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恋の魔女の恋の始まり 恋した魔女・ハルバレラ

 「ありがとう…テテテテ…。」

ロンロから差し出されたハンカチで鼻元の血を拭いながらテリナは礼を言う。

テリナの無意識とはいえ発言させてしまった魔法に縛られたロンロが、反撃とばかしに繰り出したヘッドバット。それは確かに彼に強烈なダメージを与えていたのだ。


「あのー、やりすぎちゃいました。ゴメンナサイ…。」

椅子に座り直したロンロが頭を下げる。

彼も、彼の着ているシャツも、そして辺りの床にも赤い血がこびり付いている。

流石にロンロも申し訳ない気持ちが生まれた。


「構わないよ…。無意識とは言え君に危害を加えてしまったし、少し自分が怖いよ…。僕は、どうやって魔法を発言させて、そしてどうやったらそれを制御出来るんだろう…。ハルバレラ先生は集中力の使い方とは言っていたけど…。」

テリナは鼻をハンカチで押さえながらハルバレラの言葉を思い出していた。


「集中力かぁ。無魔力人類型魔学式建築理論の話を聞きだそうとしてた時は確かにテリナさん、凄い集中力だった。怖いくらいに…。」

あの真っ直ぐな力強い瞳に飲み込まれ、ロンロは彼の術中に落ちてしまったのである。


「…ハルバレラ先生も言っていたよ。僕は魔力を引き出すきっかけとなるトリガーが、心の中で深くて遠いんだって。それを制御出来る様になればきっと魔法を使いこなせるだろうって…。見ての通り今現在もまだ無理だけどね…。」


「テリナさんとハルバレラは、やっぱり交流があったんですね。」


「ああ。今から… そうだね…。」


テリナはロンロに対して語り始めた。それは彼とハルバレラとの思い出と交流を。

ランクAAAの最高の魔法的才能を持った魔女ハルバレラ・ロル・ハレラリア当時21歳と、

ランクDの最低の魔法的才能を辛うじて持ち合わせている魔学生テリナ・エイト当時18歳の記憶である。







この事件が起きる、ハルバレラが自身のエーテル暴走で死亡する七ヶ月程前 ー 











 長い冬が明け、日に日に気温が上がってくる。

冬の永い眠りから目覚めた生命の躍動は大気中のエーテルを活発にさせる。

草木が芽吹き、その体を伸ばしてエーテルを大地から吸い上げる。虫や小鳥や動物が、それを待っていたと言わんばかりに食らい、またそれを他の動物が食らう。そうしてエーテルは自然の中で循環する。

大気に漂い始める力強い生命の目覚め。エーテル濃度の上昇は命の胎動を肌で感じられる才能を持つ者達にとっても喜びであり、また多くの命と同じ様に彼ら彼女らもその季節を待ち侘びていた。




春。

その訪れ。




魔女・ハルバレラもこの季節が好きだった。普段は薄暗い研究室と自室を往復するばかりの生活の彼女もこの季節には外に出たくなる。魔力才能保持者クラスAAAという真に限られた人間のみが与えられる才能を持つ彼女はこの春の命の喜びを、そしてエーテルの輝きを人一倍感じられてるのである。


彼女は自室の窓を明ける。

まだ少し寒いけど、その入り込んでくる風には多くの命のエーテルを含んで、彼女の体を優しく撫でる。

ボサボサの黒髪が揺れる、昨日から着続けている部屋着のワンピースですら爽やかに揺れる。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! 春ネぇーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」



窓に思いっきり身を乗り出してハルバレラが叫ぶ、いや奇声を発する。

研究で徹夜してハイになっていた彼女に春の、爽やかな命のエーテルが注ぎ込まれますます不気味に上機嫌になっている。

風に乗って漂うエーテルは様々な命の情報を伝えてくる。

草木が芽吹いた瞬間を、新たな雛が卵の殻を割って這い出たその時を、多くの命が生まれ奪われそしてまた生まれ。ハルバレラは風の中のエーテルから一瞬で多くの事を察知した。

それが気持ちが良い。冬の冷たい風には死の知らせばっかりだ。春はその反対で喜びの知らせを多く届けている。それが、とてもハルバレラには嬉しくて気持ちよかった。


「アノ話、受けてみようカシラ…?ドウカシラ?デモ人前に立って怖くないカシラ?ワタシって大学とか学校全般通ったコト無いのにオカシナ話よね客員教授ナンテ!! ヒイヒイヒヒヒハハハハアア!!」


天才ハルバレラにとって学び舎で習得する技術や知識等皆無である。

教えられる知識は全て天性の才能からこの肌身で感じられる、魔法や魔学の事なら尚更だ。

大学の専門的な高レベルな講義ですらどうでも良い、何故ならその遥か先を彼女は既に生まれながらに歩いている。春のそよ風すら彼女に全身から語りかけてくるのである。普通に起きて、食べて、寝て、そうしてダラダラと一年を過ごすだけで彼女は様々な知識と体験を得る。彼女は超一級の魔女であるのだから。


徹夜明けでフラフラだった筈だが自室から出て、大きな屋敷の長い長い廊下を歩いて正面玄関から外に出る。途中で多くの使用人達が主である彼女に朝の挨拶をしてきたが「ドモ…。」とか「オハザース…。」等と適当な挨拶を小声で、早口で、なるべく顔を見ないようにして返すだけ。彼女は人見知りであった。


友達は子供の頃から一人もいなかった。

今では両親とすらまともに話さない。

仕事上の付き合いは多くあるが、プライベートな会話は挟まない。

恋人なんかは、考えもしないし考えられない。

21歳という年頃でも、異性と録に話した事も無い。



理解出来ないものは理解出来ない。

どうして友人や恋人という存在が自然と作れる様な人種がいるのか、不思議で仕方がない。

何故なら彼女には劣等感がある。それは自分が他人とは違う特別な才能を持った魔女という事。

この国の、この世界の魔法・魔学研究のトップを走る大天才であるという事。

それ故に人々は彼女を特別な目で見る。才能故に革命的な発見や発明や新たな説を提唱するハルバレラを、その度に賞賛する人々。名誉が、名声が、そして金が溢れる様に彼女の手に落ちてくる。

そしてそれが彼女を孤独にしていく悪循環からの劣等感。普通の人とは違うという高みにいるが故の劣等感。


でも、本質はそういう事ではない。

ハルバレラもそれは判っている。


本当は孤独だし、両親とも昔の子供の時みたいに仲良くしたいし、多くの使用人達とも気軽に会話もしてみたい。仕事上の付き合いのある人間とももう一歩踏み込みたい。でも彼女にはそれが出来ない。


