表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の彼女  作者: 優流
3/23

親睦会

オリエンテーションや各授業の説明やらで本格的に授業が始まろうとしていたのは4月末頃。そう思っていた矢先に訪れるゴールデンウィーク。バイトをしている人も少なくなく、ゴールデンウィークの予定は一杯という人も多いらしい。僕はまだバイトを始めていないから親睦会に参加するのは問題ないけど、せっかくだから流月さんにも参加してほしいというのが正直な気持ちだ。

大学生活初日以来、また会話をする機会が無くて困っている。授業自体は同じ学科ということもあって、顔を合わせることは多い。でも、やはり会話まで発展しないし、メールを送ろうかと考えるけど、何を話そうか迷っているうちにメールは送られず仕舞いになっている。

その代わり、大神とは意気投合した。意気投合というのも少し違うかも知れない。大神の周りには男子学生も女子学生も集まってきて、彼は皆の人気者だった。話が面白くて一緒にいて飽きが来ない。一度男子学生数人と大神の運転でドライブに出掛けたけど、話題に事欠くことなく楽しい1日を過ごせた。


「今度の親睦会楽しみだな」


大神はスケジュール表を見ながら呟いた。


「楽しみって、大神なら毎週末に何か予定が入ってるんでしょ?」


「まあね」


自慢げにスケジュール表を見せつけると週末だけでなく、平日の授業が少ない日まで誰かと会う予定で埋まっている。


「リア充ってやつ?」


「いやいや、非リア充だよ」


「え?何でさ?」


「彼女がいない……」


いつも明るい大神がわざとらしく落ち込んで見せた。


「だから、今度の親睦会でもっと女性陣と仲良くなる!」


落ち込んでいると思えば、急に目を燃え上がらせた。


「充分仲良くしてると思うけどな」


「そういうお前はどうなんだよ?」


「入学式ん時の彼女と上手くやってるのか?」


大神は嫌らしい笑みを浮かべて僕の顔を除きこんでいる。


「か、彼女じゃないし!!」


まあ事実だ。確かにそういう関係になりたいとは高校の時から思っている。もし神様がいるなら、これは神様がくれたチャンスかも知れない。

僕はそう思いながら、スマートフォンを開く。


「メール来てないんだろ?」


大神は見透かしたような半笑いを浮かべている。まあメールが来ているはずがないというのも事実だけど。



















[件名:久しぶり!!]

〔っていう訳ではないか。昼に大学で会ったもんね。

ところで、週末の親睦会だけど来れそう?集合場所と時間は駅前広場に18時だってさ。ちなみに会費は3000円。飛び入りも何とかなりそうって幹事さんが言ってたよ〕


我ながら保守的な当たり障り無いメールをうったものだ。スマートフォンの画面の右上の時計で時間を確認して、送っても大丈夫かどうか確認した。まだ20時を過ぎたばかり。お風呂に入っているかも知れないけど、少なくとも寝ていることはないだろう。ああ、でも、もし寝ていたら、なんて思案していると20時半を過ぎていた。


「メールなら後で連絡が来るよね」


僕は最後にもう一度内容を確認して、送信ボタンを押した。でも、その返信は返って来なかった。




























そして、親睦会当日がやってきた。ついに流月さんからの連絡は来なかった。


当日の18時に駅前の広場を集合場所にしていた。少し早く着いたであろう人達は駅の周辺で時間を潰しているようだ。僕は僕で広場のベンチに座って、スマートフォンの画面を眺めて時間を潰している。刻々と集合時間に近づいている。

この親睦会を企画した幹事さんが現れた。それに続いて、同じ学科の人達が続々と集合した。でも、そこには大神の姿が見当たらない。今日の親睦会を楽しみにしていた大神が遅刻というのは考えにくい。

その時、スマートフォンに一通のメールが届いた。大神からのメールだ。


[件名:無題]

〔用事ができた。今日は行けない〕


普段の大神からは想像できない淡白な内容だった。あれほど楽しみにしていた親睦会を当日にキャンセルするほどの用事ってなんだろう。


「幹事さ~ん。今、大神から連絡があって、今日急用で来れないそうです」


「ええ~?大神君来ないの?」


幹事をしている女子学生は残念そうにしていたが、すぐに気持ちを切り替えてスマートフォンに記録してある親睦会の参加者名簿を見て、人数を確認し始めた。


「あ、あの……」


すぐ背後から子猫のような声がした。聞き覚えがありすぎる声だ。振り向くとサイズが二周りくらい大きいランニング用のジャケットを着て、ダボダボのジーンズを履いた小学生みたいな大学生がいた。


「流月さん!」


「メールくれてありがとう。あ、あの飛び入り大丈夫ですか?」


「ああ、どうだろう?でも、大丈夫だと思うよ。幹事さ~ん!飛び入り一人大丈夫ですか~?」


気分はすでに最高潮。参加してよかった。













場所は駅近くのカラオケに用意されていた。この日のために幹事さんがパーティールームをちゃんと予約してくれていたようだ。


「あーあー、それでは親睦会を早速始めたいと思います。まずは自己紹介から!!」


この親睦会に参加したのはクラスの約半数。20人ちょっとだ。それぞれがマイクを使って、名前や趣味、大学での目標とか自由に語っている。僕と流月さんは入口のすぐ近くに陣取り、次々に語られる自己紹介を聞いていた。僕の番が回ってきて、名前と大学での目標を言って、次の流月さんにマイクを渡した。


