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決して口には出せないのだけれど、我侭で身勝手かと思うだろうけど、私に気づいて・私を愛して

 この街の北西部にある死体処理場。

というより10日前から死体処理場になってしまった場所。



「前まで近所の農家が所有する休耕地だったんだ。この辺りはさ、元々大豆とか色々な作物の生産地でね。ほら、内陸だろこの辺り。」死体を運んできた警察員の一人がロンロに説明した。内陸と言われたこの街の周辺は、確かに遠目の景色にどの方角からも山の影が写っている。


辺りには無数に掘り返されて、また埋められた痕跡がある。元は休耕地というだけあって果てしなく広いこの大地は舗装はされていないが綺麗に整えられている。きっとさっきの建物も本来はその農家の物だったのだろう。そしてロンロが目撃し、シヴィーが寒い中で死体を引き上げたあの水路も、きっと元は農業用に作られた物であろう。


死体は一先ずは一箇所に集められ、ロンロと一緒にこの場にやってきた六つの死体も荷台から降ろされる。

先に来ていた先輩らと一緒に山積みにされた。


荷台を運んできた警察員の男は懐から手帳を取り出し、

「これで六体を足して、四百七十二体目と。」

今までここに送られてきたハルバレラの死体数であろう数字を記入した。


「もうそんなに…報告書だと二百体程度と書かれてましたが…」

ロンロは呆れ気味に答える。


「ははっ、これは明日には記念すべき五百体目がご来場なさるな。こんな記念祝いたくは無いけどね。」


「そういえばこの後処理はどうするんですか?火葬にすると資料には…」


「あーあーダメダメ。あまりに数が多すぎて燃やした時の匂いも凄くてね。燃やす燃料もバカになんないからさ。燃やしてたのは最初だけ!今は片っ端から埋めてるよ。」


「ははは…そうなんですか…。と、すると…。」

ロンロはこの本来は休耕地だった一帯を見渡した。


無数の土をほじくり返した痕跡は今までここに来た五百体近いハルバレラの「お墓」の痕跡そのものであったのだ。この大地に無数の魔女・ハルバレラが無造作に埋められ眠っているのだ。


「ここもいつまで収容できるか。もう敷地の半分以上は使っちまった。この調子で魔女が振ってきたら街外れの空き地や休耕地は全部墓場になっちまうよ。」


「一体どれほどの魔力が…本当に何処から沸いてきているの?」


「さぁわからんね。じゃあお嬢ちゃん先生、僕はあっちで地面掘り返して墓穴掘ってる同僚の応援いくから。後は自由にして構わないよ。」

荷台をここに運んできた警察員は同僚の応援をすべく、近くにあった道具を詰め込んだ樽からシャベルを抱えて小走りで墓穴予定地に向かっていった。



ロンロは「がんばってくださーーーい!」と、少し大きな声を出して警察員を見送る。

そして「さて…」と呟いてロンロは一先ずはハルバレラの死体の山に近寄った。死体そのものを調べてみようかと思ったのだ。彼女は死体の前で腕を組んで目を閉じて祈りを捧げる。辺りには死体から染み出した血が広がって、そして大地に染み込んで行っている。千切れた腕や足が死体の山からあちこちに転げ落ちていたりもする。なんなら頭だって2、3個は転がっている。ざっとこの死体の山だけで三十~四十体ものハルバレラが積み重なっているようである。それは正しく異様な光景であり、ロンロには正視に耐えられない状況であった。それでも勇気を出して、そして顔を引きつらせながらも彼女はしっかりとこの死体山を見つめた。


まず資料に書かれた事を自分の目で確認すべく背負っていたブラウン色のレザーリュックを降ろして胸元で抱え、細長い15cm程度の筒状の物体取り出した。魔学によって作られた物質構成判定機である。本来は魔学の技術で作り出されたコピー品つまりは美術品等の贋作判定や、事件現場で残った痕跡(頭髪や皮膚、血痕等の生体物質にも通用する。)を特定する為に使われる物である。今回の事件の資料を読んだロンロはこれを準備してきていた。


