魔女・失恋の架け橋となる魔法陣
元は本国首都と隣国を繋ぐ街道としての貿易における中継地点としての役割を果たしていた街であった。
ただし隣国との政情は安定せず、かつては幾度と無く戦火に見舞われた事もある。
それ以外は農業を産業の中心として細々と生活していたこの街を含む一体の地を、ブランツと人々は読んでいた。今の国の領土として組み込まれた際にブランツ市として制定されて長らく存在をしていたが、今から11年前にこの街に一つの奇跡が起きる。当時11歳のこの街で生まれた少女「ハルバレラ・ハレラリア」が魔女としての才能を開花させ魔学者として「ヒルッター理論」を提唱した。
魔法魔学の世界で革新的な発見になるこの理論の提唱により、天才魔女ハルバレラが暮らすこの街に様々な恩恵が降り注いだ。魔女ハルバレラのお膝元として様々な人々が集い、産業が発展し、行政も力を増していく。今から11年前からほんの農村と旅の街道しか無かったこの街は華々しく生まれ変ったのだ。
この街は以降ヒルッター理論から肖り、「ヒルッターブランツ」という名前で呼ばれる様になった。
「本当にやるのね、ロンロ…。」
ハルバレラの屋敷から出て行こうとするロンロを屋敷の主が大きな玄関扉の前まで見送りに来てくれた。
「貴女の体も拡散して消滅が始まっている。もう時間は無いもの。」
「ワタシも過去幾度と無く大きなプロジェクトに参加したワ…。王国兵団の魔学兵器ニモ…。でもそれ以上の事をヤロウトシテイルノヨ…。一人デ準備出来るノ?」
不安そうにハルバレラがロンロに答える。
星からエネルギーを直接吸い上げる魔法という、この世で魔法が発見されて。いやこの星で人類が誕生して以来最大の魔法式の、それの発動の為に描かれた魔紋を逆転させて使用する今回のロンロの試み。魔女ハルバレラはヒルッター理論は魔学に置いて通信と情報処理分野に革命を起こした発見をした。彼女がやろうとしている事の規模の大きさに心配を覚えるのも無理は無い話しだった。
「そうしないとこの周辺の大地はエーテルを吸われ有機物が失われ、それを糧に貴女の死体を作り出して空から降り続け、やがては大地は力を使い果たして死ぬわ。大地の死によって水が、草木が、動物が完全に死に絶え、恵みの得られなくなって最終的に人間も全て死ぬ。ハルバレラもそんな結末がお望みな訳じゃ無いでしょ?」
「ダ、ダケド…余りにも無謀……。ワタシ自身ナイ…。」
「今のエーテル体の貴女も拡散が始まって、やがて死ぬわ。ハルバレラ。」
「…。」
「あの魔法式を魔紋を逆転させて使用して、貴女の体を再構築させる!そして逆転によって発生した魔法を持って現状この街の空に展開してある【死体降らしの魔法】を激突させて対消滅させるしかない!!」
それが、ロンロが考え付いたこの街とそしてハルバレラを救う最善手であった。
「アヒ…アヒヒィイイアアヒ…。お、おもしろいわ…。とっても……。生前のワタシがこの問題に直面シテタラ…アヒヒイイ……モノ凄く興奮してたでしょうネ。」
ハルバレラは力無く笑う。
「…ハルバレラ、ごめんね。あの魔法式を逆転させるとなると…。貴女が死んじゃう程に辛かった事をどうしても思い出す事になると思うの。貴女が過去を思い出してあの瞬間を再現しないとあの魔紋は発動しないと思うから…。」
ロンロとしてはそれが一番気に掛かる事であった。現実に耐えられなくなったハルバレラは死を選んだのだ。それをまたエーテル体になって逃れた彼女に再び思い出させようとする事が。
「…イイノヨ。とっても辛いと思うノ。今でも良く思い出せないンダケド…。身が裂かれる程に、心が滅茶苦茶に切り刻まレルあの痛みだけはなんとなく思い出せる。ケド…、ワタシが原因なのなら…ワタシが再び受け入レル、シカナイもの…。」
「ハルバレラ…。」
「デモネー、ロンロ。ワタシを受け入レテ、さっきは頭まで掴ンデ、こんな無茶なコトまで命令をしてきたのはアナタが始めテヨ。ワタシの22年間の人生でアナタが始めて…。だってワタシ天才と持て囃されて11歳で成功シテ、何をしてもその後は誰モー何モ…咎めなかったワ……。だから、今回ハ、ワタシ。アナタのその試みに乗る事にシタワ。…だって面白そうジャナイ?…もしかしたら人が一人生き返るノって。アヒヒヒイヒヒアイイヒアアア!!」
少し元気は無い物のハルバレラがそう言ってゲラゲラと笑い出す。
彼女も覚悟を決め始めていた。
「ありがとうハルバレラ。…明日の昼頃迎えに来る。それまで私に少しだけ時間を頂戴。それまで体は維持出来るよね?」
ロンロがそう言って力強くハルバレラを見つめる。
彼女の片腕はエーテルの拡散が始まっており弱い光が常に放出され始めている。時間が経てばやがて人としての形を保てなくなり、エーテルの黒い塊に戻りそしてそれすらも消滅する。残された時間はどっちみち限られた物なのである。
「明日ぐらいならまだ全然人の形は崩れていないデショウネ。じゃあロンロ、気をつけて。王国兵団の警察機構もアナタを張り始めると思うワ…。何カ、私も少しはお手伝いスルカラネ……。」
「まだ大丈夫よ。貴女を連れ出したりしない限りはね…。じゃあ!また明日!ちゃんと屋敷で私が来るまで待っててよー!」
ロンロはそう念を押してハルバレラに手を振る。
屋敷の玄関にある大きな木製の扉を力をこめて少し明けて隙間を作り、そしてそこから元気良く外に駆け出していった。
「不思議な子…元気で、力強くて、常に前を向いていて。私とは正反対…。実現不可能な絵空事でもどうにかなっちゃいそう。何とかしてあげなくちゃって思うのね、ああいう子って…。だから安心して。私が貴女の努力を支えるわ。きっと、きっとね…。」
ハルバレラはロンロが走り去った扉を見つめながら一人呟く。
そこにはいつもの不気味な笑い顔も奇声も存在していなかった。
ロンロはハルバレラの屋敷の庭を一気に駆け抜けて守衛をしている小太りの警察員の目の前まで到着した。そして彼から借りていた屋敷の鍵を突きつけて返すと、すぐさま再び走り出して屋敷の裏側に回りこんでいった。あっと言う間に去っていったロンロを見つめた警察員はキョトンとした表情で彼女の背中を見つめるばかりであった。
「シヴィーさあああああん!!!」
ロンロが屋敷の裏側で馬車を留めて張り込んでいるシヴィーを見つけて大声を上げる。
「どうした…やけに元気が良いな…。もう用事は終わったか?」
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!…今から急いで死体処理場に帰ります!!送ってください!!」
「まだ陽は高い。俺は魔女の死体を回収してからにする。悪いがそれまで待つか一人で帰ってくれるか?」
シヴィーが空の様子を伺いながら喋る。普段の彼なら確かにまだまだ街中を馬車で駆け巡って死体回収の任務をしている時間であった。
「ダメー!!!!今すぐ!!!!!!!」
シヴィーに対して駆け寄ったロンロが吼える。
「な、なんだ? 何があったんだ!?」
自分に向かってすがりつく様に吼えてきたロンロを見てシヴィーは一瞬怯む。
「耳を…。」
周りに王国兵団警察員の監視がいる可能性がある為、ロンロは小さな声でシヴィーに用件を伝える。
シヴィーはロンロの身長に合わせる為に身を屈めてその声を聞いた。
「…!! おい!…本当か!?」
余りの事にシヴィーは驚き表情を浮かべた
「はい!!」
ロンロは力強い目線で驚いてこちらを見つめてきたシヴィーに返す。
「そんな事が可能なのか…!?いやしかし!まさか…!俺らの仕事が無駄にならなかったとはな…。」
「正直成功するか判りません!だけど、これしか方法は無いんです!!私はやります!!!」
「成功する確率は…?」
「う~~~ん、それすら想像出来ないですね!なんせ歴史上初めての魔法を逆転させる!更にそれを発動させるんですから!!!ハハハハッ!!完全に未知数です!!」
何故だか自信満々に元気良くロンロは弱気な発言を力強く答えた。
「おいおい…。素人目にも死体のエネルギーをかき集めてというのは…。いやここで話し続けるのも不味いな。さぁロンロ、荷台に乗れ。帰りながら話すぞ!」
「わぁ!賛同してくれたんですね!シヴィーさんありがとう!」
「夢みたいな話でイマイチ賛同出来んな…。ただな、本当に実現可能なら俺もあいつらも、死体処理場にいるシュングとサグンも報われる。それを考えるとそれに賭けてみようとも思ったのは事実だな…。」
シヴィーはそう言いながら馬に飛び乗った。
ロンロはシヴィーの操る死体運びの荷台馬車の荷台に飛び乗った。既に待ち時間の間にシヴィーが付近に落ちたハルバレラの死体を回収していたので先客がいる。さっきまで話していたハルバレラが無残な姿となって不気味な笑みを浮かべながら三人程、既に乗せられていた。彼女は懐から取り出したエーテル吸収鉱石のペンダントをその死体にそっと近づける。やはり以前試した通りにうっすらとエーテル反応が起こり鉱石は弱い光を放つ。それを確認したロンロの中で強い希望と使命感が沸いてきた。
「いきましょう!」
