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死後反転に至る決意 失った恋の結果

 ヒルッターブランツの市街地に入ったロンロとシヴィーの二人の目の前に広がる光景はまさに地獄のそのものであった。昨夜から現在にかけて降り注いだ魔女ハルバレラの死体がロクに処理もされずに無残に血をまき散らし腕や足、頭や更には内蔵までまき散らしながら散乱。更に左手を23本、右手を23本の計46本の腕を持つ妖異ビゾームがこれでもかと街を蹂躙するかの如く這い回っている。先ほど視界に入ってきたのは10体程度であったが、いざ死体処理場から街はずれの農地帯を越えて市街地に足を踏み入れてみるとそんな数では済まされない。最早ビゾームが何匹いるかも見当つかない、ぐるっと見渡してみると視界の限りにビゾームが確認できる。建物の上に、道路のあちこちに、公園にも幼稚園や学校といった場所にも、商店街の中にも広場の噴水の上にもあの妖異が蔓延っている。


「ダメだ、馬が平常心を失っているな…。」

その大きな体と力の割に本来臆病な生き物である馬はこの尋常ではない様子を見て完全に混乱してしまった。この地獄の光景を更に際立たせるように大きな声を何度も上げる。


シヴィーは馬から降りて手綱を手放し、荷台からも馬を切り離し自由にしてあげた。

今までの2週間以上、共にハルバレラの死体処理の為に汗水垂らした死体処理場の仲間であったこの馬を自由にして挙げた。馬は更に大きな声をあげて蹄の音を石畳に響かせてあっという間に何処かに走り去ってしまった。


ロンロはそれを荷台の中に乗っかったままあっけに取られて見ていた。

「良いんですかシヴィーさん。警察の所有物では…?」


しょうがない、と言わんばかりにシヴィーは馬の去って行った方向を顔を若干曇らせて見つめている。

「近くに縛り付けてもあの状態だと暴れて足を骨折の危険もある、馬が足をやると処分だからな…こうするしかない、あいつも今までよく働いてくれたさ。」


「そうですね…。何処かで落ち着いて元気にしてくれれば良いですけど。」


「ああ。悪いがロンロ、ここからは歩きだ。寝不足の所悪いな。」


「はい、大丈夫です。」


怯えたまま全力疾走して去って行く馬の背を二人で見送った後、何も言わずにハルバレラの屋敷に向かって歩き出した二人。周りは這い回るビゾームによって阿鼻叫喚の地獄と化している。

ヒルッターブランツの街は今やこの妖異ビゾームの襲来によっておもちゃ箱をひっくり返してその上を更に子供が走り回ってはしゃぎ回ったかの様に無茶苦茶な有様である。あちこちの塀は崩れ、石畳の道はめくれ上がり、建物の屋根という屋根と壁という壁に穴が開いて今にも崩壊しそうな所もいくつもあった。街からは、恐らく昨夜の晩からであろう。ロンロ達が必死に野犬と戦いながら巨大な魔紋をあの休耕地に描いていた時からこんな風に、ビゾームと降り注ぐハルバレラの死体に塗れて荒れ始めていたのだ。


「…一応生まれ故郷なんだがな、なんてこった。」

シヴィーが歩きながら辺りを見回し呟く。


「当初は私達から首都側の目を反らす為にハルバレラがやった事だと思うんです。でも、これは…もう。」

悲しそうな顔を浮かべてロンロが歩きながら俯いた。


「暴走とでもいうのか。俺には良く判らんが…。」


「私にもよく判りません…ただ、最初の死体降下現象を起こしたのもハルバレラの感情と魔力の暴走。これももしかしたら…。あまり考えたくないですけど。」


「悪い考えが当たっている様だな。」

シヴィー再び辺りを見渡してそう返事をした。


この街中どこもかしこも妖異ビゾームがひっかき散らした傷跡だらけである。そしてそれは今も続いている、逃げまとう人々の悲鳴と共に。


「…!! 下がれロンロ!!」

何かに感づいたシヴィーがロンロの前に立ちふさがり彼女を庇う様に片腕で道を塞いだ。


「え!? きゃああ!?」


「ディイイイイイイイエエエエエエエバアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


突如二人の前に奇声を上げながら妖異ビゾームが立ちふさがる。この妖異は二人を見つめてニタニタと笑うとその背中から尻に沿って生えた合計46本の腕をガチャガチャとせわしなく動かす。