ロンロには魔学者としての知識は専門の大学を飛び級してリッターフラン研究員になっているだけあり、魔学に関してはかなりのレベルに達している。しかし魔力そのものは人並みである。だがこれにはスイッチは無い。ロンロが起動を念じるだけで動く。そこまで魔力を必要としないこの魔機は彼女の魔力でも十分動作する。


だが時として特別な魔力の才能を持った人間がこの世には誕生する。

その様な才能を持った人間は、体と頭で意思のまま自然と魔学識を描く。

そうすればこの様な物質構成判定機等を使わなくても、ロンロが今行っているであろう調査を生身一つ指先一つで軽くこなしてしまうだろう。



それが男なら魔法使い。

それが女なら魔女である。



ハルバレラは魔女であった。



この無数の死体のオリジナル、ハルバレラは常人以上の魔力を自分の意思で操れる魔女であったのだ。




ロンロが起動を念じた物質構成判定機の先端から小さく光が灯る。

その先端を転がっている、もしくは山積みになっている死体の次々に当てていく。

物質構成判定機で死体をチェックする度に彼女は上着のポケットに入れていたモニターと呼ばれる小さい長方形の箱を取り出して眺める。この物質構成判定機から流れてきた魔学的データを表示しているのである。これもまた多量の魔力を必要としない為ロンロの魔力によって作動する。


モニターに表示される文字を確認したロンロは呟く

「報告書にあった通り、一致率97%以上…この死体の数々は間違いなく…全部同一人物!」

試しに死体が着ている同じ暗い色をしたワンピースの服。それに毛髪、流れ落ちた血液等も判定してみたがモニターに映し出される一致率は全て97%以上の数値を表示していた。



「着ている服から頭髪までまるで一緒。ただ報告書で読むのと自分で調べるのじゃ大違いの驚き!!こんなの一体どうやってるの!?」



一度、この国の首都で高価な壷や皿や茶碗。陶器芸術品の魔学を用いて作り出された贋作品が見つかり大量に模倣品が摘発されたという事件があった。この贋作芸術品らの正体が判明したのはそれらがオリジナル芸術品に比べて贋作品が構成する物質、つまり原料の土や釉薬等を完全に模倣出来なかったからだ。いや、かなりの材質の高い材料を使用して犯人グループは雁作品を作り上げていた。ただ釜で焼き上げた際の僅かな温度の違いによるによる土の焼き具合の変化や釉薬等の薬品の僅かな調合ミスを犯人達が使用した魔学を利用した技術では模倣出来なかったのだ。リッターフラン対魔学研究所はそれを暴いた。そしてそれこそが証拠となり一斉摘発されたのだ。もちろん今回も以前やってきたという王国兵団警察機構が率いた調査隊もロンロと同じ様にハルバレラの死体を調べ上げたであろう。そしてサンプルデータをリッターフラン研究所に送りそこでもじっくりと調べ上げたであろう。ただ、それでも違いは見つけられなかったと思われる。このハルバレラは全てがハルバレラ。五百体近いハルバレラは、全てが彼女、オリジナルと同じ完璧なコピーのハルバレラであったのだ。あの高レベルの贋作芸術品を調べ上げたかの様にはいかなかったのだ。



ため息をつく。

「あなた…ホントに魔女なのねハルバレラ。私はただの人、ビックリするばっかり。」



魔女の死体の山を何処か感心したかのようにロンロは見上げた。

ここまでの事を成し遂げた…いや、犯人はまだハルバレラと確定した訳では無い。しかしそうとしか考えられない、類まれなる天賦の魔法の才のみが成し遂げられる強大で膨大な術。再びロンロは今回の怪事件のスケールの大きさを思い知った。


ロンロが呆然としている間に二人の警察員の男が一人ずつ木製の車輪のついた手押しの荷台を押して、ガラガラと地面の小石と車輪から立てる音を出しながらこちらに戻ってきた。

片方は先ほど彼女と一緒にハルバレラの死体を運んでいた男。

もう一人は馬を厩舎に連れて行った男だった。馬を連れて行った後は墓穴を掘っていたらしい。



「嬢ちゃん先生、何か判ったかい?」

先ほどの一緒にハルバレラの死体を運んできた警察員の男が夕日をバックに笑顔で言う。


「いえさっぱり。はは…。判った事と言えば研究所からの報告通り、全部が全部ハルバレラ本人と着ている服から毛髪まで全く同じという事だけでした。」ロンロは愛想笑いをしながら答えた。