友達だって欲しい。


恋に恋する事もある。

女性らしく素敵な出会いも期待している。


だけどそれも無理だと判っている。


自分の中の劣等感がそれを「不可能だ!」と決め付けて激しい程に彼女自身を押さえ付けている。

それは単純な劣等感。



彼女は、自分が


「根暗で」

「不気味で」

「喋り方がおかしくて」

「目つきが悪くて」

「ノリがズレている」


と言うのをしっかり自覚していた。



自覚はしていたがそれが自分なのだから、否定は出来なかった。だから、この劣等感も取り払われる事は無かった。22年の今までの生涯で一度も取り払われる事はなかった。






「ノン!!! むしろ!!こんなワタシが大好キよー ララララヒラーララララ!!」






不思議なメロディを口から発しながら踊るように回りながらハルバレラは大きな屋敷の大きな門から、外の大きな庭へ飛び出した。外に出た彼女を春になって大きな蕾をいくつもつけているアーチに絡まったツルバラが、この季節になって青々と茂り始めた植木が、既に花を咲かせている色とりどりの花が出迎える。既に蝶が舞い始め、強い日差しの空には多くの小鳥が飛んでいた。


「ヒヒヒアッヒ…! やっぱり腕の良いガーデニングデザイナーさんや庭師さんを雇った甲斐がアッタワー!お金ってイマイチどうやって使って良いか判らないケドー!これは正解正解!アヒヒアヒヒヒア!!」


正面門から見て左方面にある噴水を取り囲む、大きな円状の歌壇に咲く色とりどりの花を身を屈めてハルバレラは眺める。春の日差しを命いっぱいに受けて大きく花咲く姿を見て彼女も笑みになる。傍から見ると女性らしいニコニコというより何か怖い企んでいるかのような陰険なニヤニヤであったが。


「ナゼ花は開くの?それは可能性ヨ。新しい出会いを求めテ花開くのよ、出会いは可能性。新しい命の可能性、それは多様性の始まりヨ!いずれ進化に繋がリ!生物の根源的欲求という名の使命!大地に満ちる役目をさらに強固に勤める事が出来る未来の可能性のハジマリヨ!命はとても強くて!綺麗ネーーーー!!素敵ネーーーーー!!!」


ハルバレラは叫びながら立ち上がりよく晴れた青空に両手を広げる。

春の季節から湧き出るエーテルを体全身で感じて、その喜びを体全体で表した。相変わらず表情は不気味な笑みのままであったが、それでも彼女にとっては春の花の様に― 満開の笑顔のつもり。



「ソーネ!ソウシマショウ!もう決まったワーーーーーー!!!」



何かを決意したハルバレラの体が自身の魔法の力で、大人の一人分程の高さで宙に浮く。そして頭から屋敷の玄関に超高速で飛びながら突撃。大きな玄関の木製の扉を魔法の力で衝突する前に開けて、そのまま弾丸の様にビュウウウウウン!という派手な風切り音を立てながら屋敷に突っ込んだ。弾丸となったハルバレラはそのままの速度で屋敷の大きな階段を飛び越えて長い廊下を凄まじい勢いで突き進んだ。屋敷の使用人達が驚いてその場で静止してそれを見つめている。


「…はぁ。ここのお嬢様は訳が判らないわ…。」

各部屋の朝の掃除を行っていたメイドが屋敷内を駆け巡る弾丸となったハルバレラを目撃し、モップを持ったまま溜息をついた。この様な奇抜な行動が尚更に屋敷の人間と自分の距離を開けているのである。


ビュウウウン!!という音を立てながらハルバレラは二階にある研究所に突撃した後、その室内で急停止した。凄まじい程の加速から急停止時をしてしまったが為に襲う耐加速衝撃をも魔女である彼女に取っては大した事は無い。魔法で中和してしまった。そしてそのままゆっくり床に着地する。


「デーンワシマショ!デンワデンワデンワ!!!! 電話にデンワー!アヒヒヒイヒアアアア!!!」


相変わらず謎の奇声からなる笑い声を発しながらハルバレラは研究所の自分の机に備え付けてある電話の受話器を取り、その電話機本体に接続されているモニターに表示されたある登録していた番号を選択した。



数回のコールの後、受話器を取る音がして電話の相手が出てきた。


「ご無沙汰しております。ハルバレラ・ハレラリアです。…ええ、ええ。スケジュールはまだ年度初めですから自由が利きますのでお構いなく。…はい、それはもう…。1年間だけとは言え私も若い人達と触れ合う事で刺激を受ける事もあるでしょうから…フフっ。いえいえ私なんかまだまだ…ええ、それはもう。喜んで引き受けさせて頂きます。…はい。ではまた後日…。今回のお話、本当にありがとうございます。」


先程から発せられていた奇抜な行動と奇声が嘘の様に、彼女は一人の知的な大人の女性として電話相手に対応した。11歳でヒルッター理論を提唱してその実力が魔法・魔学界に認められて社会に出てから今年で11年目、22歳ともなれば世間体を意識した常識的な言動もハルバレラには十分可能であった。世間的に偽りの仮面を被る。これはハルバレラに限らず誰でもやっている事。ただ、彼女はそれの落差がちょっと激しい。


ガチャリと受話器を電話機に戻す。


「はい決定ーーー!ワタシこの春から大学の先生に1年間限定でナリマーーース!アヒアイアアヒイアア!!!春だし折角だから外にデマーース!!可能性のハジマリヨーーーーー!!!!!」


この時、彼女はこの街にある最高の学府機関【テピス大学】の魔法学部・魔学科で今年の春から客員教授として教鞭を振るって欲しいという大学側からの依頼を了承した。先程の電話の相手はテピス大学の理事長であった。本来は他人が怖く引きこもってばかりのハルバレラ、この話もしばらくは保留していたのだが…。春の命湧き出る陽気に当てられたか、それとも自分を変えたくなったのか…。もしかしたら新しい事を始めて新しい可能性を見つけたかったのかもしれない。この自分のコンプレックスの塊の殻を破る可能性を。


ハルバレラはその後、この大きな屋敷に相応しいとんでもなく広いお風呂に一人でゆっくりと漬かり、気分を落ち着かせた後に自室に戻ってドアの鍵を魔法でしっかり施錠する。このロックの魔法はハルバレラがその知識と才能と技術を持って全身全霊で考案して生み出したこの世界でも最強クラスの防御エーテル壁である。彼女の心情を表すかの様にその鍵は重く、強く、硬く、とてつもなく難解な施錠である。この部屋にはハルバレラ以外の入室は許されていない、誰にも入って欲しくないのだ。その為に掃除も何もかもの雑用も室内では彼女自身が行っている。凄まじいセキュリティレベルの鍵はそのままハルバレラの心情を表していた。彼女は、他人の目から自分を護りたかった。だからどうしてもこの自室には誰にも通したく無かった。強固な施錠をした後は直にベッドに飛び込んだ。徹夜明けの彼女は直に深い眠りに入りかける。窓は開けたままそこに魔法結界を張って人間の進入は絶対に防いで夜まで寝る。春の命の誕生を知らせるエーテルの風は結界を素通りして入ってくる。それがとても快適で、彼女を深く上質の睡眠に誘った。




