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僕の彼女  作者: 優流
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真実を告げられて

私、影宮流月は人の姿をしているけど、人間ではなくて吸血鬼。

吸血鬼には二種類いる。一種類は私みたいに吸血鬼の両親を持ち、吸血鬼から生まれた純粋な吸血鬼。もう一種類が純粋な吸血鬼によって、吸血鬼としての性質を"感染"させられた人達。私達は感染性吸血鬼や"感染者"と呼んでる。今夜襲撃したのは感染者。この感染者は純粋な吸血鬼と違って、"渇き"の耐性が無い。つまり、常に血を欲している状態。この状態を放置していたり、わざと血を飲めない状態を続けると"禁断症状"が発生して、最悪怪物化や人間性や自我、あるいは理性が崩壊してしまい、さっきの熊みたいな生き物の状態になってしまう。


「ここまでわかった?」


彼はゆっくりと頷いた。

私は自分や吸血鬼のことを説明する義務があったから、いつか彼にも言わないといけないと思っていたから、言っているけど、胸が痛い。出来れば知られたくなかった。何を今さらとも思えるけど、そう簡単には開き直れない。


「つまり、さっきの熊みたいな生き物は血がほしくて僕を襲い、食事の邪魔をされたから流月さんを襲った?」


「だいたいあってる」


「じゃあ、さっき言った『私のせいなの』っていうのは?」


重要なのはここから。彼に言わなきゃいけなかったことは私が吸血鬼ということの他に、それに伴う重要なこと。


「お前は"運命の人"って聞いたらどんなことを思う?」


少し離れた場所から大神さんが口を挟んだ。たぶん、いつまでも口を開かない私に痺れを切らしたんだろう。


「運命の人?そりゃ、その人と出逢うために生まれて、その人と結ばれるために生きているみたいな感じかな?」


「吸血鬼の"運命の人"はそんなロマンチックなもんじゃない」


大神さんの言う通り。ロマンチックには程遠い。

吸血鬼は誰もが"渇き"に陥る。だから、定期的に他の生き物の血を吸血しなければならない。でも、いずれお腹がすくように、喉が"渇く"。空腹と同じように繰り返される欲望、欲求の習慣。

唯一、"渇き"から解放される方法がある。それは『"運命の人"の血を吸う』こと。吸血鬼には一人一人に"運命の人"がいる。その人の血を一滴残らず吸血することで、吸血鬼は"渇き"から解放される。だけど、運命の人に出逢う確率は極めて低くて、ほとんどの吸血鬼が運命の人には出逢うことなく、吸血鬼同士で結ばれる場合が多い。


「つまり、アニメでお馴染みの曲がり角を曲がったら、異性にぶつかる的な感じかな?」


その確率はどうかわからないけど、事の重要性をアニメで例えた彼が不思議に思えた。


「ま、まあそんな感じ……かな?それでね、私の運命の人が…………君なの」


普通の、ロマンチックなほうの"運命の人"なら、このままハッピーエンドに終われるかも知れない。でも、事態は楽観できるものじゃない。だって、このまま一緒にいても、いつ恋人に襲われるかわからない恐怖を彼は感じ続けるし、私自身、いつ彼を襲ってしまうかわからないから恐い。


「そこまではわかった。それで……大神は何なの?」


「俺か?俺は吸血鬼に唯一対抗できる種族、"人狼"だ。狼人間とか狼男とも言われるアレだ」


大神さんの一族は昔から吸血鬼の暴走を食い止める抑止力として、私達をずっと監視してきた。大学では大神さんだけど、小中高の時も私の知らないところで誰かが監視していたかも知れない。


「俺達は禁断症状を起こした感染者や"運命の人"を見つけた吸血鬼から人間を守るのが仕事だ。つまり、現在影宮流月に"狙われている"お前は護衛の対象だし、影宮流月は排除の対象だ」


