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僕の彼女  作者: 優流
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名無島

「君がどんなに娘を……流月を思っているかはよくわかった。

…………でも、そんなことできない」


まあ、予想通りというか、別に予想していたわけじゃないけど、そう言うとは思っていた。だから、腹が立った。


「君は吸血鬼っていう生き物を全く理解していない」


「そうですね。僕は吸血鬼に関して何も知らない。

ですが、お二人がやっていることは間違っている。症状が落ち着くまで、流月さんを苦しめるんですか?」


「だが、それしか方法が無い」


「そんなのおかしい!!僕の親しい人にガンみたいな重い病気を患った人はいません。でも、誰もが病気だとわかれば治療したり、なんとかしようと回りの人達は動いてくれるはずです!!

吸血鬼の禁断症状が病気と違うことはわかります。症状を落ち着かせるために必要なことをやっているのもわかります!!

でも、お二人は苦しんでいる流月に対して何も考えていないように見える!!こんなの虐待です!!」


僕は感情的になって、目の前のテーブルに手を叩きつきた。


「虐待とはなんだ!?」


お父さんも僕の発言に対して怒りを露にした。僕と同じようにテーブルに手を叩きつきたけど、その破壊力は凄まじい。簡単にテーブルを破壊してしまった。でも、僕はそれだけでは怯えない。


「他に方法があるならもうとっくにやっている!!だが、私の一存で美月様を殺すことは出来ないんだ!!だから、君に美月様の居場所は教えられない!!」


そう言った後のお父さんの顔は後悔に染まっていた。


「やっぱり、今も生きているんですね?……どこですか?

美月はどこにいるんですか!?」


再び沈黙。

僕は人の目を見て話すのが苦手なんだけど、今は一瞬足りとも流月のお父さんから目を離さなかった。もうすぐそこまで"答"が、"希望"が見えているんだから、相手が誰であろうと怯んじゃいけないと思った。

僕は今にも目を逸らしたい気持ちをどうにか押し殺して、流月のお父さんと向き合った。


「ここまで来たら隠し事は止そう。それに知られたところで君や大神君にどうにかできやしないんだ。

……ああ、確かに美月様は生きている。場所は名無島(ななしま)という島で眠っている」


名無島という島の名前はもちろん初めて聞く。当然島の位置もわからない。一瞬、大神に視線を向けるが、どうやら大神も知らないらしい。


「どこにある島ですか?」


「地図には載っていない」


その一言は少し不思議に思えた。今の時代、地図に載っていない島があるんだろうか。


「そして、誰にも……私達吸血鬼以外には誰にも見つけることができない島だ」


言っている意味がわからなかった。


「名無島は美月様が作り出した結界の中にある島。そこは外部からは見ることは出来ない。しかし、唯一吸血鬼だけが、その場所を知り、その場所を見つけ、その場所にたどり着くことができる。

人間の君には、何も出来ない!!」


お父さんは勝ち誇ったような顔をしている。確かにそんな島は少し前までの僕なら信じられなかったと思う。でも、今ならそんな島が実在してもおかしくないと思っている。それにお父さんが嘘を言っているようにも見えない。本当のことだ。


「君に力を貸す吸血鬼はもういない。さあ、諦めて……」


お父さんが用意していた言葉を言い切る前に僕の背後から爆発音が轟いた。正確には何かが爆発した訳ではない。地下から土やら岩やら何やらを無理矢理力任せに吹き飛ばした音だ。そして、その巻き起こった土煙の中には流月の姿があった。


「ゲホッ!!ゲホッ!!る、流月!?」


「お父さん、私……!!」


「流月!!その人と一緒にいて苦しむのは貴女なのよ!?」


「お母さん、ごめんなさい!!でも、私、彼と一緒にいたい!!」


「その人の血を吸うことになるぞ!!」


「吸わない!!絶対吸わない!!」


流月の小さな手が力強く僕を引き寄せ、抱き締めた。

騒ぎを聞き付けた他の吸血鬼の人達も集まり、周りは騒がしくなっていた。


「影宮……名無島の場所に心当たりは?」


僕と流月を庇うように立つ大神の囁きに、流月は頷いた。その瞬間、大神の狼の姿に変身して、座っていたソファーを持ち上げて、天井に投げつけた。勢いよく投げつけたソファーは天井を突き破った。