夜になる。時間は既に夜の22時ともなろう時間。

彼女は夜行性である。この時間から目覚めて昼過ぎに寝るという生活をここ10年近く送っていた。

夜の方が目が冴えて頭も回る、何より不必要に他人に逢う事も無く夜こそが彼女が本来の姿を持って自由に過ごせる時間であった。


目覚めてしばらく自室でボーっとしていたハルバレラは昼間の事を思い出していた。

大学の客員教授の話を受けた。受けてしまった。あれ? と、顔をかしげる。


「…アアアエエエエエエ!!!!」


しまった!!と今更になって一人で慌て始める。

何せ仕事でも最小限の人としか逢わずにプライベートで関わる人間は親も使用人も含めてゼロ。

友達も一人もいない、そんな状態の彼女が大学の客員教授という大勢の人々の前で話して多くの人々と関わるであろう仕事を請けてしまったのだ。春の陽気に気分も持ち上げられて勢いで決断してしまったのを心底後悔し始めた。


「ど、ど、ど、ど、ど、ドドドドド!ドウシマショ!…できっこないヨ!何に浮かれてたのワタシ!!!!!!何を期待してたのワタシ!!!!!大学生ナンテ!アナタ!もう頭浮かれまくってるわヨ!パーティーピーポーが群れているわよ!!!ヒイエアアエアア!!!生徒と、歳も近い!!怖い!!!!同世代なんてしばらく話してないワヨ!!!!恐怖しか無いワ!!!!!!!オッソロシ!!!!!」


十分な偏見も含まれているが確かにそういう人もいるであろう。そしてそういう人種はまさに夜に活動して一人で引きこもりみたいな生活を送るハルバレラとは全く真逆の生態であった。つまり苦手である。シンプルに、苦手である。


「デンワデンワデンワ!電話ー!やっぱり断ろう!そうしよう!それがベスト!それが安全!虎穴に入らねば身元完全保障オールオッケー!君子危うい所は大ジャンプ!!!!!」


訳の判らない言葉を連発しながら自室の電話を操作して大学に電話をかけるが…夜の10時に大学理事長に電話が繋がる筈も無い。


「アワワワワワワワ!!!」


朝起きてから再び電話しようとハルバレラは決心した。

しょうがなく夜食を一人で食べて、今現在とある企業と提携して行っているプロジェクトの資料作成をして、自分の研究を進める時間を過ごしていた。普段は伸び伸びと動けるこの時間が大好きなハルバレラであったがどうにも不安だ。不安でしょうがない。早く、一刻も早く断りの電話を大学に入れたい。言い訳ならいくらでも思いつく。湯水の様にその言い訳が浮かび上がる自身がある。何が何でも断ってやる!という強い決意が生まれるが不安は晴れない。早く太陽は上がれ!義務でしょう!!と何度も窓から空を見つめるがまだまだ当分お日様は上がりそうに無い様子。いくら稀代の大天才ハルバレラ・ロル・ハレラリアと言えども太陽を操作する事は到底無理実現不可能である。



「ナ、ナンデこんな目に。うううっ…。」


全て昼間の自分がやった事である。


「誰かが、誰かがワタシを陥れている…!」


自分が決断した事である。


「理事長が悪い!テピス大学の!の、の、呪い殺してヤル!!!」


話を承諾したのは自分でありテピス大学理事長は一つも悪くない。



いくら悩んでも解決法が浮かばないので (夜空の中をぶっ飛ばして大学までいって魔力を力の限り解放して物理的に全校を滅茶苦茶に破壊してやろうかとも考えたが流石に止めておいた。) 彼女はしょうがなく朝を待つ事にした。長い長い嫌な嫌な夜だった。こんな夜は初めてだとハルバレラは思う。何故なら夜の暗闇は普段はハルバレラを優しく人の目を、彼女の一番嫌いな物から護ってくれているからである。今日の夜の暗闇は、近い未来実現するであろう恐怖しかか想像させてくれないし、護ってもくれない。



ところがである。


朝一番で理事長に電話をかけたハルバレラはこの話を断ることをしなかった。


「えーと…はい、ええ? ええ…!? えーと、ええ!はいっ!今日はその、諸々の日程を確認したいなと思いまして…。あら、私ったら楽しみで気が急いてしまったのかしら…フフっ。…ええそれはもう、ええ。はい、よろしくお願いしますね。では、今日はこれで失礼します…。」



ガチャリと受話器を置いたと同時に己の額も机にドスンという音を立てて机に突いた。


「こ、こ、こ、断れなかっタ!!!!アタシったらあんなに一晩中断ろうと思ってたのに!!だってその!!!他人の申し出た依頼を断るとか難しいんですモノ!!…人と会話するって難しい!!キツイ!!辛い!!切ナイ!!!アヒーーーーーーーー!!!!!」


従来引っ込み思案のハルバレラに一度受けた依頼を断るという様な事は出来なかった。電話越しでも相手の顔色を伺ってしまう、つい頷いてしまう。これが魔法・魔学の仕事の依頼なら話は別だ。どんな案件も彼女の実力なら形に出来てしまうそれだけの才能があった。ただ今回は…多くの大学の生徒や人間と触れ合う事にになる客員教授の件は、ハルバレラに取ってはどんな難解な魔法式を描いて生み出す事よりも高度な事であったのである。


「やるしか無いのね客員教授…ガラでもナイワヨ…。どうしてたのかしら昨日のワタシ…バカじゃないの…。アヒヒヒアヤヒ………。」


逃げられない事態にまで話が進んだ事を理解したハルバレラは、ようやく覚悟を決めた。

どうしてたも何も彼女の気質は躁鬱が激しいのでしょうがないのである。

ハルバレラの精神は常には乱降下と急上昇の繰り返し。もちろんそうなっているのは全部自分の性である。

客員教授として彼女が教壇に上がる日は二週間後の日取りと後日決定された。

その間に大学側や関連のある科の教授達と連絡を取り( もちろん外出用のまともな口調と振る舞いで )着々と講義内容等の準備を進める。受けた仕事としては全うにこなさないと、と腹をくくった。

内心とても嫌で嫌でしょうがなかった彼女ではあったが、仕事に対してはとても生真面目な性分であった。講義用にスーツや装飾品までも幾つか新調してしまった。




二週間後。

屋敷の前に大学側が用意した豪華な装飾のしっかりした二頭立ての馬車がハルバレラを向かえにやってきた。「ありがとうございます。」とお礼を言ってハルバレラはそれに乗り込む。魔法で空を飛んでいけば3分も掛からず到着するが、いきなり初日で空から舞い降りてくるというのも目立ちすぎるので止めて大学側の行為に甘える。


ハルバレラが11歳の時に提唱したヒルッター理論とそれに基く特許取得による恩恵はハルバレラ自身にだけでは無く、この街全体に恵みと活気をもたらした。それまで隣国と首都を繋ぐ街道的立場と農業しか無かったこの地域一体に魔学産業が生まれ、それによって人口も増加し様々な施設も増えていく。行政側も税収で潤い病院も、学校も、他の様々な施設も新たに作られ街は根本的に改造・整理された。ハルバレラの功績によってこの街は生まれ変わったのだ。


ヒルッター理論。

エーテル内に情報を組み込み転送させ、遠距離の魔機にて受信させ遠く離れた人物と高度で高密度な情報を共有可能にしたシステム。従来の通信システムにあったエーテルを電気信号等に変換せずとも少量のエーテル内に情報を組み込みそのエーテル自体に指向性を持たせ情報を発信する。