「去れっ!!」

シヴィーが素早く懐に忍ばせていた拳銃を取り出しビゾームの頭部に向かって狙いを定めて引き金を引いた。「バスゥ!」という乾いた音が響いて弾が発射されるが…ビゾームの額に見事命中したその弾はビゾームの顔を一瞬振るわせただけで、弾は貫通してそのまま直進してしまった。


「なんだと…!!」

拳銃を構えたままのシヴィーが驚きの声を上げる。


「エーテル体のビゾームにはエーテル対応装備じゃないと効果はありません…!!実体はあるにはありますが物質としての結合は緩くて拳銃の弾なんかの物理的攻撃だけでは!!」

ロンロがシヴィーの後ろで叫ぶ。


「じゃあどうしろと!!」

シヴィーは彼女を庇いながらビゾームを睨みつける。妖異ビゾームは撃たれた事も特に気にしていないと言わんばかりに二人を見てニタニタと笑っている。それにしてもこの妖異の爺は大きい、遥かに通常の人間大人より大きくロンロ達が乗ってきた馬よりも大きい。


「アアアアアンバアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


ビゾームが46本の腕から前の2本を伸ばしてシヴィーとロンロをガシっと掴んだ。


「なっ!?」

「きゃああああ!!」


「ベゾッバアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

妖異ビゾームは奇声を発しながら二人を自分の背中に放り投げた。

二人はこの妖異爺の背中に跨る様に乗ってしまった。


「な、なんだ!?」

「えええ!!何するの!?ビゾーム!?」


ビゾームは背中に乗った二人に首を曲げて顔を向けてニタアアアアと満面の気持ち悪い笑みを送る。妖異爺の笑みはなんとも気持ち悪い物であった。


「おいっ!どうするつもりだ!」

無駄と判っていてもシヴィーは再び拳銃をビゾームの顔面に向けたがその瞬間、ビゾームは46本の腕を巧みに動かしてカサカサとまるでゴキブリの様に仰向けで地面を這いだし猛烈な勢いで前進し始めた。


「わあああああっ!!わああああああああ!!!」

ロンロは慌てて一緒に背中に乗せられたシヴィーの体に捕まる。シヴィーもビゾームの背中の肉だか皮だかよく判らないがとにかく片手で必死につかんで振り落とされまいと、もう片方の腕でロンロを支えながら振動とスピードに耐えている。


「この妖怪じじいは俺らをどうするつもりだ!!」


ドタタタタタ!!!と猛烈な勢いで街を前進するビゾーム、滅茶苦茶に荒らされた街並みが猛スピードで目の前の景色から流れていく。


「この方向!?も、もしかしてー!!ビゾームは私達をハルバレラの所にまで!?」

必死にシヴィーにしがみ付きながら叫ぶロンロ。


「本当だろうな…!?ちっ!!こんな送り馬車は初めてだ…!!」


「きっと!!こんな物を生み出すのはハルバレラだけ!ハルバレラが!!私を!私達を呼んでいる!?」


それにしてもなんて悪趣味な人だろうかとロンロは思った。

これがハルバレラの本性なのだろうか?こんな狂気にまみれた景色がハルバレラの心の内側なんだろうか?猛スピードで駆け抜ける妖異ビゾームの背中に乗りながらロンロは思う。遠くの方の空で死体が堕ちて来るのが見える。ビゾームに無駄と判っていても必死に抵抗する人々も微かに確認できる。


これは、一体何なのだろう…?


