「テリナ・END」
ハルバレラは思う。
いつしか、いつのまにか自分が心の底に秘めていた不満や欲求が今、そう。
この街に形となって表れたのでは無いかという事を。
この自分が生み出した数多の狂気の妖異、46本の腕を生やして這い回り街を引き裂きまわるビゾームと、そしてなにより不気味な笑みを浮かべてやはりこの街に空より降り注ぐ自分の数多の死体達を。
ぐちゃぐちゃに街を引き裂いて、ぐちゃぐちゃに肉と血と骨と臓物をまき散らして穢しつくすこの様子こそ自分が心に秘めた不満という物から生まれた欲求の表れだという事を。
ハルバレラは思う。
彼女は自分が死んだ理由は判らない。
だが、何かこの現状の根本的な理由そのものは肌で感じている。
私は、私は知って欲しかったというのを。
私は、私は誰かに見ていて欲しかったというのを。
魔女という天性の才能故に上り詰めた物の、そこには普通の人が簡単に味わるのに自分には手に入らないものが沢山あったのだ。それは友との語らいでもあり、平凡な家族との食事でもあり、普通に学んで平凡に働いて、そうすれば今の自分には決して手に入らない物、それが手に入っていた筈である。
ありきたりではあるが、よくあるありきたりの欲求ではあるが。
ハルバレラにはそれがとても眩しく映っていたのだ。
何より何より、ハルバレラの恋は不器用な結末を迎えて己の魂すら引き裂いた。この不幸な終着点に辿り着いてしまったのは彼女がそのありきたりで平凡な世界に過剰に憧れてしまったが故の事である。
その結果を今、死した後に手に入れたありきたりで平凡な願望の一つであった友人ロンロ・フロンコと歩きながら味わっている。嫌でも目に入って来るその光景はハルバレラの欲求によって引き裂かれた無残な街の姿と人々の悲鳴。普段の奇行は鳴りを潜めたハルバレラ、街道のあちこちには自分の死体が無残な姿で転がっている。街中とその近辺に無数に降り注いだ自分の死体はこのビゾームの混乱の中では録に処理されずに投げ出されたままである。気味の悪い笑みを浮かべて血を吐き、空からの落下で手足はもげ、内臓をまき散らし…内臓だけなら良いが時に脳みそや目玉まで飛び出してしまっている。まさにその悪夢の様な光景をただただ友人の背中の後ろにぴったりとくっついて怯える様に見届けて受け入れるしかなかった。自分の死体を見るという行為も辛いものがあったが、それよりなにより現在進行形で街を恐怖に陥れているビゾームの醜態も彼女の心を激しく締め付けた。
ただ、でも。
彼女が死した後に手に入れた本物の友人、ロンロ・フロンコは違った。
リッターフラン対魔学研究所から来たというこの16歳の自分より年若い女の子は違った。
この結末を全てひっくり返すというのだ。ハルバレラが死ぬ間際に残した魔力暴走から刻まれた天然の魔紋を解析し、逆転させて。ハルバレラの肉体を取り戻しこの街の怪異・死体降下現象を止めて見せるというのだ。
「ハルバレラ、貴女が肉体を取り戻せばこのビゾームの無数の群れだって止められる筈。そうよね?」
ロンロがハルバレラに語り掛ける。
「…。」
「ハルバレラ。」
彼女はエーテル体であるから浮かんでいるのではあるが、ぴったりとロンロの背中にまとわりつくようにしている。顔は俯いて青ざめている。幽霊と同じ様な状態の彼女が青ざめているというのもまた不思議な話ではあるが。
「死体処理場のあの魔紋が発動すれば本当に元に戻るんだな…?この現象は止まると。正直に言うとこれ以上の混乱が続くとなるとこの街、人は放棄せざるを得んだろう。それこそ首都側の狙い通りになって気に食わんがな。」
シヴィーが先頭を歩きながら振り向かずに語る。
「生ある肉体を持ったハルバレラのその魔力なら、魔女ハルバレラの才を持ってすればビゾームは止められると思います。そして何より…あの魔紋を反転させるという事は説明もしましたが、つまりこの街の問題の発端、死体降下現象そのものも止まる筈です。…うまく発動すればの話ですが。」
少し自信なさげにロンロが続ける。
「だから、ハルバレラ。現実を受け入れて。貴女が止めるの。この街の今を救うの。」
「アタシ…なんてことを…。アタシ…なぜこんなに多くの人を不幸に……ナンデ、ナンデナンデ……。」
「ハルバレラ…。」
落ち込むハルバレラを見てロンロは足を止める。
「アタシがいなければ…あんな死に方をしなければ…。何故、どうしてこうなったの…。どうしてアタシは死んだの?どうしてアタシは死んだの……?どうして死ななければいけなかったの?」
今にも消え去りそうにエーテルを分散させて己をボヤけさせていく。
このままではあっという間に拡散して消滅してしまいそうにも見える。
エーテル体でつなぎ留められた彼女の記憶、その魂はエーテルの拡散と共にこの世から完全に消滅する。
罪の意識から自我を現世に繋ぎとめる意思が弱まり、彼女は死滅しつつある状況にある。
ロンロ・フロンコはそれを瞬時に見抜いた。
このままでは休耕地の死体処理場に戻る前に彼女の中のエーテルが拡散して消えてしまう。
どうすればいい?どうすれば?
