第15話 ダンジョン【Ⅵ】
灼熱地獄を通り抜けて第7層へ行く。
そこは、遺跡というか何というか……
とりあえず、非常に迷宮らしいエリアだった。
ここからは気をつけなければならない。ゴーレム戦を除けば、第7層と第8層で死者が出ているのだから。
統夜は迷宮の中を進んでいった。
「敵反応……」
【索敵】で敵を探知した統夜は、ダガーを構えた。
ロングソードよりも頼りないが、そもそも武器の性能より己の性能で戦ってる統夜にはあまり関係ないかもしれない。
前方の曲がり角から現れたのは……
「クキャアアアッ!!」
耳障りな声をがなり立てるゴブリン達だった。名前からして雑魚だと思いがちだが、れっきとしたDランク魔物だ。
ウォーウルフに匹敵する戦闘能力を持ち、魔法をも操る。
「クキャアアアッ!!」
見えるのは20体にも及ぶゴブリン軍団。
何体かが、【ファイア】を放ってきた。
「【ファイア】勝負なら受けて立つ!! 【ファイア】!」
統夜からも【ファイア】が放たれる。
統夜の【ファイア】はゴブリンの【ファイア】よりも大きく、ゴブリンが放った複数の火球を打ち消して、ゴブリン達に突っ込んだ。
ゴブリンの表情には驚愕が浮かぶ。先頭の1体を吹き飛ばし、身体を焼いた。
「1体、か……減衰したか」
【ファイア】同士でぶつかった際に威力が削られたようだ。
それでも1体を一撃死させるのは規格外なのだが。
ゴブリン達はギャーギャー喚きながら、統夜に突っ込んできた。もちろん、魔法を放ちながらだ。
【ファイア】【アクア】【ウィンド】【アース】が大量に統夜に襲いかかる。
火球、水弾、風弾、岩石が動く壁のように殺到する。
「やべっ! 【アースウォール】!」
統夜の前に巨大な土の壁ができた。全ての攻撃は土の壁に阻まれ、統夜に当たることはなかった。
「解除」
統夜の解除命令に従い、土の壁は崩れ去る。
と、同時に統夜が攻撃する。
「【ダークブラスト】!」
真っ黒な禍々しい魔法陣が統夜の前に形成され、そこから闇の奔流が放たれる。
凄まじい量の闇に襲われたゴブリン達は、例外なく壁まで吹き飛ばされた。
どうにか立てたゴブリンは5体だけだった。だが、統夜は容赦しない。
「【ファイアストーム】!」
10発の火球が生き残ったゴブリン達の命を全て刈り取った。
「……ふぅ。こんなところかな」
ゴブリンの死体の山を見つめて、統夜はそう呟いた。
統夜はゴブリンの換金部位を剥ぎ取り、先に進んだ。
第7層は迷宮型のダンジョンだが、統夜はあまり苦労せずに次の層への転移門を見つけた。
ここまで深いと、他の冒険者も見かけない。というより、単に統夜が異常なのだが。
Aランク冒険者なら同じ事ができそうだが、統夜はEランク冒険者である。どこまでも異常だ。
第8層。
現在の最前線である。
まぁ、それは自己報告による情報なので、真実かどうかは定かではない。
「ここもか……」
第7層同様、ここも迷宮型だった。
事前情報によると、ここにはゴブリン以外にCランク猪型魔物がいるそうだ。名前はファング。
体長は3mにも及ぶ、大猪だ。
「でもそれが……」
統夜は呆れるように言った。
「転移した瞬間、目の前にいるってどうよ?」
転移した時に見たのは、薄暗い迷宮の景色とデカい猪だった。
「ブギィィィ!」
しかも見逃す気は無いらしい。
「仕方ない。【ファイア】!」
火球がファングに直撃する。
「ブギィィィ!」
「あらら」
【ファイア】はファングの毛と皮膚を焼くだけで、致命傷には程遠かった。
「くそ……【ファイアボール】!」
巨大な火球がファングを襲う。爆発がファングを包む。
