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創地帝妃物語 番外編  作者: 宮月
3/3

3.誘拐されました

 コイバナを楽しんだ三日後の午後である。美味しいお昼をアルと二人楽しんだ後、睡魔と対決しながらの授業が待っている。今日は身体を動かす授業だから、眠る余裕はないけど、毎度毎度辛い、です。

「今日はルーイ先生?」

「そう、青の帝力。」

「はぁい。」

 帝力を操る授業だ。普通は色帝力に合わせて、先生をつけるらしいが、私は日替わり。それも発動を目的としたモノではなく、いかに暴発を抑え、ちょっと帝力が強い位に。といった事を練習させられる。

ちなみに帝力を計る装置があって、平均値が500帝力、ちょっと強いが1000帝力。記録に残っている最高値が1800帝力なんだって。目盛りが2000まであるんだけど、私は針が一周して装置を爆発させてしまった。だって、思い切り力を込めてと言うから…うん、言い訳だな。

「じゃあ、この間の復習から。あそこにある水槽を水で満たす事。」

「はい。」

 抑えて帝力を発動させないと、多分水槽どころかこの辺一帯が水浸し、いや水没させてしまった事もあった。…溺れて死ぬかと思ったよ。すぐに水を蒸発させたけど…。ごめん。

「じゃあ、少し休憩するか。」

「はぁい。ルーイ先生。」

 一時間ほど練習をしたら十五分の休憩。

「ちょっとお花摘みに。」

「あぁ。」

 マナーの先生に『トイレ』と言ったら、女性が『トイレ』と言ってはいけないとぐだぐだと文句を言われてから、『お花摘み』と言っているが、『トイレ』でいいよね?と毎度毎度思っているしまう私って、頑固かしら?

「スイ?お手洗いだろう?」

「あっ、はい、そうです。」

 部屋以外では一人になる事を禁じられ、警護の為らしいけどトイレの前まで必ず誰かが付いてくる。うん、慣れたけど面倒だ。

「じゃあ、行ってきます。」

「頑張れよ。」

「行ってらっしゃい。」

 ルーイ、頑張れはやめて欲しいのですが…と心の中でグチりながら、女子トイレに。

うん?何か違和感。何だろう?まぁ、霊感ないし、気にせず用を済ませよう。

「ん?」

 手を洗い、ポケットからハンカチを出し拭いていると、人の気配。

「う…。」

 振り返るより早く背後から口元を布で押さえつけられた。やばい、薬品の匂いと思っている間に、意識が遠のいていく。


……。

「ん?」

 意識がゆっくり浮上すると同時に瞳を開けた。

ここ、何処?薄暗い明かりだけの湿っぽい空気。人の気配は、ないか。

「スイ、大丈夫?気持ち悪いとかない?」

 身体を起こすと安堵交じりのクォーツの声。

「ちょっと薬のせいかな?気分も機嫌も悪いけど、とりあえず平気。で、ここは?」

「屋敷といっていいくらい大きな家の地下室。ドアには鍵が掛かっている。」

「そっか。」

「乱暴とかされないように薄い結界を張ってから、ルーイ達に事情を話しておいたよ。多分、今頃、アレクを筆頭に血眼になってスイを探していると思う。」

「ありがとう。と言う事はそんなに掛からずにお迎えが来るのね。」

「でしょうね。」

 二人でくすりと笑い合い、立ち上がった。

「で、待っている間、どうする?」

「うーん、計画書とか参加者リストとかあるかな?」

「あるかもしれない。足が付きそうな屋敷にスイを連れ込んでいる間抜けだから。」

「あるとしたら書斎かな?」

 クォーツがいて、アルが迎えに来てくれると思うと強気になれる私って単純。でも、これからアルの行く手を邪魔するようなヤツ等を野放しにしておきたくないし。

うん、単純でも頑張ろう。証拠集めくらいしておきたい。

「多分ね。あっ、誰か来る。」

「クォーツは隠れていて。合図したらよろしく。」

「了解。」

 クォーツが姿を消し、深呼吸一つするとキーと高い音をさせ扉が開いた。

「初めまして。創地帝妃様。」

「…どなたですか?何故、このような事を?」

「落ち着いてください。と言ってもムダでしょうから勝手に話します。」

 いえ、私は冷静です。多少ワザとらしい演技中ですけど。

あぁ、この人の話し方、ナルシストっぽい。

「最初に言っておきます。逃げようと思ってもムダですので、ヘタな抵抗はしないでください。この部屋には帝力封じの石が敷き詰めてあります。基本帝力の強い一色家の方でも逃げられません。」