この技術の到来により魔学は生まれ変わったとも、技術的ブレイクスルーを起こしたとも言われる。

純粋な魔力の結晶たるエーテル自体に情報を組み込める事が可能と判明され、小型の装置でもありとあらゆる情報を搭載した結果機能を持たせる事が出来る様になり、更に研究が進めば現状の通信システム全てが遥かに進化を始めるとも言われている。いずれこの星の裏側の人間とも自宅で気軽に会話したりも出来るとも。ヒルッター理論の登場によりエーテルその物に情報を蓄積させる事も可能となり、エーテル信号の命令を記録した媒体に送り、自在にあらゆる保存された情報を引き出せ、今やあらゆる専門知識が薄い専用魔機端末から自由に閲覧出来る。ペーパーレスの時代もやってくるのではとの予想すら魔学専門家から上がり始めている。


この街は10年前に当時11歳だったハルバレラが発見した理論により発達し、発展してきた。

テピス大学側はそんな街の英雄とも言える彼女に以前から教鞭を振るって欲しい、という依頼を再三申し出ていた。そしてそれがハルバレラが春の陽気に誘われてか何なのか、気まぐれとはいえだがいよいよその願いが現実として実った。豪華な馬車で出迎えもしてくれるという物である。


豪華な馬車に揺られながらハルバレラは手鏡を取り出し必死にメイクの様子を見たり前髪をイジっている。企業等のプレゼンや招待で公に外出する機会は多々あるのでそれなりの身なりを整える術はあった。だが大学ともなると違う。回りは21歳の自分と近い若い学生達が群れている。普段の国のお偉いさんや企業のお偉いさんのオジサンオバサンに囲まれるのとは色々ワケが違った。


(アアアアワワワワワワアアワワ!!二週間前のワタシ死ね!!時よ止まれ!!!アガガガッガ!!)


豪華な馬車の中で怯えるハルバレラであったが、大学から自宅まで対した距離も無くあっと言う間に到着した。馬車のドアを正装した運転手がノックして到着を知らせる。


「じ、じ、じ、地獄の門が開くワ…。」


馬車のドアが開き、中から白いスーツに身を包んだ豊かな長い黒髪の若い女性が歩み出る。

ボサボサの髪はこの為にしっかりとブローしてきた。美容院は美容師と対面して二人きりになるので大の苦手なのでいかないが、時に魔法も使用して色々身なりを整える術も習得している。ハルバレラは外面だけは大変良かった。それも、全部他人を恐れているが故に。

大学側は理事長から各分野の教授達、それに多くの生徒が総出で出迎えて彼女の到着を待っていた。優雅に、そしてゆっくりと馬車から出てきた彼女は大きな拍手に包まれる。生徒達がつくったであろう大きな歓迎の飾りつけが大学の門にびっしりと備え付けられ、目の前の校舎の一つの屋上からは

「ようこそ!ハルバレラ客員教授様!」と書かれた垂れ幕が存在感を放つ。

穏やかな笑顔で辺りを見渡しそれに挨拶をするハルバレラ。


「皆さん、わざわざ出迎えありがとうございます。私みたいな者に…こんなに…」


笑顔で挨拶する心の裏でハルバレラは


(ぎゃああああああ!若い子イッパイ!死ぬ!死ヌ!多スギ!ダメダコレ!!!アヒヒイイアアア!!)


と、心の中で悲鳴をあげて大騒ぎであったのを周りの人間は決して知らない。




いざ初回の講義となるとこの町から生まれた魔女・稀代の若き大天才ハルバレラの教えを聞こうとこの学校で一番広い講堂にびっしりと生徒が集まった。ガチガチに緊張しながら講堂の中に入り、教卓まで脚を進めたハルバレラ。魔法学部魔学課の講義なのに、魔法学部に関係ない生徒も多くが集まってきているのである。若い男もいる。自分と同じ様な年頃の女の子もいる。彼らは目の前のハルバレラに一斉に目線を送る。普段外に出て活発に交流しているであろう若き生徒達の顔は晴れやかで、明るくて、楽しそうで完全に自分と違う人種だ!とハルバレラは勝手に心理面で追い詰められた。顔は外向き様の笑顔を絶やしてはいなかったが、足はブルブルと絶え間なく震え履いているヒールが振動で折れてしまいそうだ。


(も、モウダメ!!普通にムリムリムリ!!あれを!あれをヤルシカナイ!!!)


ハルバレラは表情を崩さぬまま心の中で強く念じて魔法を使用した。

自分で自分の意識に暗示をかけたのだ。それは他人が皆クマの可愛らしい人形にしか見えなくなるという術法であった。自分の意識に影響を及ぼすこの魔法は体と脳に大きな負担となり長時間の使用は体にダメージを与えるのだがそんな事言ってられない。後で後遺症でしばらくはフラフラになろうとも目の前の圧迫感より遥かにマシな事であると彼女は考えた。


魔法が発動する。

一瞬だけ彼女の体の回りから微量のエーテル光が放出されたが、余程の魔法才能者でも無い限り気づかないであろう。ハルバレラの視界が一瞬の間だけ光に包まれた後、講堂にいる大勢の人間はみんな愛らしい茶色の毛皮のクマさん人形となった。首元に色とりどりのリボンをつけた可愛いクマ達がぎゅうぎゅうに並んで座っている。机に座れず遥か後方で立っているクマさん達も大勢いる。窓から覗き込もうと講堂に入れなかったあふれたクマさんが廊下側にも外側にも多数詰め掛けている。男子生徒も女子生徒も、見学に来ていた大学研究員や助手や助教授や教授も、老いも若いも全員クマさん人形と化した。途端に可愛らしいファンシーな空気となりハルバレラは冷静さを取り戻す。


(ヒィー、うまくイッタワ。…アヒヒヒ!!こ、こりゃ傑作!!でもコレ実用化はムリなのが残念ネー!)


やはり後遺症の関係でこの魔法式を元に魔学として魔機に落とし込むのは到底無理な事であった。

この魔法を本格的に試すのはこれが初めての彼女。こんな面白い風景誰かに見せてやりたい!もったいない!と心の中で考えていた。



「…さて、皆さん。本日はこんなにもお集まりいただいて本当にありがとうございます。」


ハルバレラが教壇に置かれたマイクに話しかけ講堂全体に設置されたスピーカーからそれが大きな音となって出力される。マイクからの情報をヒルッター理論の原理でエーテル信号を飛ばし、その情報を元にスピーカーから大きな声となって出力されている。これもまた、ハルバレラが生み出した技術の一端であるのである。

ハルバレラが第一声を上げた事により講堂全体から「 ワァ! 」という大きな声が上がった。彼女の視界からしてみればクマさん達が騒いでいる風に見えてこれまた大変に可愛らしい。

周りがクマさん軍団になって楽しい空間になったのもあってリラクックス出来たハルバレラは饒舌になり次々と喋り始める。


「さて、皆さんは魔法をどうお考えですか?魔法学部に在籍している学生さんがほとんどだと思いますが、改めて考えて貰いたいと思います。それは私の様に特別な才能を持った能力者のみが使用を許されるのか?いえ、そんな時代は50年前に終わりを告げました。魔学が生まれ定義されたのです。魔法とはエーテルの力を操り生み出す常識を超えた奇跡…。しかし今は既に奇跡ではありません、学問として解析されこの星の奇跡は人の手によって魔機となり身近な物となってきています。」


