第19話 新依頼は火山帯
ギルドのある部屋で、統夜は自分の浅はかさを恨んでいた。
ここはギルドマスターの部屋だ。中央にデスクがあり、書類が山積みだ。そこには、この部屋の主であるギルドマスターが座っていた。
統夜はその前に立たされている。斜め後ろにはサラもいる。
「さて……これはどういうことかね?」
統夜によって今回納品された素材の内容を記した書類を指差し、ギルドマスターは言った。白髪白髭の老人だが、威厳がある。
「……そのままの通りです」
統夜は言い逃れしようともせずに言った。どうせ確信を持たれているのだ、足掻いても無駄だろう。Eランク冒険者では所有することなどできない、ゴーレムのコアやゴーストナイトのコアが記入されているのだから。
「ふむ……やはり、実力はEランクには収まらんか」
ギルドマスターはやはり確信していたらしい。
「……で、あなたは俺をどうしたいんですか?」
統夜は核心部分を訊いた。返答次第では、何らかの行動が必要になるかもしれない。
「心配せんでもいい。お主のような強さの者は、珍しいがいるにはいる」
そりゃそうだ。統夜も自分が最強だとは思っていない。……今後どうなるかは分からないが。
「安心……はできないですね。何が目的ですか?」
「ふははは……なに、心配するな。悪いようにはせんよ」
「その発言自体が腹黒いんですよ」
統夜は呆れたように言った。
「うむ。まぁ、お主にとっても益のある話じゃ。まずは聞いてくれ」
そう言って、ギルドマスターは話し始めた。
「少し前、ある報告が行われたのじゃ。ロートン北部の火山帯にて、行方不明になる冒険者が続出するというな」
「……それを調査しろと?」
「話が早くて助かるの」
「……俺を殺す気ですか……?」
「お主の実力を信用してのことじゃ。ロートンには強くてもBランク冒険者までしかおらんのじゃが、そのBランク冒険者も長期依頼に行っておるからのう」
「で、俺か」
「報酬は高いし、原因を見つけるか身の危険を察知したら逃げても構わん」
「報酬は?」
「C3ランク冒険者まで昇格することじゃ。どうじゃ?」
人によっては「それが?」と思うだろうが、実は破格である。というのも、金では買えないのだ、ランクは。
ランクを上げるのにも大変な苦労と時間がかかる。また、DからCへ上がれない冒険者は数多い。
依頼に失敗すると、多量のランク値を喪失する。その制度が原因だ。
Dまでいくと、失敗もそれなりにする。その‘それなり’で、DからCへ上がれなくなるのだ。
「……そうか。だったら受けてもいい。ただし、条件を追加させてくれ」
「なんじゃ?」
「……あまり面倒事に巻き込まないようにしてくれ」
「……了解した」
ギルドマスターは頷き、統夜の条件を呑んだ。
その後、ギルドを出た統夜は、いろいろと準備を始めた。
依頼開始は明後日からである。扱いとしては、極秘の指名依頼となるらしい。混乱を招いたり、バカな冒険者達に勝手に討伐しに行かせないための手段だとか。
翌日、統夜は雑務依頼を複数受けた。
雑務依頼はいつもたまっている。ギルドの信用にも関わるので、雑務依頼がたまっていくのは良くない。
統夜は雑務依頼を消費して、翌日、火山帯へ向かった。
火山帯は、ロートン山脈の一部である。活火山が存在しており、一部は危険地域として立ち入りを禁じられている。
また、火山帯には比較的強力な魔物が多いらしく、Dランク冒険者でもなかなか寄り付かないらしい。逆に言えば、火山帯で行方不明になった冒険者達は、それなりに腕は立つ者ばかりだったはずなのだ。
それが、ギルドが警戒している理由だろう。やられた中にはC1ランク冒険者もいたため、ギルドとしても警戒せざるを得ないのだろう。
統夜は火山帯に着くと、周囲の確認を行った。今は麓にいるが、全く木々がない。岩肌が剥き出しだったり、火山灰が降り積もっていたり、岩石が転がっていたりと荒れ果てている。
また、気温も少々高い。まだ麓にも関わらずだ。
「……敵か」
【索敵】で敵を探知した。いや、視界でも捉えている。上の方から転がるようにこちらに突っ込んでくる魔物。もはや、岩石の塊に近い。
「ロック・ビースト……」
