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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第一章
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朝4

白は変態なのかもしれません。

そうならないようにうまくコントロールしていきたいと思います。

玄関で靴ひもを結んでいるとキッチンから青柳さんがドタドタとやってくる。

靴を履いて立ち上がって振り返ってみると

「はい、あーん」

青柳さんが何かを僕の口の前に差し出した。食べろということなのだろ、僕はとっさにそれが何なのかろくに確認もせずに青柳さんの指でつままれた一口大のそれを口でくわえる。

食べるときに青柳さんの人差し指と親指が軽く唇に触れた。

口に入れたものをすぐに奥歯でかみしめる。

………うっ、これは!

「朝何も食べないっていうのはよくないんだぞ、頭を働かせるためにも糖分だけでもとらないとな。」

これは、これは……

「ひょこ(チョコ)⁉」

僕は口を小さく開けて玄関のところで軽くピョンピョン飛び跳ねた。

口を小さく開けているのは口の中のチョコの風味を極力味あわないようにするためだ。

「あおやひひゃん!ほふ、ひょこはへはんへふひょ‼」

訳:青柳さん!僕、チョコだめなんですよ‼

ああ、もう!さっきまでシリアスな展開だったのに!

何て僕は間抜けな動作をしているんだ!

何故か僕は口を小さく開けながらピョンピョンと軽く飛び跳ねている、なんだか体が拒否反応を起こしていて勝手にこうなってしまうのだ。

口が、口の中が気持ち悪い!

事態を察した青柳さんが奥に引っ込むと中からティッシュ箱とコップに入った水を持って戻ってきた。

「吐け吐け」

そう言って青柳さんは必要以上に箱からティッシュを取り出すとそれを僕の口に押し当てる。即座に僕はそれに口の中の少し解けてしまったチョコを吐き出した。

それからコップの水を一気に飲み干す。

「ゴクゴクゴクゴクゴク!……ぷはぁっ!」

「だ、大丈夫か?悪い、まさか君がチョコを嫌いだとは思わなかった。……もしかしてアレルギーとか…」

「水じゃダメです!」

「は?」

「まだ口の中にチョコの風味が!で、できれば牛乳を!」

「えっと…」「早く!」

「あ、あぁ、ちょっと待ってろ!」

再び家の奥に戻って牛乳の入ったコップを持ってくる青柳さん、それを僕に手渡す。

「ゴクゴクゴクゴク、うえぇぇ、牛乳嫌い……、でもチョコはもっと嫌い……。」

「もしかしてアレルギー?」

首を傾げて青柳さんは聞く

「いや、そんな大したものでは、ただ普通に味と食感が嫌いなだけです。……すいません、お見苦しいところを……。」

牛乳もそんなに好きではないのだけれど、と言うかむしろ嫌いなのだけれど口の中のチョコの風味を消し去るにはもってこいだ、神経が牛乳に集中するから。

毒を以て毒を治める感じ。

使い方あってるかな?

牛乳は嫌いでも飲めないことはないがチョコレートは駄目だ、あんなの人の食べ物じゃない(※個人の見解です。)。

なんであんな固いのかやわらかのかよくわからないこりこりねちょねちょしたもの(※個人の見解です。)を平気な顔でみんなが食べられるのかが分からない。味も味で思わず舌の味覚を焼失させるのではないかと思ってしまうような(※個人の見解です。)暴力的かつしつこい甘さだし本当にたちが悪い

あー、今すぐ歯を磨きたい……。

「……なにやら君には迷惑かけてばかりだな私。」

青柳さんがらしくもなくしゅんとして言う。

「いえ」

僕なんかのことに責任を感じる必要はない。

「そもそも、ろくに何かも確認せずにチョコ食べた僕が悪いのですから。」

「……何やら犬みたいだな、差し出されたものを何でもバクバクと。」

なんてことを、……なんてことを!

突然青柳さんが僕の頭をいささか乱暴に片手でくしゃくしゃと撫で回す。

「わっ!」

びっくりして思わず声を上げる僕。

「……じゃあな、シロ」

「犬の名前を呼ぶみたいにして言わないでくださいよ。……ていうか、初めて僕の名前よびましたね。……あれ?」

見れば青柳さんが顔を真っ赤にして俯いている。

「どうしたんですか?」

顔を覗き込みながら僕は聞く。

「い、いや……」

「ずっと気になってたんですけど、なんで青柳さんって僕のこと、少年とか、君とかって呼ぶんですか?」

「……。」

「……。」

……おっと?

怒ったかな?と思ったけど違う、どうやら普通に口ごもっているようだ。

「…………………なんか、恥ずかしくないか?」

「何がですか?」

「人の名前を呼ぶのって……」

………?

そうか?

「……。……ほらもう学校行け!遅刻しそうなんだろ!」

「いや、今の話詳しく聞かせてください」

「なんでだよ!そんなの無駄な時間でしかねぇよ!」

「えー」

「えー、じゃない!」

……帰りたくねぇ

今日は一日中青柳さんと部屋の中でだらだらしてたい、できれば一緒に昼寝したい。

むぅ、今から大学に行くのは酷すぎるよぉ。

一気に現実に引き戻される感覚だ。

仕方なく青柳さんの家に出る。道が分からないかもしれないからと青柳さんが途中まで付いてきてくれた。しかし、そんなこともなく外に出て見てみると僕が今までいた場所は見覚えのあるアパートだった。

「あ、青柳さんこのアパートに住んでるんですか。」

買い物の時とかで前を通ったりしてよく見かけるアパートだ。

これなら帰りに道に迷うことはないな

「一人で大丈夫そうか?」

「ええ」

「……ちょっと後ろ向いてみろ。」青柳さんにそう言われたので、言われた通り僕は後ろを向く「うん、もうたんこぶなくなっちゃったな、痛くないだろ?」

僕は青柳さんに背を向けたまま頷く。

それから向かい合った

「………。」

「……………あの」「ん?」

「………………。」「なんだよ」

「……右手、出してもらえませんか?」

「?」不思議そうにしながらも青柳さんは言われた通り自分の右手を差し出す。青柳さんは、まぁ当たり前なのだが昨夜と同じ首のあるヒートテックを着ている。朝の寒さにそれだけでは寒いと思うのだが下に何枚も着込んでいるのか青柳さんは平気そうだ。

「……。」

僕はその右手を手にとると、顔を近づけて青柳さんの服の袖に自分の鼻をあてる

それから

「すううぅぅぅぅぅ」「なっ!少年、何をしているんだ⁉」

思いっきり袖のにおいを嗅いだ。

「な、なにを……」

思わずたじろぐ青柳さん

「はぁ、……いい匂い……。」

僕は満足してそう言った。

煙草と香水の匂いが混ざった青柳さんの匂い

………。

自分が変なことをしているのは分かっている。変態みたいなことをしているのは分かっている。青柳さんもドン引きしていることだろう。でも最後にもう一度青柳さんの匂いをどうしても嗅ぎたくなった。

このにおいを覚えておきたかった。

「……お世話に、なりました。」

僕は頭を下げた

「……あ、ああ、また会おうな」

僕はもう一度軽く頭を下げ、


青柳さんに背を向けて歩き出した。

さようなら青柳さん。


頭の後ろに手を当ててみる、やはりもう痛みはないそれがなんだかつまらなかった。


しばらく歩いてから、

携帯電話の時計を見た。

八時十三分。

今からならまだ余裕で大学の授業に間に合う。


それからあることを思い出す。

「あ」

やべ。

「今日レポートの提出があるんだった。」










ここまで読んでいただき有難うございました!

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