ポンポンと、マイクを軽く手に叩く。

広い講堂内にボゥン!ボゥン!という低音が響いた。


「このマイクにしてもそうですね。50年前の魔学が発達する前まで、私の様な大勢の前で講義をする人はさぞや大声を張り続けたでしょう。フフっ。」


そしてハルバレラは自分の体を魔法で浮かべた。そしてクマに見える生徒達の頭上をスカートの中身が見えない様に軽く、ゆっくりと飛んで講堂全体を巡る。それを目で追いかけていたクマ達から多くの歓声が上がる。その完成に手を振って笑顔で答えるハルバレラ。周りがクマちゃんだらけになったのでもう怖いものは無い。今みたいなパフォーマンスでもやってみせる。そしてふわりと元の教壇の前でゆっくりと浮かんでその場に滞空した。


「では…皆さんは、今の様に空を飛んだ事がありますか?」


教壇の前で浮かんでいるハルバレラを見つめるクマ達は一斉に素直に首を横に振る。大変可愛い。


「そう、この様に飛行をする魔学の理論もそれを実現する魔機もまだ生まれていません。何故でしょう?私は先程魔法は既に奇跡では無くなった、と言いましたが…。まだまだ一部の先天的な才能を持った魔法使い・魔女でしか使えない術は沢山存在します。その一つがこの身体が重力の枷から飛び出す自由飛行です。今の魔学ではどうしても飛行する際に自身の体重を持ち上げる強力な浮力を得る為のエーテル使用が必要不可欠と言われており今の様な自然な飛行が出来ません。後は燃費の問題と、それを制御するバランサー等を開発する術は無いのです。まだまだ魔力を持たぬ大勢の人には奇跡のままなのです。」


ハルバレラは床に着地して再び地上にいた時と同じ教壇の位置に戻る。


「ですが、私がヒルッター理論で通信や情報処理分野を始めとした事に革命を起こした様に。いずれ魔法がもっと魔学として突き詰められればきっと、この飛行技術の魔法も魔学を通して魔機となり普及して一般的な物となるでしょう。その為に将来の皆様達が努力し、勉強を積み重ね、新しい発見を生む事。その為の礎に成れればと思い立ち、以前からお話を頂いていた客員教授のお話を1年間限定ですがお受けしました。私の発見と知識を多くの人に知って、学んで貰い、そしていつか遠くない未来で私が空を飛ぶ様に見る魔法を使った夢の景色が一般的な物となり、多くの方々と共に幸せのビジョンを共有できる。そんな世界が来る事を祈っております。魔法使いや魔女が使う魔法と違い、魔学は平等です、才能の有無は関係ありません。その努力とひらめきとかけた時間は裏切りません。共に精進し歩んでまいりましょう。皆様、これから1年の間。短い期間ではありますが、どうぞよろしくお願いします。」


ハルバレラの本格的な講義開始前のスピーチに大勢の人々が惜しみない拍手を送った。

多くの拍手の音ががハルバレラを包む。その拍手は講堂の外の窓から覗いている人々からも送られた。

しばらく鳴り止まぬ拍手の数々、ハルバレラは笑顔でそれに手を振って答える。


(アーヒヒイヒヒヒイヒヒ!中も外もぎっしり詰め掛けたクマちゃん達が短いお手手で一斉に拍手しているわ ゲヘハハハハヘヘヘヘハー!!!!!ウヒイイイア!!!!!!!)


顔は外様向けの柔らかい気品に満ちた笑顔のままで、普段のハルバレラが裏の心中で腹を抱えて不気味な笑顔と奇声を上げて笑っていた。


(デモ…本当にソウナッタラ、ステキネー。 この面白い景色もいつか誰かと共有デキルカモネー。)


やはり裏のハルバレラではあるが、笑い転げながらではあるがそうも考える。

誰しもが魔法の力の恩恵を惜しみなく受けられる世界、自分のビジョンが他の人にも見える未来。

それは外面の面で発した言葉ではあったが確かにハルバレラ・ロル・ハレラリアの本音でもあった。

そして、それこそがハルバレラの思い描く理想のこの星の未来そのものであった。

彼女は言動こそ奇抜で奇妙な一面があるが、その心根は実に真っ直ぐな一人の人間でもあった。


「では…本格的な授業に参りましょう。私の授業、応用魔機技術の第一回目の講義を始めます…。」





……


………





「オエエエエエエエエエエぇぇぇ!ギモジワルイイイイ オエエエッ!ウェッ!!!キエエエア!!!」


テピス大学内の魔学課棟に用意されたハルバレラ専用の研究室にある革張りの攻究ソファーの上で、白いスーツのまま彼女は寝転がり悲鳴をあげて悶え苦しんでいる。講義の際に多数の視線からの緊張から逃れる為に使った魔法【他人がクマさん人形に見える術】の後遺症。自分自身の強制的に暗示をかけるこの魔法はその負担が直に本人の身体に帰ってくる。クマさんの術はハルバレラの脳を揺さぶっていたのだった。


「アヒー! 1時間ちょっとの講義でも辛い!改良シナイトとてもツカエネー!!」


大学側は一年間という短期でありながらもハルバレラに専用の研究室を用意した。魔学棟校舎の三階にあるとても広い一室。この学校でも実績を残した予算潤沢な名のある教授が使用するかの様な立派な部屋だ。講義終了後は理事長を始め多くの学校関係者や講義を受講した生徒達ががハルバレラのテピス大学内研究所に尋ねてこようとしたが、「慣れぬ講義で緊張しましたので…。」と最後の力を振り絞ってギリギリの笑みを浮かべ一切の面談をシャットアウトした。元々人見知りのハルバレラは普段でもそうしたであろうが、今現在悶え苦しんでいるので断って正解であった。


「こんなの一年も持たないワ…半年、ウウン三ヶ月ぐらいにシテモラオウカシラ…てかもう今日で終わりにしませんか?ドウッスカ?ムリデスヨ?ムリッショ?キツイッショ?キッツ…!!! もう後でテキトーに感想論文でも提出シテモライマショウ! それでオワリヨ!!オワリ!!!!」


ヤケクソになったハルバレラはソファーの上で仰向けになりながらその様な独り言を吐いた。

慣れぬ事はする物ではない、自分が魔法を使える様に世の中には人に選って向き不向きがある。これからは物事はよく考えてから処理しようと深く心に誓った。企業や国からの魔学術的な依頼であったら彼女の才能を持ってどうとでもなるのだが今回ばかりはそうもいかなかった。


「ハァー!厄日ヨ!今日という日は呪われてるワ!シネエエエエエエーー!ウウウウ頭イタイ!!!」


一人きりになりいつものテンションでハルバレラが悶えていると天井から


『ゴッゴッ…ザザザ…』


と、静かな何か蠢く音が聞こえてくる。


「…ホエ?」

ハルバレラが疑問の声を上げる。頭を抑えつつもその物音の方をじっと見つめる。

天井の一部がゆっくり動いた。


そうかと思えばその瞬間、

『ガタ…バタン!』という音と共に天井の一部が落ちてくる。


『ドシイン!』と大きな音を立ててその一部がテリナ大学内ハルバレラ研究所の床に落下する。


それに驚く暇も無く続いて人間も埃にまみれて一人落ちてきた。




「うぁ、うああああああああ!!」



という悲鳴を上げて埃を舞いながら天井から人間が落ちてくる。

咄嗟にハルバレラは魔法の力を使い、その落ちてきた人間を落下から救う為に宙に浮かべてゆっくりと空中で固定した。


(ナンジャアアアア!!!!?!?!?天井から他人がハイッテキタワ!!!大学ってワカンナイ!!!)