「はーーー。本当に全部同じ人間なんだなー。10日経った今でも未だに信じられんよ。」

もう一人の警察員の男が言う。彼は良く見ると先に穴掘りをしていたからであろうか、もう一人の警察員より全身が土だらけである。無理も無い、この三十とも四十ともある死体を埋める穴は相当な大きさと深さだろう。


「あの、お二人ともお疲れさまでした!」

それを察したロンロが頭を勢い良く下げる。


「はは、ありがとよ。」

笑顔で答えた土だらけの警察員はそのまま死体を担いで手押し車の荷台に次々と死体を投げ込み始めた。笑顔で宙を舞うハルバレラ。やっぱりそれは笑っている。もう一人の警察員の男もそれに続きハルバレラの死体を荷台に投げ込んでいく。


「あの!私も何かお手伝いを!!」


「んー。良いのかい?あまり死体に触れたりさ、マジマジ見つめたりしたら今夜は怖い夢になって魔女が出ちゃうかもよ。嬢ちゃん先生。」

話しながらも警察員の男は手を緩めず死体を次々荷台に投げ込んでいる。これだけの数にあまり時間をかけると日が沈んでしまうのは骨身に染みて判っている二人である。


「だ、大丈夫です!!段々ですけど、その、慣れてきました…ははは…。」

諦めの入った表情でロンロは答える。


「そうかー。なら転がっている腕とか足とか、頭とか拾って投げ入れてくれるかい?」

やっぱり手は緩めずに答える二人。次々とハルバレラが宙を舞っている。


「はっはい!!」

ロンロは答えて恐る恐る千切れた腕や足を拾っていく。正直めちゃくちゃ不気味で怖く気持ち悪い。今まで死体の一つも見た事無かったのに、まるで国同士の激戦区の、その前線に出向いたかのような死体の数を彼女は見ているのだ。流石に頭を拾うのは怖かった。頭を抱えると髪に染み付いた血が両手にべったりと付いた。悲鳴を上げそうになったが横では二人の警察員が額に汗を流しながら死体を処理している。立派だ。そう思うと悲鳴を出すのをグッと彼女は堪えた。


何とか我慢して拾い上げたが、死体が積み重なっていた場所は血溜りとこぼれ落ちた脳みそだの内臓だのがまだ地面に無残にちらほら残っていた。


「あの、その、こぼれ落ちたハルバレラの中身はどうするんでしょう…?」


「ん?調査サンプルとして持ち帰るの?」

土だらけの作業員が答える。


「いやいやいや!!いりませんよさっきの調査で十分ですよ!!!でもこれどうするのかなって!!」

ロンロは慌てて両手を何度も交差して否定した。


「後でシャベルでかき集めて別の場所に埋めるから大丈夫だよ。そうでもしないと鳥やら野犬がやってくるからなー。いやー、既に野犬共に掘り返されたりもしてんだが…。ハッハッハ!!」

何か異様に明るく土だらけの作業員は答えた。



質問した事を後悔したロンロは「うぇええええー… 聞かなきゃ良かった…。」とテンションを一気に落とした。



警察員二人が押す荷台にロンロはついていく。最初の一旦死体を山積みにして置いた場所から50~60m程離れた所に墓穴はあった。かなり大きい。深さは3m程もあって広さもそれなりにある。人間がこれを掘り上げるだけで相当な労力であろう。ロンロが感心して墓穴を覗き込んでいると、二人の警察員は荷台を穴に向かって傾けた。死体が穴に次々と落ちて、積み重なって山となっていく。ロンロが拾った腕や足やそして頭も一緒に転がり落ちていった。



