夜の始まり2
次話になります。
あの時死ななかったせいで今の僕はどうなってしまっている?
こんな死んだように生きるために僕はあの時の苦しみを乗り越えたのか?
少なくとも僕は高校から大学へ進学すれば高校の時よりは楽になると思っていた。受験勉強さえ成功すれば僕はあの地獄から抜け出して、生きていてよかったと思えるはずだと、自分の世界はなにか変わるんじゃないかと思って僕はあの時必死で勉強した。それがどうだ、
大学にもやっぱり惰性で通っている。
高校時代の教訓で、友達を作ると面倒だからあえて友達は作っていない。
毎日が退屈なものへと変化した。
辛い日々から退屈な日々へと変化しただけ。
あんなに頑張ったのに。
全然生きていてよかっただなんて思えない。死ねばよかったんだ、楽しくもない日々を淡々と過ごす、寝て起きてご飯を食べて勉強するだけの存在。そんなことのために親に学費を払わせていると思うと自分が許せない。
そのうちだんだんといろんなことを人のせいにするようになった。
こんな退屈な日々を送るようになってしまったのはちゃんと進路を考えてくれなかった親や先生のせいだ、とか。僕の友達付き合いが悪くなってしまったのはうざったい高校の時の友達のせいだ、とか。
「……黙れよ」
たまに口からこぼれるこの言葉。誰に対して言っているのか自分でもわからなかった。自分自身に言っているのか、それとも高校の時の友達や、先生や、親に言っているのか。
決まって家族の顔や、高校の時の担任の顔や、過去の友達の顔を思い出したときにこぼれる言葉だ、やっぱり今の自分のこの様を人のせいにしているから、こんな言葉が出るのかもしれない。
分かるのは、自分がどんどん下種な存在になってきているということ。
高校の時に死んでいればこんなに自分に絶望しなくて済んだのに……。
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、ウるさい、ウルサイ!」
人通りのない夜の路地で、街灯の下、星の瞬く夜空の下、そう小さく叫んだ……。
自分って危ない奴だなって思った。
もう何も考えたくない、考えてることだって支離滅裂で矛盾だらけじゃないか、こんなこと考えても意味がない。
頭の中のぐちゃぐちゃした考え事を振り払うかのように、自分自身から目をそむけるように、僕は夜空を見上げた。
子供のころは、例えば小学生の時とか、その頃は本当に純粋に余計なことを考えずに生きることができていたはずなんだけどなぁ。
「……帰るか。」
もう一度口からほうっと白い息を吐き出した。
結局今日も退屈な一日だったな。
明日もきっと同じだろう。
そのうちそんな日々に身を浸している僕は本当に狂ってしまうんだ。
「だからうるさいんだって、マジでやめろよこのくそ野郎が。」
終わってる。
「ゴッ‼」
僕は力任せに自分の拳で自分の頭を思いっきり殴った。意外と痛い、頭も痛かったけど拳の方もかなり痛かった。
なんだかこのままではずっと自分の頭を殴り続けることになりそうだったので僕はポケットからケータイを取り出すと、イヤホンのプラグをケータイの差込口に差し込みイヤホンを耳につけ音楽を聴き始めた。
これで余計なことを考えなくてすむ、音楽は好きだ。
「♪」
―――――一瞬の出来事だった。
僕が音楽を聴き始めてもう家に帰ろうと来た道を引き返そうとしたとき、
「よけろ!」
そう声が聞こえた。
音楽の方が前奏部分で、しかもあまり音量を大きくして聞いていなかったからその声ははっきりとそう聞こえた、頭上から。
慌てて上を向くと
僕の真上から人が降ってきていた
「……!」
動くことも声を上げることもできなかった。見上げたころにはもう相手の肩が僕の目の前にあって、あ、これ人か。とそんな暢気なことを思ったころにはその肩で顔面を強打していた。降ってきた人が(どこから降ってきたのだろう、民家の屋根?それとも……空?)僕に覆いかぶさるようにして二人とも倒れる。
僕がその人の下敷きになる形だ。
受け身を取ることができなかった僕は、降ってきた人を反射的に抱きかかえたままものすごい勢いで頭をアスファルトの地面に強打する。
「ごぎゅ!」
自分でも聞いたこともない声が自分の口から発せられる。
薄れゆく意識の中、僕はあぁ、しまったと思った。
これじゃぁ駄目だ、これじゃあ死ねない、このままじゃあ僕は死ねない。
……わざともっと頭を思いっきり地面に叩き付ければよかった。
そうすれば死ねたかもしれないのに……。
ここまで読んでいただき有難うございました。