凄まじい速度で進む景色と激しい振動に塗れながらロンロは思考を巡らせていた。


ビゾームは道を真っすぐ進む事は無く、時には人家等にもよじ登って進んでいく。屋根まで到達するとそこから大ジャンプするのだから二人共顔を引き攣らせて耐える他に無かった。わざわざ振り落とされない様に着地前に46本の腕の中から数本を伸ばしてロンロとシヴィーを支えてくれたりもする。そういう事を繰り返す事十数回、二人はビゾームに乗せてもらいあっという間に街の中心部にあったハルバレラ邸にまで到着したのであった。馬車で来るのより何倍も速かったが…。



「…ついたのか。」

大きな二人の見覚えのある屋敷の前で足を止めたビゾームの上でシヴィーがげっそりとした顔をしている。


「ふぇ…ふぇえええええええ……。」

ロンロは気絶寸前と言わんばかりにフラフラとした目線で周りがよく見えていない。


「アンビイイイバアアアアアアア? ソンデバー? デレレレレレレレレレレレ!!!!!」

二人を乗せて来たビゾームは再び首を奇妙な角度で曲げて背中の二人に怪しく気持ち悪い笑みを浮かべた。そして良く判らぬ言葉を発した後にこの二人を背中から腕を伸ばして降ろしてあげる。

地面に降り立ったシヴィーは流石にフラフラしながらもようやく揺れない景色に安堵の表情を浮かべる。ロンロと言えばたまらずその場に情けない顔でへたりこんでしまった。


「ダンギイイイヤアアアアアア!!バッソンリャアアアアア!!!!!」


目の前の二人を乗せて来たビゾームは嬉しそうに46本の内の半分ぐらいの手を地面から話して背中の上で嬉しそうに複数の手を叩いで喜んでいる。何やら目的を果たしたようで嬉しそうだ。


「何なんだこいつは…。」

シヴィーが呆れながら見つめていると一頻り満足した妖異ビゾームはまた何処かに駆け出して行った。風の様に疾走して何処かに去ったかの妖怪爺を見てシヴィーは理解が追いつかず呆然とそれを見送るしかなかった。


「や、や、やっぱり…ハルバレラは私達が再びこの街にやって来ると…。無数に作り出して街に放ったビゾームの内の一匹にここまで連れてくる様に命令していた…いたんですね…へへっへ。…ってバカーーーーーーーーーーーーー!!!!」

地面にへたりこんだままロンロが抗議の声を高らかにあげる。

無理もない。


「と、とにかくだ。無事かロンロ…?」

シヴィーがフラフラながらも彼女に駆け寄る


「なんとか…シヴィーさんこそ大丈夫ですか?」

ロンロがフラフラと立ち上がって返答する。


「まぁな…、頭の中をめっちゃくちゃにかき回されたかかの様な気分だが…。」

「わたしもです…あんな早くて無茶苦茶な軌道の乗り物なんてもう生涯乗る事無いかも…。」


二人が乱れた服装や髪を簡単にだが整える。

あのビゾームタクシーの乗り心地は非常に非常に最悪でありあれもハルバレラの狂気の産物なのは間違いなかった。それを直に味わった二人は寝不足でフラフラしているのもあってすっかり気力を奪われてしまったがそうもいかない。これからが本番なのだから。


「守衛はいないか、当然だな。」

以前来訪した時にこの屋敷を警護していた小太りの警察員の姿は見当たらない。この騒ぎで他の場所の警護に乗り出されたかそれとも逃げ出したか、当然であった。屋敷の門はまるで誰かを受け入れる様に鍵もかけずに両サイド大きく開いていた。


「多分、まだハルバレラの魂たるエーテル体が拡散するまでは時間がある筈…現に彼女が生み出したビゾームは街を荒らし回っているし、それに私達をここまで連れてくる様に命じたあの個体もその命令を遂行した。彼女の影響下にある証拠です。まだ彼女の魔力は拡散していない…!」


「俺には専門的な事は判らんが、とにかく屋敷の中にハルバレラはいるのだな?」


「はい!きっと!」

そう言うとロンロは自分の両頬を「バシン!」と両手で叩いて気合を入れ直す。いよいよハルバレラを迎えに来たのだから、そして彼女にある事実を突きつける為にここまで死体処理場のみんなと頑張ったのだから。