一瞬の内に思考を巡らせたロンロは背負っていたレザーリュックから長さ10cm程度の棒状の物を取り出してそれのスイッチを付ける。手持ちのグリップから上がぼんやりと青く光り始めた、それはエーテルの光であった。
バシイイイイイイ!!!!
ロンロはその棒を光らせた後に後ろにへばりついているハルバレラの頭部に向かって勢いよく叩きつけた。
「イッタアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!何するのロンロちゃん!!!エーテル体の私にエーテル物質で殴りつけると痛い痛い痛いワヨヨヨヨヨヨヨヨヨ!!!!!!!!!!!!」
こんな体でも痛いらしい。頭を押さえて涙目になったハルバレラ。
「エーテルを利用した自己防衛の対霊体の警棒よ!暗闇で作業する際の照明に使ってるのがほとんどだけどね!初めて本来の目的!幽霊を殴ったわ!!!!幽霊っていうかエーテル体っていうか!!!まぁいい!!!!」
キッ!とハルバレラを睨みつけてロンロが続ける。
「貴女がこの異変を起こしたのは間違いない!!!そう!貴女が悪い!じゃあ責任取りなさい!今そこにいるシヴィーさんと死体処理場で待っているシュングさんとサグンさんがどんだけ苦労したと思っているの!?この二週間毎日降り注ぐ貴女の死体を朝から晩まで回収して街中駆け巡って!泥だらけになりながら埋めてたのよ!地獄よ地獄!実際もっと作業していた王国警察員さんもいたらしいけどみんな逃げ出したんだから!そらそーーよね!貴女の目玉や脳みそや腸だのなんだのが漏れて手も足もぶち切れた死体を毎日毎日何十体も処理してたらアッタマおかしくなるわ!私だって何体見たと思っているの貴女の死体!!現着して初日に見た時なんて心臓止まるかと思ったわ!!」
「それはそのー…スマセンデシタ……。」
ハルバレラが委縮して頭を下げて詫びを入れる。
「だ~~~か~~~ら!!意地でも生き返りなさい!!!生き返れ生き返れ生き返れ生き返れ!!!貴女が肉体を取り戻せば何も感も上手く収まるの!!大体何よ!?街の人を不幸にした!?ちょっと街を壊滅させる位は良いじゃないの!!この街、ヒルッターフランツなんて貴女一人がここまで発展させたよーなもんでしょ!!ヒルッターなんて貴女の歴史的魔学発見から名前付けちゃって!!!今でこそ結構な観光・学術・産業なんでもありの結構な街だけど元はと言えばただの国境付近の中継地点だったんでしょここ!!!」
「いやまぁ…そうだな、ハルバレラ女史が魔学で名を上げて発展させる少し前までただの田舎町だったなここ…。まぁ、うん…。」
地元のシヴィーが圧倒されながらも肯定する。
「でしょ!ここで生まれ育ったシヴィーさんが言ってるんだから!!!ええ!?だから今回の責任取りなさーーーーい!!!そうすれば誰も何も言わないわよ!言ってきた所で貴女が盛り上げて成り上げた街でしょ!!何言ってんの愚民共ぐらい思ってりゃいいの!!資産も山ほどあるでしょ!こんな街の一つや二つ身銭切ってケチな一般市民に思い知らせてあげると良いわ!金で!!金で街道を作り直しなさい!!!そんくらいの実力と金の差を見せつけて強制的に黙らせてらっしゃい!!!判った!?ねぇ!?判りましたかーーーー!!?!?!?」
ハルバレラのエーテル体の首元を両手で掴んで鬼の形相でロンロがぶんぶんとハルバレラを揺すっている。
「チョ、チョチョチョチョ!!!ロンロちゃん金の街道は無理ヨ!!!結構広いわよこの街!!」