「ああ、早いほうが良いだろう。首都側の意表も突ける…!」
シヴィーが馬に鞭を入れていつもより早めの速度で馬車を進める。
目指すは四人の本拠地、この街の外れの北西にある本来は休耕地としての空き地だった死体処理場である。
早めに駆ける馬車から見えるこの街はいたる所が破壊されていた。
空から落ちてきたハルバレラの死体は人間の頭上にこそ落ちなかったが…民家を、その壁を、その屋根を、街の設備を、この13日間でこれでもかという程に落下の衝撃で破壊していた。このままこの怪現象を放置していれば大地が死ぬのは勿論の事だが、その前に物理的にこの街は破壊されつくしてしまうのでは無いかとすら思われる程に。街の住人がハルバレラに対して怨みの感情を抱いていたとしても仕方が無い事実。だけど、逆転の魔法式が成功すればそれもきっと終わる。後の事は終わってから考えれば良いのだとロンロはその街並みを眺めながら思う。
「シヴィーさーん!シュングさんとサグンさんは死体処理場にいますよねー!?」
駆け抜ける馬に引かれながら後ろの荷台からロンロが質問する。
「当たり前だ、今頃穴掘りの最中だろうな!」
振り返らずいつもより馬を飛ばしながらシヴィーが答える。
「良かった!皆さんにも手伝って貰わないと!!」
「これでこの街が元に戻るなら!それは付き合わないとな!」
シヴィーはロンロから湧き出す不思議な自信を感じ取っていた。死体に残るエネルギーを集めて人を生き返らせるというのは、魔学の素人からしてみても到底実現不可能な夢みたいな事と判断出来るし、ロンロ本人も未知数と言い切ったのだ。しかしこの荷台に乗っている当人から湧き出すエネルギーは何かを確信しているかの様にも見えるのだ。シヴィー自体もその力に押され始めているのであった。
普段より速度を上げた馬車はあっという間に街の中心部から外れの農地にある死体処理場まで到着した。普段の速度なら道中で落ちてきたハルバレラの死体の一つや二つは拾える筈であったが、それも目撃する暇も無かった。慌しく到着したシヴィーの駆る死体運びの荷台馬車を近い場所にいたシュングが出迎える。
「お疲れでーす!ロンロもお帰り。あれ?運んできた死体少なくないですか?何か用事でも?」
いつもより随分と少ない荷台に乗る死体の数にシュングが首を傾げる。
「急用が出来た。死体を片付けたら直に駐在所前に集合だ。サグンも呼んでくるんだ。」
馬から下りて荷台を切り離しながらシヴィーがシュングに告げる。
ロンロも荷台から降りてそれを手伝う。
「あ!このハルバレラの死体はここに置いてて下さい!説明するのに使いますから!」
「…判った。ならシュング、大切な話だ。サグンを呼んできてくれ。」
「何だかわかんないけど ハイ! サグンの奴を呼んできます!」
シヴィーに命令されたシュングは死体処理場の奥に駆け込んでいく。
「さて…、二人が納得してくれれば良いがな。」
馬を厩舎に連れて行きながらシヴィーが呟いた。
それぞれが用事を済ませて駐在所の前に四人が集まる。
シヴィー、シュング、サグンが取り囲むようにロンロとその傍にある三体のハルバレラの死体を取り囲む様に立っている。一番背の低いロンロが中心で、三人を見渡して一度咳払いをして今回の説明に入っていく。
「えーと!まずこの12日前から発生した魔女・ハルバレラがこの街に空から降り注ぐ現象の説明に入ります。」
「原因判ったのかよー!?」
穴掘り作業を中断してやってきた土だらけのサグンが驚きの声を上げた。
「ええ、まずはこれを。」
ロンロがレザーリュックからタブレットを取り出して電源を入れる。それを操作して一つの画像を展開して三人に見せつけた。
「何だこれは…?」
画面を覗き込みながらシヴィーが言う。
「魔女ハルバレラが死ぬ間際に自室に残した魔紋です。高難易度・高レベルの魔法式を展開する際に魔法使いや魔女、つまり高ランクの魔力才能保持者が展開する一種の魔法を発動する為の補助となる物。最もこれは従来の魔紋とは違い、意図して描かれた物ではありません。ハルバレラが死の間際に感情と精神の爆発によって無意識に描いた天然の模様とでも言いましょうか。高難易度の魔法が展開した結果に過ぎません。」
自身の分野だけあって饒舌にロンロが話していく。
なるべく一般人にも判り易い様に専門用語は噛み砕いて説明している。
「魔女ハルバレラはある種の精神的ショックにより…本人の名誉とプライバシーもありますから詳しくは話せませんが…。とにかくそれにより生きる事に対して、ある程度本人から聞いたとはいえ私の予測も入ってますが…!彼女は強く絶望して己の魔力を暴走させて自分の肉体を自らが暴走状態で発生させたエーテルの力により焼き尽くして息絶えました。それがこの一連の事件発生前日の13日前になります。そしてこの【大地のエネルギーを吸い上げて】己の体を次々とを精製し、空から無数に地上に降らせるという魔学の50年の歴史、いや魔法の長い悠久の歴史から考えても前例の無い前代未聞の魔法式を展開したのです。」
「じゃあ!最初の魔女ハルバレラは事故に近い死で、自殺だったのかい!?…無意識とは言えなんともまぁ迷惑な自殺の仕方なんでしょう。」
シュングが驚いているのか呆れているのか、もしくは双方入り混じっているのかよく判断がつかない表情で妙な丁寧語で答える。
「本人も意図して発動した魔法ではありません。別にこの街その物に恨みつらみがあった訳では無くてですね!そこは本人もショック受けてまして…。いやまぁともかく!次はこれです!」
ロンロが上着のポケットからエーテル吸収鉱石をあしらったペンダントを取り出して自分の足元に無造作に置かれている三体のハルバレラの死体に近づけた。放出されるエーテルにうっすらと反応した鉱石が弱い光を放つのを死体処理場の三人の男に見せ付ける。
「人間は、いやこの星で生きる全ての動植物がそうである様に死の瞬間体内にあるエーテルを放出します。これは魔法使いであろうが魔女であろうが、そして普通の一般人でも馬でも犬でも魚でも木でも花でもみんなそう!その生命が生きた証となるのがエーテルです。死の間際に放出されるエーテルはその人の記憶や経験…つまり人格の情報、魂その物と言われています。ですが、それだけではありません!肉体には尚その魂が抜けた後でもエーテルが残留します!それは何故か!?体を維持している為です!体から全てのエーテルが抜けきる時!そうして始めて死体は腐り大地に還るのです!だからこのエーテル吸収鉱石が光り、死体からゆっくりと抜けていくエーテルを感知しているんです!通常の人間の死体では感知出来ない程度の弱い魔力ですが彼女は魔女ハルバレラ!こうして今でも微量ですが確認出来る程の魔力を放出している、この光がその証明です!」
光るエーテル吸収鉱石を三人に見せつけながらロンロは一気にまくし立てた。
「…んあ!?死んだ後に魂が抜けて、それでエーテルが抜けて。まぁ理屈は判る。だが神様は何の為に死んだ後も体にエーテルを残す様な事をしたんだ?何でそんな作りにしたんだって話だ。」
サグンが腕を組みながらロンロに問いかけた。
「それは、私達が食べる為です!私達は生命を食らいます!人間だけじゃない!他の動物や植物だって!そうやってエーテルがこの星の中で循環する為です!食物から得られるのは栄養素だけではありません!私達は食らう事で直接エーテルを摂取するのです!そうしてこの星のエーテルは循環しているのだから!」
「なるほどな~~。この死体処理場に野犬が死体を食い荒らしによく集まるのも納得がいったわ。この近くの野山のエーテルも吸われ始めているとなれば犬コロ達も必死だわな。」
サグンがうんうんと頷いた。
「理由は判った。それでだロンロ、お前がやろうとしている事を二人に伝えろ。」
シヴィーが一歩下がった位置からロンロに伝える。
「はい…。私は皆さんに協力してもらってこの広い休耕地に出来た死体処理の場に先程見せたタブレットに描かれた魔紋!これを反転させた図を描きたいんです!それによって今回起きた事件の魔法と正反対の性質の魔法を発動させます!ここに眠る500体以上のハルバレラの死体からエーテルを吸収!ハルバレラを肉体を修復してこの世にオリジナルのハルバレラを蘇らせ様と思います!!!」
「ええええええええええええ!!?」
「はあああああああああああああああ!??」
シュングとサグンが同時に声を上げて驚いた。
「ま、まってよ!人を生き返らせるっていうのかい!?」
シュングが叫ぶ。
当然の反応だった。人を生き返らせる魔法等この世に存在しない。
倫理的にも技術的にもそれは人類が行うにはまだまだ到底到達出来ない領域であったからだ。
「大きな魔紋を描くって…。この馬鹿みたいにでっかい休耕地に出来た死体埋め広場の広さ一杯に描くのか…?ヒエエエ!!」
先程まで大量のハルバレラを埋める為の穴掘りをしていた現場を知り尽くすサグンは軽い悲鳴を上げる。