その名の通り、岩の魔物だ。侮るなかれ、こいつらはCランク魔物だ。
身体を岩で覆われており、防御力もさることながら、実は運動能力も高い。
脅威度はロックマンを超え、ウォーウルフ・ロードと同等。それが4体。
「……負ける気がしないな」
ガーディアン5体と戦ったからだろうか。自信はあった。もちろん、過信はしない。絶対勝てるなんて思ってはいない。
あくまでも、負ける気がしないだけだ。
だが、それでも十分だ。
「【レーザー】!」
地面を転がるように移動するロック・ビースト。彼らの姿は二足歩行だが、丸まれば回転して高速移動もできる。
二足歩行ではあるが、見た目は恐竜に近い。サイズは5m前後だが。
小さい版のウラガン○ンだろうか。
その1体に光属性上級魔法【レーザー】が襲いかかる。
それは、ロック・ビーストの身体を容易く貫通した。レーザーというよりか、白いビームみたいだ。視認できるし。
傷口から盛大に鮮血を撒き散らし、1体が脱落した。普通は、Aランクの中でも上位の魔術師系冒険者からしか上級魔法を放つことはできない。
連射できるようになるのは、Sに入ってからだろう。
だが、統夜はやってのける。
「【レーザー】!」
更なる【レーザー】がロック・ビーストを裂く。
そこでようやくロック・ビーストは己の不利を察したようだ。だが、あまりにも遅い。
回転を止めようとブレーキをかけている間に、もう1体殺す。
20秒くらいの間に、3体のロック・ビーストが地に伏した。
残ったロック・ビーストは血走った目で統夜を睨みつけ、一気に突撃する。その速さはかなりのものだったが、統夜は横に跳んで避ける。
そして、統夜は剣を抜く。
抜いた剣の銘は……
《疾影》。
黒い剣が、火山灰によって弱くなった陽光を吸う。光と対極的な剣。
統夜はそれを構え、ロック・ビーストを斬る。
硬度はゴーレムに次ぐロック・ビーストの装甲。
だが、その装甲も呆気なく切り裂かれた。
首を両断されたロック・ビーストは、首なし死体となって倒れた。
「ふぅ……」
統夜は息をついて周囲の安全を確認し、ロック・ビーストの換金部位を取った。
ロック・ビースト4体の出現。これが事件の正体なのかは分からない。
なので、統夜は捜索を打ち切る気にはならなかった。自分にできることはできるだけする。依頼を出された以上は、統夜はその気だった。
統夜は山を登ることにした。殺風景な景色は、見てもあまり面白くはない。
ひたすら岩、灰、山肌である。どこを楽しめばいいのだろうか。
標高が上がるにつれ、温度が心なしか上がる。普通は下がるが、常にマグマがボコボコで、常時小規模噴火状態なこの火山では、火口に近づくほど暑くなる。
空は相変わらず灰色だ。火山灰に覆われているのだ。日光も微妙にしか通らず、やや暗い。
その後も、魔物と何度かエンカウントしたが、統夜を手こずらせるほどのものでもなかった。
「……【索敵】にも反応しないか……」
統夜の【索敵】は、半径50m以内の敵を探知することができる。相手が気配を消していたり、【ステルス】持ちだと分からないが。
「ロック・ビーストが原因……でもなさそうだしな」
ロック・ビーストは以前からもここを生息地域としている。最近になって、いきなり行方不明の冒険者が増えた理由にはなりづらい。
「やっぱり他の要因が……?」
歩きながらも考える。
ロック・ビースト以外に、イレギュラーな強者が存在するはずだ。だが、現れる気配が全くない。一体どうしたものか。
統夜は思考していくうちに、ある場所に結論がいった。
火山では、もはや中心的な存在。これがなければ火山ではないと言い切れる場所。
火口だ。火山を支配した気になって、火口に巣を作っている可能性がある。
「……だとしたら、やだな」
マグマがボコボコしているところの近くなんぞに行きたくはない。ミスれば、とろけるチーズだ。
「そういや、ロック・ビーストとかロックマンは平気だっけか?」
ダンジョンのとき、ロックマンは溶岩の中から現れた。あの時は驚いた。奇襲としてはかなりえげつないものである。
それに、マグマの中に隠れられると、こちらからは何もできないのだ。
何がともあれ、行ってみないことには分からない。
統夜は火口へと向かうことにした。