ハルバレラがロンロに振り回されるように上下にぐわんぐわん揺さぶられながら答える。
「それじゃ銀でもピッカピカの大理石でも良いじゃない!!嫌味な程に復旧してやれば良いわ!!!!」
更に続けるロンロ。
「いや、おい。ロンロ…その辺で止めとけ。」
呆れたシヴィーがロンロの肩に手を置いて静止を告げる。
「フーーーーー!!!」
尚も熱が落ちないロンロではあったがとりあえずハルバレラを揺するのは停止した。
「ワワワワ!ワワワワカリマシタヨォォォ…イキカエリマス、ワタクシ!ハイ!イキカエラセテモライマス!!」
引き攣った顔のままハルバレラがロンロに敬礼をする。
「よろしい!!!絶対に生き返りなさい!!!!!」
「ハイイイイイイ!!!!」
「…なんだこれは。」
シヴィーは呆然と見ているしか出来なかった。
「…よし。はい!それは街外れにある休耕地の死体処理場に向かって前進!!他の事は気にしない!!終わってから考えて!!!いくらでも!!!」
力強く大きな足取りでロンロが歩み出した。
「ハイイイイイ!サーイエッサー!大本営発表に従いまくりマス!!!!!!」
すっかり落ち込む暇も無くなったハルバレラはロンロにぴったりくっついてその後に続いた。
気づけば彼女のエーテルの拡散も弱まっている。
彼女が目的を持ったのとネガティブな気持ちの死亡願望が薄らいだから。もしくはそれを考える余裕も無くなったからである。
これはロンロの狙い通りに事が進んだという事でもあった。
こうやって活を入れる事によってエーテルの拡散を抑止して己の消滅に向かう内気なハルバレラの気持ちを表に出す事をロンロはとっさに思い付き防いだのであった。
(意外と私、体育会系かもなぁ…)
国内でも屈指の専門大学を飛び級しつつ首席で卒業して16歳でリッターフラン対魔学研究所に就職したバリバリの理系であったロンロ・フロンコは自分自身の先程の言動を振り返って思ったのであった。
ボロボロになった街を二人と一人のエーテル体は歩く。
正確には一人は浮いているが、ぴったりと年下の友人ロンロ・フロンコについていく。
ビゾームによる街の蹂躙はまだ続いている。
そして彼女の死体、この大地のエネルギーを吸い上げて空から降り注ぐ魔女ハルバレラの死体も散乱している。
遠くで鈍く太い音が聞こえてくる。
今もハルバレラが空からこの街に落ちているのだ。
その音に当のハルバレラが「ヒッ!」と声を上げて驚いている。
そういえばハルバレラの屋敷には彼女の死体は降り注いでいなかった事にロンロは気が付いた。昨日も一昨日も彼女は滞在していたのに彼女の屋敷の屋根や庭にハルバレラの死体が無かったのだ。
「ハルバレラ…あなた自分の死体見るの初めてなの?」
「ソリャーソーデショ!!ロンロちゃんは自分の死体見たことある?ナイッショ!?フェーーーーー!!」
まぁそれはそうである。
「いやまぁ、そりゃそうだけど…。こんなに街中に降り注いでいて…。気づかなかった?」
「ゼンゼン!貴女から聞いて初めて知ったワヨ!!ナニコレ……アタシ!自分の脳ミソ!見たわよ!こんな人類早々イナイわよ!人類史始まって以来の快挙ヨネ!!???」
気が動転しているのかハルバレラがやや興奮気味に話す。
「えー…まぁねー…、そんな人はこれ以前もこれからもいないと思う……。」
「デショウヨ!!!!」
それはそうである。
しかしロンロは考える
(あのテリナがいたテピス大学構内でも降り注いでいたのに…どうして?)
