藤代 麗―4
あの時の記憶を思い出した藤代は再び赤毛の女性を前に畏怖の念をあらわにする。
赤毛の女性は高い鼻と尖った耳を持ち、深紅の瞳と燃えさかる炎を思わす様な赤毛。
ただ、分かったことは彼女が人間ではないこと。
「思い出した?私のことを。」
いきなり思い出した記憶と、今の不可思議な状況に混乱する。
赤毛の女性は教卓から降り、藤代に近づいて口元を緩める。
「ほら、思い出したでしょ。私は貴方の子よ」
衝撃の言葉に喉がつまる。
私の子?何をいってるの?
いよいよ頭で追いつけなくなってきた。
「今は分からなくていいわ。お母様。」
凄く違和感を覚える単語に身震いする。
「あの、みんなは?」
「ふふ、そんなに心配しないでお母様。とりあえずお母様には私が産まれた事について説明しなくちゃいけないわね。」
そういって、昔の傷を舐めるように手で触る。
「初めに言っておくけど質問は二回までね。それ以上聞いたら何も言わないからきつけて質問してね。」
藤代は頷き、固唾をのむ。
「まずはお母様のお父様についてね。お父様は貴方のお母様と貴方を愛してはいなかった。ずっと重りのように感じていたわ。理由は簡単だった。別に女性がいたからよ。」
心臓が高鳴る。心拍数が早くなっていくのを強く感じていた。
「貴方のお母様にそして貴方に嫌気が差していたのよ。嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで。だから貴方達を殺したかったの。その思いに私のお父様が惹き付けられたの。そして私のお父様は貴方のお父様に乗り移り貴方を刺したの。その体をね。でも私のお父様は貴方を殺す手伝いをしてあげたのよ。でも、貴方のお父様は自我でそれを止めた。そのあと自ら命をたったわ。愚かよね。」
嘲笑う彼女を他所に藤代は疑問を投げ掛けた。慎重に選んだ疑問だ。
「貴方のお父さんって…何?」
「悪魔…悪魔にも階級があってね、それの最上級の悪魔なのよ」
藤代は思う。聞いてもあまり理解できない。何なのだろう。
悪魔って神話とかで出るやつ?何?
そんな疑問など解決するには時間がかかるため今は聞かないでおく。
とりあえず納得する形をとる。
「あなたが私の子どもって、どういうこと?」
クスクスと、声にだして笑う。時折開いては閉じる口から研がれた刃のような歯がその姿を主張する。
「二つ目の質問ね。貴方のお父様に乗り移り貴方を刺した時、貴方のお腹の中に直接生命の源を注ぎ込んだの。そのお腹の中でずっと貴方の幸せを吸いとっていたわ。そして、大きくなった私はこうして次の段階に移れる体を手に入れたわ。」
私の幸せ?どういうこと?私がなにをしたっていうの?
苦しくて重たくて、胸を締め付けられる思いに押し潰されそうになる。
そんな姿を嬉々として眺めるかのように口元は弧を描く。
「それじゃあお母様。まずは私の名前を付けてほしいわ。出切れば凄く馴染みやすい名前がいいわ。」
「私は、あなたの母親になった覚えはないよ!やめてくれる?」
そういって自分の机を支えに立ち上がったが、目前にいたはずの赤毛の女性は消えていた。
すると、後ろから肩の上を通って手が伸びてくる。
白く透き通った肌が私を包み込む。
「お母様はお母様よ。貴方が私を育てたの。まだ私は成長期よ。だからまだまだ育てもらわないと。」
静かに耳にさす声は脳内を駆け巡る血液のように、言葉はとどまらない。
「育てる?どうやって?」
「簡単なことよ。お母様の幸せは十分もらったから、今度はお母様の不幸をもらうわ。」
「それって、どういう…」
喋ろうとする口を彼女の手のひらが私の口元を塞ぐ。
「大丈夫よ、お母様。すぐに愉しくなるわ」
クスクスと耳元で囁く。
「とりあえずお母様、私の名前は?」
「そんなの何も…」
何も考えていなかったはずなのに、名前が沸々と脳裏に浮かぶ。
それを思い浮かべた途端に声としてでる。
「………リリー」