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誰かのヒーロー  作者: カバン
第一章 変化
7/13

藤代 麗―2

学校の学費を払うため毎日バイトは欠かさない。

朝の5時、薄暗いなか自転車をこいで新聞配達のバイトをする。

髪の毛を溶いたり、肌に気を使ったり、化粧をしたり、セーラー服に着替えたりは朝起きてすぐに終わらせる。

自分の朝食をとり、少しの時間をさいてソファーで仮眠を取る。

そして義父の暴力。

日課になっているのだろうか。

配達をしながらふと考える。


「何か忘れた」


学校の準備で何かを忘れたときずくがすでにおそかった。

配達が終わって学校にいく時間はそう長くない。

藤代は無遅刻無欠席で登校している。

父の言いつけを守っているのだ。

義父のようにならないために、父の言いつけをしっかり守ることが藤代の支えとなっていた。

配達を無事に終えると学校に向けひたすらに自転車のペダルをこいでいく。

徐々に騒がしくなっていく朝に藤代は安心感を覚える。

藤代にとっての安息の地は外と学校だった。だから遅れたことや休んだことなど1日たりともなかった。


学校の駐輪場に自転車をとめ、一息ついて校舎に足を踏み入れる。

すると第一声―


「おはよう!麗ちゃん」


朗らかな笑顔で下駄箱に立っている女子生徒は篠原(しのはら) (あかり)だった。艶のある綺麗なショートボブをゆらしながら元気に手を振ってくる。


「おはよう、あかり」


笑顔で挨拶を返す。彼女とは高校の友達だ。

篠原に藤代が家事情を話すことはない。それは学校にも言わない。

藤代はどちらかというと優等生よりだ。

真面目で品がよく、明るい子とクラスメイトに思われている。

それは家でどんなことがあろうと、他の所では決して悟られないように藤代自体が己にかした約束のようなものだ。


篠原は藤代が下駄箱で上履きを取り出す姿をまじまじと見つめながら口を開く。


「ねぇ麗ちゃん、その頬の腫れどうしたの?」


心配そうな表情は犬が主人を心配する表情と似ていて、少し可愛いとも思える。藤代は赤みを帯びた頬をさすりながら明るい表情を作る。


「大丈夫、たいしたことないよ。心配しないでただの打ち身だから」


「そう、ならいいんだけど。」


誰かになるべく心配はされたくはない。

藤代はいつもそう思ってきた。

教室にはいると前側に集まっている女子の集団が藤代と篠原に挨拶をし、二人とも同じように挨拶を返す。

男子はまばらに散らばっていて、藤代の隣の席の高村(たかむら) 祐介(ゆうすけ)に挨拶をしてそれを机に突っ伏している高村が手を振って挨拶を送ってくる。

自分の席に鞄を置いてきた篠原は周りに笑顔を振り撒きながら藤代が座ってる席の前にたった。


「ねぇ麗ちゃん。聞いて、聞いて。」


篠原が会話を始めるときは大抵がこの切り出しかたなのだ。


「どうしたの?」


無垢で赤ちゃんのような柔肌が膨らむ。


「それがね、この前美味しいコーヒー店あるって言ってたじゃん!」


「うん」


「そこが最近ずっと閉店してるの。なんでかな~って思って調べたらこの前事件があったって。」


するとこんどは暗い面持ちになり、声を低くして言う。


「何か殺人事件らしいよ…」


そして涙ぐみながら大きく口を開いて


「もういけないじゃな~い。」


と叫ぶのだった。



藤代はふと、朝に勝手についていたテレビを思い出す。

あれは4時のニュースだった。

強盗と殺人。

そして、被害者の一人が疾走したとも言われていた。

強盗を殺した犯人である人もまだ捕まってないらしい。

怖い世の中だなと、思わずにはいられなかった。


すると、チャイムがなり篠原がまたあとでと、小声でいいながら席に戻っていった。チャイムが鳴るのを待ち構えていたかのように教室に先生が入ってくる。

赤ネクタイをしっかりしめた。眼鏡の教師。

担任である彼はとても厳しい先生で時間厳守にうるさい人だ。


「はい、起立」


先生に促されみんなが席をたつ。

すると何かが藤代の耳に囁くような声が聞こえた。

びくつき、辺りを見渡しながら隣の高村を見る。

なんだよ、と一言いうが彼の声ではなかった。

気のせいかとまた姿勢をただすと、


「ただいま、麗。」


確かに聞こえた。はっきりとした口調で名前を呼ぶのを。

高村に小声で、何か聞こえた?と聞くも怪訝な顔をされるだけだった。

どうやら自分にしか、きこえないようだった。

挨拶が終わり、着席するもずっと誰かが耳元で確実に囁いている感覚がしてならなかった。


「覚えてない?私のこと。」


瞬間、世界が凍りついたような感覚にとらわれる。

唖然とし、目の前の光景に、目を疑う。

今まで目の前にいたはずの生徒が全て姿を消し、教師もいない教卓に足を組んで座っている赤毛の女性が真っ赤な瞳で藤代を見つめていた。

藤代はこの時、何か懐かしさのようなものを感じていた。


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