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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第二章
14/44

再会1

しばらく歩いているとチカチカと点滅しながら光るものが視界に入ってくる。イルミネーションだ。

イルミネーションと言っても、そんな凝っていて大規模なものではなく、ただ単にチカチカと点滅する小さな電球がいくつもつけられたコードを床に這わせてあったり柱に巻き付けてあるだけのものだ。

そのイルミネーションがこの町にある教会、真心教会を美しく照らし出していた。

現時刻はもう十一時を過ぎたころなのだが一晩中つけっぱなしにしておくのだろうか……

電気代が……とか、自分とは関係のないどうでもいいことを心配しながら、教会の屋根に刺さった十字架をなんとなく見上げた。

こんな大きな十字架の刺さった建造物なんて教会以外考えられない

教会っていかにも教会って感じに見た目が作られていて、なんだか好きだった。まるで現実からかけ離れた場所のような気がして。

まぁ、中に入ったことはないんだけれど。

教会の正面の大きな扉の所には「背に腹を代えても」と何やら深い意味のありそうな言葉が大きな文字で大きな紙に書かれて貼られていた、元のこのことわざの意味をよく知らない、何となくは分かっているのだけれどそれに自信が持てない僕は、帰ったら元のことわざの意味を調べてみようとか思いつつその場を通り過ぎる。

……確か、苦しみを乗り越えるためには犠牲が必要だとか、そんな感じだったような……

じゃあその逆というと……

「あーっ!もしかして君は!」

突然目の前でそんな声がした、馬鹿みたいにテンションの高い声が。

声のした方に目をやればそこには女性が立っていた、女性の顔が外灯によって照らされている。

前方から人がやってきているな、というのは視界に入っていたから分かっていたけれど、僕は驚いていた。女性に突然話しかけられたことに驚いたのではない

その話しかけてきた女性が

「……青柳さん?」だったからである。

「うん、そうだぞー、はっはっはっ、うれしいなぁ覚えててくれてたのか。もうどのくらいたつ?一週間?いやぁ、あんな劇的な出会いがあったっていうのにあれから全く会うことが無くて寂しかったんだぞー?うふふふふふふ。」

誰だこの人

僕の知っている青柳さんはもっとキリッとしていて喋りながらあんなふうにへらへらしながら体をくねくねさせたりしない。

様子がこの前と違っていたので人違いなのかなと思ったのだが、この前のことを喋っている風だったので青柳さんなのだと知れる。

その矛盾に僕は少しパニックになりつつもしまったと内心どこかで思っていた。

やっぱり散歩はやめておけばよかった

「フフフフフ」

不気味に微笑みながら今にも転ぶんじゃないかと心配してしまうような足取りでこっちへどんどん近づいてくる青柳さんは僕の目の前で足を止め、なかった。

「どーん!」「うわぁ!」

青柳さんにタックルされる。

タックルというよりも青柳さんが体勢を低くして僕の懐に潜り込み、僕の胴に腕を回しおなかに顔を密着させて抱きしめるような形だったのだが突然のことに僕は青柳さんを受け止めることができずその場にしりもちをついてしまった。

一緒に倒れた青柳さんが僕の上に重くのしかかる。

「痛たたたたた」

「大丈夫ぅ?……へへへへへ」

青柳さんは仰向けになった僕に全身を密着させたまま離れようとせず僕のお腹のところでそう言って照れたように笑った

本当に誰だこの人

僕に乗っかったまま上半身を起こし、自分の顔を僕の顔に近づけ

「少年だよな?」と青柳さんは言う。

「そ、そうですけど」あんたは誰だ

どうやら青柳さんお酒をお召しになったらしく酔っぱらっているようだった、少しお酒臭い。

「ううん⁉おかしいな!」

青柳さんはわざとらしく眉にしわを寄せ、唇を尖らせて首をひねる。彼女の長い髪が僕の胸元に乗っかっていて彼女の動きに合わせて蛇のようにチョロチョロと不気味にうごめく。