「よーーーし!いきましょうシヴィーさん!!」


「ああ…!」


広大な庭を二人で歩む。そしてハルバレラの屋敷まで到達すると玄関の大きな大きな扉をシヴィーが確認した。こちらも扉は閉じているが門と同じくカギはかかってはいなかった。


「あけるぞ…。」

ロンロを後ろに下げたシヴィーが扉に手をかける。


「はいっ…!」

ロンロが顔を更に引き締めて返事をすると、ゆっくりとシヴィーが扉を開けていく。




照明もついていない為に昼までも薄暗い大きな屋敷のホールにうっすらと開けた場所から光が差し込んでいく。ギギィという音を立てながらゆっくりとゆっくりと扉が開く。



大きな屋敷の広い広いホールの丁度中央辺りl

空中に浮かぶ青白く光るものが二人の視界に確認できた。


エーテルの光を放ちながら狂気の笑い声を上げている彼女がいたのである。




「ヒヒヒヒィ…アアアアアアアアアアアアアアアアアアヒイアアアアアアアアアヒイイイイイイ!!!」

ハルバレラのエーテル体は人間の様な、いや人間だ。人間の首根っこを片腕で掴み空中に浮かんでいた。



「ハッ!ハルバレラ……!!!」

その光景を見て驚きの表情をロンロは浮かべた。

ハルバレラが人に危害を加えているのである。


「魔女ハルバレラ!あれがか…!!」

シヴィーは突然の事であったがロンロの前に立ち再び銃を構える。



「アアアアアアアアアアアアヒイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアア!!!!!!!!!オバカさあああああああああああああああああああああん!!!!!アアアアアアアガオウゴアウオフォガウガ!!!!!!ゲアオウガオガオガオホホホホホ!!!!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



先程まで見ていた妖異ビゾームにも負けない程の奇声を、いや妖異以上の奇声を上げてハルバレラは宙に浮かんでいた。人を、確かに人を掴んだままに。


「ハルバレラっ!!貴女一体何しているの!!!!!!!」

「下がれロンロ!!前に出るな!!」

身を乗り出してハルバレラに叫ぶロンロをシヴィーは慌てて後ろに下げた。しかしロンロは抵抗して前に出ようとする。友人の普通じゃない姿にロンロは慌てた。


「アアアア…!? 今のコエ…!? ロンロ?あれ?ロンロ・フロンコ!!リッターフランのロンロ・フロンコちゃんね!!!ヒアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」


ハルバレラは空に浮かんだままケラケラと笑いなんと首根っこを掴んでいた人間を空中に放り投げて凄まじいスピードでエーテルの光の軌跡を暗闇のホールに描きながら二人に向かって急接近した。


放り投げられた人間は抵抗も何もできずに壁に叩きつけられ床に落ちた。「うごぉ…!」という低いうめき声をあげて動かなくなる。まだ生きてはいるようだが重症だろう。



ギィイイン!という激しい音と共にあっという間にハルバレラはロンロの目の前に降り立った。


「ヤッホオオオオオオ!!!!!ロンロちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!待ってタワヨオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!ウヴェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!」

よく判らぬ声をあげて嬉しそうにロンロの両手を掴んでブンブンと降って嬉しそうなハルバレラ。そのエーテルの体は以前会った時より遥かに分解が進んでいる。足元等は既に形を保てておらず、体全体の輪郭もボヤけ初めている。もう何の魔器具をつけなくてもはっきりと目視でエーテルの分散が確認できる。


「良かったハルバレラ…、まだ個を保てていたのね…良かった…。」

分散が進みつつも元気なハルバレラの姿を確認出来てロンロはとりあえずホっとした。


「モチノモーーーーーーーチ!!!!!!!!!!!!!!!!まだまだ生きてるドッコイ元気!!!!永遠の魔女ハルバレラ・ロル・ハレラリアは今日も大変凄まじい程に大大大元気ィイイイイイイイイイ!!!!!ヒイイイイイイイイイイアアアアハイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアア!!!!」