「その!話を聞いた限りだと無茶だと思うでしょうけど!! いやそのまぁ私も成功するかどうか判らないんですけどね、ハハハハ……。 …だけど!これが成功して上手く反転した魔法を発動出来れば今現在この街の空に展開しているであろう怪現象を起こしている魔法と激突して対消滅もする筈!!そうすればこの街は救われます!これが私の考え出した唯一の解決方法なんです!!!お願いします!!シュングさんサグンさん!!お手伝いお願いします!!」
長い金髪の髪を振り回す様に勢い良くロンロが頭を下げた。
「で、でもよ!さっきの話だと死んだ時に魂となるエーテルは抜けてしまうんだろ!?体だけ復活させてもどうしよってんだ!?そこにある死体と同じでただの抜け殻になるんじゃないのか!?」
死体を指差してサグンが質問する。
「それは、私が屋敷で出逢ったハルバレラ…。彼女も逆転させた魔紋を発動する時にここに呼び出します。彼女はエーテル体とは言え本物のハルバレラでした。生前に魂を閉じ込める研究をしていたんです、元はペットロスのに悩む飼い主の為の研究だったそうですが…。それにしっかりとオリジナルのハルバレラの魂は閉じ込められていた。あれは間違いなく本物…。」
「本当に…本当に上手くいくのかいそれ…?役所の回線に侵入するよりよっぽど大変じゃないか…。ロンロ一人でどうにかなるのかい…? 人を生き返らせるなんて…まるで神様のやる事だよ…。人間が実現可能とは到底思えない…。」
シュングがうろたえながら話す。
「正直判りません…。でも、私!ハルバレラを救いたい!この街もそうだけど…それより今はハルバレラを救ってやりたい…。あんな死に方!私は認められない!!」
「でもさ…。想像も出来ないよ…。話が大きすぎる…。」
不安そうなシュング
「いくら首都の専門研究所から来たって言っても…ロンロ一人じゃ無理じゃねぇかな…。」
サグンも土だらけの姿のままシュングの不安に同調した。
「…。」
二人の反応を見てロンロが言葉を失う。
素人から見ても、いやあらゆる専門家も同じ意見を出すであろうロンロのやろうとしている事。
二人の同意が得られないのは当然の事でもある。
だが、シヴィーだけはそれに頷いた。
「二人が不安になるのも判る。死んだ人間を生き返らせるなんて俺だって未だに信じられん。だがな、首都から来た最初の調査団や王国兵団警察機構本部も何をしたという話だ。この街に何をしていったという話だ。」
「シヴィーさん…。」
「現状を見ての通り何もしていない。それはお前ら二人もよく知っているだろう、上の奴らは完全に俺らとこの街に住む人間と、この街自体を見放した。だがこのロンロはどうだ?職場に反旗を翻しこの三日間で街を駆け回り、ハルバレラの屋敷にまで入り込んで役所の電話回線にまで進入して、ついには事件の証拠と真相をを見つけ出した。遂には解決方法も今この場で提示してくれたんだ。判るか? その解決方法は俺らがやってきた事に直結している。今までたった三人で死体を集めて埋めて、また集めて必死に埋めて。その繰り返しで俺らも限界にまで疲労している中でだ。これが報われるかもしれないんだ。今まで集めて埋めてきた死体を生かそうとしているんだ。」
「巡査長殿…でも。」
「あまりにも突飛すぎて…。」
「上手くいかなかったらそれで良いしまた別の方法を考えるだけだ。だがな、俺はこれを試す価値があると考えた。何故か判るか?この二週間の中で俺なりに考えてたさ、どうしたら体力と精神の限界まで踏ん張っている俺ら三人が報われるかをな。そこにロンロのこの申し出だ。夢物語だろうが絵空事であろうが、これが最善手であると俺は思ったんだ。逃げ続ける人員に応援の寄越さないこの街の警察機構の人間。最後まで踏ん張った俺らがしっかりとその証を残せるのはこの方法がベストだと俺は想ったからだ。」
「確かに今までの事は無駄になりません…俺が埋めてきた死体の山が使われるのなら…。」
サグンが静かに答えた。
「でも、この広さの休耕地を利用した死体処理場に…出来るんでしょうか…?」
サグンは不安そうに後ろを振り返り死体処理場の奥を見渡した。
そこにはそろそろ夕暮れに差し掛かろうとしている太陽に照らされた広大な土地が広がっていた。
「だからこそロンロは俺らに協力を要請して頭を下げてきた。だろう、ロンロ。」
「はい…!お二人とも!お願いします!私、ハルバレラと友達になりました。今は街を救う事もですが友達ともう一度出逢いたい。生きたままの彼女と!じゃないとエーテルの拡散が始まって今のハルバレラも消滅してしまう…。既に今日始まっていてそれは…。お願いしますっ!」
再びロンロが大きく頭を下げる。
「最後になるかもしれん死体処理場班の大仕事だ。俺からも頼む。」
シヴィーも目の前の二人に向かって頭を下げた。
大きな体を折りたたんでお辞儀をする。
この死体処理場を預かって重責を一人で背負っていたシヴィーが頭を下げているのだ。
その光景を見た年下のシュングとサグンの二人は大いに慌てた。
「やめてくださいよ巡査長殿!」
「そうですよ!巡査長殿だって苦労しているのに!!」
「シヴィーさん!?」
その声を聞いて顔を上げたロンロが慌てて反応する。
「判りました!!やります!やりますよ!!おおおし!最後の大仕事だ!!何でもやってやらぁ!!」
遂にサグンが決意して気合をいれて両手を挙げる。
「僕も!僕だって!魔学の知識なんて一つも無いけどけど多分手伝えるよ!!絵はそこそこ上手いんだから!」
続けてシュングも決意表明をして声を上げた。
「お二人とも…。ありがとうございます!!」
それを見て聞いたロンロは三度目となるお辞儀をする。
今度は笑顔と喜びからくるお辞儀、再びロンロの中に決意と力が漲ってきた。
「二人ともすまん…。恩に着る。」
シヴィーは目を閉じて彼らに深く感謝した。
無茶な挑戦だと言うのはシヴィー本人も十分に感じている。だがらこそ頭を下げたし、それに縋るしかない自分も情けなくも思っている。しかしロンロの提案した解決方法は自分が語った通り正に理想とも言える着地点であったのだ。その答えを見つけ出した彼女にシヴィーはこの場の残された責任者として深く感謝していた。
「おしゃあああ!!なんでも指示してくれ!!」
気合を入れたサグンが命令を求めてロンロに話しかける
「はい!じゃあ魔紋を描く為にさっきまで掘ってた穴を埋めてください!!レッツゴー!!!」
「あ~、まぁそうなるわな…。三時間もかけて掘ったのに…。トホホ。」
がっくりとサグンが肩を落とす。見事に気合が空回りした。
「はははっはははははっ!!まぁまぁ!この三体の死体も一緒に埋めてしまおう!!行こうサグン!」
笑い上戸のシュングが笑いながらサグンの背中を叩いた。
「ロンロ、俺は何をすれば良い?」
今度はシヴィーが指示を求めてロンロに声をかけてくる。
「シヴィーさんは死体処理場全体の地ならしをしてなるべく平行にして貰えると助かります!妙にでっぱった所とかヘコんだ所を埋めるとか!平らな方が魔紋を描いて正常に魔法が発動しやすいんです!私はその間に魔紋を一度紙に書き出してそこから解析して魔紋に描かれた命令系統を逆転させていきます!!そしてそれを皆さんに写してして配ってから皆で描きましょう!」
「了解した。しばらくは作業分担出来るな。ロンロ、その魔紋が描きあがったら現場に来るんだ!」
「はいっ!駐在所のテーブルを借ります!失礼しま~~~~す!」
そう言ってロンロは駆け足で駐在所の中に駆け込んでいく。
「ふん、元気の良い奴だ。自分のやろうとしている事に確信がある。だからこそ首都の調査団が調べ上げられなかった事実に一人で辿りついたんだろう…。しかし若さか…。若さからくる万能感も良いもんだな…。」
38歳という中年にあたるシヴィーはロンロの後姿を見ながら少しそれがうらやましく呟いた。
彼女から貰った希望を見続ける若さを抱いて、彼も死体処理場の休耕地で作業を始めたのだった。
駐在所の建物に駆け込んだロンロは木製の椅子の上に飛び乗るように座りレザーリュックを下ろしてタブレットのスイッチを入れる。ハルバレラの自室で撮影した魔紋を画面一杯に表示して取り出してそれをリュックの中に入れていたスタンドで立てかけた。レポート用紙も取り出し、それを一枚切り取る。筆記用具も取り出そうと思ったが、懐の上着ポケットの内側に忍ばせていたハルバレラの部屋で回収したこの青い鼈甲の万年筆がゴロゴロとした感触でアピールしてきたのでこれを使う事にした。インクは…どれもしっかり入っている。数本のその万年筆から適当に選んでそれで描く事にする。
天才ハルバレラがその命を燃やし尽くして生み出したこの魔法式からなる魔紋。
同じく天才と幼少の頃から言われ続け15歳で博士号を取得して大学を卒業したロンロではあるが、自分が真の天才で無い事は判ってる。本物の天才というのは天から選ばれて特別な才能を持った人達。それが魔法才能保持者高ランクの人間であり、その最高峰ランクAAAのハルバレラの様な人間の事を言うのだと。
そんな真の天才が生み出した魔紋を自分が解析するのだ。ロンロの決意から集中力が生まれ、漲る。
ただ描き写せば良い訳では無い。
魔紋の意味を理解し、その仕組みを解析して原理を全て反転させなければいけない。