大神さんの一言一言が胸に刺さる。


「流月さんは僕の血を目当てに接触してきた。大神はそんな流月さんから僕を守るために接触してきた。そしたら、たまたま感染者に襲われ、流月さんと大神に助けられた。こういうこと?」


「だいたいあってる」


「だいたい?さっきも言ってたけど、だいたいって何?それにさっき熊みたいな生き物に襲われてた時に言ってた『私のせいなの』って何?」


「吸血鬼が"運命の人"に出逢う確率は極めて低いって言ったよね。だから、出逢った吸血鬼を逆怨みする吸血鬼がいるの。今夜、君を襲った感染者はその吸血鬼の命令で君を襲ったの」


単なる禁断症状による襲撃じゃなくて、禁断症状を利用した計画的な襲撃。

彼は私といるだけで常に危険に晒されている。君が好きだと何度も言った相手は同じ人間じゃない。君を好きだと言った人は吸血鬼。常に君の血を狙う吸血鬼。君は私といるだけで危険。私以外の吸血鬼から狙われ、私にも狙われている。


「こ、これが、あの日言えなかったこと」


もう彼とは逢えない。一緒に勉強したり、どこかに出掛けたり、もう出来ない。彼の手の温もりも感じることはできない。


「別に疑って聞くわけじゃないんだけどさ、流月さん…………僕のこと、好き?」


「好き……大好き……君の血なんて関係ないの。信じてもらえないだろうけど、本当に好き……なの」


信じてもらえるはずがない。


「何言ってんだよ。所詮お前ら吸血鬼は血で物事を決めているだろ?気に入らない血は吸わない。でも、"運命の人"の血だから吸いたい。それを恋とか愛と勘違いしているだけだろ?」


大神さんの言う通り。


「ごめん、大神。ちょっと黙ってて」


「は?まさかこの女の……」


「いいから黙ってろ」


彼は凄く怒っていた。何に対してなのかわからないけど、こんなに怒ったのは初めて見た。



















僕は怒っている。普段からストレスを我慢しているわけではないけど、怒ることは滅多にない。でも、今は怒っている。


「大神はああ言ったけど、流月さんはどうなの?吸血鬼と人狼の関係がどうなのか知らないし、知りたくもない。でも、流月さんの気持ちは知りたい。大神に言わされている気持ちじゃなくて、流月さんが言う自分の気持ち。願望って言ってもいいかな」


「私の気持ちは……」


流月さんは着ている服の裾を握った。その姿は親睦会の帰りに告白した時に似ている。


「私は…………私は吸血鬼で、いつか君の血を吸っちゃうんじゃないかと思うと凄く恐い。でも、それよりも私のことを知ったら君がいなくなるほうがずっと恐い。だから、ずっと言い出せなかった。好きっていう気持ちも、吸血鬼っていう事実も。

でもね、私は君が好き。血が欲しい気持ちを恋とか愛だとかと勘違いしてない!!本当に大好きなの!!」


流月さんは顔を真っ赤にして、服の裾を握っている。告白したあの時みたいに。僕は流月さんに歩み寄って、彼女の小さい体を抱きしめた。


「信じるよ、流月さんのこと。いや、最初から疑ってなんかいなかったけどね」


流月さんの頭が僕の胸の辺りの高さにある。僕はその頭を撫でながら自分の胸に押し付けた。


「お、おい……本気じゃない……んだよな?」


大神が状況を理解できない様子で聞いてきた。


「何言ってるの?本気じゃなかったらこんなことしない」


僕は本気だ。驚いていない訳ではない。吸血鬼が恐い訳ではない。死ぬのは何より恐い。


「でも、流月さんは恐くない。恐いのは嫌いになる理由にはならないよ」


「はぁ!?お前の頭ん中、どんだけお花畑だよ!?」


恋は盲目というけど、確かにその通りかも知れない。


「それに言ったでしょ?『僕の知らない流月さんを知っても、僕の気持ちは変わらない』ってさ」


呆れた様子の大神。対して、流月さんは嬉しさを隠すように僕の胸に頭を押し付けた。

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