「な、なにがなんだか…」

シヴィーはビゾームの登場からずっと、理解が及ばない事の連続で頭がついていけていない。なんせこの二週間程死体を処理してきた当の本人が幽霊のような姿とは言え元気に目の前で喋っているのである。


「って、このもの静かで素敵な長身の男性ハ!?!?!?!!?エ!!!アレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!ハルバレラ恥ずかシーーーーーーーーー!!!!!!!殿方にこーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんな姿ミラレルナンテー!!!完全もって想定外!!!!ドーーーーーーーイウ事なの説明して頂戴ロンロチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!1アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!?!?!?!?!!?」


ハルバレラは奇声をあげつつもそのエーテル集合の自分の体をロンロの後ろに隠して恐る恐るシヴィーを見つめる。恥ずかしいらしい。


「…ハルバレラ。この人はシヴィーさん、この街の王国兵団警察員よ。そして…死体降下現象が始まった日から今日の今日までこの街に降り注ぐ貴女の降り注ぐ死体を回収して逃げ出さずに処理し続けた最後の3人の中の一人。貴女の恩人よ。」


ロンロは体をどけてシヴィーとハルバレラを面会させる。


「まさか本当にいるとは…。話には聞いていたがイマイチ信用出来ていなかったが…。その、シヴィー巡査長だ。街の名士魔女ハルバレラ本人にこの様な形でお逢いするとは…。」

シヴィーは被っていた警察員の帽子下げてロンロに頭を下げた。


「エ!?アレマ!!?!?アレレレレマ!? ホ、ホホホホ!! ド、ド、ド、ド、ド、ド、ドウモー!ハルバレラと申しますこの様なエーテル体で大変見苦しいですがホホホ!!あのその…!私の死体が大変迷惑かけたようでして…!こちらとしても意図的な物は無かったのですが大変申し訳無く…この度は…オホホホホホホ!!」

急にハイテンションから余所余所しくなったハルバレラは足はホボボヤけて見えないものの、女性らしいシナを作って一応お上品に返事をする。


「はぁ~~~、もう!あと二人シュングさんとサグンさんっているから!しっかり頭下げて謝るのよハルバレラ!ほんと~~~~~に三人とも必死の思いでハルバレラの死体を処理し続けたんだから!!こっちが数えただけで500体は軽く超えるのよ!回収した貴女の死体!!!」

やれやれと言わんばかり、額を抑えながらにロンロが答える。


「アラ…アラ~~~~あたしそんなにお死にになってたナンテ!ホホホホ!!!うちの死体が迷惑?おかけしまして誠に申し訳なく…!!この賠償はきっとですねホホホホ!!!!いや有難く!!なんともかんとも!!ホホホホホホホ!!オホホ!!????」


「いやもう色々ついていけないのだが…このハルバレラ女史を死体処理場の魔紋の所にまでエスコートすすればいいんだな?」

心底呆れた顔でシヴィーがロンロに語り掛ける。


「はい…。すいませんホント。 でもっ!その前に!!ハルバレラァ!!!」

怒りの表情を浮かべてロンロがハルバレラの方に顔を向ける。


「コワアアアアアアアアアアアアアアアアアイ!!!!!イッツベリー恐ロシイイ!!!!!!!!!!ロンロちゃん様一体全体ナンデショーーー!!!!!!!!????」


「ナンデショーじゃないのっ!!」

ハルバレラの前に立って怒り顔でロンロが詰め寄る。


「ヒェエエエ!!?!??」

エーテルの体を震わせて怯えるハルバレラ。


「一体街中を這いまわるビゾームは何なの!?街がもう滅茶苦茶よ!!!!」


「アレハーーーーー!!!!首都の王国兵団特殊部隊やらヲネー!!目を反らすためにデスネー!!!」


「知ってる!!!」


「気ヅイテラシテマシタ!?流石リッターフランに齢16歳で入所した秀才様!!!ベリーナイス!!!」


「ベリーナイス!じゃないの!!それは有難かったし!無事に私達は今回の事件の解決方法になるかもしれない魔紋も無事制作出来ました!!だけど!!あんなに街を滅茶苦茶にする必要無かったでしょ!!!」

