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僕の彼女  作者: 優流
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二人の出発

三日後。僕は退院した。両親の付き添いのもと病院からやけに懐かしく感じる自宅に帰ってきた。話によれば三日間寝ていたそうだし、拉致監禁されていた時間を合わせれば一週間ぶりだろうか。そりゃ一週間も家から離れるなんて初めての経験だから、懐かしく感じるのも無理はない。

でも、せっかく家の前まで来てなんだけど、ひょっとしたらもうここには帰って来れないかも知れない。


「父さん、母さん。退院したばかりだけど、ちょっと行かなきゃいけない所があるんだ」


両親はキョトンとした様子で僕を見つめている。母さんなんか何故だか泣き出しそうな顔をしている。


「今日じゃないとダメなのか?」


「うん。たぶん、待たせてると思うし……」


「どこに行く?いつ帰って来る?」


「たぶん、遠い所。帰りはわからない」


帰って来るとは言えなかった。いくら僕だって、これから行こうとする場所から帰って来る確率が低いのはわかる。行けるかどうかもわからないけど、でも、行かなきゃいけない。


「そんな場所に行かせるわけにはいかないって思うかも知れないけど、僕は行かなきゃいけないんだ。行って、話さなきゃいけない人がいるんだ。だから、行かせてください!!」


僕は深々と頭を下げた。

親にお願いをすることは何度もあった。その時はいつも許可してくれたり、許可しなくても何とかなったりした。でも、今は違う。両親も何か感じ取っているのも間違いないだろう。


「どうしても行かなきゃいけないんだね?」


「はい……」


「今すぐ行かなきゃいけないんだね?」


「はい……」


「…………仕方ないな。行ってきなさい。お母さんもいいですか?」


「……心配だけど、気をつけて行くんだよ?何かあったらちゃんと連絡しなさい」


母さんが泣き出しそうな震えた声で言った。

僕はもう一度深々と頭を下げて、まだ初心者マークが付いている車に乗り込んだ。



































「健人さん!!こんなことして、バレたら御当主様に殺されますよ!!」


ホコリとカビの匂いで充満した蔵の中で押し殺した声が聞こえてきた。


「いいから黙って探せって!!」


ここは俺ん家、つまり大神家が、何世代にも渡って受け継いできた品物を保管しておく蔵の中だ。何百年もの間、受け継がれてきた骨董品の数々だが、俺には正直これらの価値はわからないし、価値あるものなら尚更使うべきだと思う。だが、親父や兄貴は大事な物だからこそ使わないという考えを曲げないし、そもそもこの蔵自体入っちゃいけないことになっている。もちろん見つかればただでは済まされない。

だからこそ、早く見つけるために俺はこの手の探し物が得意な部下を一人選んで探しているんだが、見つからない。出てくるのは食器やら花瓶やらオークションに出せば相当額で取引されそうな品物ばかりだ。だが、そんな金目の物なんかに用は無い。俺が探しているのは"釘"だ。ホームセンターに置いてあるステンレス製の釘じゃない。大昔に作られた"銀の釘"だ。


「あ、ありました!!」


部下がようやく釘を見つけた。部下の手にはだいぶ廃れた木の小箱が抱かれている。おそらく数ある骨董品の中で最も古い品物だ。中身を確認すると30cmくらいの銀の釘が一本だけボロい布に包まれていた。


「よし、助かった。あとは俺に任せてお前は逃げろ。お前のことは口外しないし、お前もこの一件に関しては関与してないし、知らないで押し通せ」


無理はあるかも知れないが、責任は全て俺が負うつもりだ。どんな罰も受ける。だが、今は一秒でも速くこの場から立ち去らなければならない。

俺が見つけ出した釘を鞄に閉まっている間に部下は蔵から逃げた。あとは俺の番。


「そこで何をしている?」


いや、薄々勘づいてはいたんだけど、いざこうして見つかってしまうと嫌な汗をかいてしまう。

振り向くと既に60歳を過ぎたとは思えない膨れ上がった筋肉の鎧を身にまとった男が立っていた。親父だ。


「ちょっと探し物をね」


「ここの出入りは禁じているはず。そんな所に探し物だと?」


「ああ、ガキの頃に隠した食玩を探してたんだよ。大学に好きな奴がいて、売ってくれって頼まれてさ~」


嘘だが。


「その食玩は初代から受け継がれてきた"鬼殺しの釘"とは、随分変わった学友だな」


当然のようにバレている。

"鬼殺しの釘"。それがこの銀の釘の正式名だ。

鬼。つまり、吸血鬼を殺すためのレアなアイテム。その昔、初代大神家当主が名の有る霊能力者に作らせた代物だ。


「それをどうするつもりだ?」


「いや、殺したい吸血鬼がいてね」


「…………影宮の次女の件なら先程連絡があった。影宮家及び仲間の吸血鬼で次女の禁断症状に対処するため、助太刀無用だそうだ」


「そう。それは安心。あんな化け物相手じゃ、俺の手には負えないからな」


「そうだ。役目も全うできないような小僧に敵う状態じゃない。それにたかが吸血鬼の女一人に貴重な釘を使わせるわけにはいかない。……返せ」


親父は分厚くて殺気さえ感じる手を伸ばしてきた。親父マジ恐ぇ。


「あいにく、返すことは出来ない」


「今なら咎めない」


「それはありがたい。でも、出来ない」


「…………影宮家から一つ依頼があった。"彼"が次女に会うのを阻止しろと」


「それで?」


「お前が"彼"を影宮家に連れていこうとしているのはわかっている。釘を返し、バカな真似は止めろ。さもなくば…………」


全身の筋肉から殺気が溢れ出している。実の子だろうと殺してでも俺を止めるつもりらしい。


「断る。悪いけど、約束があるんだ」


俺は蔵の入口で殺気立つ親父の横を通りすぎた。蔵があっては、満足に力も発揮出来ないだろう。


「アイツは影宮のとこに行くぞ。両足を折っても、両手で這って行くぞ。両手を使いもんにならなくしても、殺してもアイツは影宮に逢いに行くんだよ!!

だから、俺もアイツのとこに行く!!アイツと約束したんだよ!!どうしても止めたいなら力ずくで止めてみろよ、クソ親父!!」


俺は狼に変身した。着ている服も靴も破いて、自分の親に牙を剥いた。


「…………ガキ」


親父はそれしか言わずに、自分も狼に変身した。鍛え上げられた筋肉も鋭利な刀を差し込んだような牙も衰えている様子はない。それどころかさらに磨きがかかっている。変身すると2メートルくらいになる俺よりも、親父はさらにデカくなる。だが、俺も退くわけにはいかない。牙と爪と筋肉。持てる全てを武器にして、全身全霊を込めて親父にぶつかった。


















待ってろ。今、行くからな。

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