お兄ちゃんは宇宙人だったの?
「しかし、今、下を見ていたら、刑事の一人が拳銃を構えていたけれど、撃ってきたら、ここ大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ工藤さん!ここの周りには層が覆われていますから!」
キャメロン系が腕を組みながら私の横にあるソファーに座ってきてそう答えた。
相変わらず長い脚にエッチな気分になり、こんな状態でも、男の本能はエッチなのね、なんて考えながらも、彼等2人がさっきまで、なにテレパシーみたいなものでコンタクト取り合っていたのか、と、聞いてみた。
そんなことを話している最中も、TVだけは見続けている。
「このような事態になりまして、申し訳ございません。本当はもっと穏便にことを進めようとしたのですが」
キャメロン系が私の近くだから最初にそう話しかけてきた。
「工藤さんの自宅には今は戻れませんので、落ち着くまで、ここで待機するしかありませんが、ここも工藤さんがいた自宅となんら変わらない状態ですので、どうぞお寛ぎくださいね」
オーランド系まで、この状況にまるで相応しくない会話をしてきた。こ、これが宇宙人の我々人類を超えた知的生命体の会話なのか?と、私は思わず二人の顔を交互に見てしまった。
こ、答えになっていない、ていうか私の質問が間違っていたのだろうか?
あ、そうだ、目黒区に住んでいる弟夫妻に電話しないと、て、言うか、早めに両親やら、友達やら、彼女やらって、そう言えば別れたばかりだった、と言うか自然消滅か!とか自分で突っ込みながら、携帯電話を探そうとしたが、案の定、携帯も30メートル下の自宅に置いてきたことを思い出し、万事、八方塞に思わずソファーから立ってしまった。
「どうしました工藤さん?」
「あ、あの連絡、連絡したいんだけど、電話とか無いよね」
私がそう言うと、オーランド系が窓側の角を指差した。
そこには固定電話が存在した。と言うか、最初にここUFO内に入ったときはシンプルな部屋だったのに、微妙に色んな家具類が増えていることに気付きだした。
窓際に移動すると、今度は部屋の間取り自体が多くなっているのに気付き、20畳くらいの1LDKから2Lへ、そしてもっと増えていそうだが、確認するのを止めて、取り敢えず固定電話で実家、宮城県に電話することにした。
ま、いちいち、この電話繋がるんですか?を聞く必要も無く受話器を取ると通話音がして、早速、実家に掛けることにした。
夜の何時かな?22時かな、ふと固定電話を見ると小さなモニターに時刻表も付いていて22時40分となっていた。
10回コールをしたが、結果的に親父も妹も出る気配は無く、力なく受話器を置いた。
やっぱり携帯に掛けるしかないな~と考えたが、携帯の電話番号を暗記していないことを思い出し、やっぱり自分の携帯が無いと、あとは自分の手帳だけど、これも当然、自宅だしな~と困り果てて、と言うか、彼等なら簡単に自宅の携帯とか何やらかんやらを持ってきてもらえるのではないかと、淡い期待をし、オーランド系にそう聞いてみた。
「はあ、それは出来ますが出来ません」
「出来るのにやりたくないの?何で、出来るんだったら、持ってきてよ!今、実家とか都内に住んでいる弟とか親戚に先に電話して安心させたいんですよ」
「はい、それは分かりましたが、こことは違う空間のものを勝手に移動することは、余りよい結果を生みませんので」
オーランド系はさも当たり前と言った感じで断り続ける。
「要するに、相手の携帯か連絡端末に接続出来ればよいのですね、ではその方の名前を言って見てください」
今度はキャメロン系がソファーに座っている身体を私に向けながらそう話した。
ここまでくると先にやるしかないことを私は学習してしまったので、妹の名前を受話器越しに言った。
「はい、工藤ですが?」
凄い、一発で妹の沙耶は出てしまった。一発だ、コールがなることも無く出た。
これはテレパシーか?
「お、俺だけど」
なぜか私は緊張した声で喋ってしまった。
「どうしたのお兄ちゃん、久し振り」
妹の沙耶は、そっちから携帯に連絡するなんて珍しいんじゃない?みたいなニュアンスで受け答えた。
「今、どこなの?」と私。
「今、病院の帰り、馬寄の叔父さんが入院しているじゃない、その病院にお見舞いに行った帰り」
「じゃあ、車を運転しているのか?」
「今はお父さんが運転しているから大丈夫、しかし、お兄ちゃんから電話なんてどうしたの?仕事見付かったとか?」
妹に仕事のことを言われ、しばし現実に戻った。
本来なら今頃、履歴書や職務経歴書をパソコンからプリントアウトして、封筒に入れているところだ。
「いや~、なんて言っていいかな、説明に困ってしまうな~」
「どうしたの?お金でも必要になったの?お父さんに代わる?」
「いいよ、親父だと話がややこしくなるから、で、家までは後どのくらいかかるの?」
「今、富谷辺りだから、あと30分くらいかな、で、何なの?お金?失業保険ってまだ出ていないの?」
「だからそうじゃなくて、まず、家に着いたらTVを観て、それからちゃんと話すから」
「なに、まさか、なんかやったんじゃないでしょうね?TVに出るような、変なこと、どうしたの?なんか悪いことでもしたの?大丈夫なの?」
妹は早くもTVを観て、と、言ったところからパニクリ始めた。
参った、こんな状況を簡単に分かり易く、ついでに安心させるような筋道を立てた話法を考えておくんだった、と今更ながら思ったが、後の祭りだし、それでも精一杯、なんでもないよ、疚しい事は一切していないよ、と言うようなことを話すので一杯一杯だった。
そうこうしているうちに、妹の携帯から車内のラジオから、現在の埼玉の夜空にUFOが現れたことを臨時ニュースで流し始めた。
そして、このUFO事件に、って事件とニュースのおっさんが言ったのだが、何らかの関わりを工藤潤が関わっていることを伝え始めた。
車内はパニックになったことは言うまでもないし、そのとき思ったのは頼むから事故んないでくれ~と思ったのと、これで親、兄弟、親戚、学校の旧友、先生とか、仕事上の付き合いの人とか、いわゆる、私と今までに接触があった人々みんなに大袈裟なくらいにマスメディアを通じて行き渡っていったことは、この時点で、覚悟を決めないといけないという時点に着地した。
「とにかく、一旦切るから」
私は車内で、妹と親父が、と言うよりも親父が妹に矢継ぎ早に質問しているのを、妹はテンパッた頓珍漢な回答をしながら、異常にエキサイティングしていく声の質を聞きながら受話器を置こうとしたときに、微かに妹が叫んだ声が聞こえた。
それは、
「お兄ちゃんは宇宙人だったの?」
なんとも情けない身内の発言であった。