少女で奴隷でメイドなわたし
うーーーん! 今日もいいお天気。
あら、おはよう小鳥さん。うふふ、みんな仲良しねえ。
え? んー、ごめんね? 今は持っていないの。でもでも! あとで朝食のパンをこっそり持ってきてあげるから、ね?
「おーい、クーちゃーん! おっはよーさーん!」
あ、この声はお豆腐屋のデイヴィッドさんだ。
「おはようございます、デイヴィッドさん。配達ですか? 朝早くから大変ですね」
「いやあ、クーちゃんこそ。毎朝がんばってるねえ、お屋敷のお掃除。けっこう広いから時間かかって大変でしょ?」
「いえ、もう慣れちゃいましたから。どうってことないですよ!」
とは言うものの、お屋敷のお掃除はけっこう大変です。お庭はものすごく広いし、花壇はいっぱいあるし、それにお屋敷の裏には、厩と鶏小屋まであるんですよ? その全部を午前中に、女の子ばかり三人だけで終わらせるなんて無理に決まってます! いつも――、
「こら! クー! いつまでもくっちゃべっていないで、仕事をおし! 豆腐屋のあんたも用事が終わったのならサッサと帰んな! 仕事の邪魔だよ! まったく、これだから最近の若い連中は……」
――と、こんなふうにお婆ちゃんに叱咤激励され、お昼の鐘がちょうど鳴り終わる頃にようやく片が付くんです。
お婆ちゃんは、このお屋敷で働く人たち全体のリーダーみたいな人です。いつもガミガミとうるさいけど、時々こっそり仕事を手伝ってくれたりする優しい人です。
あと、あっちで掃きそうじをしているプラチナブロンドで目が青い子がシャーロットで、向こうに藁の束を運んでいる赤いフワフワの髪をしたのがリリーです。二人ともわたしと同じ十二歳。お休みの日には、一緒に町までお買い物に行ったりしています。ちなみに、わたしの黒い髪と漆黒の瞳はこのあたりでは珍しいらしく、町を歩いているとよくお食事に誘われます。もちろん、ノコノコついて行ったりはしませんけどね?
「じゃあね、クーちゃん。お仕事がんばって!」
「はーい! デイヴィッドさんもね!」
さてと、旦那様のために、お仕事がんばらなくっちゃ!
ひと月ほど前のこと。わたしは奴隷市場で売られていたところを旦那様に買われ、このお屋敷にきました。きっと、私のような子供が鎖に繋がれているのを見て憐れに思ったのでしょう。旦那様はわたしを連れてお屋敷に戻ると、すぐにお風呂と、清潔な着替えと、あたたかい食事を用意してくれました。そして、それまでいた牢のような小屋ではなく、ちゃんとした家具付きの個室と、仕事まで与えてくださったんです。それからは、もー、天国のような生活が続いています。あの日々――島の奥をお散歩中に両親とはぐれ、さまよううちに奴隷商人に捕らえられてからの、地獄のような日々に比べれば。
そんなわけで、わたしはその恩に報いるため、ここで毎日身を粉にして働いています。
それに……旦那様ってすごくハンサムなんですよ? もしかしたらいずれ玉の輿に――、
「――クー! ボーッとしてないで、ちゃんと手を動かしな! 今日は東の国から大事なお客様が来るんだよ!」
「はーい! お婆ちゃん」
「チーフと呼べって、何回言ったらわかるんだい! 万が一不備があってお客様の機嫌を損ねたら、おまえに体を使って接待してもらうよ! あの人このあいだ来たとき、よだれを垂らしそうな顔でおまえのことを見ていたからねえ。覚悟しときな!」
ひえー! なんだか身の危険を感じます。大丈夫かしら? わたし、ときどき大失敗をやらかしちゃうから、ちょっと心配。このあいだもお洗濯が終わったあと、干したばかりの旦那様のお着物に、頭から突っ込んで泥だらけにしちゃったし。もー、わたしのバカバカ!
「クー! クー! 買い物に行ってきておくれ。お客様にお出しする料理の材料が足りないんだ。買うものはこの紙に書いてあるからね。間違えるんじゃないよ!」
「はあーい。任せて、お婆ちゃん!」
わたしは元気よく返事をして、いつも行く八百屋さんへと出かけたのでした。
それから一時間ほどして。お屋敷に帰り着いた私は、お婆ちゃんが待っているであろう厨房に、渡された紙にあったとおりのお野菜を持っていきました。
「ふん、ちゃんと買ってきたんだろうね? どれどれ、ネギ、白菜、椎茸、しらたき……これだけかい!? 一番だいじなものがないじゃないか!」
ええっ!? だって、紙にはそれだけしか書いていなかったのに!
そう言おうとして、ポケットに入れてあった紙を取り出すと――なんということでしょう! 紙の端っこが折れ曲がっていて、一番下の行が隠されていたのです!
「あわわわ、お婆ちゃんごめんなさい! わたし、どうしたら……」
「もうお客様はお見えになっているからねえ。今から買いに行く余裕はないし……」
するとその時、騒ぎを聞きつけた旦那様が厨房に現れました。そして、お婆ちゃんがことの顛末を伝えると、
「うーむ、困ったな。これはとても大事な取引でね。どうあっても彼らの機嫌を損ねるわけにはいかないんだよ。さて、どうしたものか……」
「……仕方ありません。旦那様、この子の体を使われては?」
「……ふむ、それがいいか。クー、着ているものを脱ぐんだ。全部、一枚残らずな」
ええっ? そ、そんな、旦那様の前で裸になるなんて……、
「わ、わたし……どうなっちゃうんですか?」
怯える私の問いかけに、包丁を手にしたお婆ちゃんはこう答えました。
「買い忘れた牛肉の代わりに、おまえの肉を使うのに決まっているだろう!」
「ブモッ!? ブモモモーーーッ!」