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僕の彼女  作者: 優流
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告白

流月さんは顔を真っ赤にして、うつむきながら勇気を振り絞るように服の裾を握っている。

たぶん流月さんは凄く人見知りで、人と関わるのが苦手で、内気で、そんな自分にコンプレックスを感じている。でも、今日のために流月さんはいつもより、少しだけ背伸びをしたんだと思う。着ている服もきっと精一杯のお洒落をしているんだと思う。確かに小柄な流月さんが小学生に見えるけど、彼女はれっきとした恋する女性なんだ。自分に自信が無くて、ひょっとしたら今後の僕との関係を失ってしまうかも知れないと思いながも今こうして僕の目の前に立っているんだ。今にも泣き出しそうな流月さんが可愛すぎる。


「で、でも、答えをきく前に……言わなきゃいけないことが……」


流月さんの声が震えている。


「い、言ったら、き、嫌われるかも知れない……」


「流月さん……」


僕の手が自然と流月さんの顔に伸びた。やっぱり泣いているみたいで、指に冷たいものが触れた。


「嫌いになんかならないよ。僕も流月さんのことずっと好きだったから……」


流月さんの震えが一瞬止まったかと思えばまた震え始めた。


「わ、私……君がこの大学に進学することを、ぬ、盗み聞きしたの……」


「は?」


「君と同じ大学に進学したくて、で、でも、聞く勇気が無くて、つい……私、気持ち悪いよね……」


また沈黙。


「ね、ねえ?言わなきゃいけないことって、そんなこと?」


流月さんはうなずいた。


「…………プッ!!アッハハハハ!!何?そんなこと?ああ、ごめんね。でも、あまりにどうでもいいことだったから、拍子抜けして……アハハハハ……流月さん、そんなことどうでもいいことだよ。それで流月さんが後ろめたさを感じているなら、そんなこと感じる必要は無いよ」


僕は両手で流月さんの頬を押し潰したり、引っ張って口元を吊り上げた。


「そんな顔しないで笑ってよ、ね?」


僕にはもう流月さんが可愛くて可愛くて仕方なかった。同じ気持ちだったことが嬉しくて嬉しくて仕方なかった。盗み聞き?何それ美味しいの?って思うくらい舞い上がっている。

でも、流月さんの様子は晴れ晴れしていない。


「で、でも、も、もう1つあるの。これは……これは言わなきゃいけないけど、言わなきゃいけないんだけど!!言うのが恐い!嫌われるのが恐い!!」


流月さんはいつになく取り乱しているようだった。そのことから察するにどうでもいい盗み聞きの件より圧倒的に重要度が高い内容ということになるのだろうか。


「流月さん……重要なことのようだけど、言いたくないなら言わなければいい。言わなければ僕に嫌われることは無いでしょ?…………いつか、今告白してくれたみたいに言える時が来たら言って。僕は待ってるよ」


「い、いいの?」


「もちろん」


「う、うん……あ、ありがと……」


流月さんは涙を拭って、微笑んだ。もう流月さんが可愛すぎる。


「あ、終電!!」


「ああ!!」


僕と流月さんは慌てて駅に向かって走り始めた。


「流月さん!!」


「なあに!?」


「僕も大好きだよ!!」


「私も!!アハハハハ!!」


こんなに可愛すぎる流月さんが僕の彼女です。




















でも、この時はまだこれから起きることを知らない。目の前の幸せが眩しくて、その先が見えていなかったんだ。































ゴールデンウィークが終わって、本格的に授業が始まった。その日からは主に流月さんと一緒に勉強していた。何もやましいことはない。それに授業中にイチャイチャするほどバカではない。お互いにノートを貸し借りして、知識の共有と補充をしているだけだ。ひょっとしたらイチャイチャしているようにも見えたかも知れないけど、僕と流月さんはあくまで授業中は授業に集中した。でも、だからこそ僕と流月さんの関係はすぐに噂になり、彼の耳にも入ってしまったんだろう。

ゴールデンウィークが終わってから、大神は大学に来ていなかった。連絡をしても出ない。大神が大学に来た時には、流月さんとのことを話そうと思っていた。知り合ってから1ヶ月程度だが大神のことは友達だと思っている。友達には事実を知っていて欲しいと思った。