同日同時刻
日は開けて太陽の光が差し込んでくるがまだ薄暗いアパートの部屋の中。
テリナ・エンドは覆いかぶさった布団の中から怯えながらもゆっくりと顔を出した。
あの自分に付きまとうナツノメという女が激しくドアを叩く音とヒステリックな叫びがいつのまにか無くなり辺りは静寂を取り戻していた。いや…外ではまだビゾームが走り回り街中は阿鼻叫喚の地獄絵図ではあったのだが。とりあえず彼の目の前の「恐怖」であったあの女、ナツノメは消えた。
美青年といっていい彼はその男子とは思えぬ滑らかな黒髪を、この恐怖から無残にも滅茶苦茶にかき回してしまいボサボサに乱れてしまっていた。彼は布団の中でグシャグシャに頭を搔き乱していたのだ、一晩中。両手の指と言う指にに無残にもその時に抜けてしまった髪が無数に纏わりついている。
「あ…あああ……。」
一晩中起きていた寝不足と精神的動揺からの疲れか、彼の眼の下には大きな隈。それに、たった一晩とは思えぬ程にやつれこけてしまった。肌は青く頬はこけてしまい、目は血走り半開きのまま涙を浮かべている。
未だにハルバレラ先生の死体はこの街に降り注いでいる。
あの無数に腕の生えた爺のバケモノも街を這いまわっている。
それでも、それでもあの女は消えた、あの女ナツノメは消えた。
「でも…あれが、あんな事が僕の才能だなんて…。ハハっ…ヒヒヒヒハ…ヒヒイヒヒアッヒアヒアイハイヒア!!」
不気味に口角だけを上げて狂気の声を上げるテリナ。彼は自分自身の魔法に気づいた。その魔法は決して自分が望んでいる魔法じゃないって事を。
「でも、でも、でも、でも…!!!」
でも、
彼はその「望んでいない才能」もまた自分が無意識の内に「望んでいた」事だというのにも気づいた。
あの娘可愛いなぁ、
いいなぁ、
女の子にモテたいなぁ、
いい顔したい、
良く思われたい、
好きになってくれたらなぁ、
簡単に、簡単に、そんな…
「そんな 魔法みたいな 事が 現実に 起きたら なぁ…?」
ゆらゆらとうずくまっていたベッドから布団を降ろして立ち上がった彼の足元に大粒の涙が二つ、落ちていく。
「これは…僕が望んだ事だ……。」
男だったら、若い男だったら多くの人が望む「女の子に好かれたい・女の子と触れ合いたい・彼女が欲しい」
幸か不幸か、いやこの場合は不幸だ。
彼はその隠れた魔法の才能を、その誰もが思う願望を手に入れる為に無意識に発動していたのだ。
可哀想な事に彼は己の才能を無意識に発動していたのだ。ランクDの辛うじて魔力の欠片を持ち合わせていた彼は、あろう事か彼が思い描いていた空を飛び、あらゆるこの世の理を紐解いて力にするハルバレラの様な一流の魔法使いの理想に近づく為には開花せず。その僅かな才能を全て自分が気になった女子をこの手の物にするという欲望、いや雄としての願望・本能を現実にするが為「だけ」に発動していたのだ。
あのナツノメも、その前の子もその前の子も…
もしかしたら
ハルバレラ先生も…
「この街が狂ったのは…ハルバレラ先生がああなったのも僕が原因、まさか!?まさかまさか!!??まさかあああああ!!!!!!僕はぁあああ!そんなつもりは無いぃいいいい!!!!僕はああああああ!!!!!!!ハルバレラ先生ぇええええええええ!!!!!」
アパートの天井に向かい涙を零しながらテリナは咆哮した。
しかしその咆哮に応える様に彼が住むアパートの遥か上空に大地から吸い上げた魔力が集まっていく。
大地から巻き上げられたエネルギーは徐々に固まり人の形を成していく
その人の形は長い黒髪のボサボサの姿となり、服まで形成される。
生きてはいない、その死体はもうこの時点で死んでいる。
いや命を吹き込まれていないと言うべきか。
ただ、その死体は笑っていた。
あのハルバレラの薄気味の悪い笑みだ。
たった今から誰かに認めてもらえるのが嬉しい、魔女の笑みだ。
その魔女の死体は笑みを浮かべながら落ちていく。
落ちていく。
落ちていく。
