今の人類をジャッジしてください!
「我々が住んでいた星は地球の100倍くらいの大きさでした、そして恒星、と言うか太陽は、太陽系の太陽の千倍か1万倍の大きさがあり、その太陽の軌道を地球の年月で言う千年で1周していました、そんなところから来たとだけ話しておきます、簡単な自己紹介みたいなものです」
「服に穴が開くじゃない、擦り切れたのか、何なのかはっきりとした原因が分からないのに穴が開くことがあるじゃない?そんなときに、その穴の繊維はどこに行ったのかと真剣に考えるの、それと一緒じゃない?」
「意味わかんね~」
私はそう言ったが、二人は穏やかにそう話していた。
それは、どうでもいい話なのだけれども、妙に懐かしく感じた。
私が彼等を最初に見たのは、多分、ハローワークの中だったと思う。
池袋のハローワーク、多分、そこが初めてはっきり見たような、そんなふうに今は思い出している。
それか、池袋東武百貨店の紳士服売り場と東武プラザを挟む通路だったのかもしれない。
あやふやな記憶だが、それは衝撃的なほど、インパクトのあるいでたちだった。
なぜなら彼らは白人で、美男、美女で、男性のほうはハリウットスターのオーランド・ブルームに似ていたし、女性もまたまたハリウット女優のキャメロン・ディアスにそっくりだったからだ。
僕は、そしておかしな現象も同時に目撃する。
はっきり彼等を見たのに、周りはその存在を知らないかのように無視し続けていたことを。
そうか、そんなハリウットスターに超似ているカップルが現れても、別に驚かないのが東京の人なのだ、いや池袋に集う人たちなのだ。
そのときは、そう思った。
ただ、どうも私の心を不安定にさせるのは、彼らが「どうも私をジット見続けている」ことだった。
それも然も当たり前のように、然も昔からの友達か親戚か家族のように、親しみのある視線で私を見続けていたからだ。
そのときは正直、こう考えていた、やっかいな外人に気に入られているんじゃないのか?
例えて言うなら、知的障害者の方に妙に気に入られて、話しかけられるような、まるで私のことを知り合いか何かのように近付いてきて話しかけたり、突然、腕を引っ張られたりされるような(実際、私はこの手の状況にかなりの確立で遭遇し、シュールな体験を数多くこなしていた)そんな居心地の悪い体験が待っているような気がして、僕は出来るだけ逃げるようにしていた。
目の錯覚なのか、疲れているのか、ストレスなのか、原因を考えながら私はその場所を移動した。
彼らは、そしていなくなったりしたのだが、ふと、何かの拍子で、例えば地下鉄のホームでぼんやりと電車を待っていたりして、電車が入ってくる側を何気なく見ると、彼らが、然も当たり前にいて、然も当たり前に私を見ていた。
ヤバイ、そう内心思い、一旦、彼等とは違う方向に向いたり、ホームの天井に掲げてある案内用電光掲示板を読むふりをしながら、またチラっと見たりした。
彼らは、そして、間違いなくそこに立っていて、存在していて、私を見ていた。
ホントかよ、なんなんだよ、私は、また彼らから逃げるように、ホームの中を彼らとは反対側へと歩き出した。
そんなときは、やはり自然と早歩きになる。
私はそして十分離れたと思い彼らが居たであろう位置を、振り向いて確認する。そうすると、決まって彼らはいなくなっていた。
そのときは、ほっと安堵の息を吐くのだけれども、それと同時にゾっとして鳥肌が立つときもあった。
彼らは、この世の者ではないのではないかと、この世のものではないあの世の者ではないかと、そして、または自分が幻覚でも見るようになった、心の病を発症した者になったのでは、と、色々と不安なマイナス思考に陥る嫌な感覚を味わった。
現実は何であれ、私は今、リストラされて失業中だ。
これは紛れもない事実だった。
2019年の日本は斜陽経済大国となり、今や国家資本主義と揶揄される中国の世界的経済圏計画に待った!と経済制裁をするアメリカにより、世界は折角景気回復しつつある状態から、2008年発のアメリカで始まったリーマンショック、世界金融不安、世界同時株価下落、百年に一度の大不況等々の、なんでもいい、なんであれ、世界の同時不況はまだ経済が停滞している日本にも容赦なく襲いいかかり、呑み込んでいき、私が入っていた中小の広告代理店は一気に傾きかけ、信じられないくらいの速さで、リストラを敢行した。
アカウント・エグゼクティブ、それが私の会社での役職だったが、営業の私も例外ではなく、十年近く貢献したはずの会社は、さも当たり前のようにリストラの枠に入っていることを告げていった。
信じていたもの、絆のように思っていた役員からの突然の裏切り行為、業績不振、売上悪化、金、金の切れ目が縁の切れ目、そんなこんなで会社は、社長と役員と社員の繋がりを見せかけだけの砂上の楼閣にしていたのだろう。
自分の存在意義が突然なくなったように感じた。
なんとも言えない怒りだけが、憎悪のシコリだけが会社へ、会社でこのリストラを裏で考えていた社長や役員どもへ、そして、そんな裏切りどもを信じていた自分に対して、黒く、そして氷のように冷たい悪意のようなものが燻ぶっていった。
もう何時間待っているのだろう?
