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入学式は誰が行く?

玲奈は5歳の時に、増田家に預けられた。玲奈の母の虐待が酷く、見兼ねた母

の友人である由美子が、玲奈を預かることになったのだ。

あれから13年の月日が経った。この春玲奈は高校生になった。今日は入学式で

ある。真新しい制服を着て、玲奈は朝食を摂っていた。


「カズ兄はまだ寝ているの?」

玲奈が目の前にいる雅治に尋ねた。

「そうみたいだね。昨日は夜遅くまで練習していたみたいだから。相当疲れてい

るんじゃない」

「残念だな。カズ兄、あれだけ私の制服姿を楽しみにしてくれていたのに」

「寝坊するなんてあいつらしくないよな。まあ学校休みだし、昼まで寝かせてお

けばいいんじゃないか」

雅治はそっけなく言った。確かにこれから毎日、玲奈の制服姿は見れるのだか

ら、わざわざ起きて見る必要はなかった。けれども今日は玲奈の新たな一歩の日で

あるのだから、真新しい制服姿を和也には見てもらいたかった。


「玲奈ちゃんごめんね。今日は仕事が入ってしまって。人手が足りなくて、どう

しても行かなくなってしまったの」

当初出席するのは、和也と雅治の母親である由美子であった。しかし勤め先の

都合で、急遽兄の雅治が参加することになったのだ。

「気にしないでください、おばさん。代わりにマサ兄が行ってくれるから」

「そうね。雅治なら安心だわ。くれぐれも玲奈ちゃんのこと頼んだわよ」

「任せておけって」

 トーストをほおばりながら、雅治は言った。


「それにしても和也はいつまで寝ているの。休みとはいえ、何をダラダラしてい

るのかしら」

ぶつぶつ言いながら、由美子は出かけていった。結局、和也は起きてはこなか

った。雅治が言うように、練習がきつかったので和也は爆睡しているのだろうか。

残念そうな玲奈に、雅治は声をかけた。


「もう時間だし、そろそろ出発しないと」

「うん、わかった」

 雅治に促されて、玲奈は準備を始めた。


 一方ベッドの中では、次男の和也が歯がゆそうに目覚まし時計を見つめていた。

昨夜は野球部の練習があったが、そんなにハードなものではなかった。それなのに

玲奈の晴れ姿を見なかったのは、兄の雅治が玲奈の入学式に同伴することになった

からだった。


「カズ兄、入学式に行ってくるから。留守番お願いね」

 玲奈の大きな声が響いた。寝返りを打つ和也。完全にふてくされていた。入学

式だから玲奈の制服姿は、ぜひ見ておきたかった。母親が参加していれば、こん

なことにはならなかったのに。和也は昨晩の夕食の出来事を思い出した。


「玲奈の制服姿見れるの楽しみだな」

 好物のとんかつを食べながら、和也は言った。

「私もものすごく楽しみだよ」

 和也と玲奈はよく気が合い、食事の時もよく話していた。そこへ困った様子の

由美子がやって来た。


「どうしたの?」

「明日どうしても休めない用事が出来てしまって。どうしよう、入学式に参加で

きなくなってしまったの」

 玲奈と和也は互いに目を合わせた。これは緊急事態である。

「悪いけど、雅治か和也のどちらかが入学式に参加してくれないかしら?」

由美子からの提案に、三人は押し黙ってしまった。和也は参加OKのスタンス

だったが、恥ずかしさからか、なかなか言い出せない。


「オレが行くよ。心配するな、玲奈」


 クールに雅治は言った。喜ぶ玲奈。

「マサ兄、ありがとう」

 はしゃぐ玲奈を見て、和也は行きたいとは言い出せなくなってしまった。黙々

と食べ続けるほかなかった。玲奈と雅治の二人はその後も楽しそうに話していた。

食事を終えると、すぐに部屋にこもった。それからトイレ以外、部屋から出てい

ない。

和也は再び時計を見た。8時半を回っている。大きく深呼吸をすると、布団を

かぶった。

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