描かれた魔紋には全て意味がある。エネルギーを【拡散】する模様があればこれを【収束】する模様に描き直し、【増殖】する意味の模様があれば【減少】または【維持】の様な意味合いに置き換える。
またエーテルの流れを示す模様もあり、これを反転させた意味の模様に従って組み替える必要も出てくる。
ロンロは模様の意味を解析して反転させるだけでなく、エーテルの流れが魔紋の中心部に集中させる事にした。この魔紋の中心部にエーテル体の今のハルバレラに鎮座してもらうのだ。この死体処理場に眠る五百体とも六百体近くにもなろう死体に残ったエネルギーを全て中心部に集中させる。上手くいけばハルバレラの無数の死体から…オリジナルのハルバレラが精製されて、そしてこの地に蘇るのだ。
稀代の天才魔女ハルバレラが命の代償に生み出した生み出したこの魔紋は非常に複雑な作りをしている。
それも当然である。この星から、大地から直接エネルギーを吸い出す魔法等この世に今まで存在していなかった。もしそれが既に実現していたとしたらきっと愚かな人類は既にこの星を食い尽くしていたであろう。あらゆる場所の大地が死に、生物が途絶え、全ての自然の営みの時間が止まった世界がこの星に訪れていた筈である。この魔法は、本来決して存在してはいけないのだ。
ハルバレラの悲しみが、喪失感が、絶望がこの禁忌の魔紋を命を代償として描き上げた。
だからロンロは思う。
喜びと、達成感と、希望を持たないときっとこの反転の魔紋は成功しないであろうと。
ロンロの顔や額に脳をフル回転させた為に熱が発せられ、汗の雫が浮かぶ。ハルバレラの自室にあった禍々しい魔紋の解析反転作業は難航を極めた。幾度と無く失敗し、ロンロの周りにグシャグシャに丸められたレポート用紙が散らばる。その度に新しく描き直し、そして少しずつ解析してはまた失敗し、再びやり直す。
やがて時間が経つのも忘れた彼女は没頭し、周りが見えなくなる。この集中力は彼女が周りから天才と言われた所以の一つでもあった。
外の作業を終えた三人が戻ってくる頃にはすっかり日は沈み、外は暗闇に包まれていた。
しかしロンロの魔紋解析・反転の作業は未だ終わらないでいる。駐在所のリビングのテーブル周りには幾多もの丸められたレポート用紙が散らばり積み重なっていた。
その様子を見た現場から戻って来たシュングがロンロに声をかけようとしたがシヴィーに黙って首を振られて制止される。三人はソファや他の椅子に腰掛けて静かにロンロの作業の終わりを黙って見守るしかなかった…。時計は既に夜の21時頃を示していた。
24時を過ぎ、日付が変わってもこのロンロの作業は続いた。
流石にロンロの顔にも目に見えて疲労がの様子が窺い知れる。それを見たサグンが心配しながらも今か今かと痺れを切らし始めた時、突然ロンロが両手を上げて叫ぶ。
「おわったあああああああああ!!!!あーーーー!ぃやっほーーーーー!!!後はこれを三枚、皆さんの作業分担事に書き写してっと!!!!」
ロンロが叫び終わると同時にシュングとサグンが拍手でそれに答えた。
「やっと終わった! 朝までやるんじゃないかと思ったぜ!!」
サグンがホッとした顔でロンロを見る。
「いや~~~~、ホント朝までコースかと思ったよ…。ロンロ、お疲れ様。今からコーヒー淹れてくるからちょっと待っててね。」
シュングがキッチンの方へ歩き出していった。
「ご苦労だった。シュングも言っているが少し休め。」
仏頂面で微動だにせずロンロの様子を後ろから見守っていたシヴィーがロンロに話しかける。
「あれ!?あららら!?アラ!?三人ともいつからここに!?」
ロンロが周りを見渡して死体処理場班の三人を確認して慌てる。
彼女は作業に没頭して集中の余りまるで周りが見えていなかった。
「今から5時間ぐらい前からだ。よく頑張ったな。」
「え?ご、5時間!?うそっ!まだ一時間も経ってないかと思った…!!通りでそういやお腹も空きました…。アハハハハ……。私、そんなに没頭してたんですね…。ハハハハ、お待たせしました…。」
我に返ったロンロはどっと襲い来る疲労と空腹に気付く。
この魔紋の解析と反転作業は思っていた以上に自分の体にダメージを与えてエネルギーを消費していた。
「丁度良い、かなり遅いが夕飯だ。サグン!キッチンにいってロンロのコーヒーを持って来い。ついでに飯の準備をシュングに伝えろ。」
「アイアイサ~」と、軽い返事をしてサグンがキッチンの方へ駆け込む。
勿論シヴィー、シュング、サグンの三名も腹が空いていた。夜になるまで働き通しで、それが終わってからも5時間以上ロンロの作業を見守り待機していたのだから。
サグンが人数分のコーヒーカップを抱えて戻ってきてそれをテーブルの上に置く。
甘党のロンロは今日も砂糖をドバーっと大量に入れてかき混ぜてから熱いコーヒーをゆっくりと飲み始めた。疲れた頭に糖分が優しく癒しを与える。
「あ~生き返った~~。」
ロンロがカップから口を離して笑顔で呟く。
「残りの作業は明日からかな~、そのロンロが描いた魔紋だっけ?それを休耕地の土地にでっかく描くんだろ?」
コーヒーを飲みながらサグンがロンロに語りかける。
「あ!そっか、もう夜遅いし…出来れば夕飯終わったらもう作業に取り掛かりたいんですけど…。」
疲労しているであろう三人に申し訳無いと言った風にロンロが控えめに答える。
「え゛!?マジかよ…!夜通しやるってのか…!?」
引きつった顔のサグン。
「その方が都合が良いかもしれんな…。首都の連中はきっと良い顔をしないと俺は思う。ロンロのやろうとしている事もまた首都にとっては厄介以外の何物でも無い筈だ。大地からエーテルエネルギーを取り出す魔法、それを反転させたとは言え再起動。勿論効果は真逆の別物だがロンロが一人で解析出来た様にやろうと思えば首都側だって可能な筈だ。つまりこの魔法も争いの火種になり得る程の禁忌の業その物になり得る。違うか?ロンロ。」
シヴィーが横目でロンロを見つめながらスラスラと喋った。
「その通りです…。きっと王国兵団警察機構本部の調査団だって首都に魔紋の写真やデータを持ち帰って今でも研究していると思います…。でも、あの魔紋から発動した魔法式は本国ではきっと再現出来ない。あれは魔女ハルバレラが命をかけて発動したものですから…。私もさっきまで魔紋を反転する作業の際に解析していて気づきました。あれは、あの魔法はハルバレラの命と魔力を犠牲にしないと決して発動しない。だから…今回も私はその魔紋の発動システムはそのまま反転せずに使用しています。次に発動する時も、ハルバレラは命を掛ける事になる…。私はそれを再び実行しようととしている…。少し自分が怖いです。」
コーヒーの入ったカップを持ったロンロが顔が曇った。
「それを首都側が危険視する可能性は?」
シヴィーが最初の質問を再び投げかける。
「十分過ぎる程です。反転させているとは言え基本同じ仕組みで再び発動させようとしているんです。大地からエーテルを吸収する魔法と同じシステムの再起動…黙って見ている筈がありません。」
「やはりな。」
シヴィーが腕を組んで彼が予想していた通りの答えをロンロから聞き、冷静に呟いた。
「つ、つまり!?俺らが日の高い目立つ時間に魔紋を描く作業をやっていたらその!首都からの監視に銃とかで撃たれちまうんすか…!?」
怯えた表情を浮かべたサグンがシヴィーに問う。
「そのまま殺されるのも十分有り得る。そうでなくても捕縛されて国家反逆罪かもしれん。」
いたって冷静にシヴィーは答えた。
「マジっすか…。」
サグンの顔が一気に青ざめる。
「ただ、ハルバレラのエーテル体の存在が存在していて、それにオリジナルの【魂のエーテル】が宿っている事は私以外…あーその、今お二人に話しちゃいましたが…。まだそれは首都側は認識していないかと。ハルバレラ自身が警戒しているでしょうから。屋敷のカーテンを自分から開けたりしていますが存在自体は隠している筈です。魔女ハルバレラならその程度は簡単な事だと思いますし、身を隠す判断は付いている筈です。」
ハルバレラは屋敷から魔法を使いこちら側を監視してくる首都側の人間に僅か一日でその存在を確認出来ており、その装備から秘密警察の類である事すら見抜いていた。下手に動く事は無いとロンロは確信している。本来の魔女ハルバレラは極めて賢明な人間であるのだ。
きっと、あの恋が全てを狂わせた。あの男テリナ・エンドが彼女を死に導く程に追い込んだのだとロンロは断定していた。だがそれだけは違った。ハルバレラは視野が広く賢明な人間ではあるのは間違いないが彼女には初めての恋で、初めての体験した事の無い人間関係の距離感であったのだ。
それが彼女を命を燃やして暴走させる程に狂わせたのだから。
「このロンロが完成させた反転の魔紋の発動にも魔女ハルバレラの存在が必要不可欠なのだな。ならばこの魔紋とハルバレラ、二人が揃えば調査団は容赦無く俺らに牙を向くのか。ならば…。」
シヴィーがロンロの方を向く。
「はい。朝までの間に魔紋だけでも完成させないと。」
ロンロがシヴィーに向かって目線を合わせて返事をする。