ロンロは土に掘られた穴の中で積み重なる死体の山を見て呟いた。

「ハルバレラ…これがお墓なんですね。」


「真面目に考えれば可哀想でもあるんだけどね、そうもいってられないのが現実さ。」

ロンロと一緒に荷台を押してきた警察員もしみじみと答えた。


「そうだな、早くこの事件が解決すれば良いんだが。俺も毎日の穴掘りからも卒業したいよ。」

土だらけの警察員もそれに答える。



「はい、私もやれるだけ調査を頑張って見ます。じゃないと、やっぱりハルバレラ可哀想…。こんなの人の扱いじゃありません。」

顔を曇らせてロンロが言う。


「色々ビックリさせられたり死体に触れて怖かったろうに。立派な嬢ちゃん先生だ。」

土だらけの作業員が答える。


「期待してるよ嬢ちゃん先生。さぁ魔女を土に還してあげよう。」

もう一人の警察員がそう言ってシャベルを持って土を死体の山にかけ始めた。

空けた穴を再び土で塞ぐ。これもまた重労働である。


ロンロも辺りを見渡して地面に転がっていたシャベルを見つけた。

大人の男用に作られたそのシャベルは彼女には不釣合いであったが、それでも彼女は構わず土を担いで穴にかけ始めた。ハルバレラのお墓かと思うと、自然に彼女もそれをしなければと思った。死を最後まで看取ってやろうと思ったのだ。先ほど持ったハルバレラの生首から付着した血のついた手の平のまま、彼女はシャベルを握った。







ハルバレラ。



この国のこの街に、とんでもない事件を起こしたハルバレラ。



こんな強大な現象を起こせるのは、きっと天賦の才を持つ魔女のアナタだけ。



私が何処まで出来るかまったく判らないけど。



これがアナタからのメッセージなのか。



それとも街全体に対する復讐なのか、それは判らないけど



この事件を止める事がアナタの意思に反するのかもしれないけど…。



リッターフラン対魔学研究所も助けてはくれないし、



何処まで足掻らえるか判らないけど、私は出来るだけやってみるからね。



一人でも多く、アナタを救えるように。この降り注ぐアナタを止める為に。



アナタの呪いとも言われるこの現象を、きっと解決してみせる。






ロンロは精一杯、穴に向かって土をかけた。


念じながら、決意しながら、精一杯土を彼女の死体の山に向かってかけていった。

再び大地に戻れるように。それが今、自分が出来る彼女に対する唯一の救いならば、と。







その時である。




すっかり夕焼けに染まる上空からヒュウウウウウーという音が遠くから聞こえてきた。

そしてその音は段々と近く、そして大きくなっていく。





『 ボッスウウウウウウウウウン!!! 』






「ウワアアアアアアアアアーーーー!!!!」

ロンロは握っていたシャベルを驚きの余り投げ飛ばしそうになった。

なんとか堪えた。

頑張って堪えた。




「あらまー…。見事にストライクだわコレ。」

土だらけの警察員が何処か感心したかのように呟く。


「運んで埋める暇省けましたねー…。」

もう一人の警察員も手を止めて感心していた。




この死体処理場にもハルバレラは落ちてきた。

そして見事に彼らが掘った墓穴に落ちてきたのだ。穴の中の死体山に新たなハルバレラが加わった。

これで本日、四百七十三体目の魔女ハルバレラがこの大地に還る事になる。





「もーーーう!何なのよ!人が折角頑張ろうって決意した所なのにぃぃーーーーー!!!!!!」

ロンロは精一杯叫んだ。





作業員二人は顔を見合わせた後、ロンロを見て手を止めてゲラゲラと笑い始めた。







まるで魔女が、ロンロの決意を読み取ったかのように、その死体は彼女の傍に落ちてきた。

まるで魔女が、自分の存在を意識した人にアピールするかの如く、その死体は彼女の傍に落ちてきた。


これは魔女ハルバレラのメッセージか。

それとも唯の偶然か。


魔女・ハルバレラが落ちてきた空の上で何が起きているかは、まだ誰も知らない。

当のオリジナル、ハルバレラ本人自体も想定外であったからだ。



ただそこには、ハッキリと彼女の残した意思の様な物も感じた。





穴が埋め終わり、ハルバレラの新しいお墓が出来上がる頃にはすっかり夜になっていた。

長いリッターフラン対魔学研究所員の少女・ロンロ・フロンコの一日が、ようやく終わろうとしている。








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