ロンロが地団駄を踏みながらハルバレラを睨みつける。


「ヘ!?私ッテバ街をメチャクチャにしろとか命ジテオリマセンガ!?あのじーさん共ニハ!!?!?!?」


「むっっっちゃくちゃよ!!!ねぇシヴィーさん!?」

ふぎーーー!というような表情を浮かべてロンロがシヴィーの方を向く。

女の子がなんて顔をしてんだと思ったシヴィーではあるが同意する。


「ああ、建物はメチャクチャ街道はボロボロ。この二週間降り注いだ死体がもたらした被害よりよっぽど酷いんだが…。ハルバレラ女史は身に覚えが無いと?」


「えーまぁーその。全く身に覚えがありませんで...。いやそれは多少騒ぎを起こそうとしたのは確かでございますがそこまえ街に被害をもたらすなんて事は…ホホホホ。」

シヴィーが相手となると途端にシナを作って真面目に喋るハルバレラ。


「それにさっき投げ飛ばした人は何!?あなた人殺しでもしようとしたの!?」

再びムキーーーーー!!と言わんばかりの顔でハルバレラを見つめるロンロ。


「アアアアアアアアア!?アレネ!!アレアレ!!あそこでぶっ倒れてるオッサンね!!ソウソウ!!イエーーーイ!!!!ヤッチャイマシター!!イエエエエエエイ!!!!ビュティホー!!!!!」

ロンロに向かって両手でグッと親指を立てるハルバレラ。


「イエエエエイ!じゃないの!?何したの!?」

友人のロンロが相手となるといつものテンションで喋り始まるハルバレラ。

テンションの差がとても激しい。


「アノおっさん首都側の王国兵団の連中デース!!!!ちょいとシメてましたーーー!!!対エーテル装備ををしていましたがーーーーー!!!んあななああ!??意味ナイヨネー!!!ソンナもん効かないヨネー!!!だってワタシが国から依頼されて作ったのよあの首都側の対エーテル特殊装備!!設計者に向かって使用しても弱点もナニモカモ把握済みデスシーーー!!かなりのムダデスシー!!ロンロちゃん様の邪魔にもなるかとオモイマシテね!?チョトネ!?屋敷におびき寄せてこの街に残ったそいつら全部シメてましたでゴザイマー!!!ワンダホー!イッツビュディホー!!!!!!!!!!!」


よく見るとホールのあちこちに銃撃戦の様な痕跡があり…そして大の大人の男がごろごろと転がっているのである。どうやら本当に全員ハルバレラがシメてしまったらしい。


「はぁ…殺して無いでしょうね?」

げっそりした表情のロンロがハルバレラに問いかけると、


「ノー!他人様の命奪う権利等はアタシニはゴザイマセンヨお嬢様!ちょっと気絶してもらっているダケデエエエエス!!!イエエエエエエイ!!!」

嬉しそうにハルバレラが再び親指を立てて返事をした。


「もう…ついていけない…。」

ロンロが両手で顔を抑えながら呟く。


「これが、この街の名士ハルバレラ女史か…。」

シヴィーも呆れながらハルバレラを見つめた。


「あらシヴィーさんたら、ホホホホ。軽い自己防衛でございますことよ。そんなに思い詰めなくてもホホホホホホ!!」

ハルバレラはやはりシヴィーに対しては女性らしいしぐさを行いつつ態度を変えて話すのであった。それを見たロンロは大きなため息をつくのであった。






ロンロとシヴィーはハルバレラを従えて屋敷を出た。ハルバレラはぴったりとロンロの背中の後ろについて嬉しそうについていく。彼女にとってロンロは生まれて初めて出来た対等に自分と喋ってくれて、そして先程みたいに自分を怒ってくれる唯一の存在である。彼女にとっては二人で出歩くことだけでもそれはそれはとても嬉しい事で、人生で初めて体験する事でもあったのだ。こんな状況で自分も霊体ではあるが心の底から湧くこの嬉しいとしか例えようのない感情に、ハルバレラすっかりご機嫌であったのだった。