「行けっ!!後で追い付く!!」


大神は持ってきたバックを僕に投げ渡し、受け取ったのを確認すると、流月は大神が開けた穴に向かって、僕を抱えたまま飛び込んだ。









他の吸血鬼達がアイツらを追おうとしていた。


「させるかよ!!」


俺は一人の吸血鬼の脚を掴み、アイツらの後を追おうとしている吸血鬼達に投げつけた。


「影宮さん!!何をしているんですか!?娘さんを追いかけてください!!今なら間に合う!!」


他の吸血鬼が影宮の親父さんを焚き付けた。しかし、親父さんもお袋さんも、龍月さんも動かない。それどころか項垂れて、ソファーに座り込んだ。


「……影宮さんの、いや、吸血鬼の判断が間違っているとは思いません。所詮、アイツは"人間"ですから。

でも、世間体とか気にしている場合じゃないと思います。それがアイツには虐待に見えた。きっとアイツはこう思っているはずです。


『吸血鬼である以前に流月の親だろ』って……」


周囲の吸血鬼は既にアイツらを追おうとはしなかった。アイツの血を吸っている影宮は他の吸血鬼に比べて身体能力は数段上だろう。つい一分足らずの時間でも、追い付くことは出来ないと判断したのだろう。当然、俺も追い付けない。


「親として判断が間違っていたと思うかい?」


「さあ……俺はまだ父親になってませんから」


我ながら無責任なことを言ってしまったと思う。

いずれにせよ、俺が出来るのはここまで。後は頑張れよ、二人とも。






































「こうして、夜の空を飛ぶのっていつ以来だっけ?」

「僕、重くない?」

「少し痩せた?」

「その髪、綺麗だね」

「名無島まで、あとどれくらいかな?」

「疲れてない?」


最後の台詞は要らなかった。疲労感ということなら、たぶん疲れていないだろうけど、流月は苦しそうだった。


「お、大神……来るかな?」

「お姉さん、龍月さんに案内してもらって来たんだよ」

「龍月さんって不思議なことが出来るんだね。流月も出来るの?」


なぜ、僕だけが喋っているのか。それは喋っていないと流月が理性を保てないからだそうだ。


「ほ……かのこと……言って……」


「わかった……」

「高校の時、熱中症で流月が倒れたことがあるでしょ?」

「たぶん……いや、その前からずっと流月のことが好きだったんだ」

「でも、卒業するまで、自分の気持ちがわからなかった」

「流月……好きだよ」

「大好きだよ」

「愛してるよ、流月」

「流月……これからもずっと一緒」

「愛してる」

「そばにいるよ」

「放さないよ」

「気は早いけど、卒業旅行はどこに行きたい?」

「僕は温泉かな?」

「来年の夏休みは海にも行こう」

「あ、でも、露出は少なめの水着にしてよ。目のやり場に困るから」

「クリスマスは一緒にはケーキを食べようね」

「初詣にも行こう」

「いつか、両親にも紹介するよ」


お父さんの言う通り。僕は吸血鬼を、流月の状態を理解していなかった。こんなに辛そうにしているのに僕に出来ることは流月に話しかけることしか出来ない。


「捕まった時ね、流月がどんなに可愛いか熱弁したんだ」

「でも、僕って口下手で臆病でしょ?」

「もっとビシッと決めたかったんだけどね、イマイチ締まりが悪かったんだ」

「流月は、はにかむと八重歯が見えて可愛いんだとか……」

「頭を撫でると幸せそうに微笑むんだけど、その顔が堪らなく可愛いんだ」

「身長は小さいし、龍月さんとか他の人と比べても地味だけど、そこが可愛いとこ」

「告白の時……凄く勇気を振り絞ったんだよね」

「きっと恐かったんだよね」

「龍月さんから聞いたよ。『吸血鬼でもよかったんだ』って……」

「当たり前だよ」

「だって、流月は"僕の彼女"だもん」


気が付くと眼下には陸地が無くなっていた。海の上だ。どうやら、このまま目的地の名無島に行くようだ。


「も……すぐ、だよ」


視線を海に向けていると、それまで海しか見えなかった視界に突然島が現れた。徐々に島の姿が見えてきたのではなく、突然目の前に姿を現した。


「こ……ここが、名無島……」

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