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絶望少年の行方。  作者: 鳩麦紬
第一章
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夜の始まり

これが初投稿となります。

皆様良ければ読んでいってみてください。

魔法使いたちの夜


 夜の空を、民家の屋根伝いに飛び回る一つの影があった。腰には日本刀を携え、耳にはイヤホン襟元には小型マイクをつけている。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

彼女は、息を切らしながら何かを追っている。

 その何かは、地中に潜り、アスファルトの地面を水面のようにして跳ねる二十メートルはあろうかという巨大な、真っ黒い魚であった。星々に照らされた夜の闇よりも深い黒、まるで飲み込まれてしまいそうな、漆黒の色をしていた。

 彼女はその魚を見つけると一目散に地面に降り立ち、その魚と並走する。魚が再びぴょんと跳ねた。

『今がチャンスですよ!』

 彼女のイヤホンからそう声が聞こえた。

 言われなくても分かってるよ、と彼女は内心思う。日本刀をすらりと抜いた。

魚は大きく跳ねた、夜空に舞い上がり、月明かりを遮って、地面に巨大なシルエットを、影を落とした。

彼女はジャンプする。常人のそれとはまったく異なる高さで飛び上がった彼女は自分よりもはるかに巨大な魚に向かって刀の切っ先を向ける。

「ああああああぁぁぁぁぁ!」

 気合を込めた声が夜の住宅街に響く。魚は口をガバリとあけて彼女を飲み込もうとしていた。

 黒い魚が近づいてくる。漆黒がもうそこまで来ていた。

 彼女はそのことが、少しだけ怖いと思った。


       白


夜道を歩いていた。

特に意味も目的もない。ただ自宅のマンションに一人でいるのが息苦しかったから、気分転換にでも、と思って出てきた。

十二月とだけあって外は寒かった、ダウンジャケットとネックウォーマー、ホットパンツをはいて外に出たのだけど正面から吹き付けられる風のせいで無防備な顔と手が凍ったように冷たい。

手はジャケットのポケットに突っこんでおけば問題ないけど顔のほうはどうしようもなかった。できるだけ顔を覆うようにしてネックウォーマーを顔のあたりまでずり上げた。

民家が両脇に立ち並ぶ路地、車の通りはない、四十メートルくらいのの間隔で設置された街灯だけが僕を照らす。

時折空を見上げると星が瞬いていて綺麗だった。

「はぁ」

ため息と同時に白い息が口から漏れ出る。

もうどれだけ歩き続けただろうか……、三十分くらい?なんだか自宅に戻りたくなかった。ずっとこうしてぼんやりと歩き続けていたい。

突然、一際強い風が僕の正面から吹き付ける。僕は思わずそれに対して背を向けそうになったけど思いとどまってその風を正面で受ける。

寒い、耳とおでこが痛い。あまりにもの寒さに体がぶるぶると震える。

これは自分に対しての罰だ。

だらしない、期待外れな自分に対する罰だ、このまま凍死してしまえばいいのに……。

本当にこのまま死ねたらどんなに良いことだろうか。歩く足を止め、アスファルトの地面に仰向けに倒れ込み、星が瞬く空の下この寒さを身に感じながら眠るように死ぬことができたら…………どんなに良いことだろうか。

ここで死ねたらこれ以上自分に失望することもない、これ以上生き恥をさらさなくて済む。ここで死ねたら概ね満足して死ぬことができる。いい人生だったと過去を思い返してそう思うことができる。今ならまだ間に合う。

約二十年正確には十九年生きたけど。

なんかもうここで終わりにしたい……。

十九年間……。うん、楽しかった。普通に小学校、中学校、高校と順調にいって、友達もたくさんできて、そいつらとたまに馬鹿やって・・・。それなりに、というか結構部活も頑張った。中学から高校に上がる時は必死に受験勉強をやったし、高校から大学に上がる時はその何倍も必死でやった。自分はこんなにも自主的に勉強をやる奴だったのか、と驚いたくらいだ。あのころは高校から家に帰ると夕食を食べる時と風呂に入る時以外、自分の部屋で夜中までずっと勉強をしていた、夜中に作るココアが癖になっていた。

恋人が、中学の時に一人だけいた。告白したのは僕の方からだ、死ぬほど緊張したけど友達から励まされ、茶化され、なんだかそれで勇気もらって、ダメだったら笑い話にでもすればいいやと半ばやけくそになって好きな子に告白した。その場でOKの返事をもらったときは後ろに控えてこそこそ見ていた友達よりも僕が一番びっくりしていたものだった。

その恋人とは結局途中からグダグダになって二年もしないうちにどちらが言い出すでもなく自然と別れた。

高校に入ってからはそれがなんだかトラウマになって、たとえ告白されても誰とも付き合おうとはしなかった。

「フッ」

思い出して少しだけ笑う。

そして泣きそうになる。生まれてから十九年間。うん、楽しかった。もちろん楽しいことばかりあったわけじゃない、辛いことも、むかつくことも、悲しいことも、あった。でも全部ひっくるめて充実した十九年間だったと思う。

「はぁあ」

僕はわざと大きく息を吐き、白い息を長々と口から洩らした。

そっか、僕幸せだったんだな……。

その時その時は全くそうは思わなかった。

特に高校に入ってからはずっと死にたいと思っていた。

友達はうざったいし、勉強なんて面倒くさかったし、親や先生の言うことなんてすべてが間違っていると思っていた。

高校なんて惰性で通っていたんだ。

過去は美化されるものだというけれど、それでもあの日々が幸せだったと勘違いしてしまう今の自分はどれだけ堕ちてしまったのだろうか。

なんだか死ぬタイミングを失ってしまったって感じだ。

本当につらかった時に死ねばよかったんだ、例えば高三の受験勉強のストレスと友達付き合いのストレスで板挟みになっていたあの時に、

自殺すればよかったんだ。


お疲れ様でした。ここまで読んでくれた方には本当に感謝しかないです。

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