「うああ…!!ああっ? …凄い、これが本物の魔法だ…。」

落ちてきた人間は魔法の力で宙に浮かびながら感嘆の声を上げる。


「エット、ソノ…あなた、大丈夫?」

急いで外向けの表情を作り、ハルバレラが落ちてきた人間を観察する。

自分と歳の近いであろう痩せ身の若い男、顔は…とても綺麗だと思った。まるで雑誌で見るような舞台俳優の様に大きな黒い目に小さいながらも整った輪郭、形の良い鼻。少し長めの黒髪から覗く耳まで美しい。思わず彼女は見惚れてしまった。何も言わずに彼の姿に見惚れた。しばらく二人は、若い男の方は宙に浮かんだまま見つめ合う。


しばらく時間が経った後、若い男が宙に浮かんだまま口を開く

「あの…今日応用魔機技術の講義を行った…ハルバレラ先生ですよね…?」


「アヒアア!?…ああいや…ええ、そうですけど、貴方は…?」

思わず素に戻りそうだったハルバレラは慌てて表情を外向け用に戻す。


「僕は、僕はテリナ・エンド、18歳でこの大学の魔学課の生徒です。」

黒髪黒目の少年は自己紹介をする。この学校の生徒で所属する課もハルバレラが担当する教え子であった。


「あら…。どうして天井から…?あっ、貴方を降ろしてあげないと…。」

ハルバレラが魔力を操作してテリナと名乗った青年をゆっくりと床に降ろす。


「ありがとうございます、助けて貰って。怪我してたかもしれない…。こんな入り方してすいませんでした!」

テリナはハルバレラに大きく頭を下げた。


「ええ…お怪我が無くて何よりですわ。」

(い、い、イケメンが天井から降ってきたワ!何が起きてるの!?とととととととりあえず落ち着いて!)

表向きの表情の中でハルバレラの心は大騒ぎが始まっている。歳の近い美青年と密室で二人きりになった事なぞ彼女には始めての出来事であった。


「先生にどうしても逢いたかったんです!でも表からじゃ警備員もいるし…。だから同じ三階にある実験準備室から天井を空けてここまで忍びこんで来ました!」


テピス大学としてはVIP待遇のハルバレラの、その専用の研究室に続く廊下には警備員が配置されている。本来は研究室入り口前に配備されていたのだが他人に監視されている様で抵抗があったので彼女の願いから少し下がって廊下の方に立って貰っている。


「生徒さんなの…。講義後は少し疲れまして…。面会を遮断してたから、ごめんなさい。」


「いえいえ!…全部僕が悪くて。で、でも、どうしても聞きたかった事があるんです。」


「講義の内容かしら…?質問は次の講義で受け付けますが…。」


「違います!先生が一番最初に使った魔法の事です!」

テリナという学生がソファに腰掛けていたハルバレラの目前まで接近してきた。

歳の近い異性とここまで接近したのも始めての彼女は一気に緊張する。


( ア…!ちょ!…ヒーーーーーアアアアヒァー!!!! )

「アヒァ! いや…そ、その、一番最初に使った魔法と言うと飛行した時の、で、デスカ?」

緊張しすぎて少し元のハルバレラの性格が漏れている。


「違います!その前に何かを使われましたよね!?一瞬だけ!何をしたんでしょうか…?でも僕にはしっかり見えたんです。先生の体から少しだけ発せられたエーテル光を!」


「…! 見えてましたか…?」

ハルバレラは驚いた。あの一瞬、気づいた人は誰一人いないだろうとと思っていた。


「はい!確かに!」

更に食い入る様にテリナと名乗った男はハルバレラに顔を近づける。大きな黒目がハルバレラの顔の目の前にある。本当に綺麗な顔だ、吸い込まれそうだと彼女は感じる。美しい顔の美しい黒い瞳、再びその顔に見惚れてしまい彼女の思考が止まる。本当に、本当に綺麗な顔だ。


「…。」

テリナという青年の美しい顔に見惚れていた所で彼女の感覚に触れる物があるのを察知した。

これは、エーテル。

この青年は魔力を放出している。

それを感じて我に返ったハルバレラはテリナの両頬を両手で思わず押さえた。


「え、先生…?」

両手で顔を優しく抑えられたテリナが動揺の声を上げた。


「貴方、能力者ね…。貴方の体、いいえ、その黒目から発せられたエーテルが私の魔力に干渉したわ。」

優しく撫でる様にテリナの頬を抑えながら、ハルバレラは彼にそう語りかける。


「え!?」

驚いたテリナは慌ててハルバレラの手から離れて身を引く。


「そうでしょう、どの程度か判りませんが…。貴方は無意識にエーテルを放出する時があるわ。偶に授業の実技や実験で使用する測定魔機が誤作動したりしませんこと?」


「はっ、はい…!この前も物体の中の残留エーテルを調べ様とする時に測定魔機が誤作動して…。流石だ、こんなに直に見破られるなんて…。」


「フフっ、私は魔女よ。魔女はエーテルの流れを肌で感じるわ。貴方からはゆったりとした、それでいて底にもっと凄い魔力の波を感じるの。ランクB、ううんそれ以上はありそう。魔法使いの生徒さんがいらしたなんて。」


「凄い…本当に凄い!流石ランクAAA、稀代の天才魔女だ! …でも、僕はランクBもありません。才能はあるのだけれど…。国の測定ではランクD止まりです。」


「アヒャヒャ?」

予想が外れてハルバレラは肩からずり落ちそうになり地の声が出た。


「アヒャヒャって? ハルバレラ先生?」

テリナは急に奇声をあげたハルバレラに驚いている。


「ああいやいや! フフっ、なんでもありませんことよ!…それにしても私には不思議ですわ。私の肌は貴方の魔力をとても強く感じる。内に秘めている力は相当強いと思うのですが…。」