「えーと…、飯食ったらどうしても魔紋を描く作業をやるんすね…やらなきゃいけないんすね…。」
青ざめたままのサグンがげっそりしながら一人呟いた。
そしてキッチンからシュングが料理を運んでやってきた。
メニューは何時も通りこの周辺の大地のエーテル不足により死に絶えそうな水で作ったスープとパン…それ以外は今日は缶詰をそのまま開けて皿に盛り付けた様なメニューがずらーっと並んだ。ウシの肉を甘辛いソースで煮込んだ物に、青魚を水煮した物。それにこれたま水煮した豆類。
「いやーね、皆疲れて腹ペコで早く食べたいだろうし!缶詰でエーテル減少が発生する前に調理保存された奴だから!だから栄養も失われて無いから良いでしょ!今日はこれで勘弁してね!!」
シュングがごまかし笑いの様な声で喋ってきた。
「…はぁ。 缶詰飯か。これが最後の晩餐になるかもしれんのか。」
ため息を付きながらサグンが食事を見つめる。
「はい?最後の晩餐? ナンデ?」
話を聞いていなかったシュングが思いがけない言葉に疑問を浮かべる。
「まぁ食べながら追々話す。とりあえず飯だ。」
シヴィーはその場を一旦仕切り、全員で軽い食事前の祈りを捧げて食べ始めた。
途中でそれまでの話を聞いたシュングが喉を詰まらせかけていたりする。
ロンロは食べながら意外と美味い缶詰メニューに ( これお手軽で便利だなぁ… )とマイペースに考えていたりもした。寮で一人暮らしの彼女には自炊するのが面倒臭い時もある。というか彼女は家事全般禄に出来ないタイプの人間であったので外食が中心であったのだ。事件が落ち着いてリッターフラン寮に帰れたら夜食用等に缶詰を買い込もうと一人決意をしていた。
食事が終わり、少しの休憩を挟んでロンロと死体処理班の三人は動き始めた。
ロンロはそれぞれの作業分担様に自分が作り出した反転の魔紋を四分割してそれぞれの紙に描き始めた。
巨大な休耕地を利用した死体処理場のあちこちに空から降り注いだハルバレラの死体が大量に埋まっている。これら全てからエーテルエネルギーをかき集める為に処理場全体に巨大な魔紋を描くのだ。それぞれ役割分担して繋ぎ合わせる様に描いた方が良いと彼女は考えた。
その間にシヴィーはシュングとサグンの二人に指示を出した。
「二人とも。ロッカーから拳銃を持って来い。弾も全弾持ち出してくるんだ。」
「は、はい!…野犬対策ですね。」
シュングが緊張した面持ちで答えて一足先に動き出した。
「全弾ですか!?一発撃つだけでその後の言い訳が…いや始末書ですよ上からの支持も無しに!」
驚いたサグンはそのまま棒立ちでシヴィーに意見を述べる。
「構わん。俺らがここでやらなければこの街は遅かれ早かれ結局全て死に絶えるんだ。」
シヴィーは元から覚悟が出来てたと言わんばかりに無表情で答えた。
「…そうっすよね。判りました、覚悟決めます!始末書なんか…!ヘヘっ、自分以外と優等生だったんでまだ書いた事無いっすけどね。」
そう言ってサグンも動き出してシュングを追って準備に入った。
「悪いな二人共…ロンロ、何をしている?」
「…えっとですね!作業分担する為にそれぞれの人員が描く魔紋を分割しているんです!」
「つまり俺ら一人一人に描く担当エリアが出来る訳だな。」
「はい!」
ロンロはテーブルで作業をしながら元気良く返事をする。
「日が上がるまでは俺らから距離を取っての単独行動は許さん。野犬が出る。アイツらも山で食料を得る手段が減って凶暴化しているんだ。体格が小さなお前は一人になるときっと真っ先に襲われる。」
「…え!?」
驚いたロンロが声を上げてシヴィーを見つめる。
「だが日が上がれば流石に野犬も引き返すだろう、そこからは分担作業の開始だが…それまでは固まって行動をする。お前が一人で魔紋を描くんだ。それまでは俺ら三人がお前を中心に銃で武装してガードする。」
「そっか…。そりゃ当然襲ってきますよね…。死体掘り返して食べてるくらいだし…。判りました。」
シヴィーの案をロンロはあっさりと受け入れた。ここに寝泊りを始めてから実際に野犬の群れの足音と息遣いを聞いて、その翌朝食い散らかされた死体も目撃していたロンロはそれを受け入れるしかなかった。
シュングとサグンが部屋奥のロッカーからオートマチック型の拳銃と目一杯の弾を詰めた予備カードリッジを抱えて戻ってくる。トリガーを引くことでエーテルプライマーを発火させて弾薬内の火薬を爆発させ鉄の弾を打ち出す小型の武器、拳銃。魔学の発展からそれまでの大型の火薬式銃を小型化する事を実現させる事で初めて生まれた。この国の王国兵団警察員の基本装備の一つであった。
「僕、射撃訓練以外で実戦で発砲するの初めてだよ…。」
シュングが片腕に持った拳銃を見つめながら震えた声で話す。
「俺だってそうだよ…巡査長殿もでしょう? これ、巡査長の分です。」
サグンも同じく怯えた声で話しながらシヴィーに拳銃と弾薬が詰まった拳銃のカードリッジを数個手渡した。
「俺の年齢でも完全に戦後生まれだからな…。だがやるしかない。二人共すまんな、ここまで来たら付き合ってもらうぞ。ロンロが魔紋を描くのを三人で野犬からガードする。日が明けるまでだ!セーフティロックを外せ!ドアを開けたらすぐに警戒態勢に入ってロンロを囲むんだ!」
「へへ…こりゃ長い夜になりそうだ。」
やはり震えた声でサグンが拳銃のセーフティーロックを外した。
「…分担終わりました。まず基本となる大型の円を大地に描きます。スコップか何かありますか?」
ロンロが三人の前に歩み寄る。
「この駐在所の玄関前に一つ、僕が使っていた奴を立てかけてるよ。それを回収して皆で固まっていこう…。」
シュングが成れぬ手つき拳銃を構えながら答える。
「…いくぞ。先陣は俺が切る。二人はロンロ左右からしっかりガードしろ。後ろも気をつけてな。」
シヴィーが玄関前のドアに足を進める。それを見た三人は緊張した面持ちで顔を見合わせてその後に続いた。
そしてシヴィーがドアを勢い良く開けて外に出る。
シュングとサグンに挟まれてロンロもそれに続いた。
外の暗闇が何時もより余計に不気味に感じ、不吉な空気と静寂が四人を包んだ。ロンロは外に出て辺りを見渡してシャベルを見つけた。大の大人が使用していたスコップがロンロにとって不釣合いに大きかったがこれを使うしかない。他の道具を探している余裕等無かった。
「…いるな。」
暗闇の向こう、死体処理場となっている休耕地の方向を見つめながらシヴィーが呟く。
耳を澄まして夜の暗闇の音をロンロが聴く…そこには野犬の気配が確かに漂っている。荒い息遣いと多くの足音。獲物を求めて徘徊して、地面を掘り返す数々の声が夜の闇から確かに聴こえて来るのだ。
「野犬に掘り返されて現場が荒らされたら…。」
ロンロが不安そうに呟く。
「それはしょうがないよ…。日が開けたら荒らされた所はまた整地し直そう…。無事に生きてたらね。」
弱気のシュングが小声でロンロの横で呟いた。
「そうだな…。巡査長殿、どうしましょう?」
拳銃を構えてしっかりとロンロをガードしながらサグンがシヴィーからの支持を待つ。
「…。」
シヴィーは立ち止まって自分の持つオートマチック拳銃を天に向ける。
そしてそのまま空に向かってトリガーを3度引いた。
『バンッ!バンッバンッ!』
と、乾いた拳銃の弾が発射される音がリズム良く3度夜の空に響いた。
「わぁあ!」
思わずロンロが声を上げて驚く。
シュングとサグンの二人は声こそ上げなかったが驚いてシヴィーの行動に目を開いて反応した。
遠くで野犬が音に驚いて慌てて距離を取る為に大地を蹴って『ザザッ!』という音を立てて走り出したのが全員に確認出来た。驚きの余り甲高い声でうっすらと悲鳴を上げた野犬もいる。真夜中にこの脅しはロンロ達だけでなく野犬の群れにもはっきりと効果が表れた。
「今の内だ…全員で奥まで移動する!」
シヴィーが拳銃を構えたまま走り出した。慌てて他の三人もそれに追従する。
暗闇の中ロンロは走りながらシャベルを両手でしっかり握り締めていた。これが今のロンロにとっての魔法の杖であったのだ。夜は野犬の食事場となっている休耕地の中に無事に侵入する事に成功する。
「実際の絵と同じです。まずアタリを取って全体をぼんやりと描いて、歪みがあれば修正する。修正自体は日が上がってからでしか無理だと思いますが…。だけど元から発動する為の要素はこの休耕地に眠る数多のハルバレラの死体とエーテル体のオリジナルのハルバレラがメインの条件。魔紋は本来補助的な要素に過ぎませんから多少歪んでても問題は無いと思う!だから!やります!」
ロンロはレザーリュックからペンライトを取り出してそれに光を灯して口に咥えた。これを光源として地面を見つめる。その後にシャベルを構えて地面に思いっきり突き立て、そして描く魔紋に合わせてロンロはゆっくりと移動を始める。彼女の魔法の杖となったシャベルは少しずつであるが魔紋の外側を描き始めた。
「はふはえんしょうにふはひます…!おおひふのひゅうほうちをとりはほむように!」
(まずは円状に描きます…!大きくこの休耕地を取り囲む様に!)