落ちていく。
空気を切り裂きながらその死体は嬉しそうに落ちていく。
たった今から自分の存在を認めてもらえる相手、テリナ・エンドの元へ。
「ヒュゥウウウウー」
という風の音の様な物音アパートの天井の方からしっかり聞こえきてくる。
一人取り乱していたテリナではあったがこの音に素早く気付く。
思わず音の方向を見上げた。
何かを知らせている様で彼には咄嗟に理解出来た。
ハルバレラ先生が、やってくるのだと。
ここに、ここに。
目の前に。
「ガッシャバアアアアアアアアアアアアアアアアアアガガガガガガガガ!!!バリバリバリ!!!!!!!バシイイイイイン!!!!」
凄まじい音を立てて屋根と木造のアパートの天井を突き破ってテリナの前にハルバレラの死体が落下した。テリナは余りの衝撃と音に腰を抜かして尻餅をつく。目の前にはアパートの屋根に激突して片腕が吹き飛び合間の支柱が腹部に深々と刺さり、そして落下の衝撃で左目が飛び出しても笑みを浮かべる。そう、彼の恩師にして憧れ「ハルバレラ・ロル・ハレラリア」の無残な姿と不釣り合いの笑みの死体であった。
「ハ、ハルバレラ先生ぇえええええ!!あああああああああああ!!!!!こんな事を僕は望んでいなかった!!!赦してほしい!!!赦して!!赦してええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ズタボロになって血だるまになったハルバレラの死体を抱き抱えてテリナが叫ぶ。
テリナの服も体も両手も、そしてその顔も血だらけになってハルバレラの死体を強く強く抱きしめた。だけどそれは彼女に詫びたかったという気持ちよりも、自分がもう楽になりたかったという気持ちの方が強かった。
この悪夢の様な夜の中で朝までテリナはずっとずっと願いそして祈っていた。自分の能力が女の子を惑わしていたという事を後悔し、そして懺悔した。こんな能力いらないんだ、僕は魔法使いになりたかったのに。
なんでだ!
何故こんな能力が芽生えてしまったんだ!
と。
それを、もしやその能力を使って彼女を狂わしてしまった可能性があるとするならば。だってあの日、僕は別の彼女と一緒に大学を出た。その姿をきっとハルバレラ先生も見ていたであろうと、僕は、僕は先生を追い詰めたと。
本当は憧れていた。
頭が良くて、美人で、大人で、そして自分の夢であった魔法使いたるハルバレラ先生を。
僕はきっと能力を先生に向かっても放っていたんだと。
「だけど僕は魔法使いになりたかった!!だから一人の先生として見ていたんだ!!でも!!そうじゃなかったとしたら!そうだぁ!僕は無意識に女に向かってこの!!!ちっぽけな才能のその全てを使っていたんだからぁ!!!!あのまだ小さい…!!リッターフランから来たロンロさんにも無意識で放っていた!!!僕はああああ!!!!!!きっとそうだ!!あああああああああああああああああああ!!!!!先生ぇえええ!!赦してくださいい!!!!!!!!!!!!!!!」
さらに強くハルバレラの死体を抱きしめるテリナ。
既に体は赤に染まっていない面積の方が少ない、叫びながら彼の腕の中で抱きしめられるハルバレラの死体はミシミシと音を立てていた。既に左目は飛び出し右腕は吹き飛んで何処かに飛んで行ったハルバレラの死体を見ても彼は、テリナ・エンドは。自分が赦されてこの悪夢から過ぎ去っていくのを願う事しか思わなかった。それが彼の不幸であった。
ハルバレラ・ロル・ハレラリアが提唱したヒルッター理論は魔力、エーテルエネルギーの中に情報を乗せて送る事が受け止める事が出来るという事。彼の想いは悲しくも一方通行でしか無かったのだった。あまりにも求めていた才能を手に入れるには視野も思考も狭かったのである。
他者を理解しようとせずに何も疑問にも思わず現状に流されていった彼に待ち受けていたのが今の悲劇。
彼は、魔法使いでは無かった。
「もう少しだな。ロンロ、寝不足で歩き通しだが大丈夫か?」