「か、影宮、流月です。きょ、今日は飛び入り参加させていただいて、あ、ありがとう、ございます。え、えっと……か、彼とは高校の同級生で、大学でも、同じで凄く心強いです」


流月さんはマイクを僕に返して、椅子に座った。これで今日の親睦会に参加した全員の自己紹介が終わった。


「それではジャンジャン歌って、親睦を深めましょ~!!」


「「イエーイ!!」」


これが大学クオリティなんだろう。

カラオケというものには初めて来た。だから、なんとなくくすぐったい感じがする。僕と流月さん以外の人達は歌のレパートリーが多いのか、次々に曲を入れていった。他人が歌っているのに合わせて、メロディーを口ずさんだり、一緒に歌ったり、他人の歌には聞く耳を持たず選曲したり、会話を楽しんでいる人達もいる。

視線を流月さんに向ける。僕はファッションには詳しくないけど、流月さんの今日のコーディネートはボーイッシュと言うもののにあたるのだろうか。よくわからないけど、他の人達と比べてやはり地味だ。大学生の群れの中に小学生が紛れたような感じがする。でも、そんな流月さんが可愛いって思った。


「ほら、二人も歌いなよ」


幹事さんが"初めて見る"タッチパネルの機械を差し出しに来た。何を隠そう僕はカラオケに初めて来た。でも、使い方くらいなら機械を見ればわかる。


「僕、あまりレパートリー無いんだよね~。流月さんは?」


「わ、私も……カラオケなんて初めて来ましたし……」


「流月さんも?僕なんてカラオケ自体初めてなんだ。とりあえず、流月さんが先に歌いなよ」


「ええ?私は……」


僕が差し出した機械を受け取り、曲を探して、何か見つけたように曲を予約した。とりあえず、僕も知っている曲を探して、予約は入れておいた。

しばらくして、流月さんの順番が回ってきて、マイクを渡された。聞いたことがないメロディーだけど、たぶんバラードだと思う。そして、流月さんが歌い始めると、それまで自由に親睦を深めていた人達が話すのを止めて、流月さんの歌声に聞き入った。もちろん僕も。透明感のある声というんだろうか。とにかく上手い。上手いというより、綺麗な歌声だ。歌っているのは切ない恋の歌というのもあってか、胸がチクチクする感じがする。

歌い終わると、さながらコンサートが終わったかのように拍手の嵐が巻き起こった。流月さんはもう恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしている。薄暗いパーティールームでは一番近くにいる僕にしかわからないであろう可愛い表情を独り占めできて、ちょっと優越感。でも、同時にこの次の歌い手はプレッシャーを感じるだろうな、なんて他人事のように思っていたら、次の歌のメロディーが始まった。しかも、それは僕が予約した曲だった。











親睦会はおおむね成功と言えるだろう。流月さんさえ、今までほとんど関わりの無かった他の女子学生達に囲まれている。絵柄的には小学生が女子大生に絡まれているようだけど、全員同い年だ。


「あ、そろそろ終電の時間だ」


誰かが時計を確認して呟いた。


「そうだね、じゃあ、一旦ここでお開きにして、終電組は解散。他の人はこのまま続けるってことでいいですか?」


「賛成~」

「俺もそれでいい」

「私、終電で帰らないと」

「私は残ろうかな」


それぞれがこのあとの予定を決めたところで、親睦会はお開きとなった。

二次会に進むのは親睦会に参加した数人程度で、他の人は全員帰ることになった。僕と流月さんは帰る組で、二人で駅に向かって歩き始めた。


「じゃあ、お二人さん!!また大学で!!流月ちゃん、また歌聞かせてね」


そう言った女子学生は走り去った。彼女は電車ではなくて、バスらしい。

残った僕と流月さんは絵柄的には保護者と小学生ってとこだろうか。


「じゃあ、僕達も。早くしないと終電間に合わないよ」


「う、うん」


意外なことに流月さんが帰る方向に乗る人は流月さんの他にいなかった。僕は実家に住んでいるから電車は必要ない。


「きょ、今日は楽しかったね」


「う、うん……」


沈黙。

しまった。会話が終わった。終わってしまった。何か話さないと。きっとこれはチャンス。今まで話せなかった分のチャンスがきっと回ってきたんだ。話そう!話すんだ、僕!!でも、話題が無い。

その気まずい沈黙を破ったのは流月さんだった。


「あ、あの……」


「はひっ!!」


不意討ちを喰らった。


「な、何?」


視線を流月さんに向けると彼女はそわそわした様子だった。


「あ、あの……今日は、その、君に話したいことであって……飛び入り参加した……んです」


「話したい……こと?」


「あ、ああ、あの……わ、私





















君のこと、好きです!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