と、言いたかったのだがペンライトを咥えていたので変な言葉遣いになってしまった。
「はい…?」
拳銃を構えて緊張していたシュングの気が抜けて構えを解いてしまう。
「何いってんだロンロ…?」
同じくサグンも緊張の糸が切れた表情で疑問を投げつける。
「えっとですね!円状に描きます…!大きくこの休耕地を取り囲む様に!」
ペンライトを一旦片手で持って口を自由にしたロンロが修正の発言をした。
少し恥ずかしい様で暗闇の中で顔を赤らめている。
「おいお前ら!気を抜くな…!」
その会話を聞いていたシヴィーが目線を暗闇の外側に向けたまま二人を注意する。
「はっ、はい!」
慌てて拳銃を構えなおすシュング。
サグンも無言で再び気合を入れなおして辺りを注意深く観察し始めた。
『ザッザッ!ザザザ!』と地面を刻む音だけが静かに夜の休耕地に響く。
ロンロは円状に描く為にゆっくりと歩を進めながら地面にシャベルを這わせる。
「私が描いた線をなるべく踏まない様にお願いします!」
そのロンロの声を聞いて三人がそれに静かに頷く。
少しずつ、少しずつ魔紋の外側の円が形成されていく。ロンロが移動していく度にシヴィー、シュング、サグンの三人もそれに沿って辺りを警戒しながら彼女を取り囲みつつ歩を進めた。なるべく大きく、なるべく大きく。この休耕地に埋めた死体からより多くのエネルギーを得る為に。稀代の天才魔女・莫大な魔力を秘めていたと思われるハルバレラの肉体を再構成出来るくらいのエーテルをかき集める為に…円は大きく、この休耕地に埋めた五百体以上の死体、その全てから恩恵を授かる為に。
死体処理場となっている休耕地に円を描き続けるロンロが、ようやくその形が円の形を成そうとしていた時であった。魔紋を描く事に夢中になっていたロンロはペンライトを口に咥えたまま地面に向かって集中していた。魔紋を反転させる為に解析して描いていた時もそうであったが、彼女は集中すると周りが全く見えなくなる。その集中力が彼女が知識を深める中では最大の武器でもあったがこの時は決してそうでは無かった。遠くからこちらを見つめる野犬の事に彼女は全く気づけないでいたのである。静かに静かに暗闇の中で狙いを定めていた野犬がいたのを、ロンロは全く気づいてはいなかった。
そしてその闇の中で狙いを定めた一匹の野犬の後を追おうとしている、多くの同じ群れの野犬がロンロ達四人を取り囲んでいる事にも。
それにはシュングとサグンの二人も気づいてはいない。
ただ一人、シヴィーだけは細心の注意を払い続けて、不振な辺りの空気を感じていた。
最初の空砲威嚇以降、気配を消しているのは何かがおかしい、あの脅しの砲だけで去っていく程の存在では無いと理解していたのだ。あれくらいでのこのこと山に帰っていくのならば毎晩この死体処理場に現れ、命を繋ぐ為に人間のナワバリに入ってまで魔女の死体を貪る筈は無いという事を。野犬達も飢えて、食べる物が無くそうやって仕方なくここにやってきているのだと。そういうリスクを負ってまで彼らがここにやって来ているのはどういう事かをシヴィーは一番実感していたのだ。シヴィーもまた、多大な部下二人とロンロの命の保障というリスクを持ってこの魔紋を描き発動させる作戦の指揮を執っているのだから。
ゆっくりと夜の闇に紛れた薄暗い毛並みの野犬が身を屈めながら静かに少しずつ歩を進めていた。
対象は一番背の低くて小柄で弱そうな存在、ロンロ・フロンコである。
少しずつ少しずつ、普段は山の中で草木に隠れて地面を這う小さな動物を狙う時とまるで同じ様に…。やがてロンロに狙いを定めている野犬は夜の闇に慣れた野生の目と感で彼女の首元にしっかりと狙いを定めた。あそこを噛み千切ればこの命は絶命し、血を流し多くの血肉を得られて生きる為の糧を得られるのだと言う事を、人を襲った事の無い個体ではあったがそれは本能で理解した。
自分の加速を持って一瞬で懐に、あの小さな人間の首元に飛び込めると感じ取れた距離の直前まで静かに前進を続けた個体は…それに到達した瞬間に即座に行動を開始した。それを待っていたと言わんばかりに素早く四本の足で大地を蹴って飛び掛る。『ビュウ!』とその体全体で夜の闇の空気を切り裂く音がする。
ロンロはその音にすら全く気づいていなかった。
シュングとサグンも、野犬が飛び掛ってきた方向とは別の方を向いていた。
飛び出したと同時に大きく口を開け、
今まさにこの小さな人間の首元に食らいつく為に牙を剥いた。
野犬の牙がロンロの細い首筋まであと僅か1mにも満たない距離にまで接近し、この個体は獲物の味を確信するまでに至った。久しぶりの生きた獲物、体の全てが求めている。きっと美味いに違いない。山で獲物が取れなくなり死体漁りの毎日からようやく久しぶりの生の獲物、心が踊り全身が湧き出し口から涎が溢れる。あの首筋を噛み千切れば温かい鮮血がきっと喉と飢えた心を潤してくれるのだ。
野犬の心は喜びに震えようとしていた。
だが、その瞬間
『ダンッ!!』
という音と共に鉄の弾が飛び、その野犬の頭を的確に貫いた。
シヴィーはこの野犬の接近を唯一感じとれていた。
奇跡とも言えるタイミングで的確に野犬の頭を撃ち抜いて見事にロンロを守る事に成功した。
目の前のご馳走に目が眩んでいた野犬は急に視界が夜の闇色では無く赤く染まるの理由が判らずにいた。そのまま全身の力が抜けて牙がロンロの首筋に到達する事は永遠に訪れず、勢いは失速してそのまま地面に倒れあっと言う間に動かなくなる。
「うぁ!!な、何!?」
ロンロが咥えていたペンライトを銃撃音の驚きの余り、口から落とした。
流石にこの突然の目前で起きた発砲音に彼女も我に返る。
音のあった方向へ顔を向けるとシヴィーが銃をこちらへ向けていた。
そして銃口の方角を確認すると、そこには一匹の倒れた野犬がいる。
シヴィーがロンロを護ってくれていたのだ。
「まだだ!今度は群れだ!!シュング、サグン!ロンロをしっかり護れ!!最初に襲われるのは間違いなくロンロだ!」
シヴィーが銃口を夜の闇に向けて両手でしっかりと構える。
「うああああ!!く、来るなら来い!!」
シュングもロンロの傍で震えながらも拳銃を構える。
「落ち着けよシュング!そっちの方向は任せたからな!」
サグンが素早くシュングの反対側に回り込んで銃を闇の方向に向ける。
「来たっ!!私達、もう!?囲まれてる…!?」
ロンロは自分のすぐ近くに倒れた額から血を流して横たわる野犬の死体に目線を落とした後で辺りを見渡す。もうロンロにも聞こえる多くの取り囲む野犬の激しい息遣いに興奮して上がる獰猛な唸り声。もうこの多くの衝動は銃撃音程度では収まりそうにも無かった。
「俺が甘かったか!?…コイツらがここまで飢えてるとはな!」
シヴィーの顔に焦りが見える。この闇の中で確認出来るだけでも数匹で済みそうには無い数がこちらを睨んでいたからだ。これが一斉に襲い掛かるとなるととても三人の拳銃だけでは対処出来そうに無かった。
「くっそ!!こんな危ない現場で今まで働いてたのかよ!!」
同じくその多くの野犬の気配に取り囲まれたのを察知したサグンが叫ぶ。
「ど、ど、どうしよう…。ぼ、ぼ、ぼ、僕らも食われる…食われちゃうよ!!」
銃は構えているもののシュングは完全に冷静さを失っている。
彼の顔は焦りから多くの汗が噴出してきている、体全体もも小刻みに震え始めて足はおぼつかなくなってきていた。今にも倒れこみそうである。
「シュング!呼吸を整えろ!」
戦意を喪失しつつある部下に対してシュングが檄を飛ばす。
事態を把握して怯えたロンロであったが、直に気持ちを切り替える。
命の危機を感じた時にここで死ぬ訳にはいかないという思いが強く目覚めたからだ。
「ダメ…。ここで私達が野犬に食い殺されたらハルバレラはエーテル体のまま拡散して消滅するだけ…。それは絶対にダメ!!絶対に!!!!」
ロンロの顔に決意が宿る。
背負っていたレザーリュックを降ろしてロンロはエーテル・ポッドを取り出した。このエーテル・ポッドの中には沢山のエーテルが詰まっている。魔学の発展によって人はエーテルエネルギーを容器に蓄えて様々な用途に用いる為に手軽に持ち運べる事を可能にした。これはその為の魔器である。
「だから!私達は生きます!殺生は大嫌いだけど!ハルバレラが!ううん!私だってまだ生きたいから!生きる為に成すべき事をする為に!!私はこれを切り抜けます!!」
ロンロは片腕に持ったエーテル・ポッドに懐から取り出して刃を展開したエーテルナイフの刃を思いっきり突き立てる。『ガギィン!』と金属の細長いポッドに穴が開き、その穴から大量のエーテル光が溢れ出してきた。
そうして、ロンロはナイフが刺さったままのエーテル・ポッドを自分の前方の、先程の息絶えた野犬が襲ってきた方向に向かって思いっきり投げつけた。
「三人共っ!伏せて!!!」
大声でロンロは叫んで耳と目を塞いで屈みこむ。
「シュング・サグン!耳を塞いで屈め!!!!」
シヴィーはロンロが投げつけた物体が何かまでは判らなかったが直感的に素早く二人に指示を出して耳を塞いで屈みこんだ。シュングとサグンもそれを見て耳を塞いで思いっきり屈みこむ。
