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リッターフラン対魔学研究所・ロンロ研究員の災難

 この街が奇妙な現象に襲われ始めたのは丁度10日前程から。

季節は秋から冬に入ろうとしていた頃であった。


「そうねぇ、今はこの街で一日に20体から30体くらいかしら?いや、(にん)って数えたほうが良いのかしらねぇ?」


「うちの屋根にも落ちたよ、酷いもんでね、屋根を突き破って2階の子供部屋に落ちてきやがった。血も内臓も目ん玉も全部ブチ撒いてさ!片づけが大変だったよ!」


「客商売的には災難でしかありませんよ。いや他の仕事だってそうかもしれあせんがね。ここはお隣の国から首都にかけて一休みする中継地点でもあるからねー。いやーさっぱりだよ。」


「はい、私の学校にも落ちてきました。お友達のリンちゃんって娘と魔製物質学の授業で隣の校舎に移動している時に見ました。校庭の奥の方でどーんって!学校って広いからもう何度も落ちてきます。やっぱ怖いです。死体見るのも嫌だし、死に顔は笑ってるって言うし…。家に落ちてきたらって考えると寝れません。」



街中を歩けば荷を布で隠した馬車が世話しなく街道を往来している。

中身は…魔女ハルバレラの死体である。


10日前から、この街には魔女の死体が空から降ってくる。


魔女が、笑みを浮かべながら空から落ちてくる。


無数に限りなく、空から落ちてくる。


次々と、同じ魔女ハルバレラが死にながら落ちてくる。








腰に届きそうな程の金髪の髪を結んだ16歳の、まだ少女といって良い年齢の娘。

ロンロ・フロンコはこの怪現象解決の為にこの街にたった一人派遣されてきた。

この国の首都から馬で約2時間程かかるこの「災難に見舞われた街」に王国兵団警察機構からの依頼でリッターフラン対魔学研究所の研究員の一人としてやってきたのだった。


魔法が学問「魔学」として定義され、その知識と実践方法が勉学になって誰もが習得出来るようになって50年。魔学を利用した犯罪も日に日に増加傾向にある。リッターフラン対魔学研究所はこれらの魔学を利用応用した犯罪の真相解明と対策考案を前提として設立された。つまり今回の事件は「魔学」を利用した物では無いか、と王国兵団警察機構は判断したのだ。最も、人間が空から降ってくる事等は魔法つまり魔学を使用でもしない限り到底実現不可能ではあるのだが。




「お嬢ちゃんも大変だ、その歳でえらい学者さんになってるのは凄いけどこんな仕事とはねぇ。」


今日この日、現地入りしたロンロはこの街の住人から情報を集めようとあらゆる人に声をかけていた。

どの人もうんざりしたような表情である。

だが10日も経ったからだろうか、何処か不思議とこの現象に対して慣れてきているという感想も受けた。こんな事に慣れたくは無いなぁとロンロは会話をしながら思う。

今は街道沿いにあるちょっと古い建物のパン屋さんの店主にカウンター越しから声をかけている。古めかしい店だが店内はパンの匂いが充満し、中にいるだけで自然とお腹が空いてくる。

しかし店内にお客は誰もいなかった。人はロンロと店主のみである。


「ははは、学校を飛び級出来て研究所に入れたのは良かったんですが。大変な事件を任されちゃいました…」

ロンロは愛想笑いを浮かべる。


「いやもううんざりだよ、この前もつい一昨日だよ。配達先で丁度落ちてくるの見ちゃってさ。道を歩くのもおっかなびっくりだよ。いつ死人出てもおかしくないってのにまだ出てないんだから。不幸中の幸いかねー?」

少し小太りの50代前後と思われる店主は愛想笑いとも苦笑いとも言えない表情を浮かべた。


「事故は大小起きているみたいですけど、まだ死亡事例は無いのは王国兵団の資料でも見ましたね…。空の何処からいつ落ちてくるかわからないのに。どうしてでしょう?」

口元に片手を当ててロンロは会話をしながら考え込んだ。


「さーてなんでだろうね?でも、まぁ、それも時間の問題だよ。最近じゃ皆ビビっちまってこの街から引っ越す人も出てきたからね。客も数日前からさっぱりこなくなっちまったし、ウチはどうするかなぁ?」

そう語りながらパン屋の店主が暗い表情を浮かべたその時であった。






どーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!







「わぁぁああああああぁぁぁあああ!!!!!」



思わずロンロは体を硬直させて大声を上げた。

彼女の背後から強烈な、地面に何かを思いっきり叩きつけるような音がしたからである。

それは大きな物体が空から落ちてきて地面に叩きつけられた音であったのだ。


「うおおっ!?」


パン屋の店主もロンロ程では無いが驚く。

その音は店の外の、すぐ近くから聞こえてきた。

二人は顔を見合わせてパン屋の入り口のドアを開け、砂埃が舞うその大きな物体の着地地点を恐る恐る見つめた。


街道の一部が砂埃を上げている。その砂埃が風で流されていく時に黒髪の女性の死体が道に横たわっていた。着地での衝撃で全身の骨は折れ手足は変な方向に曲がり、首も生きている人間だとしたら曲がってはいけない方角になってしまっていた。



「あー! ああああ…! ついにウチの前に落ちてきやがったーーー!!こっちは食い物扱ってんだぞ!客がこなくなるじゃねーか!バカヤローーーー!!!!」

パン屋の店主は思いっきり魔女の死体に向かって吼える。


「ハルバレラ…!魔女ハルバレラ…!!」


あまりのショックに大きく目を見開いたロンロではあるが、死体から視線を逸らさず、しっかりと死体を見つめた。その大きな深い青色の目で彼女はしっかりと魔女ハルバレラを見つめた。空から落ちてくる魔女・ハルバレラを。





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