大神が大学に来たのは親睦会から一週間過ぎた日のことだった。授業が始まるのを流月さんと待っていると大神が現れた。でも、様子が少しおかしい。目が血走り、健康的な表情はどこかやつれている。教室の入口で教室を見渡し、誰かを探しているようだ。血走った眼差しが僕の視線と重なると無言のまま僕に近づいてきた。大神の様子がおかしいのは教室にいる全員がわかっている。だから、誰も声をかけられない。でも、どうやら大神は僕に用事があるようだ。


「悪い。ちょっとコイツ借りるぞ」


大神は流月さんを睨み付けていた。流月さんは怯えた様子で何も言わない。僕は大神の威圧的な態度が気に入らなかったけど、腕を掴まれ、有無を言わせず無理矢理教室から連れ出された。


「ちょっ、放せよ。自分で歩ける」


「悪いな」


大神は掴んでいた僕の腕を放した。


「僕に用事?なら、早く言ってくれ」


廊下は授業前ということもあって誰もいない。


「ここじゃ言えない。場所を変えるぞ」


大神はそれ以上何も言わずに歩き始めた。時計に視線を向けると授業が始まってしまっている。渋々大神の後を追って僕も歩き始めた。






大神は人気を避けるように普段は誰もいない大学敷地内の林の中に入っていった。ここまで来て話す用事が何なのか見当もつかない。


「おい。さすがにここら辺ならいいだろ?用事は何だ?」


「その前に確認したい。お前、影宮と付き合ってるって本当か?」


「うん、本当だよ。誰かに聞いたの?大神が来たら大神にもちゃんと言おうと思って……」


「別れろ」


今、大神の口から冷たい言葉が吐き出されたような気がした。


「あの女とは別れろ。今すぐに」


僕の知っている大神は、友達を大事にして、時に優しく、時に面白く、時に厳しく接する本当に良い人だ。まだ知り合ってから1ヶ月程度だが、これまで見てきた人の中で一番友情に熱い人だ。彼以上に友情に熱い人はいないと断言できる。

そういえば恋人が欲しいと言っていたけど、先に僕に恋人ができたことに嫉妬しているのかと思った。だけど、大神の様子からそんなくだらない理由で別れろなんて言うはずがない。


「別れろって、流月さんと?」


「そうだ」


「さっき教室で隣にいた背の低い黒髪の流月さんとってこと?」


「さっきお前の隣にいた背の低い黒髪の女のことだ」


まあここまではわかりきっている。


「なぜ?」


「理由は言えない」


大神の表情からも何かただならぬことが起きているのは想像がついた。だからといって理由もわからないまま別れさせるなんて納得がいかない。


「別れるつもりはない」


「……そう言うと思った」


大神は呆れた様子で笑った。もちろん、心から笑っているわけではない。


「あの女、お前に何か言ったか?」


「僕の進路を盗み聞きして、同じ大学に進学したって……」


「他には?」


「何も……」


「質問を変えよう。お前はあの女の何を知ってる?」


「何を?少なくとも君よりは知ってるつもりだけど」


「本当か?本当に知っているって言えるのか?」


薄ら笑いを浮かべる大神に腹が立った。


「僕は流月さんのことを全て知っている訳じゃない。でも、少なくとも君よりは知ってるつもりだし、僕の知らない流月さんがいても、僕の気持ちは変わらない」


薄ら笑いに対して、僕は真剣な眼差しを送った。僕には流月さんに関するどんな事実を知っても、流月さんを好きでいられる自信があった。それを誰かに曲げることは出来ない。

薄ら笑いを浮かべる大神の顔が引き締まった。


「そうか……気を悪くする事を言って悪かったな。だけど、俺は俺でお前のこと友達だと思っているんだ。だから、何かあったら真っ先に俺を頼ってほしい」


何か秘密をしている人を信用しろと言うのも納得いかないけど、大神は少なくとも悪いやつじゃない。その点においては信用できる。


「……わかった。何かあったら真っ先に大神を頼るよ」


何か嫌な予感が背後を這い回っているような気がした。

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