『ジュバアアアアアアアアア!!』というエーテルの弾ける音が夜の闇に響く。
その音に取り囲んでいた野犬の群れが気づく。
彼らは本能的にその音が危険な物であると判断して一斉に音の響く方向から全身を躍動させて走り出して逃げ出す。しかし、投げつけられた方向の野犬の数匹は間に合わなかった。
『ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!』
強烈な爆発音が休耕地の死体処理場に響き渡った。
凄まじいエーテルの光が発せられて大きな爆発が発生したのだ。
爆発の振動が空気越しに伝わりロンロの金髪が激しく揺れる。彼女の投げつけたエーテル・ポッドは突き立てられたエーテルナイフによって刺激され、夜の闇を一瞬ではあるが明るく照らす程の激しいエーテル爆発を発生させたのだ。これはエーテルナイフの刃が人間の目では捉え切れない程その刀身を振動させて物質を切り裂く仕様を利用して起きた現象である。その振動によってエーテル・ポッドの中の大量のエーテルが刺激される。エーテルの粒子が狭いポッドの中で振動を伝え合って激しく揺さぶられ、そしてそのナイフによって開いた穴に振動エネルギーが一斉に逃げ込もうと集中し、凄まじい大爆発を起こしたのだ。これは即興のロンロが魔学の知識を応用して作り出した手榴弾。
その激しい爆発に巻き込まれ数匹の野犬がその命を落とした。
爆発の熱に巻き込まれて生き残ったは良いが、大火傷を負った個体が「キャインキャイン…!」と悲鳴を上げてヨロヨロと遠ざかっていく。他の個体も強烈な爆発の音と発せられた爆発とその光によって一斉に周りから逃げ出していった。
「うおおおおー!!なんじゃこらああああ!?」
サグンが立ち上がりその爆発に思わず驚きの声を上げる。
「凄まじいな…。ロンロはこんな武器を持ってたのか…。」
シヴィーも唖然として爆発した方向を見つめている。
「あわわわわわわ。これはまるでせ、せ、戦争じゃないか…。」
腰を抜かして尻餅をついたシュングが唖然としている。
「はぁ!はぁ! こういう事が出来るからエーテルナイフを所持出来るのは…!身分をしっかり保証された魔学研究関係者のみなんです…!はぁ、はぁ…! 知識とは知っているけど、初めてやっちゃった…。」
当の実行して投げつけたロンロ自身も信じられない様子で投げつけた方向を見ている。
「ともかく助かったか…。礼を言うロンロ、怪我は無いか?二人もだ!」
いち早く冷静さを取り戻したシヴィーが皆の安全を確認する。
「無事っス!無事無事!!あんな爆弾あるなら俺らの護衛いらねーっすよ!!」
サグンがぴょんぴょん跳ねながら叫ぶ。
「ひ、ひゃい!ぶ、無事れすううう!!」
シュングが未だに腰を抜かしたままシヴィーの声に答えた。呂律が上手く回っていない。
「私も…。シヴィーさんがいなかったら死んでたか、そうじゃなくても大怪我でした…。ありがとうシヴィーさん、本当に命を助けられました…。」
周りから一斉に野犬が逃げ出し安全を確認できたロンロは緊張から解かれてその場にへなへなと膝から崩れる。彼女にしても見てもこんな危険極まりない手段を取ったのは正に奥の手であったのだった。
「それはこっちの台詞だ。お互い上手くやったな。」
珍しくシヴィーの顔に笑みが毀れた。彼もこの緊張から解放された喜びから自然と笑みが出た。
「へへへ…。でも、これで首都側の人間に見つかったかも…。」
「構わん。そういう手段があるというのなら、そういう装備をこちら側がしていると認識させればそれがあちら側に対しても脅しとなるだろう。一晩ぐらいの時間は稼げるじゃないか。」
「あーそうか、そういう風にも取れるんですね。なーるほどー。」
そのシヴィーの答えにロンロは普通に感心してしまった。
「しっかしよー!これでもう慌てる事は無いな!また野犬が来たりそれこそ首都の監視団がやってきてもよ!ロンロがドカーンとやっちゃえば良いじゃん!!ハッハハハハ!!」
上機嫌でサグンがロンロに向かって笑顔で話す。
「そ、そうか!そうだよね!!人間に通用するか判らないけど!もう野犬に怯える必要は無いのか!やったーーーー!はははっははあはっはは!!!!!」
シュングは不安から開放されてようやく立ち上がった。
「いえその…エーテルナイフは一緒に投げて爆発しましたし、手榴弾にするエーテル・ポッドはもう無いんです…。」
「「 え゛ 」」
二人が同時に声を上げ、同時に固まる。
「あれで終わりか。まぁそう都合良くいかないモンだ。シュング・サグン、また野犬がこないとは限らんぞ、銃を構えてロンロを護れ。」
シヴィーはそう言って再び野犬襲撃前の体制とポジションに戻る。
「…まだ続くのね、はぁ~~~。」
「ええええ…。判りました頑張ります……。」
落胆と怯えの表情を浮かべて二人も元のロンロをガードする体制に戻っていった。
「ははは、ごめんなさい…あれがホントの緊急手段、最後の一発でした…。」
ロンロは地面に落ちたペンライトの土を払い、ハンカチで咥える辺りを丁寧に拭いて再び地面に魔紋を描く為にそれを口に含んで地面を照らす。そうしてまた続きの線を描き始めた。一瞬シヴィーに撃たれて絶命した野犬を目線で捕らえたが…気にしない事にする。彼らも生きるのに精一杯だろうが、このままだと更に多くの命が失われてしまう。心の中で倒れた野犬に祈りを捧げ、再び元の魔紋を構成する線を描く作業に彼女は戻った。
再びシャベルを地面に突き立て、魔紋の外側を囲む為の円を作る線を引いていく。
野犬の襲撃を挟んだのもあったがこの広大な休耕地に、この街に暮らす人々を集めても収まりそうな程広い死体処理場に歪みはあった物の丸い円が、ようやく長い時間をかけて描き上がった。
「ふーっ。」
ロンロは一旦咥えていたペンライトを口から離して一息吐く。
死体処理場の駐在所が見える休耕地の入り口前まで、ぐるりと円を描いて敷地内を一周して戻ってきたのだ。ようやく外側が完成する。
「時間は…2時57分、直に3時になるか。」
シヴィーが自分の腕時計を所持していたライトで照らしながら時間を確認した。
「6時頃には明るくなってきて…それまでには終わらなさそうだなぁ。」
魔紋の外円を描くのだけにここまで時間がかかった事をシュングが落胆する。
「どうすんだ?首都の人間が明るくなってコレを見つけたら後ろからバーン!だろ?俺ら?」
夜の闇の中で大げさな撃たれるリアクションを取りながら喋るサグン。
「暗くて良く判らんが…。今までここが、俺ら三人が監視されている様な感じはしないな。ロンロ、お前がハルバレラの屋敷から出た時にそんな気配はあったか?俺と合流する前の僅かな間だが。」
「んー。今日…いや昨日は急いでたから外出時には周りに意識が向いてなくて…。そういえばどうしてだろう。私なんかハルバレラの屋敷に二日も出入りして、長時間滞在もしているし怪しまれて当然なのに。」
ロンロはその事を疑問に思いながら休耕地から離れた街の方角に向かってを顔を上げた。
「そういえば街の中心部の方、何か明るいっスね…。まだどの建物も灯りがついているっつーか。こんな夜中に何してんだろ。祭りでもあったかな?」
「収穫祭とか終わったよ?それに魔女がボトボト落ちてくるこんな時期に祭りなんかやるかな~? あー大きな火事でもあったかもね。」
シュングとサグンが真夜中にふさわしくない街の灯りの数々に気づいた。
真夜中の3時ともなろうとしている時間に街のどの建物の窓からも光が漏れて、全体を明るく包んでいる。まるでまだ夕飯時といった、まるでまだ日が沈んだばかりの家族が食卓で団欒する様な時間帯の光景だ。
「…確かに。これは街で何かが起きている。火事の様子は無いがな…。しかしコレはチャンスだぞ。この隙に作業を進めよう。ロンロ、再開だ。……おい、ロンロ?」
シヴィーの呼びかけに微動だにしないままロンロは街の方向を見つめ、じっと黙っている。
彼女はハルバレラと昨日屋敷の玄関の前で交わした会話を思い出していたのだ。
( 気をつけて。王国兵団の警察機構もアナタを張り始めると思うワ…。何カ、私も少しはお手伝いスルカラネ……。)
「ハルバレラ…。貴女が何かをしてくれているの?。それで、警察機構の目を引き付けてくれてるのね。そうだね…そうよね。魔女ハルバレラともあろう人間が、警察機構の手口に気づいて無い筈が無いものね…。リッターフランの悪評だって知っていた。秘密警察の装備開発責任者でもあったその貴女が。そっか…。ありがとうハルバレラ。私、貴女の辛い記憶をもう一度呼び覚まそうとしているのに…。本当にありがとう。」
「ロンロ?ハルバレラがどうした?おい!?」
再びシヴィーがロンロに問いかける。
「シヴィーさん、私達は大丈夫です。ハルバレラが、ハルバレラ本人が協力してくれています!彼女が私達に時間を作ってくれました!!これなら少し日が上がっても大丈夫な筈!!」
ロンロがぴょんと跳ねて笑顔でシヴィーに答える。
「どういう事だ?時間を作ってくれただと?」
「ふふっ、きっと街は今頃大騒ぎな筈です。彼女の趣味から想像すると…。街の人にはとても災難でしょうけどね。」
