

「いや、弁当を……。」

な、なんか怒っている?

「弁当?」と言っていきなりきょとんとした顔になると、凛さんはひょこっと上半身を動かして僕の背中越しに後ろに並べられた弁当類を見る。

「へー」

凛さんは僕の左わきに立つと改めてズラッと並べられた多種多様な弁当類をまじまじと見た。

……。

ち、近い。

なんで凛さん、左側にあんなにスペースあるのに僕にこんなに近いんだ?

並んで弁当を見る凛さんと僕だったが、僕の左肩に凛さんの右肩がほとんどくっついてしまっている。

「いっぱいあるねぇ」

「そ、そうですね」

毎回思うのだけれど、女子ってなんでこんなに自分のパーソナルスペースが狭いのだろうか。

思わず勘違いしてしまいそうになる。

「今日は一人なんですか?お母さんは……」

沈黙が流れると凛さんが再び不機嫌になりそうだったので何となく僕はそう聞いた。

「お母……千年も来る、しているよ。確か向こうで魚見て……あ、いたいた。お~いお母……千年!」

僕がお母さんと言ったのにつられたのか、何度もお母さんと言いかけながらもこちらにカゴを手に提げながら向かってくる青柳さんに凛さんは手を振る。

なんで凛さんは青柳さんのことお母さんと呼ばないのだろうか……。

遅めの反抗期?

それとも反抗期の名残かな?

「ほら、この前の白君。」

「おぉ、少年、一昨日は悪かったな。」

「いえ」

千年さんは黒のロングコートに、下はジーパンだった。

相変わらずかっこいいなぁ、この人。買い物をしている姿でさえなんだかかっこいい気がする。

「その、なんだ。少年、一昨日は私、大丈夫だったか?……実はあんまり覚えていなくてな、……私は君によからぬことは何もしていないだろうな?」

髪をかきながらバツが悪そうに千年さんがそう言った。

「ええ、何もなかったですよ。」

抱き着かれたけど、キスされそうになったけど。

でもわざわざ口に出して言うことでもないし、言ったら言ったで千年さんが気の毒なので僕の心のうちにその事実は秘めておくことにしよう。

「そうか、それはよかった……いや、よくないな、少年に迷惑をかけたことには変わりない。……ん?少年は昼ご飯がまだか?」

僕が総菜コーナーの横に並べられた弁当の前に立っていたことでそれを察したのか千年さんがそう聞いてきた。

「そうだよー、だから二人でお弁当見る、していたの」

と、凛さん

「そうか、じゃあどれでも好きなやつを選ぶといい、私が払うよ、一昨日のお詫びだ」

「いや、でも」

「君にはたくさん迷惑をかけているからな、些細なことだがこのくらいはさせてくれ。」

「はぁ」

「やったー、私はどれにしようかな?」

あ、今のは凛さんにも適用されるんだ……、じゃあ今日のお昼は凛さんも弁当か。

「お前には買ってやらんぞ」

されなかった

「えー」

「昨夜の残りがあるからそれを食わんともったいないだろう。」

昨夜の残り……、青柳さんって料理するのか、そりゃ娘と一緒に暮らしている母親なのだからしても不思議ではないけれど。ちょっと青柳さんが料理しているところって想像できないな……。

すげぇスタイリッシュな料理(?)してそう。

凛さんは、昨日の残りを食べろって言う青柳さんに不服そうな表情だけれど、僕にしてみれば身内の作ってくれた手作りの、温かい食べ物が食べられるだけでも凛さんが羨ましく思う。……完全に一人暮らし独身男性の特徴的な意見だけど……。

弁当だってチンすれば温かいし、手作り名のは変わりないけれど。なんだか食べてもいまいち味わっている気がしない、温かいけど冷えている感じがするのだ。

身内の作ってくれる料理というのは不思議な満足感と、温かみがある。と今思えばそう思う。

愛情がこもっているとかそういうことを言うつもりはないけれど……。

「あ、そうだ!」

突然凛さんが思いついたようにしてそう声を発する。

「白君もうちで一緒に昼ご飯を食べる、すればいいじゃん、今から時間があるならそうしなよ。ね、いいでしょ?千年」

なんでそうなるんだ⁉

あ、青柳さんの家で二人と昼ご飯⁉

考えもしなかった展開に僕は戸惑う。

「ん?あぁ、それはいいなぁ。どうだ少年、それなら私が他に何か作ってごちそうするけど。」

ど、どうしよう……。

千年さんの手料理は確かに気になるけど、僕なんかがお昼をこの二人とご一緒してもいいのだろうか……。

ここですんなりとハイと言えない自分は間違いなくヘタレだ。

うーん、でも確かにこんな美女二人と一緒に食事だなんて僕には難易度が高すぎるな……、粗相があったらどうしよう。

そんなこと二人はきっと気にしないだろうけれど……

嫌われたくない。せっかく知り会うことができたのにつまらないことで嫌われたくない。

ここは無難に断っておくべきか……。

際立ってヘタレだなぁ、僕。

断るなら、断るでどうやって感じ良く断ろうかと考えていたら。

「よしっ、いこう!」

凛さんがいきなりそう言って僕の腕をガシッとつかんできた。

「えっ、あっいや、」

「来る、しないの?」

凛さんが僕の顔を覗き込む

その表情は残念そうで、どこか怒っているようにも見えた。

うっ、そんな目で見られたら……

そんな目で見られたら僕は……

僕は、僕は、僕は…………



ここまで読んでいただき有難うございました。

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