深夜バスから
初投稿です。
時間は、詳しくはわからない。ポケットには、旧型の携帯電話があるが、確認する気にもならない。ただ、ぼうっと、深夜の路線バスの一番後ろに座り、肘掛けに頬杖付きながら、窓の外をながれる景色を眺めていた。バスの中には、僕を除けば、運転手と、三十代後半に見える恰幅のいい男が一人。一台のバスのエンジンと、時々流れる車内放送だけが、僕の鼓膜を震わせている。バスは、路地をギリギリ走りぬけ、各バス停の発車時刻よりも早く出発しないように、路地の30km制限を(多分)守りながら、ゆっくりと、のろのろと走っていた。ぼうっと窓の外を流れる景色を眺めていた僕は、本当に、それこそ寝ているような、しかし確実に起きている様子で、ぼうっとしていた。
とあるバス停に着き、中扉が人を降ろすために開いた振動で、僕ははっと、気がついた。中扉から降りる男の、靴音が響く。ここまでで乗ってくる客はいなかったようで、僕が、最後の一人になった。僕はどこで降りるのかと、自問自答した。答えはすぐに出た。六つほど手前だ。仕方なく、遊び心を働かせ、終点まで行くことにした。どこまで乗っても一律四百四十円なら、終点の小さな駅まで行って、コンビニにでも寄ろうと、軽く考えた。そこから僕は、また寝に入るように、頬杖をついてぼうっとした。
次に気がついたのは、バスが男をおろしてから五つ目のバス停の手前辺りの、路地の交叉だった。バスが急停止し、そのはずみで頭を前の座席に打った。クッションの部分だったが、多少の痛みを感じた。僕は、少し眠くなりかけていたところから、完全に目が醒めたようだ。なんとなく車内を見渡して、僕は異変に気づいた。運転手が居ない。バスの前面、上の中央に付いているミラーからは、空っぽの運転席が見えた。降りたのかとバスの前扉を見ても、開けっ放しになっている様子はない(つまり閉じている)。窓の外は民家で、車庫ということはまず無い。どういうことだ、と、前の座席の背もたれに手をかけたところで、その手をかけた背もたれが、ぐんにゃりと歪んだ。視界が歪んでいるのかと思ったが、そうでは無いらしい。ゆがんでいる部分を視界の隅においてみても、歪んでいる場所は変わらず、僕が手をかけた背もたれの一部だ。少し恐ろしくなってきて、しかし、座ったまま動けないでいると、今度は、バスがねじれるように、右回りでぱっと歪んだ。夢か何かと、目を覚まそうと努力したが、夢では無いみたいだ。夜の中で、あいも変わらずにバスのエンジンが響いている。落ち着こうと、深呼吸をしようとした時に、今度は、窓から見える景色が、左回りにねじれた。僕は動けなかった。僕の脳は、危険信号を発していたが、それがどう危険なのか、果たして本当に危険なのか、どう対処すればいいのか、何も答えを出せなかった。バスの一番後ろの座席のすわり心地は、変わらない。自分の存在も、多分変わらないと思った。そこで、僕は眠くなって、目を閉じた。
そして今、僕は闇に浮かんでいる。浮かんでいると言っても、その感覚はない。ただ、尻の下に敷かれているものはなく、足の裏から体を支える地面もない。どこかにぶら下がっているような食い込みもないので、浮かんでいるとしか言えない。前後左右、上下に光はないが、自分の手や足、体のパーツは暗さも明るさも感じず、見える。メガネを外し、手を離しても、落ちていかない。漂うような動きもしない。置かれている感じだ。腕を動かしても抵抗はない。本当に、闇と僕しか、そこにはない。
考えることをやめた。
僕は闇に浮かんでいて、不自由もない。
無意識に行われる呼吸や、瞬きだけが、ぼくに残った。
読んでくれてありがとうございます。早朝に起きて、ぱっとしない気分の中で書きました。読点多いかもしれないですね。まぁ、僕が何をいいたいか、僕にもわかりません。似たような作品があったら、罵ってください。何かをパクったつもりはありませんが。