「…よく判らんが、大丈夫なんだな?」
「はい!それは約束します!まだ野犬の心配もありますから皆さんガードを引き続きお願いします!次は中心部を描きますからー!おおおおーーーー!」
彼女の体には大きすぎる大人用のシャベルを振り上げてロンロが気合を入れた。
同時刻
ハルバレラの屋敷、その屋根の上。
屋敷の外に出たエーテル体のハルバレラは、その屋根に腰をかけて夜の街を見下ろしていた。
街は真夜中とは言えない大騒ぎを起こしている。全ての家の住人は眠らずにこの新しく起きた怪現象によって安らかな眠りを得る事が出来ずに…いや碌に夕食すら取れていない有様である。昼頃から発生したこの新たな怪現象は人々を理不尽なまでに恐怖に叩き落したのだ。魔女ハルバレラの死体が降り注ぎ始めてから日が明けて13日目、次に発生したこの怪現象は今度は街中の地面を高速で這い回っているのだ。
「アーーーーーーーーヒアアアアアアアアアヒアヒヒアッハイハイイアヒアア!!!!!!!!!!!」
エーテル体のハルバレラが夜空に向かって奇声を上げる。
屋敷の屋根の上にいるハルバレラの耳元にも人々の恐怖の叫びが幾度と無く聞こえてくる。
『出たぞー!そっちへ行った!!警察員に報告しろ!!』
『もうなんなの!?この街は呪われているの!?きっとそうだわ!あああああああああ!!!!』
『ママー!怖い!怖いよ!!!うあああああああああああああん!!!!』
『あっちいけっ!あっちいけぇええええ!!!』
『うお!!!?隣の家の中に入ったぞ!!母さん戸締りだ!!!!』
『ああああーーー!!俺んちのエーテル・ポッドの中身全部カラになってる!掃除機も動かせねぇ!』
『こいつ家の中の食料食い漁ってるぞ!!!!何してんだおめえええええ!!やめろやああああ!!』
『どいて!下がってください皆さん!あの妖異に向かって発砲します!!』
『撃ち方始めー!!!順次発砲しろ!!』
『…駄目です!当たりません!!…いや、当たっている筈なんですがっ!まるで体を素通りしている!?』
『魔女だー!魔女の死体も未だ落ちてきやがるぞ!!!!』
『B・P商店街の方向にも現れました!何故か馬具用品店で馬用の蔵を自分の背中に乗せたりしています!』
『南西にあるヒルッター理論記念会館に100匹以上の大群が集まっています!何か集団で走り回って大騒ぎしているんです!!!警部!!どうしたら!?』
『ど、どうしろと言うんだ…。とにかく市民の安全を急げ!!あの妖異から市民を保護しろ!!』
『ゾンタルギ酒造に貯蔵してあった酒樽を集団が襲って片っ端からぶち破って中の酒を飲み始めています!!あいつら酒飲んで酔っ払うんでしょうか!?見た目おっさんですけど!?』
『魔女ハルバレラだ!魔女ハルバレラの呪いだ!!!!!ううううううああああああ!!!!!』
悲鳴が、阿鼻叫喚が、銃声までもが街中で響き渡る。
この怪事件の首謀者であるハルバレラはそれを聞いて…まるで愉快と言わんばかりにゲラゲラと狂喜して笑い続けていた。混乱に陥ったこの街は、人々は理性を無くして暴走し始めている。
首都の王国兵団警察機構本部がこの街の監視の為に放った秘密警察達の目からロンロを切り離す、ハルバレラは早い段階でこの為の策を実行していた。彼女はロンロが屋敷から出た瞬間に一匹の使い魔をその魔力で作り出して街に放っていたのである。
それは…ロンロと二人で読んだあの奇妙な本【魔法使いビゾームの人体改造白書】の主役、200年前に存在した自らの肉体を改造した大魔法使いの男・ビゾームの姿その物であった。背中から尻にかけて左手を23本、右手を23本で合計46本の腕を増設してまるで蜘蛛の様な姿になったあのビゾーム、それをモデルにした使い魔を街に放っていたのだ。
合計46本の腕を使い仰向けになって、まるで蜘蛛かムカデの様にその大量にある腕を使って街を時速38kmの凡そ人間とは思えない姿で高速で這い回った。その余りにも奇怪で不気味な姿を見た街の人は次々と悲鳴を上げる。ビゾームおじさんの姿をした使い魔はハルバレラによって民家に設置されているエーテル・タンクやエーテル・ポッドを次々と襲って中のエーテルを補充する様に命令されていた。そしてエーテルを補充して必要なエネルギーが溜まると分裂を開始する。
そうして次々と増えた46本の腕を持つ魔法使いのおじさんの姿をした使い魔は街中に現れて38kmで全力疾走して更に人々を混乱に陥れる。街中のエーテルを食い尽くした後は得られるエネルギーを求めて今度は食料品を主に襲い始めて現在に至るのである。街が夜中の3時になろうとしていても眠れる筈が無かったのだ。挙句にダメ押しと言わんばかりに今もまだ定期的に空から魔女の体が街全体に降り注いでいるのである。人々は最早冷静になれる筈も無かったのである。
「アアアヒヒアヒアヒアヒハイハハハイアヒアイア!!!愉快愉快!至極愉快!!アヒヒアヒヒアア!!!オモシレーーーーーーー!!!!!!!」
夜の街にハルバレラの笑いが響き渡る。
彼女は立ち上がってその様子をエーテルで作り出した望遠レンズで覗き込んでは大声を上げて笑い転げるのをかれこれ十時間以上続けていた。
「ヒアヒアヒヒイヒヒ!…秘密警察の人間もオモウデショウネ。ここまでの騒ぎを起こせるのはこの街に置いてはワタシ・ハルバレラただ一人。ロンロが反転の魔紋を描こうとするのナラ、ソレを見つけ次第彼女を始末しようとするハズ。デモ!サセマセーン!それ以上の騒ぎを起こせば良いダケデーーース!!ツイデにこのビゾームおっさん大軍団を一部切り離シテー!首都に向かって大疾走サセテマーーーース!!!荒野を走るおじさん軍団!!!!アヒイアヒアヒハイヒヒアイアヒア!!!ロンロの事なんか心配する余裕ナイネー!!こうしてビゾームおっさん軍団が這い回って首都に大進撃!この街は大混乱!!アヒアヒハイハイヒアヒアイアイハイヒ!!!!!!!」
ハルバレラの目論見は見事成功した。
この街に滞在していた秘密警察の人間は屋敷から飛び出したロンロを遠くから捕捉していたのだが、次に彼の目の前に入ってきたのは時速38kmで這い回る46本の腕を生やしたビゾームであった。それはあれよあれよと活動し始めてエーテルを食らい、次々と増えていく。とてもロンロに集中する事など出来ない。挙句にある程度数が増え始めると一部の個体は街の外へ集まる様に集合し、首都に向かって大進撃を開始したのだ。首都本部への連絡と、この事件の首謀者であろうハルバレラの所在を探す為にロンロ・フロンコの監視等に人員を裂く余裕等は全く無くなっていた。これだけの事件を起こせるのはハルバレラしかいない。もしやハルバレラが生きていた?…この予測も秘密警察の面々を大いに混乱に導いていたのである。
「デモーーーー!残念!!ワタシは今エーテル体デエエエエエス!!!ワタシノお家にも何人も今更侵入してきましたガーーー!隠れるのなんかもうラックショー!!!体の形も大きさも、今のワタシは変幻自在!エーテル探知の魔機類を使ってもーオウイエ!!天才ハルバレラちゃんにはそんなもの通用シマセーーーン!いくらでも誤魔化してジャミングして機能サセマセーン!!ソモソモ!!アナタ達の装備作ったのワタシよワタシ!!アヒアヒアヒアヒアハイハイアイハイハイアイイギアヒアギッギギギギギアイイイアア!!!!!!」
首都から監視目的で送られて来た秘密警察はこうしてハルバレラの手の上で転がされ、まるで監視としての機能を果たしていなかった。この街だけの混乱なら秘密警察の面々もハルバレラの死体が多数眠る休耕地の死体処理場にまで捜査の手を伸ばしたのかもしれない。しかし、一部の妖異・46本の腕を生やして仰向けで38kmのスピードで疾走するビゾーム軍団が首都に向かって爆走し始めた時点でその心配も完全に無くなった。彼らは本部からの命令と現場の判断でその人員のほとんどを首都に向かうビゾーム軍団の対策へと乗り出してしまったのだ。次々と馬を駆り猛スピードでビゾーム軍団を追撃し始めた。流石に自分達が管轄していた街からこの様な新たな異変が発生し、それが首都に向かおうとしているのだ。対処しなければ面子丸つぶれである。それ以上にもっと多くの人間が暮らす、この国の中枢である首都を危険に晒してしまうのである。
「マーーー、首都の目の前まで行けば消滅シマスケドネ。サスガニネー?イヤー、でも首都の中で暴れさせても面白かったカシラ?アヒヒ。………でも…、面白い様に上手く言ったわロンロ。後は貴女次第よ。ロンロが描く反転の魔紋…魔法使いとして、魔学者として、いいえ…。友達として楽しみにしているわ。」
ハルバレラは狂喜の笑いを止めて夜の闇の中、死体処理場のある方向を見つめていた。
その体からはエーテルの拡散が始まっている。
夜の闇に少しずつハルバレラの今の体を構成するエーテルが、光となってゆっくりと拡散を続けている。
大魔法使いビゾームの使い魔を作り出した大規模な魔法を使った彼女の体。
事前に予測したハルバレラ本人の予想を超えて、その形を保つ力が失われて続けていた。




