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第一節
しかし今年は散々だった。妻の美佳と交わした喧嘩、数え切れねぇなあ。
そうやって隆夫は煙草をふかした。
「結局思い通りになんかならないんですよね。」ちょっとした喫茶店のラウンジで彼(隆夫)は僕に言う。「そうですか?」と僕は聞き返した。
「そうですよ絶対…って、また愚痴ってますね。」
「いえいえ…」、僕は苦笑してウイスキーを煽る。
隆夫が離婚届けを突き付けられたのが二ヶ月前。
いきなりー?いや、そんなことはない。長年連れ添ってきた仲だ。
予感はー、あった。
゛特に理由はないのよ゛と美佳は言ったっけ。隆夫にとっては辛い言葉だった。
どうせなら不倫したり、彼女の家族のことでもめたり、そういうような
「理由」が欲しかった。それが、
「ナニモナイ」。
なんか周りのもの全てがふわふわして、オレ何のために今までやってきたんだよって思う。テレビドラマの悲劇の主人公が羨ましい。
そして十日前、医者に告げられた一言。
全く現実は甘くない。
★★