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凶星戦士  作者: チート野郎o(`▽´)o
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第5話 親子と治癒薬と

現在の時間は午後4時。今日中に渡せそうである。


統夜はギルドから出て、下層区へ向かった。正確には、花売りの少女を見かけた場所である。正直、統夜は彼女を見つけられるか心配だったが、それは杞憂だった。

というのも、町医者らしきオジサンと花売りの少女が街中で言い合っていたからだ。


花売りの少女が目尻に涙を浮かべ、必死に何かを訴えかけているようだが、町医者は済まなさそうに少女を見るだけである。


「どうかしたのか?」


統夜は2人に声をかけた。


「あ……昨日のお兄ちゃん……」


「君、この子の知り合いかい?」


町医者が統夜に問う。統夜は首肯した。


「そうか。なら、君から言ってくれないか。治癒薬は今切らしていて、入荷まで一週間はかかると」


「それじゃ、遅いんです!」


花売りの少女は涙を流しながら言った。


「なぁ、俺に事情を説明してくれないか?」





事情を聞くと、花売りの少女の母親が病気なのだが、容態が急変した。もはや一刻の余地もない状況で、少女の母親の命は危険に晒されている。


そして、下層区の町医者であるこのオジサンに、「足りない分は後で払うから、治癒薬をください」とお願いしたそうだ。


町医者のオジサンも、それには応えてあげたかった。だが、肝心の治癒薬が品切れで、かつ、入荷も容易ではなく、どうしても一週間後になってしまうらしい。だが、少女の母親はそんな余裕はない。


で、こういう状態なわけだ。


何というか……不謹慎ながらも、丁度良い、といったところだろうか。


統夜は2人に向かって言った。


「治癒薬なら持ってる。早くお母さんに会わせてくれ」


2人は驚愕の表情を浮かべたが、一刻の猶予もない。

少女は統夜と町医者を家へ案内した。




下層区らしい、小さな家だった。



中に入ると、大きな部屋が1つしかなかった。


その奥、ベッドで苦しそうに寝ている女性がいた。どうやら、彼女がそうらしい。


統夜はマジックポーチから全ての治癒薬を取り出した。


「そ、それだけの数……一体どこで?」


驚愕する町医者だが、説明している暇はない。


「そんなことは後で説明します。早く!!」


「あ、ああ。分かった」


町医者は治癒薬を苦しんでいる女性に飲ませた。


「お母さん……」


少女が心配そうな声を出す。統夜としても気が気でない。もし、治癒薬が不良品だったらどうしよう、という気持ちに捕らわれてしまうのだ。


治癒薬を飲んでから十数秒後、女性に変化が起こった。


身体が淡く光り出したのだ。その光は、穏やかで優しい、癒しの光。


女性の表情は一気に安らかなものへと変わり……ゆっくりと目を開いた。


「あら……私は……?」


「お母さん!!」


少女が女性に抱きついた。


「リノ?」


どうやら、少女はリノというらしい。


「リノ、こちらの方々は?」


「町医者のオジサンと……えっと……」


そういえば名乗ってなかったな、と思いつつ、統夜は口を開いた。


「トウヤ・カゲナシ。新人冒険者さ」


「そうですか。ありがとうございます……」


リノの母親は複雑な表情で、統夜にお礼を言った。


「……? どうかしましたか?」


さすがに年上の女性には敬語は使う統夜。まぁ、そんなことはどうでも良いが。


「あの……私達はこの通り、報酬として渡せるものがありません……」


統夜はようやく、女性が考えていることを理解した。


「構いませんよ、報酬なしで」


「……!? で、ですが……」


「いいですいいです。気にしないで。俺が好きでやったことだから」


「好きでやったこと?」


リノが首を傾げた。


「ああ。俺の両親は……俺の目の前で殺されたからな。見捨てられなかったんだよ」


気まずい沈黙が流れた。


「ご、ごめんなさい……」


リノが済まなさそうに謝ってきた。


「大丈夫だ、気にしなくていいよ」


統夜としても、もう仇はとったのだから。


と、ここで気づく。どうして町医者は沈黙したままなのか。



「あの……オジサン?」


固まったままの町医者に、統夜は声をかける。すると、町医者の口から絞り出すような声が聞こえた。


「有り得……ない」


「へ?」


統夜は思わず間抜けな声を出した。


「有り得ないぞ……たった1本で、あっという間に回復するなど……。トウヤ、といったか?」


「あ、はい」


町医者の真剣な表情に、統夜はたじろぎながらも答えた。


「この治癒薬は何だ?」


あまりにも真剣な様子に、リノとリノの母親も統夜の答えを待つ。


「自作の治癒薬さ」


「なに……?」


町医者の表情が驚愕に染まる。


「君は……回復魔法を使えるのか?」


「初歩だけだけど」


「むぅ……なるほど。だが、これほどの効力の治癒薬など……」


「なぁ、これ以上は企業秘密でいい?」


統夜は恐る恐る訊いた。


「……そうだな、済まないな」


その答えを聞いて、統夜はホッとした。


残り9本の内、3本を残して回収した。


「……これは?」


リノが3本の治癒薬を指差して統夜に訊いた。


「ああ、それはあげるよ。病気で死にそうになった人に使ってあげて」


「うん!!」


リノは笑顔で頷いた。すると、町医者が口を開いた。


「なぁ、君。治癒薬の製作をする気はないか?」


「……う~ん」


統夜としては少し悩む。統夜の本分は冒険者である。


だが、材料さえ用意してくれれば、短時間で作れる。



「……材料さえ用意してくれれば、たまには」


「そうか!! 君は冒険者だったな!! 冒険者ギルドに指名依頼として出しておく!! 見かけたら頼むよ!!」


「いいけど……価格は低くしてやれよ?」


「もちろんだ。貧民のための治癒薬だからな。貧民の病気はヒドくなりやすい」


「あと……俺が拠点を移動したらどうするよ?」


「それなら、冒険者ギルドの配達屋に頼んで、君の拠点の街まで材料を送って、君がそれを加工して配達しかえせばいい。配達金も一緒に送るから、送られたお金で配達してくれ」


「了解。それなら大丈夫だ」


こうやって契約は成立した。後に、安価で高効果、製作者不明の治癒薬が、たまに市場に出回ることになる。







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