が、しかし。


屋敷を出て少し歩き、街を見渡すとあの妖異ビゾームが暴れまわり大きく傷ついた街が目前に広がる。それはご機嫌であったハルバレラを一気に現実に戻す程に、それはそれは衝撃の光景であったのだった。


「ド、ドドドドド…どういう事…あたしここまでやれって、命令していない……。」

ロンロの背中の後ろでハルバレラが愕然として街の光景を見る。


「ハルバレラ、貴女本当にここまで暴れるつもりなかったのね?」

ロンロが後ろに振り返りハルバレラに語りかける。


街の建物にはどこもかしこも無数に穴が開き、街道はボロボロ、壁という壁は崩れ食い荒らされた食料のカスが飛び散っている。街中のエーテルタンクの中身はカラとなり街道の灯りは全て死んでいる様子。


何より、何よりハルバレラがショックだったのはその荒らされた街の中に倒れる人、響き渡る人々の悲鳴。普通の人にとっては家は最大の財産である。どんな事があっても守り切らないといけないものだ。それを守るために家に残り、無駄と知りつつも徹夜で妖異ビゾームを追い払おうとして奮闘したが力及ばず力尽きてへたりこむ男、逃げ纏い親とはぐれて泣き続ける女の子、ボロボロになった衣服で泣きながら怯える女性。崩壊した家屋から這い出て力無く座り込む老人…。この街は完全に地獄の風景と化してしまった。それにも関わらず今だビゾームは暴虐の限りを尽くし今も何処からか彼らの暴れる音とそれに怯える悲鳴が聞こえ街に木霊しているのだ。


「ハルバレラ女史…この状況を止める事は?このままでは…。」

シヴィーが真剣な顔で彼女に語りかけた時に既にハルバレラはそのエーテルの体を空高く上昇させて動き出していた。


「ビゾーム!もう止めて!!!お願い!!!どうして!?アタシここまでしろって言ってない!??本当よ!!!だから!!!止めて!!!止まってぇぇぇぇえぇええええええ!!!!」


ハルバレラの両手からエーテルの光が放射されてそれは街中に拡散した。彼女の体から停止命令の出された呪法が発せられて夜通し暴れ続けていたビゾームに停止命令が送られたのだ。


「良かった、これで落ち着くのね…。」

ロンロが上空のハルバレラを見上げながら安堵の表情を浮かべる。


「ふぅ…」

シヴィーも帽子の鍔を抑えながら一息つく。



しかし、彼女の停止命令が発せられたにも関わらず街を破壊するビゾームの声も人々の悲鳴も一切止む事は無かった。力無く上空からハルバレラがロンロ達の所まで降りて来る。


「だ、だ、ダメ…完全に暴走している。アタシ…どういう事なの…。あの死体降下現象みたいに…私の実力を完全に超えた術式が発動しているノ…。」

元々血が通っていないエーテル体のハルバレラではあったがその表情は完全に青ざめたそれである。嘘はついていないと言うのはロンロにもハッキリ伝わった。


「…感情の爆発。」


「エ…?」


「ハルバレラ、最初に死んだ時と同じよ。ヤケになった。ううん、違うわ、それしか考えられなくなった貴女のその魔法はその本人の制御を越えて発動している。」


「つまり…この妖異ビゾームの異変は?」

シヴィーが乗り出してロンロに問う。


「やっぱり…魔紋を発動させるしかない…!このビゾームの術式だって死体降下現象と同じ!貴女の死の魔力によって動き続けている!貴女の体を再びこの世に戻して生き返らせる!!!」


「ほんとに出来るの、ロンロ…?あ、あ、あ、アタシ。ビゾームの結果を見て不安になってきたワ…。自分が怖い……。こんなの生前の私でも無理な事を、どうして…。」


ハルバレラを睨みつけながらロンロは言う

「やらないとこの街は本当に死ぬわ。貴女が殺すのよ。それを防ぐには…生き返って貰って全てを反転させるしかない…!!私と、シヴィーさん達とで作り描いたあの魔紋で!!」









恋の終わりは




間もなく始まる。












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