「そ、そうなんですか…!僕が…ランクDのあっても無くても変わらない物だと思っていた僕の力が、そんな可能性があるなんて…知らなかった…!」


「テリナ君といったかしら? 私の横に座ってくださる?」


「え? あ、はい!失礼します!」


ハルバレラの座っているソファにテリナも腰掛ける。彼女は体をテリナの方へ向けて二人は向かい合った。

片腕の人差し指を立てながら目をつぶって集中したハルバレラは、その人差し指の上に光を発するエーテルの塊を作り出した。


「わぁ…!」

テリナがその光に圧倒されて驚く。

ハルバレラが目を開いてテリナを見つめる。


「テリナ君、この光を見つめて。」


「これをですか? なんでしょう…。」


エーテルで出来た光の塊は風に揺れる炎の様に静かに揺れている。

まるでテリナの体から風が吹き付けているかの様に。


「貴方の方から力が発生しているから揺れているのよ。微量ながらエーテルの風とも言うべき揺らぎが発生している。テリナ君の魔力が私の魔力に引き寄せられているのね…。私は今、体から沸くエーテルを止めているから…良く判るでしょう?」


「本当だ!魔力、エーテルはより強い質量に反応して弱い方はそれに引き寄せられる…!その性質ですか!?」


「そう、大変よく答えられました。」

笑顔でハルバレラはテリナに一人の先生の姿で答えた。

説明が終わり人差し指のエーテルの塊を消滅させる。


「僕は、無意識の内に…。」

己の両手を広げてテリナは見つめる。

今まで自分の魔力をコントロールする術を知らなかった彼は驚くばかりである。能力があると幼少の頃から言われ続けたが所詮ランクD、形となって自分の魔力が証明される事はほとんど無かった。


「そして、ランクDだとしたらここまで揺らぎが判る程の、そんな強い魔力は放出されませんわ。貴方は自分の力の発現方法をまだ知らないだけ…。本来の力はもっとある筈よ。」


「そ、それを!僕に!その方法を!お願いです!!教えてください!!!」

テリナは興奮してハルバレラの両肩を持って激しく揺さぶって食いかかってくる。


(アヒヒアヒアイハイアアッヒア!!!アヤヤヤヤヤヤヒヒヒヒーハヤーアーア!!!??)


他人に直接体を触れられる機会等、21年間の人生で一度も無かったハルバレラは顔を真っ赤にした。それもこの目の前の自分の肩に触れている男は容姿端麗の見事な美少年、彼女の緊張は極限まで達した。

興奮と緊張の余りハルバレラの視界が歪む、これは【他人がクマさん人形に見える術】の後遺症ではない。今、目の前で起きている予想だにしなかった出来事の為である。ハルバレラにとっては微量に感じる出力であるが彼からエーテルの波も伝わってくるのが感じられる。男性のエーテルの波に直接触れたのは初めてだった。心も、頭も、体も、そして体の奥の魔力まで熱くなる。


「ちょ、ちょっと!て、テリナ君!も、もうだめ!ヒアアアア!!お、お、お、落ち着いて!!」

まるで自分に言い聞かせる様にハルバレラは言葉を振り絞った。


「…あ!す、すいません!今日始めてあった先生に…!僕、目の前の事に夢中になると周りが見えなくなって…。ごめんなさい!」

テリナはハルバレラの体からゆっくり離れる。

ハルバレラの肩にはまだ彼の強く暖かい温もりと感触と、そして手から伝わっていたエーテルの波の感触が彼女の心の中で強く強く、響いていた。


「ふ、ふ、フーーー! 驚きました…!」

何とか平静さを保ったハルバレラは額を手で押さえた。

長らく引きこもっていた友人もゼロ、彼氏も出来たことが無い、プライベートで交流する人間ほぼ一切ゼロ彼女にはこの接近は刺激的過ぎた。


「僕、僕は。小さい頃ランクDとは言え才能があるって…。とても喜びました。学校の魔力測定検査でひっかかった僕を精密調査しにきた国からの機関の人からも、頑張って伸ばせば才能が開花するかもって!でも、この歳まで才能は開花する事は無く…。だから魔学の道に進んだんです、自身の才能には見切りをつけて…。」


「そう…。でもそれも素晴らしい事だわ。現に貴方はこの大学に入学出来ているんですもの。18歳だとすると現役合格よね?テピスの倍率はそんなに低いものではありません。貴方は形を変えながらも夢を掴む事を諦めなかったのね。それは立派な努力の証拠だわ。」


「で、でも僕には見えた!周りの友人は気づいていなかったけど!僕には見えたんです!先生が登壇した時に放った一瞬のエーテル光を!僕には見えた…見えたんです!…その時思った。魔女ハルバレラの魔法が僕にはあの中で唯一認識出来た!僕は!僕は…!やっぱり諦めきれない!僕は魔法使いになりたい!自分の才能を開花させたい!折角!折角の天から授かった才能を…!」


再び食い入る用にハルバレラに接近するテリナ。

黒の綺麗な目元に力が入り、歯を食いしばって彼女を見つめる。

このランクDのままというテリナの現状は彼にとって相当なコンプレックスなのだ。

そのコンプレックスが情熱となり、彼は屋根裏を這い回って、埃まみれになりながらも彼女の前に現れた。

ランクAAA、稀代の天才魔女、ヒルッター理論の提唱者。

国から功績により「ロル」の称号を授かったハルバレラ・ロル・ハレラリアに。

そんな彼女が目の前で奇跡を見せた。そしてその一つはあの広い講堂にはみ出すほどに押しかけた大勢の中で自分だけが感知出来た。テリナはいてもたってもいられなかった。


「テリナ君、落ち着いて…。」

彼を宥め様と肩に手を置いた。先程頬に手を当てた様に再び自然と他人に触れていた。

その自らの行動にハルバレラは驚いた。

先程とは違い、今のは完全に無意識だった。


自分がこんな事をするなんて。

自分から他人に触れるなんて。

他人の目まで、共に暮らす両親や使用人の目線からも逃げていたワタシが、ワタシが…。

他人を恐れいていた私が、他人を思いやりを…。

ワタシが…。



「先生…。僕は自分の才能の可能性を知りたいんです。だからここに、先生に逢いたくて。先生に逢えば何かきっかけがあると思って。急にこんな失礼な押しかけてすいません…。」


「…。」

ハルバレラはまだ彼の肩に手を置いたのを、自分自身で驚いていた。

自然と手が伸びてそうして振舞った。コミュニケーションを拒否して他人を避けていた自分が無意識に他人を思いやり寄り添う行動を取った。それも歳の近い男の人に。始めて今日出会って会話した人に。

…それは彼女にとって純粋な驚きだった。


「先生…教えてください。どうしたら良いんでしょう…?」

テリナはその美しい顔と美しい黒目を曇らせて、懇願してハルバレラに語りかけた。


彼から発せられるエーテルを感じる。ハルバレラからしてみれば弱く、そして頼りなく感じるエーテルの風は彼女の心をそれとは反比例して激しく揺るがした。


「大丈夫よ。貴方には才能があるわ。この歳、18歳でしたか?もう大人になってしまっているのを気にしているのでしょう?ですが年齢は関係ありません。私にはしっかり感じます…。テリナ君の奥底にあるエーテルの胎動を。はっきり、はっきりと。」