「な、何がですか?」恐る恐る僕は聞く。

「君はもっと大胆な子だったろう、この前だって私の胸を乱暴に揉みしだいて」

「記憶がねつ造されています!そんなことしていませんよ⁉」

「ほら、好きにしていいんだぞ?」

そう言って青柳さんは心臓の音でも聞くかのようにして僕の胸にぴったりと耳をくっつける。

「フフフ、すごいドキドキしてる。服の上からでも伝わってくるよ?」

「ちょ、ちょっと待ってください青柳さん」

「服、邪魔だね。」

「冷静になってください、何を口走っているんですか。」

青柳さんはもう笑っていない。

僕は首を動かしてあたりを見渡す、人はいない。

深夜だからあたりの民家には電気がともっていない、もうみんな眠ってしまったのだろう。

車の通りもここはめったにない。

それらのことに何故か少しホッとする。

「この前はどこまでやったんだっけ……、まぁいいや、何はともあれまずはチューだよね……。」

そう言って青柳さんは僕の首元をべろりとなめる。

「あっ!」

その瞬間僕の口から変な声が漏れる。(恥ずかしいっ!)

「青柳さん!酔ってるんですって!あなた今おかしいんですって!よく考えてください!駄目です!こんなのほんとおかしいですから!」

僕は懸命にそう青柳さんに訴えかけたが彼女はそれに聞く耳を持たず徐々に首元から顔の方へと舌を這わせていく。

お、終わった!いや、終わる!

なんだかよく分からないけれど僕の中で今何かが終わりを迎えようとしている!

大切に守ってきたものなのにっ!

青柳さんの舌の熱さを首元に感じながら僕は目をギュッと瞑る。

「……。」

あれ?

青柳さんの舌が動きを止めた。

顔を青柳さんの方に向ける、首元にいるからほとんど死角にいて、もさもさした黒い塊がそこにあるようだった。

「スー、スー」

寝息のようなものが聞こえてくる。

……え?寝てる?

「スー、スー」

「…………なんだよ。」

そうつぶやいて僕は脱力した。

なんだかまた青柳さんにからかわれた気分だった。

上に乗っかっている青柳さんの体重を今更ながら感じる、正直言って重い。人一人分の重さをこの身に受けているわけだから当然なのだけれど(青柳さんが特別重いってわけじゃない)。

人が来る前に僕は上に乗っかっている青柳さんを僕の横にどかして体を起こしてその場に立つ。

ごろんと道路に横向きに寝っ転がってしまった青柳さんは開けた口から舌を出していて、それはたいそう間抜けな面で眠っていた。

青柳さんの肩に手を置いて彼女の体を揺らすが「うーん」とうなるだけで青柳さんは起きようとしない。

どうするんだよ、これ

なんだか事件現場みたいになっているぞ、ここ。

街灯に照らし出され立ち尽くす目の死んでいる一人の少年、その足元に倒れている一人の女性。

事件だ、殺人事件。

とりあえず僕はさすがにこのままにはしておけないのでずるずると引きずって教会の前に三段だけある階段の一段目のところに何とか青柳さんを座らせようとする。

座った……。

びっくり

四苦八苦しながら何とか階段の形に合わせて寝ている青柳さんの体を折り曲げて座らせようとしていたのだがほとんどダメもとだった。

別に座らせる必要はなかったのだけれど途中からはもうなんだか面白半分になっていた。

僕は自分の作った作品を眺めるような気持ちで、教会の前に寝たままバランスよく座る青柳さんを眺める。

何だろう、この達成感。

青柳さんは体を揺らしたりペちぺちと頬を畏れ多くも叩いてみれば「うーん」と鬱陶しそうに声を上げるのだが起きてもすぐに眠ってしまう。

「青柳さん!どうするんですか!このままここで眠ってしまうつもりですか⁉」

ぺちぺち

「うーん」

僕の手がハエでも追うかのように青柳さんの手によってはじかれる。

……酔っ払い面倒臭ぇ

どうしよう……青柳さん動く気配全くないし、かといってこのままここに置いて行くわけにもいかないよなぁ

となると、やはり僕が青柳さんを抱えて彼女のアパートまで連れていくしかないのか。

幸い(?)彼女のアパートの場所は知っているし、ここから近い。

「青柳さん!青柳さん!」

青柳さんの肩を強めにゆする

「うん、うぅん?」

目を閉じたまま半分眠ったような状態で青柳さんは返事をする。

「送っていきます、おんぶしますから、ちょっと起きてください。」

そう言って青柳さんの前にしゃがみ込み背中を向けるがいつまでたっても僕の方に手を回してこない。

後ろを覗き込む

「ぐー、ぐー」

案の定寝ていた。


ここまで読んでいただき有難うございました!

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