私はそんな、つい2ヶ月前の出来事を思い出し、今置かれている現実で我に返り、ここがハローワーク池袋であることと、もう2時間以上ここで待っていて会社紹介の手続きを、毒づきながら待っているリアルな世界に戻ってしまった。
やっと空いた席を見付けて座ったのが13時、先ほど見た腕時計は15時20分を過ぎていた。
右手に握っている整理番号を見た。
3桁の数字が記載してある、銀行の待合と同じ仕組みの整理番号。
なんの変哲もなく、本当にただ順番を教えるだけの整理番号、私の番号は652番、そして今、機械のアナウンスが伝えたのは
「612番の番号をお持ちのお客様は、窓口までお越しください」だった。
私の前にあと40人が控えているのだ、40人の私のようなウンザリした気持ちを持った人たちがこの世界を、力なく呪っているのだ。
「大変お待たせさせていまして申し訳ございません」
とハローワークの30代中間ぐらいの小太りの女性が真剣な顔で、待っているみんなに聞こえるような大声で喋っていた。
「紹介ではなく、認定印を頂きたいだけの方は、臨時でブースを設置しましたので、どうぞお並びください」
そんなアナウンスだった。
劇的に混雑しているハローワークの中は静かな殺気で渦巻いていて、そんな係員の対応に対しても、冷たい質問や、罵声が飛び始めた。
私もウンザリしながら、その険悪なムードの中で、あと1時間は待つことを考え、溜め息が出た。
そんなハローワークで待ちくたびれて、殺気立っている空間の中で、私は場違いなものを目撃した。
場違いであり、それでいて有り得ない人物たちを目撃したのである。
それこそが彼らとの第一遭遇だった。
私はストレスで幻覚を見るようになったのか?そのときは、そう思っていた。
「工藤さん、いらっしゃいますか?」
玄関のチャイムが後ろの音だけ鳴って、玄関のドアをノックする音も一階から聞こえてきた。
電池が明らかに無くなっているな、そんなことを考えながら二階でさっきまで着ていたスーツを素早く着替えてジーンズと半袖シャツ姿で玄関に出た。
玄関には自治会の班長さんが立っていて、団地内でTVの共同アンテナを運営している運営費を集金に来ていた。
「昼間は工藤さん、出ていらっしゃるからこんな夜分にすいませんね」
と60近くのおばちゃんが玄関のドアを開けるとご挨拶するので、私も急いで一階の茶の間にある鞄から財布を取り出し、自治会費改め共同アンテナ費三か月分を払った。
私が住んでいるところは埼玉県で30年ぐらい前に区画整理した団地型の住宅街だった。そこで、無謀にも私は中古の一軒家をローンで購入し、一人で住んでいた。
だから、たまにこうして自治会費改め共同アンテナ費三か月分の徴収に近所の自治会班長さんが来たり、回覧板もよく回ってきた。
ゴミだしの連絡や、自治会館の使用方法とかの連絡等が主だった。
失業中なのに出費はイヤだな~、そんなことを考えてドアを閉めた。
しばらくして、また玄関のチャイムがなり、多分、判子を押し忘れたことでさっきのおばちゃんが戻ってきたのかと思い、無造作に開けてしまった。
そして、そこには無造作に開けてはいけない人物たちが立っていたのだ。