「先生…。僕に出来ますか?先生みたいに…いいやランクAAA程とまでは言いません!ただ、僕は…。」


テリナは研究室の窓から顔を動かして外を見つめる。

向かい合ったハルバレラも目線を追って外を見つめた。


「先生、僕は先生みたいに空を飛んでみたいな…。子供の頃からの、本当に馬鹿らしい子供みたいな夢だけど、僕は空を飛んでみたいな。そんなに早く飛べなくても良いんです。なんなら…!高い場所からゆっくり降下するだけでも良い…。ムササビみたいに…。子供の頃に首都に親と一緒に遊びに行った時に見たんです。首都のランクA魔法使いの男の人が空を遊覧して見せる出し物を…大道芸みたいな感じだったけど。憧れた…。だからランクDと測定された時は嬉しかったんです。僕もいずれ空を飛べる様になるって…。講堂の講義で先生が空を飛んで見せて、そしてさっきも僕を宙に浮かべてくれて助けてくださって、嬉しかった…。とても子供っぽい夢絵空事ですが、それは今でも憧れなんです、この地面から足を離して飛び立つのが。ははっ」


彼はハルバレラの顔を振り返って見て照れくさそうに笑う。

綺麗な顔が笑った事によりとても可愛く、そしてさらに美しく見える。

黒髪がなびいて、音を立てる様に動いた。

再びハルバレラはその顔に、その姿に、美しいテリナという青年に見惚れた。



心を打ちぬかれた。



ドキン!という大きな音が彼女の心臓でなる。


自然とハルバレラは彼の体から発せられるエーテルの波のパターンを覚えていた。

この波長はなんて心地良くて、なのに胸をざわつかせるのだろう。

経験したこと無い感情と疑問が一気にハルバレラの体全体を包み込む。

心も体も、そして彼女の体内に潜む魔力すらも彼の存在を瞬く間に激しく意識し始めた。

魔女にしか与えられない感覚で彼女は彼をしっかりと認知していた。

魔女でしか味わえない感覚で彼女は彼の胎動を感じた。

魔女のみが持つ第六感で、はっきりと。



ハルバレラはテリナの片腕を両手で包み込んだ。


「先生…?」


「テリナ君、きっと飛べるわ、貴方の才能なら間違いない。力は問題ないわ、後はその力の引き出す制御の練習をすれば良いだけ。きっと、きっと大空を飛べる様になる。」


「ほ、本当ですか…! やった、ハハハ!やったぁ!!」

テリナがその大きな目を見開いて明るい笑顔を作る。

その素直な笑い顔にまた、ハルバレラは飲み込まれそうになった。


「だから次の授業でこの大学にくるのは…二週間後ね。またここにいらっしゃい…。私、この研究室で待ってるから。きっと…。一緒に訓練しましょう。あなたの力を引き出して見せます。」


「良いんですか…!先生には沢山逢いたいって人はいると思うのに!今日の講義だって凄い評判良かったんですよ!次もまた出ようって友達とも…!」


「ありがとうテリナ君。大学からのお話を受けて良かったわ…本当に、本当に良かった…。」

それはハルバレラの心からの言葉。


「どの位で空を飛べるまで成長出来るかな!?一ヶ月やちょっとじゃ無理ですよね…?」

ハルバレラに疑問を恐る恐る聞く為に顔を覗き込んできた。

テリナの美しい顔は若さ故か、目まぐるしく感情によってその一面を大きく変える。

様々な表情がどれも何て美しいのだろうとハルバレラは心の底から感じていた。


「一ヶ月じゃ無理ね。」

笑いつつも眉をしかめてハルバレラが返す。


「あ、やっぱり…。」

テリナががっくりと肩を落とす。

残念そうにするその姿もまた、ハルバレラの心を擽った。


「半年か、一年か、いやもっとかかるかもしれない。今まで発現した事は無いのでしょう?段階を踏んでいかないと。だけど私が感じる貴方のエーテル、きっといける筈よ。…長く掛かる事に耐えられますか?」


「がんばります!ランクD判定を押されたのが9歳の時だからあれから9年以上僕は耐えてきました。ハハハハっ!まさかこの街の英雄の!ランクAAA魔女ハルバレラ先生からお墨付き貰えるなんて!今日は何て良い日だろう!はははっは!!」


「喜んで貰えて良かったわ…。私もこの大学に来る楽しみが増えました。テリナ君という人の才能の開花と魔力の発現を目の前で見れるのね。とても嬉しいわ…。」


「先生…!ありがとうございます!頑張ります!」

テリナは嬉しくなって包み込まれた手を両手で力をこめて握り返してきた。

その事でまた、ハルバレラの心臓と魔力が揺れる。

白く細いながらも男らしくしっかりとした骨と筋のある彼の腕、彼女が想像していた異性の腕とは違った。現実の男の人の腕はしっかりしてて力強くて、そしてとても暖かい。


「…ええ、でも他の人には秘密ね。今日は理事長さんの誘いまでお断りしちゃったの…。フフっ。」

ハルバレラはくすっと女性らしい仕草で可愛く笑って見せた。


「も、もちろんです!誰にも言いません! 先生と僕だけの…秘密です。」


二人だけの秘密という言葉がさらにハルバレラの心を激しく揺らめかせる。

目の前にいるこの青年と、私だけの時間がこれからも生まれる。そう考えるだけで彼女の心は暖かくなり、そして同時に激しくざわついた。この気持ちは何だろう、ハルバレラの21年間の人生で今までの人生で決して味わったことの無いこの気持ちは何だろうと。

でも、今は彼を見ていたい。

この美しい青年を、この美しい顔を、この美しい黒髪を、この美しい黒目をいつまでもずっと見続けていたい。何もしなくても、会話も無くて良い。

ずっとずっと、このテリナを見つめていたいとハルバレラは思う。


二人はしばらく見つめ合っていた。



やがて次の講義がありますから、と頭を下げてテリナが動き始めた。

表から出ると見つかるから…なのでハルバレラが魔法で屋根裏まで彼を持ち上げる。

再び夢に見た空を飛ぶを体験出来たテリナはとても嬉しそうに笑う、その笑顔が、ハルバレラに今まで生きた中では味わえなかった特別な喜びを与えた。落ちてきた天井の一部もその後持ち上げて蓋をする。その際に一瞬だけテリナが隙間から顔を出して「先生、また。」と別れの言葉をかけてきた。


「また逢いましょう、テリナ君。」


ハルバレラも笑顔でそれに返した。


彼がいなくなった天井をずっとずっと、彼女は見つめていた。

二週間後にまた彼に逢える。二人きりで逢える。

そう考えるだけで心の動悸が激しくなる。

同時に再開まで二週間もの時間が必要なのかと唖然ともした。



アヒッ…!


アヒャヒャヒャヒャヒャ……!


アヒヒイヒイイヒアイヒアアアヒイヒアヒア!!


ワタシ、一体ドウシタノカシラ…?


何がイッタイドウシタノカシラ…!?


ウウン、原因なんてワカッテル


デモワタシ、始めてナノ


始メテだからワカラない


どうしていいか判らない。


彼の魔法の才能と同じ、まだ踏み込んだ事の無い世界の領域なのね。


私、どうしたら良いのだろう…。



この気持ちは何だろう。



彼に逢いたい。



もう、今すぐにでも。


あの綺麗な顔と細いけどしっかりした腕と手に、色白の肌が、今にでも恋しい。








私、どうしたのかしら。



私、どうなるのかしら。















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