だが……
「化け物かよ……」
自分のことは棚に上げて、統夜は呟いた。
出血はしてるものの、【ファイアボール】でも致命傷にはならなかったのだ。
キレたファングが統夜に突進を開始する。
「危なッ!?」
予想以上の速さで、回避がギリギリになる。
避けられたファングは反転、さらに突進を開始した。
「これがホントの猪突猛進だな!」
統夜は軽口を叩きながらまた回避する。
そして攻撃を再開する。
「消し飛べ。【雷光】」
以前よりも強化され、10本に増えた雷撃がファングを襲う。
「プギャアアアアアッ!?」
身体に穴が空き、焼けただれ、血液が沸騰し、身体の一部を爆発させてファングは死んだ。
「うわ……エグ……」
実行犯はあくまでも統夜である。
換金部位である牙を剥ぎ取り、統夜は周囲を確認した。
前方から複数の反応。数は30以上。
【雷光】の雷撃音は雷そのものだ。10本放っているので雷10回。それがこの閉鎖的空間で鳴り響いたのだ。
「集まっても仕方ない、か……」
【雷光】がダメなら、爆発する【ファイアボール】でも引き寄せそうだ。
前方から魔物がやってくる。ゴブリンとファング3体の連合軍だ。
ゴブリンとファングは食う食われるの関係ではないが、少なくとも協力的な関係でもない。それほどまでに統夜を危険視したのだろう。
統夜は化け物に化け物として見られているのだった。
「とりあえず吹っ飛べ。【ウィンドブラスト】!」
殺傷力をもった暴風が魔物連合軍に襲いかかる。閉鎖的空間では、この魔法は非常に有効だ。回避する術がない。
洞窟内で火炎放射器が有効なのと同じ原理だ。
暴風は、先頭にいたゴブリン数体を切り刻み、残りを後退させた。
【ウィンドブラスト】は、効果範囲は広いものの、威力は今ひとつだ。
体勢を立て直したゴブリン達から魔法が放たれる。
「くそ……」
【アースウォール】で防いでもいいが、それだと更なる接近を許す。あの数に接近戦をされると、さすがに殺されてしまうだろう。
「迎撃する。【マジックショット・ストーム】200!!」
統夜の周囲に、200発というおびただしい数の魔力弾が形成される。
「行けっ!!」
200発の魔力弾は、統夜の命令通りに一斉に飛び出した。
次々と魔法を相殺し、統夜に届く魔法は何一つなかった。
それどころか、魔物連合軍に150を超える魔力弾が殺到した。ファングには有効打とはならなかったが、ゴブリンは壊滅的被害を被った。腕が飛び、頭部が破壊され、胴体を分断され、内蔵を撒き散らした。
1発1発は威力が低く、防御力の高い相手には通用しない【マジックショット・ストーム】だが、ゴブリン程度の防御力なら複数発当てることにより、惨殺する事ができる。
現に、ゴブリンの大半は原型を保たない死体と化した。
魔物連合軍はさすがに攻めあぐんだ。だが、統夜の前で行動を止めることは自殺行為以外の何物でもない。
「【雷光】」
凄まじい威力を持った雷撃が、ファング2体を爆破する。
残存戦力はゴブリン3体とファング1体。もはや壊滅というより全滅に近い。
元の世界の現代戦においては、全体の3割が戦闘不能になった時点で壊滅と判断される。
魔物連合軍の生き残りも、勝てないと悟り、必死に逃げ出した。
統夜としては追うつもりはない。魔力もかなり消費したので、少し回復させる必要がある。
統夜は換金部位を集めるために、自らが作り上げた死体の山を漁り始めた。
半分近くの魔物が、換金部位もクソもないくらいに破壊されていた。
「……ちょっとやりすぎたか……」
‘かなり’やりすぎである。