第7話 Eランク試験依頼
図書館での勉強から4日後。
統夜は遂にこの時を迎えた。
「トウヤさん、試験依頼です」
ギルドの看板受付嬢であるサラが言った。ここはギルドカウンター。
遂に、統夜はEランク昇格のための試験依頼を受けるのである。
僅か8日でEランクの試験依頼を受ける冒険者は、統夜が初めてだそうだ。
統夜の身体は疲れにくいので、大量の依頼を1度にこなせられるのが原因である。
「Eランク試験依頼の内容は、ウォードッグの巣の殲滅です。巣には20頭前後のウォードッグがいるため、パーティーでの依頼を推奨します」
「いや、ソロで」
統夜が言うと、サラはあからさまに不安げな表情になった。
「だ、大丈夫?」
「ああ。この前、30頭に襲われたけど平気だった」
「……本当にFランク?」
サラが疑問に思うのも無理はない。普通、FランクやEランク冒険者は、5頭前後の群れと戦うものなのだから。30頭同時だと、もはやCランクレベルである。
「まぁまぁ。とりあえず、行ってくる」
「気をつけてください!」
「分かってる」
統夜は依頼遂行のために、ウォードッグの巣があると言われている、ロートン南部の森へ向かった。
だが、雲行きは怪しくなっていた。
「なんだよ……これは……?」
統夜が見たものは、既に壊滅しているウォードッグの巣だった。
森のど真ん中にある巣だったが、ウォードッグの死体と共に、見る影もない。
「誰がこんなことを……」
その答えは、すぐに分かった。
「グルルル……」
その声が聞こえたのと同時に、【索敵】に何かがかかる。
「なんだ……?」
統夜は声が聞こえた先を凝視し、ブロンズソードを構える。
現れたのは20頭にも及ぶ、ウォーウルフだった。
ウォードッグとウォーウルフ。
似ているが、全く違う。
ウォーウルフは残虐にして凶暴、そしてウォードッグのおよそ2倍という体長を誇る、Dランクの中でも比較的上位の魔物だ。
ただ、こちらは3頭前後で群れることが多く、それらをパーティーで殲滅することが前提でDランクなのだ。
Dランク冒険者数人で、ウォーウルフを3体。それでも死者が出るときは出る。
Fランク冒険者がウォーウルフ20体と遭遇。もはや笑えないレベルである。
だが、統夜は既に包囲されている。逃げる手段はない。
「まったく……ツイてない」
吐き捨てるように統夜は呟いた。
やるしかない。負ければ死あるのみ。
「死んで……たまるかぁぁぁぁッ!!」
その声をコングに、統夜とウォーウルフ軍団の激戦が始まった。
ウォーウルフは、一斉に襲いかかることはなかった。全方向から攻撃すると、仲間と衝突し、十分な攻撃が出来ない可能性があるからだ。
最初に襲いかかったのは、統夜の背後にいたウォーウルフ4体。統夜が振り返って構える。だが、そんなことは、ウォーウルフだって分かっている。
だからこその4体一斉だ。1体なら対抗できようが、複数体同時となると、難易度は格段に上がる。
それ故のウォーウルフ達の判断。高度かつ息の合った判断だと言える。狡猾で頭の良いウォーウルフ達の判断は、人間や獣人を上回ることがある。
ただ、ウォーウルフ達にとって予想外なことがあった。
襲いかかった相手は、ただの冒険者ではなかったことを。ウォードッグなら、もしかしたら予期できたのかもしれない。勘だけは鋭いウォードッグなら。
だが、ウォーウルフには、そんな便利な勘はなかった。
「【ファイア】!」
一斉に1ヶ所に向かって飛び出したウォーウルフは、集まっていた。
故に、その【ファイア】の火球の着弾、そして爆発にまとめて吹き飛ばされる。
「ギャオンッ!!」
死には至っていないようだ。やはりレベルの問題だろう。ただ、ダメージは負ってくれたようだ。4体とも足を震わせている。
「そら、もういっちょ! 【ファイア】!」
更なる【ファイア】の追撃。まだ立ち上がっている途中だった4体に避けられる道理はない。
無防備に食らった4体は、今度こそ地に伏した。
だが、気を抜いてはいけない。まだ4体だけだ。
「グルルル!」
「ガオッ!!」
6体が次々と襲いかかる。一斉攻撃は危険だと判断したのだろう。
だが、連続攻撃をしようが変わりはない。
「【雷光】!」
雷撃がウォーウルフ達を貫く。【雷光】はやはり強力な魔法らしく、ウォーウルフ6体を一撃で絶命させた。
これで燃費が良ければなんと素晴らしいことか。
魔力残存量は105。
これだけのことをされて、流石に攻め倦ねるウォーウルフ。
だが、統夜相手にそれは悪手であるとしか言えなかった。
統夜はニヤリと笑った。必殺技は【雷光】だけではない。
「【マジックショット】50!」
【マジックショット】とは、魔力1を消費して1発の魔力弾を作り出し、撃ち込むという、名前そのままの魔法だ。1発1発の威力は大したことない。だが、一斉射撃の威力は凄まじいの一言に尽きる。
50発の弾丸を作り出し、一斉に撃ち込む。
10体のウォーウルフに魔力弾が突き刺さり、鮮血が舞う。
8体が地に伏し、2体がズタズタながらも立っていた。統夜は駆け寄り、2体にトドメをさす。
「終わった……か?」
統夜は呟く。
後々考えると、それはフラグだったのかもしれない。
「グルルル……」
より大きな声が響いた。
「……ッ!!」
背後を振り返る。目の前に見えるのは爪。
統夜はとっさにブロンズソードで防いだ。ガキンという音とともに、統夜は吹き飛んだ。
どうにか受け身をとる統夜。
目の前にいるのは……
「ウォーウルフ・ロード……」
Cランクの魔物だ。ウォーウルフの2倍……体長3m近くの狼型魔物で、Cランク冒険者2人は必要とされる魔物だ。
「くそ……」
流石にマズい。ウォーウルフ・ロードの目は、仲間を殺された怒りからか、統夜に向けて殺気を放っている。レベルさえ上がれば勝てる。
この世界では、レベルとクラス熟練度が強さの基準。
レベルが10上の相手には、どう足掻いても勝てないとされる世界なのだ。
Cランクの平均レベルは35。
そんなのが2人も必要なのだ。統夜のレベルアップ速度には目を見張るものがあるが、それでもまだレベル3なのだ。そうそうレベルは上がるものではない。
レベルアップは本来、早くても1ヶ月かかるらしい。
自分より格上であるウォーウルフを20体殺しているので、レベルアップするはずなのだが、どうやら戦闘が終わらないとできないらしい。
だからといって逃げることもできない。
この依頼の難易度は、既にCランク依頼に匹敵していた。
「くっ……」
だからといって、殺されてやる道理はない。自分はまだ生きている。
抗える。
「やるしか……ないのかよ……ッ!!」
統夜は噛み締めるように言った。
そして、ウォーウルフ・ロードを睨む。
交錯する視線。
そして言う。
「足の1本はもらってくからな」
統夜のEランク試験の最終戦闘が、ここに始まった。