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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第一章
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朝2

えーと、何が違うんだっけ……?

そうだ、別に僕は興奮しているわけじゃない。違う、興奮……あれ?

……僕、興奮してる?

もう呼吸が整ってもいい頃なのに、まだ少し息が荒い……。

それに気づいた僕は、あ、まずいな……、と思った。

自分を、コントロールできなくなってしまっている。

「違う、……違うのに……」

言いながら離れてしまった青柳さんに

僕はもう一度抱き着く

温かい、気持ちいい、もう一度ギュってしてもらいたい。

そんなことを思いながら青柳さんに抱き着いていると、僕の頭の上に布団が再びかぶせられた。そして僕の頭が青柳さんの両腕に包み込まれる。今度はさっきよりもやさしく。

落ち着く

「……まったく、まるで子供みたいだな、君は」

青柳さんがため息をついてそう言った。

「……ごめんなさい、……でも別に好きで大人になったわけじゃありません。それに僕まだ自分が大人だと思ってないし。……できればずっと子供でいたかった……。」

思わず拗ねたような声なって僕はそう言った。

「……あぁ、最近いるよなそういう奴、見た目は大人なのに中身がまるで子供のやつ。……まぁ、私からしたら十九歳の君なんてまだまだ大人とは言えないけどな、子供と大人の中間くらいだ。」

「……青柳さんと僕そんなに歳離れていないでしょう……、離れていても五歳くらい?……だと思うのですけど。」

「……私、三十だぞ?」

「は?」

僕は驚いて青柳さんの顔を見る。まったくそんな年齢には見えない。

「……驚きました、……若いですね。」

「ふふっ、がっかりしたか?」

「いや、別に」

むしろ納得、納得の包容力と安心感。……僕はもうだめなのかもしれない。

青柳さんが僕の髪をなではじめる。それから今度は頭頂部に何か当たるのを感じた、どうやら青柳さんの鼻だ。

「あっ、……その、昨夜は、お風呂に入っていないから、……変なにおいが……するかも………。」

「んー?別にそんなことないぞ?むしろいい匂い、リンスとか使ってるのか?」

「はい、……一応、使わないと僕くせっ毛だから、ごわごわになっちゃって」

「ふーん」

青柳さんは僕の髪をくんかくんかと嗅ぐ。

ううぅ……。

「なぁ、少年」と、しばらく僕の髪の毛を嗅いでいた青柳さんが突然それをやめると何やら神妙な声で改まってそう言った。

「生きていること、辛いか?」

……昨日の話か………。

「……すみません昨日は変なこと言っちゃって、訳の分からないこと言っちゃって。違うんです、その、何ていうか、僕自分の喋っていることに責任感と言うものがなくて……、結構すぐに気が変わっちゃうんです。その、ですから、忘れてください、昨日のことは。」

「私は生きていることが辛いかと聞いた。」「辛いですよ。」僕は即答した。

「理由とか、聞かせてくれないかな?」

「……うーん、理由とか言われても、……いろいろあってまとまらないですね。……例えば、夏が暑くて冬が寒いから、とか。朝起きるのが辛いから、とか。リードでつながれていて自由に身動きの取れない飼い犬がかわいそうだから、とか。車の免許を取るのが面倒くさいから、とか。学校が面倒くさいから、とか。飛行機の乗り方を知らないから、とか。飛行機の乗り方を知らないから、とか。時間が進むから、とか。ファッションセンスが自分にないから、とか。お酒とたばこの良さがよく分からないから、とか。僕を知ったような口をきく友達や家族がうざいから、とか。骨折するかもしれないから、とか。病気にかかるかもしれないから、とか。大人になったらちゃんとしなくちゃいけないから、とか。みんなに合わせないといけないから、とか。時間を戻すことができないから、とか。人から怒られるから、とか。僕が人間に生まれちゃったから、とか。他人が僕のことを視界に入れるから、とか。面白くないから、とか。老後が心配だから、とか。……ですかね、まだまだいっぱいあると思いますけど今思い浮かぶのはこれくらいです。あ、あと重力があるから、というのもあります。……なんだか言ってたら死にたくなってきましたよ。」

「……。」

「何ですか聞いてきたのは青柳さんですよ?そんな目で僕を見ないでくださいよ。言っておきますけど僕は全然おかしくありません、いたって普通です。むしろこんな地獄みたいな世界でへらへらして生きていられるあなた達の方が異常ですよ。なんでそんなに我慢できるんですか、我慢するんですか?僕はこんなにつらいのに……。周りの人は僕に言います、根性が足りないって。そんなこと言われても辛いものは辛いですよ。僕は自殺すらも苦しくて、怖くてできない、どれだけこの世界は弱いものに厳しいんですか。全員が全員強いわけじゃない、僕はこんなにも苦しいのにそれでも誰も僕に優しくしてくれない、子供のころは優しくしてくれたのに、持久走だって五百メートルだけでよかったのに、なんだよあれ、学年上がっていくたびに距離伸びやがって。みんな騙されているんですよ、子供のころあれだけ甘やかされて、世界は楽しくて優しいものだって騙されて、大人に近づくにつれてだんだん厳しくなる。こんなはずじゃなかったのに、こうなるはずじゃなかったんだ。僕はもっと優しい世界で生きていて、僕もみんなに優しくできて、誰も苦しまなくて…」

「少年、もういい」

「僕もみんなも幸せになれるはずだったんダ、みんな笑っテテ、温かくテ、僕は誰もキライにはナラナカッタ、そして、それで、それで、家族とも友達とも仲が良くて、冬の寒い日こたつに一緒に入っテ談笑シタリ、夏の暑い日ヒグラシの鳴く中日が暮れるまで外で遊ンダリ、時々一緒に旅行にでも行ッタリ、イッパイ、イッパイ、楽イシ思い出をツクルハズだったノニ、それナノニ、ドウシテ……」

「もういい、悪かった。……もう、やめろ。」

「青柳さん、……僕、オカシクなっちゃいましたぁ……。」

「……。」

「こんなんだったら、生まれてこなきゃよかった……。これ以上汚いものは見たくない、これ以上、汚くなりたくない……。」


ここまで読んでいただき有難うございました!

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