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僕の彼女  作者: 優流
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大学生活初日

春。

周りには真新しいスーツを着た学生たちが少し緊張した様子で用意されているパイプ椅子に座っている。僕も真新しいスーツを着て、緊張しながらパイプ椅子に座っている。


大学の入学式だ。


ここからまた新しい生活が始まる。小中は顔を見知った人達と同じように進学しているし、高校では辛うじて同じ中学の仲間がいた。でも、大学は違うと思う。同じ高校の人が全くいないっていうことはないにせよ、たぶん学科が違ったりで接点はほぼ無いんだろうな。地元の大学に進学したから、ひょっとしたらかつての同級生がいたらいいな、なんて淡い希望を持っている。

今は各学科ごとに一人一人名前を呼ばれている。高校の入学式も相当長かったけど、大学になったら一体どうなるんだろう。そんなことをぼんやり考えているとあっという間に僕の学科の点呼が始まった。そういえば、ぼんやりしていたせいで聞き覚えのある名前の人がいるかどうか確認し損ねた。


「影宮流月!」


一瞬、心臓が破裂したかと思うほど驚いた。視線を前に向けると小柄で若干ボサボサの黒髪の見慣れた後ろ姿が見えた。間違いなく流月さんだった。






入学式が終わり、それぞれの学科毎に決められている教室に向かい、オリエンテーションを受けることになっていたけど、僕は気が気じゃなかった。早く声をかけたくて仕方なかった。だから、オリエンテーションの中身はほとんど頭に入っていない。プリントを渡されているから、後で見ておこう。


「それでは今日はこれでおしまいです。ご苦労様でした」


担任の教師がそう言うと緊張の糸が崩れたようにクラス中がため息を漏らした。早速スマートフォンをポケットから取り出して弄る人もいれば、流月さんのようにそそくさと帰り支度を始める人もいた。


「流月さん!」


「ひゃっ!!」


帰り支度の動きが止まって、関節が錆び付いたロボットみたいに流月さんは僕のほうを向いた。


「驚いたよ。まさか同じ大学に進学してたなんて」


「わ、私も……君の名前を聞いて驚いちゃった……」


相変わらず子猫みたいな声をしている。でも、心なしか高校時代より、雰囲気が大人びている。黒のレディーススーツを着ているせいか。ボサボサの髪は少しセットされている。顔が隠れるくらい伸びていた前髪もヘアピンで留めて、顔がしっかり見えるようにもなった。雰囲気が違って見えて当然だ。


「同じ高校の同級生がいると心強いよ。改めて、よろしくね」


僕は何の気なしに握手を求めた。流月さんも恐る恐る僕の手を握った。流月さんの手は柔らかいけど、冷え性なのかひんやりしていた。


「そうだ。よかったら連絡先教えてよ」


「え?で、電話番号とか?」


「そう。電話番号とかメールアドレスとか」


一瞬、流月さんの表情が曇った。視線が泳ぎ、鞄からスマートフォンを出すのを躊躇っているようにも見えた。


「あの、嫌だったら無理しなくていいんだよ?」


つい流月さんがいることに舞い上がっていたけど、僕らはそれほど仲が良い訳ではない。高校時代はたった一回短い会話をしただけで、以降は疎遠だったんだ。むしろ、抵抗が無い訳がない。


「ううん!そんなこと……!!」


流月さんが見たことないくらい感情を露にした。そんな自分に驚いてか、慌ててヘアピンを外して、前髪で顔を隠した。


「わ、私のスマホ……せ、赤外線無いから……」


流月さんはスマートフォンを操作して、自分の電話番号とアドレスを画面に表示して、僕に差し出した。


「あ、ありがとう」


僕はスマートフォンを受け取り、自分のスマートフォンに流月さんの連絡先を保存した。


「じゃあ、僕のほうはメールで送るから登録お願いね」


スマートフォンを受け取った流月さんは激しくうなずいて、途中だった帰り支度を再開した。


「なになに~、二人はお知り合い~?」


突然、僕らの間に一人の男子学生が現れた。視線を向けると、長身で少し灰色がかった髪と健康的な日焼けした肌が特徴的な人だ。


「ああ、うん。高校の同級生で……あれ?」


視線を流月さんに戻したけど、既に流月さんの姿は座っていた席にも教室にも見当たらなかった。


「俺、大神。大神健人。『オオガミ』って呼んでくれ。よろしく!!」


「ああ、よろしく」


僕は初対面の大神と握手を交わした。僕より大きな手から伝わってくるのは、この大神の力強さ。少し他の人とは違う感じがする。少なくとも、さっき握手した流月さんの手と違って、熱を持っていた。


















[件名:僕です!!]

〔突然いなくなるから驚いたよ。

とりあえず、僕の電話番号とメールアドレスです。

###-####-####

**********@******.**.**〕


[件名:登録完了しました。]

〔突然いなくなってすみません。両親が車で待っていたので……〕


[件名:そうだったんだ]

〔そうだ。あの後、クラスの親睦会をするって言う話が出たんだ。日時と場所は決まり次第連絡するそうだけど、参加状況は把握したいんだって。流月さんは参加する?〕







[件名:ありがとう]

〔でも、門限とかもあるし、行けるかまだわからないです。両親と相談してみます。でも、あまり期待しないでください〕


[件名:そっかぁ……]

〔でも、行けるようになったら連絡してね。じゃあ、また明日大学で〕


[件名:はい]

〔また大学で。おやすみなさい〕


流月さんとの三年ぶりの会話と初めてのメールのやり取りはこんな感じだった。

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