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苦手な方はご注意ください。

とりどりの短編集

ロミオと転生者

作者: 風見 十理

 


「お嬢様や、ジュリエットお嬢様!」


 私は呼ばれて、目が覚めたようにはっとした。

 ここは、ヴェロナ。私はジュリエット。家名はキャピュレット。

 私は、私を知っていた。





 どうやら、ここは『ロミオとジュリエット』の世界らしい。

 そして私は、この世界に記憶を持って転生したらしい。しかも、ヒロインのジュリエットとして。


 鏡を見れば、幼いが将来美人になること間違いなしの少女が見返してくる。

 年齢はわかる、十三歳だ。ジュリエットの母親に、「あなたの年の頃には、私はあなたという子どもがいた」という台詞があって、中世やばいと衝撃を受けたからよく覚えている。



『ロミオとジュリエット』は、前世の記憶ではとても有名な悲劇だった。


 敵対するモンタギュー家とキャピュレット家。ある日モンタギュー家のロミオは、友人とキャピュレット家の宴会に潜り込み、キャピュレット家のジュリエットに出会うと、お互い運命を感じる。家が敵同士でありながらも惹かれ合う二人は密かに結婚。しかし、キャピュレット家のティボルトとのやり合いで、ロミオは街を追放されてしまう。

 その隙に別の結婚話を勧められたジュリエットは、僧侶に助けを求め、仮死の薬を渡される。これを飲んでやり過ごし、ロミオと落ち合う作戦だったのだが、すれ違いでロミオには情報が届かず。ジュリエットが死んでしまったと嘆く彼は服毒死。起きたジュリエットも死んだロミオを見て後追いしてしまう。

 そんな悲しい結末となった若い二人の姿を見て、両家は後悔し、和解する。

 こんな話。

 気が向いてじっくり読んだことがあるから、結構覚えている。



 私がジュリエットになったと気付いた日は、しばらく泣いた。だって、最後死ぬじゃん! まだ十三歳と若い身空なのに! とまあ、嘆きに嘆いた。


 でも、思い返せばジュリエットは死んだは死んだけれど、自殺だった。ロミオが死んだから、彼の短剣でぐさっとして後を追ったのだ。

 自殺なんてしなければいいのだ! 幸いにも私は薬が仮死の薬とも知っているし、勘違いで死ぬことなんてない!


 あ、仮死の薬と分かっていれば死なないのはロミオか。彼、ジュリエットが死んじゃったと思って死んだんだった。

 ということは、私は目の前にロミオの亡骸が横たわっているところで目が覚めて、自殺しなければよいのか。目覚め悪いなあ……。



 とまあ、どうせ転生したからには美女を生かして人生を楽しみたい私は、今後の相手候補として物語の記憶からピックアップした。

 ティボルト、パリス、まあ一応、ロミオ。


 ティボルトはキャピュレット家の者で、ジュリエットにすれば従兄になる。両家の対立のシンボルのような、モンタギュー家を敵視している男だ。

 一説には、ティボルトはジュリエットを好きだというものがあった。まあ相手に選んで、ジュリエットなら悪い目にはあわないだろう。

 ところが彼、ロミオの友人のマキューシオかベンヴォーリオ――いつもどちらか分からなくなるんだよね、マキューシオでいいか――マキューシオを殺してしまう。人殺しなんだよね、ティボルト。

 それと物語中始終怒りっぱなしだった気がするし、面倒臭そう。

 ついでに最期はロミオに殺されるしね、やっぱないかな。


 パリスは物語を知っている人でも知らない人多いかも。

 パリスはずっとジュリエットに求婚していた青年貴族。ロミオが追放された後、ジュリエットと結婚するよう言われて、やっと想いが叶ったとおもいきや、嫌がった彼女が死んでしまう。もちろん仮死の薬でね。

 そしてジュリエットに献花をしにきていたら、到着したロミオにバッサリ斬られてそのまま亡くなる。流石に当て馬もここまでくると切なすぎると思ったものだ。

 無難なら彼かなと思う。本当かどうか知らないけど、蝋細工のような顔(イケメン)らしいし。


 ロミオは、正直言って私は嫌いだ。

 ロマンチックな悲恋って感じになってるけど、ジュリエットに会う前はロザラインって女性に首ったけだったし。ジュリエットに会ったら、ロザラインなんてどうでもいいってあっさり心変わりをする上に、頭がお花畑だからね。

 さらには、ティボルトを殺しちゃってる。友人をやられてカッとなったとはいえね。

 個人的には、妻の後を追って服毒死もちょっと重い。というか、ジュリエット死んでなかったし、もう少し待てば良かったのに。


 本当はロミオの友人で、ずっとロミオを気をかけていた、ええと残りの方の……ベンヴォーリオ。彼が一番まともでいい人っぽいんだけど、モンタギュー家の人間だから、泣く泣く却下。


 この中じゃあ、やっぱりパリスかな。うん、パリスだ。パリスに決定!



 そうこう考えているうちに、ロミオと会うはずの日になった。

 そもそもロミオに会わなければ、両家の仲はともかく、人が死ぬことがないのでは? と考えたけれど、開催する宴会はキャピュレット家主催で、娘の私が出ないわけにはいかなかった。

 それにパリスとの顔合わせも兼ねる。未だに会ったこともないので期待が膨らむ。


 歯抜けの下品な乳母と、お母様の話を聞いて、宴会の場へ。やっぱり十三歳は若いです、お母様。

 ティボルトが睨んでいる。ロミオを見つけたんだろう。本当にモンタギュー家が嫌いだなあ。


 両家は話し合いをすればよいのに、と物語を読んだときは思ったものだ。このままじゃ、息子と娘が死ぬよ、といっても分からないだろうけど。そうならなきゃ反省できないほどの溝なんて、話し合いで埋まらないか。

 まあ、この度はジュリエットは私なので、両家の仲は良くなりません。ごめんなさい。


 パリスはどこかなとふらふらしていると、その声はした。

 私は絶対にジュリエットにならない。

 確固とした意思を持って、ロミオを振り返れば。




 好みどストライクなイケメンが。




「私は今まで恋をしてきただろうか? 目よ、否と言え! 私は今こそ、真の恋を目にしているのだから!」



 ああ。

 ロミオ、ロミオ。あなたはどうしてロミオなの!?



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