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僕の彼女  作者: 優流
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決意

「流月、さんのお姉さん?」


「そっ」


「逢わないってどういうことですか?」


「そのままよ。あなたと別れるってさ」


さすがの僕でも『はい、そうですか』で済ませることができるはずがない。


「理由は?何で別れなきゃいけないんですか?」


「あなたのせいよ。あなたが自分の血を流月ちゃんに吸わせたせいよ」


僕はあの時のことを思い出した。

あの時、青白い肌の男は"運命の人"の血を吸った自分は普通の吸血鬼より治癒力が高いということを言っていたのを思い出した。だから、僕の血を吸えば、流月は助かるんじゃないかと思った。


「あ、あの時はそうするしか流月を助ける方法がないと思った!!」


「そうね、聞いた限りだと確かにその通り。だから、妹を、流月ちゃんを助けてくれたことには感謝してる。ありがとう。

でもね、あなたの血を吸ったせいで、流月ちゃんは他の血じゃ"渇き"が潤わなくなったのよ」


僕が流月を助けるつもりでやったことで、流月が辛い思いをしている。その事実を知って、僕は言葉に詰まった。


「あなたと逢えば、流月ちゃんはあなたを襲ってしまう。だからもう逢えないってさ」


「流月、さんはこれからどうなるんですか?」


「そうね……禁断症状が落ち着くまで、しばらく家族総出で流月ちゃんを抑える予定。でもね、もしそれでも止まらなかったら……」


「俺達が殺す」


脇から大神が入ってきた。


「人狼は常に吸血鬼を監視して、人間を守るのが役目だ。だから、人間に危害を加える吸血鬼は殺さなきゃいけない。あの青白い肌の男みたいなやつも本当に稀にいるが、本来人狼の役割はそういうものだ」


僕は全身の血が一気に凍るような感覚に襲われた。目の前が真っ暗になって、現状が理解出来ない。


「安心しろ。影宮が禁断症状を克服すれば殺さない」


「でも、どの道あなたはもう流月ちゃんには逢えないわ。逢わないほうがあなたのためだもの」


理解が出来ない。聞こえてくる空気の振動を上手く頭で処理出来ない。だけど、その代わり心が内容を理解した上で突きつけられた現実への拒絶反応を示している。胸が苦しくて、涙が勝手に溢れた。頭は真っ白で自分が泣いていることはわかったけど、泣いている理由はわからない。とにかく何も考えられなくて、ただただ涙が溢れた。声も上げた。まるで、子供が駄々をこねるように泣いてしまった。意味もなく泣いてしまった。理由もわからない。止まらない。


「じゃ、私はこれで」


龍月さんは現れた時のように音もなく、姿を消した。






こんなに泣いたのはたぶん久しぶりか初めてだと思う。大切な人がいなくなった悲しみなのか、大切な人を守れなかった悔しさなのか、とにかくいろんな感情が込み上げてきて、押さえられなかった。その結果の号泣。

大神はしばらく僕を一人にしてくれた。ひょっとしたら、休憩から戻った両親に事情を話していたかも知れない。ちょうど落ち着いた頃に両親と一緒に病室に現れた。両親は何も聞かずに僕が目を覚ましたことに泣き崩れた。母さんは痛いくらい僕を抱き締めて、その後ろで父さんも泣いている。医師が現れて、僕の様子を診断するに、念のためあと二、三日入院した後で退院にするらしい。僕自身、まだ少し貧血気味だ。


「これで一安心。お母さんもゆっくり寝れるね」


「ごめんなさい。僕のせいで……」


「ううん、いいの。家族なんだから心配をかけてもいいの」


母さんは自分の目から流れる涙を拭いながら言った。


「心配かけてもいいし、それに応えてくれればいいの」


「無理に何があったかは聞かないさ。いつか話してくれればそれでいい。でも、話してくれなきゃ相手の気持ちはわからないんだよ。

じゃあ、一度帰るね」


そう言い終えると両親は病室を出ていこうとした。最後に振り向いて、まるで部屋で眠る我が子に「おやすみ」を言うように手を振った。子どもじゃないつもりだけど、親にとってはいつまでも子どもなのだろう。

話さなきゃ相手の気持ちはわからないという話は昔から言い聞かされてきた。誰かが泣いている。誰かが怒っている。誰かが喜んでいる。その理由を知るには相手と話してみないとわからない。話してもわかるかどうかわからないのが人の気持ちだけど、わかる前の段階、知る段階にも話すことは必要だと教わった。


「話さなきゃ相手の気持ちはわからないか……俺ん家なんか『話すな』『知られるな』『悟られるな』って教わったな……」


大神家では人狼という自分の正体を周囲に話さないそうだ。一時期、正体を秘密を抱えていることに耐えられない時期があったそうだし、本来なら正体がバレた時点で消えるのが当たり前だそうだ。極稀に正体がバレても今の時代、人狼なんて言うファンタジックな存在を信じる人はいないからネット上に出回ることも少ないそうだ。だけど、そうやって大神の正体を知った人間は大神が消えると同時に大神の前からも姿を消した。

その話を話している時の大神は少し寂しそうにも見えた。こうして話していなければ、大神がどんなふうに生活してきたか、何を思っているのかわからない。


「ねえ、大神。あの後、僕が流月に血を吸わせた後、何があったの?」


僕は自分のやった行いの結果を知らなきゃいけない。

さっきまで取り乱していたせいか、今は頭がスッキリしている。恥ずかしいとこを見せたとは思わない。お陰で整理出来た部分も多い。


「なんか、らしくなったじゃないか」


大神は満足げに笑い、あの後に何が起きたのか話してくれた。圧倒的な力を発揮した流月。艶のある紅い髪の流月。いつの間にか姿を消した流月。そして、それらに付随するその他の出来事。


「これがあの後に起きたことだ」


全て聞き終えて思ったことはただ一つ。


「紅い髪の流月ってどんなだった!?綺麗?綺麗だった!?」


ただそれだけ。大神は呆れた様子で苦笑いしていたけど、僕には自分が死にかけた事実よりも紅い髪の流月に対する関心のほうが大きかった。


「お前って…………バカなんだな」


「大神が助けに来る前に、流月にも頭のネジが緩いって言われたよ」


なんだか頭が冴えて、変なテンションになっているのは確かだと思う。


「でも、実はまだもう1つ言ってないことがある」


大神はやけに真剣な眼差しで、エピソードを付け加えた。僕が大神の部下に輸血を受けている最中のことだそうだ。このエピソードを知って、僕の頭は僕史上最も冴え渡った。


「ねえ、大神…………いくつか頼みがあるんだけど……」


変なテンションもすっかり落ち着いて、僕の胸には固い決意が宿った。


「頼みってなんだよ」


「いろいろあるけど、一番重要なのは一つ。






















…………僕を流月に逢わせて」

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