 あぁ、前口上長いな。いいから本題に入ってよ。クォーツが飛び出したくてうずうずしているじゃない。

「目的は何ですか?お金?名誉?」

「いいえ、より良い国と貴女様の救出です。」

「は?」

 より良い国?救出?私はここから救出して欲しいのですが…。

「創地帝妃様に本当に相応しいのは、純粋な創帝国の血を引く者です。なので、貴女様の口からアンドロメダ様を王に指名していただき、今以上の国にしていただきたいのです。」

 アンドロメダ?壮大なお名前ですね。でも、誰?

「前々帝王唯一のご息女の唯一の御孫子様でいらっしゃいます。」

 えぇっと、つまり…アルの遠い親戚の方ね。

「何で、そのアンドロメダって人を帝王にしたいの?」

「とても素晴らしいお方なのです。喧嘩にお強く、いつも素敵な女性に囲まれる。羨ましい、いえ、たくましいお方なのです。」

「で、その人は女好きだから周りが操り易いと。」

「そうなのです。女性に囲まれてさえいれば満足されるので、良い操り人形に。って、何を言わせるのですかっ?」

 …バカだ。この人、間違いなく下っ端だ。これ以上聞くのも辛いし、聞き出せるとも思えない。

「クォーツ、もういいわ。」

「はぁい。」

「なっ、なっ。」

 あっと云う間に後ろ手に縛られる。って、クォーツ、縄なんて一体何処で仕入れてきたのよ?

「口も塞いでおく?」

「そうね。騒がれても面倒だから。」

「なっ。」

 クォーツは再び何処から持ってきたのかわからない布で彼の口元を覆った。

「その辺に落ちていたのよ。」

「…そうですか。」

 クォーツ、その得意げな顔はやめて。

「じゃあ、行こうか。」

「うん。」

 閉じ込められていた部屋のドアを開けると、すぐ目の前に階段。その薄暗い階段を登り切ると壁にぶち当たった。

「あれ?」

「隠し扉ね。何処かに隠しボタンない?」

「ボタン、ね。」

 あまりにも出来過ぎた感が漂っていない?隠し扉なんて、そうそう取り付けてある家なんてないと思うよ。それともこっちの屋敷では普通なの?

「スイ、これしかないよね?いかにもこれでしょう。」

クォーツが嬉しそうに指す場所には『秘密の小部屋出口』と書かれたボタンが押してと言わんばかりに光っている。

え?いいの?

「罠ってオチないよね?」

「だってそれらしきものないよ。とりあえず押してみようよ。」

 言い終わる前にその怪しいボタンを押していたよね?

「開いちゃったよ。」

 思わず出たのは、呆れた声。隠し扉のくせに出るためのスイッチが隠されていないって、間抜けじゃない?と思ってしまうのですが…。

「ふぅん。行き成り、第一目的地到着ですね。」

「ですね。」

 そう、足を踏み入れたのは書斎と思わしき部屋。

「ふぇ?」

 部屋を見回していると、背後で物音。振り返ると先ほどの扉が大きな本棚に隠されてしまった。

「ありきたりだなぁ。と、なると、この辺の本を押すとドアが…開いちゃったよ。」

「スイ、押した本の背表紙、見た?」

「背表紙?」

 本棚の真ん中あたり。奥に押し込んだ本、スイッチというべきなのかな?その表面を見て、再び呆れた溜息が零れてしまう。

「『秘密の入口』って、ありえないでしょう。全然隠し扉の意味、ないよね?」

「まぁ、じっくり見ないとわからないし、本を取り出す事はしても奥に押し込む事は普通しないから、隠しているって事でいいんじゃない?まぁ、そんな事より計画書とか探すんでしょう?」

「そ、そうね。」

 あまりの出来過ぎた感に本来の目的を忘れるところだったよ。

「って、机の上に出しっ放しかい!」

 探す必要もなく、発見。だって、机の上にご丁寧に『創地帝妃様救出作戦計画書及び賛同者協力者リスト』と書かれたファイルが…。

いいのか?これで…。

「さっ、もうここに用はないわね。お暇しましょう。」

「帰ろ、帰ろ。」

 ファイルを抱え、念のために廊下に人がいない事を確認。クォーツと頷き合い、物陰に隠れながら移動する。

「人がいないね。」

「うん。メイドとか執事とかメイドとかに会うと思ったのに、ね。」

 クォーツ、何故、メイドを二回言ったの?

