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練習試合

 玲奈は吹奏楽部に入部することを、瑠美に報告した。瑠美は飛び上がって喜ん

でくれた。そして条件となっていた雅治の試合を観にいくことを話した。

「もちろん、わかっているよ。今度の日曜だよね」

「試合に観に来てくれなかったら、私吹奏楽部には入らないからね」

「わかっているよ。絶対に行くから」

 念を押した成果があったのか、絶対という言葉を瑠美から引き出した。玲奈は

胸を撫で下ろした。


「玲奈って雅治くんのためなら何でもするんだね。今回断られるかもって思って

いたんだけど」

「えっ?」

「玲奈、雅治くんのこと好きなの?」

 不意に聞かれて、玲奈はたじろいでしまった。

「まさか、そんなことないよね。たとえ本当の兄妹でなくても、長年同じ家で暮

らしているんだからね」

 玲奈に本心は暴かれずに済んだ。しかし瑠美の指摘は鋭かった。


 瑠美が観戦に来ることを、雅治に報告。こちらもガッツポーズを見せて喜んだ。

二人に共通して言えるのは、喜怒哀楽がはっきりしていることだ。二人が付き合

えばいいカップルになりそうだけれど、応援する気にはなれるだろうか。


「ありがとう、玲奈。これでリベンジができるよ。この間の失態は取り返さない

とね。」

「良かったね。私もマサ兄のリベンジに協力できてうれしいよ」

 事の成り行きで玲奈は吹奏楽部に入部することになった。後は和也への対応で

あるが。由美子は和也に何とフォローしてくれたのか。そちらが気になった。


「おはよう」

 翌朝、玲奈と和也は偶然洗面場で一緒になった。よくある光景なのだが、玲奈

は緊張していた。おはようと言ったのは、和也の方だった。

「顔洗うんじゃなかったの?」

「うん、そうだけど」

「もしかしてマネージャーの件のこと、まだ気にしている?」

 話を持ち出したのも和也であった。玲奈の考えていることが、和也には筒抜

けのような気がした。


「俺はもう気にしていないよ。玲奈の好きな吹奏楽部に入部できて良かったと

思っている。また大会があれば見に行ってもいいよね?」

 和也の優しい心遣いに、玲奈は思わず涙ぐみそうになった。

「もちろん。カズ兄、協力できなくてごめんなさい」

「いいんだよ、気にしなくても。俺はいなくても頑張るからさ」

「うん、頑張って。夏の大会、絶対に見に行くから」

 玲奈の笑顔を見れて、和也は安堵した。


 瑠美は玲奈と約束した時間に30分遅れてやって来た。あれほど絶対に行く

と言っていたのに。これだから瑠美のことは100%信用できない。吹奏楽部の

練習には誰よりも早く来て練習しているのに、プライベートになると遅刻癖が

ある。


「あれほど約束したのに、遅れるってどういうことよ」

「悪い、玲奈。録画していたドラマ観ていたら、午前3時になってしまって

いて……」

「もういい加減にしてよ。マサ兄の試合、もう始まっているんだから」

 二人は走って目的地の体育館へ向かった。


 会場では東高と南高の剣道部員が個人戦を行っていた。最後はトーナメントで勝

者を決定する方式だ。雅治は実績があるということで、一回戦をシードされていた。

まだかまだかと二人を待っていたが、雅治の試合直前に何とか間に合った。


 いよいよ雅治の出番だ。後輩に負けた雪辱を期すため、この日までメンタルを強

化してきた。その成果か今日は自信がみなぎっていて、不安は全くなかった。初戦

の相手は南高の2年生で、実績では雅治がはるか上である。試合は開始1分、雅治

の面打ちが決まり、完勝した。この勝利で満足はできなかった。南高のライバル藤

井を倒してこそ、自分自身に雪辱できたことになるのだ。


 しかしそんなことを全く知らない瑠美は雅治が勝って、跳び上がって喜んでいた。

「雅治くん強いんだ。この間声援を送って負けてしまったから、申し訳ないと思っ

ていたんだ」

「勝ち負けがあるから仕方ないよ。でも雅兄はあれが普通なんだ。もっと強い人が

出てくるから、その相手に勝った時に喜んであげて」

瑠美はうんうんと頷いていた。少しでもイメージ回復できるといいのだが。


 その後格下相手に2勝して、雅治は順調に決勝に勝ち進んだ。いよいよ南高のラ

イバル藤井との対決である。しかしながら対戦成績は雅治が圧倒していた。どちら

かといえば藤井が打倒雅治に燃えていた。今回は練習試合であるし、プレッシャー

はあまりない。思い切って挑戦するだけなのだ。


「この人に勝てば優勝なのね。でも剣道って表情が分かりづらいよね。雅治くんの

様子がわかればもっといいのに」

 玲奈も何試合も観戦しているけれど、瑠美と同じ感想を抱いていた。いよいよ決

勝戦が始まった。

 試合序盤はお互い牽制し合ってなかなか攻撃を仕掛けなかった。玲奈はやきもき

していた。しかし次の瞬間藤井が面を仕掛けてきた。

「面っ」

 会場内に乾いた藤井の声がした。しかし有効手とはならなかった。その後も何度

も藤井は仕掛けるが、雅治は防御が固く決まらない。


「いつもはもっと攻めるのに、今日はどうしたんだろう。また緊張しているのかな」

 玲奈にそう不安がよぎった時、赤旗が3本サッと上がった。雅治の面が決まった

のだ。しばらく静寂の後、会場から拍手が起こった。颯爽と防具を取り外した雅治

は、髪を二三度振り乱した。汗がほとばしっていたが、その仕草が玲奈にはとても

かっこ良く思えた。


「かっこいい」

 そう声にしたのは瑠美であった。雅治は瑠美へ向かって手を振った。

「ほら手を振っているよ。手を振り返してあげて」

「あっ、わかった」

 瑠美が手を振ると、雅治は慌てた様子で頭を下げた。

「玲奈、雅治くんは私に手を振ったのではなく、玲奈に振ったんじゃない」

「私に?またどうしてだろう」

 玲奈は首を傾げた。それでも雅治には手を振った。雅治は笑顔で返してくれ

た。ともかく雅治は瑠美にいいアピールにはなった。

 後はどうにでもなれ。玲奈はそんな心境であった。


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