三人は市街地を抜けて農業地へ続く道まで歩みを進めていた。
徐々に建物の件数が減っていき代わりに大きな大きな畑が道の両サイドを取り囲む様になっていく。ロンロこの街に来てから、休耕地の死体処理場で寝泊まりする様になってからは幾度となくこの道を通り街の中へ入っていった。シヴィーはこの2週間、ハルバレラの死体を回収する為に数えきれない程にこの道を往復して死体を回収していた。その道に今はその死体の魂たるエーテル体、ハルバレラ本人がいるので二人はなんだか不思議な気分になっている。
「大丈夫です。もうすぐ今回の件も終わりますから、ね?ハルバレラ。」
「エート、ゼンショシマス…。」
ロンロに話を振られたハルバレラは自信気な下げに応える。
「そうか。お前には苦労をかけたな。」
シヴィーはロンロの方には顔を向けなかったが、静かに帽子の鍔を押さえて礼を述べる。
「まだ終わっていませんよー!失敗するかもしれないんですから!魔紋がエネルギーの逆流に耐えきれずにボーン!とみんな吹っ飛んで終わりかもしれませんしね!ハハハッ!!」
ロンロがからかう様に言葉を返す。
「…なるべくなら上手くいって欲しいのだが。」
洒落にならんと言わんばかりにシヴィーは顔を引き攣らせる。
「エーチョイチョイ、ロンロ氏?」
エーテル体のハルバレラが妙な口調の小声でロンロの耳元で話しかける。
「なぁにハルバレラ?」
耳を傾けるロンロ。
「あのシヴィーさんて方…!ナニ!?デキテンノあなた達!?え!?…男と女の関係のアレ!?アレアレアレ!?!?!?どうなのソコ!?」
「はぁ?」
「イヤダッテ!ホラ!なんかこー気さくにフレンドリーに話しかけてマセン!?とても仲良く見えるわよ!どうなッテンノカシラ!」
「…あのねハルバレラ。貴女は噂話が好きなちょっとマセたジュニアスクールの生徒?いやそれ以下だわ…。」
「ウエエエ!?」
「この位の冗談、いやちょっと冗談にしては悪趣味だったけどさ。あのねこの位のノリの会話なら別に男女構わずやれるでしょ? 私、リッターフランでもこの程度話せる男の人は一杯いるけど?」
「エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ハルバレラが突然絶叫して隣のシヴィーも「な、なんだ!?」と狼狽える。
「ハハハ…!お気になさらず…。」
何故かロンロがフォローした後に小声でハルバレラに話しかける。
「調べたらから知っているけどね!ハルバレラって異性との接触っていうの?ほんっっとその辺りなんも免疫無いのね!?」
「ナイワヨソンナノ!!!!スゲー!大人の男の人と冗談言い合ってる!ロンロチャンスゲー!!!」
「ちっとも凄くないっての!!もう!!ほらシヴィーさん驚いているから謝って!!」
「ハイィイイ~~…。 あ、あのシヴィーさん、ちょっと慣れないエーテル体での外気が刺激的でビックリしましたの…。なんせずっと屋敷に籠っていましたから…。驚かせてごめんなさい。オホ、オホホホホホホホ……!!」
余所行きの笑顔を浮かべながらシヴィーに向かってエーテル体のハルバレラは謝る。
「ま、まぁそれならしょうがないか…?ハルバレラ女史も無理をなさらず…。」
ハルバレラの緩急激しいテンションにシヴィーはどうにも付いていけていない。
いやロンロも付いていけていないのだが。
(やっぱりテリナの事がこの異変のトリガー、ハルバレラ。貴女は本当に初めての恋だったのね。初めての。それがこんな形になって、才能故か…。なんて悲劇かしら。)
愛想笑いをシヴィーに浮かべているハルバレラを横目にロンロは想う。
男にしてはビックリする位に綺麗な顔をしていたものね、テリナ。
あれが初めての恋だったの?
ハルバレラ?
きっとそうよね…。
私も気持ちは少し判るんだ。
私も昔、好きだった人に裏切られた様な、ううん。勝手に裏切られたと思っていただけ。
貴女と同じよ、勝負にもなってなかった。
私達、似ているね。