「まぁ、私達にとっては都合がいいからいいんじゃない?」

「まぁ、そうだけど…。」

 本当に人に会う事なく、一番の難関階段を突破出来ました。一応、階段を下り切った場所で、物陰に隠れて周りを観察するけど。

「そこ、玄関よね?」

「だよね。誰かいるみたいね。」

「ねぇ、この声。」

「うん、間違いない。」

 クォーツと頷き合い、同時に物陰から飛び出した。

「ルーイ。」

 走りながら両手を広げ、抱き着く準備はオーケーです。

「スイ?」

 驚きの表情を零すルーイと、執事らしい服を着用しルーイに対応していたと思われる男性が振り返った。

私達はその執事を無視して、真っ直ぐルーイに突進。

「ストップ。」

 『感動の再会』を演出しようとする私達を左手一本で寸止めするルーイ。

ひ、ひどい。私達に抱き着かれるのは嫌なの?この感動を何処にぶつけたらいいのよっ。

「うぅ。」

 顔の前に突き出された掌に不満を表す声で威嚇。

「抱き着くなら後ろのヤツにしろ。」

「へ?」

 首だけ扉から出すと、十数人の重臣服を着た人の中から黒髪の愛しい美丈夫を発見。

「アル。」

 今度は間違いなく私達を受け止めてくれる人に改めて飛び込んでいく。

「粋晶、怪我はないか?」

「うん、大丈夫。お迎えに来てくれてありがとう。」

「当たり前だろう。」

 ぎゅっとアルに抱き着くと抱き返してくれる。

うん、私は満足です。

「ちょっ、クォーツ、お前、顔にしがみつくな。お前も後ろのヤツに突進しろ。」

「えぇ、私なら大丈夫。アレクはヤキモチ妬かないから。だから、最初の標的にぶつかってきたのよ。従兄妹なのにそんな冷たい事、言わないでよ。」

「煩い。とにかく離れろ。」

「ちぇっ。」

 緊迫すべき空気を全く無視した会話が耳に入ってくるが、こちらはアルのぬくもりを噛み締める事に忙しいので放っておこう。

「じゃあ、俺達は先に戻って、医師に診てもらうぞ。」

「ちょっと待って。」

「どうした?」

 おかしい。ぎゅっとアルに抱き着いていたはずなのに、知らない間にいつもの御姫様抱っこ状態。いや、今はそこには突っ込まないでおこう。

「ルーイ。ここの主、実行犯なら地下室にいるよ。えぇっと、行き方は…。」

「あっ、そこは私が案内する。」

「じゃあ、クォーツ、お願い。あと、カツキ、休みを潰してごめんね。この憂さは主犯格を捕まえて、ソイツに八つ当たりしていいから。あとで振替をお願いしておくね。」

「…ありがとうございます。」

 せっかくの休日を潰してしまったカツキにさっさと謝罪出来てよかったよ。

「それとぉ…。」

上着の中をごそごそして、書類を取り出す。うん、今日、ワンピースじゃなくてよかった。スカートのウエスト部分に挟み込めて、手ぶらで移動しやすかった。

「粋晶。何をしているんだ?他の男に柔肌が見えてしまうだろう。」

「ちょっとはしたないけど、少しだけ我慢してね。よし、取れた。パラパッラパパー。」

 青い猫が便利道具を出す時の効果音を自分で演出するが、誰一人として反応してくれない。この場にカスパーがいてくれないのかしら?絶対に喜んでくれそうなのに…。

「計画書と参加者リスト。」

「これを何処で?」

「うん、実行犯の書斎のデスクに置いてあったから拝借してきた。」

「…そうですか。」

 うん、そうだよね。やっぱり呆れるよね。デスクの上に置きっ放しにしておくなんて、不用心だもんね。

「あとはお願いします。」

 カツキに手渡し、私の仕事は終わり。

「じゃあ、俺達は先に戻っている。あとは頼んだぞ。」

「わかりました。コンラートとユータ、王子と創地帝妃様を城まで護衛してくれ。」

「はい。」

 カツキとルーイが交互に休みの時に私の護衛に着いてくれるコンラートとユータを連れ、一足先にお城へ戻る事になったのですが、その車の中で相変わらずアルの膝の上に座らされる私。

あのですね、アル。屋根に頭が付きそうで怖いので、下ろして貰えると嬉しいのですが…、と言い出せず、大人しくしている私なのでした。


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