第11話 ダンジョン【Ⅱ】
このダンジョンは、《ロートン山脈迷宮》と呼ばれている。最近発見されたばかりなのだが、挑戦者は多い。
今でも、統夜以外の挑戦者がいて、洞窟型のダンジョンでも、少し騒がしくて拍子抜けだ。第1層なので、仕方なくはあるが。
第1層は、まるでアリの巣のような構造をしている。まさに迷宮だ。
そして、出てくる魔物も……
「アリだなんてなぁ……」
しばらく進んで、周囲に誰もいなくなったところで、統夜はこのダンジョンの魔物とエンカウントした。
この蟻は、アントという……まぁ、そのままな名前なのだが、Eランクに位置する魔物だ。ウォードッグよりかは強いが、ウォーウルフよりは弱い。
それが、統夜の前に5匹だ。
「ちょうどいい。剣技も試したかったしな」
統夜はロングソードを抜き、構えをとった。アント達は既に戦闘態勢だ。
アントは体長1mほどの巨大アリで、正直キモい。女の子なら逃げそうだ。もっとも、統夜には関係ない。
「行くぜッ! 【奪命斬・壱ノ型】!」
統夜が技名を言った。ちなみに、魔法ではないので、わざわざ技名を言う必要はない。今のはノリである。
剣技は、魔力を使うが魔法ではない。魔力を使う用途なのだが、それは動きのアシストである。
瞬間的に付加効果を剣に帯びさせ、ついでに使用者も剣技を使う時のみ、身体強化を施される。
統夜のロングソードが青白く輝くと同時に、統夜は斬りかかった。
【奪命斬・壱ノ型】。奪命斬の名は伊達ではなかった。
1度目の斬撃で、1体目を切り裂いた。凄まじいくらいの断裂能力向上である。それだけではない。何故か、剣身からデタラメに【ウィンドカッター】のような、不可視の風の刃が複数ばらまかれた。さすがに統夜の方には飛んでこないが、周囲にいたアントはひとたまりもない。ズタズタに切り裂かれて絶命した。
一太刀で5体殲滅。
「……もう少し、弱くても良いんじゃね?」
思わず呟く統夜だった。
現在の統夜の魔力最大値が、1280だ。
【奪命斬・壱ノ型】で、魔力は1160まで減少した。
【雷光】と同じく、魔力消費は120らしい。
【奪命斬・壱ノ型】は接近戦用の範囲攻撃剣技らしい。ただ、これは剣技というよりも魔法に近い気がする。
あの風の刃は、【ウィンドカッター】に似ているが、微妙に違った。ちなみに、【ウィンドカッター】の魔力消費は20だ。
【奪命斬・壱ノ型】は、ただの剣技ではない。つまり……
「他人に見せたらマズい技、か……」
【雷光】、【マジックショット】3種に加え、【奪命斬・壱ノ型】。もはや秘密のオンパレードだ。
ただでさえ、普通の魔法の威力もスゴいというのに。
チート能力とは、非常に扱いづらいことを、統夜は初めて知った。
アントの換金部位は、胸甲殻だ。曰く、アントの中では一番丈夫な部位で、防具の素材としては中々使える代物らしい。
それを含めて両断した統夜は、アントの素材を使った防具は絶対に買わないことにした。信用できない。
その後も殺戮(?)を続けた。
何もなしに、普通にロングソードで攻撃すると、やはりアントはそこそこ堅かった。斬れないことはなかったが。
言うまでもなく、人目があるときは魔法も剣技も使わなかった。
アントを20体以上倒した統夜は、次の層へ向かった。
次の層への道は、転移門と呼ばれる門……ではなく、光の塊に飛び込むことで行ける。
統夜は、門とは名ばかりの転移門に飛び込み、次の層へ行った。
統夜が目を開けると、そこには草原が広がっていた。青空はあるが、おかしな点もある。景色はどこまでも続くが、フィールドには見えない壁があり、それ以上先には、魔物でさえも行けない。
《ロートン山脈迷宮》第2層は、面積25平方kmにも及ぶ、広大な草原エリアだった。
ダンジョンの不思議な点だ。空間が歪められているので、有り得なくはないが、さすがに驚く。
青空や草原はどこまでも続く。実質行けるのは5km四方のみだが。
「さて、やってやるか」
統夜は草原を駆けた。
第2層の魔物はウォードッグと、たまにウォーウルフである。大量のマナのせいか、少し強くなっている。ダンジョンの魔物は、通常の魔物よりも強いのだ。
かく言う統夜の目の前に、ウォードッグの集団が現れた。
冒険者もちらほら見かけ、あまり派手なことはできない。統夜と向かい合うは、8体のウォードッグ。
「魔法なしでもいけるな。行くぜッ!」
統夜はダッシュで駆け、ウォードッグを斬りつけた。その速さは、もし他の冒険者に見られていたら、身体強化魔法の使い手だと思われるレベルだ。身体強化魔法は、素早さなら《斥候》系クラスのクラス魔法にある。
きっと、その魔法のおかげとか思われるに違いない。ちなみに、身体強化魔法はクラス魔法以外にも、個人魔法で覚えられる。もちろん、個人魔法は何が覚えられるか分からないので、覚えたくても覚えられないことが多いが。
統夜の斬撃をモロに受けたウォードッグは、スッパリ斬れた。ブロンズソードよりか、遥かに切れ味がいい。
ウォードッグが3体、別々の方向から襲いかかる。統夜はその場で伏せた。
統夜の頭上で3体が衝突する。間抜けだ。
そのまま3体まとめて切り裂く。内臓が飛び出たりして気持ち悪いが無視。
ウォードッグの癖だが、襲いかかる瞬間、ジャンプして瞬間的に速度を上げるようだ。
獲物相手ならばそれでいいが、獲物以外には危ないだろう。特に冒険者は。
魔物達にとって、人間や亜人などは未知数の存在だ。個体によって、凄まじいくらいに強弱が分かれる。獲物にしかならない弱者なら問題ないが、逆に獲物にされてしまうような相手が現れると、どうしようもない。
強者とぶつかったウォードッグは、まず生きて帰れないので、ウォードッグはこのような戦法をとるのだろう。
この戦法が冒険者には間違いだと知るウォードッグは、大概死んでいるのだから。
統夜は、ウォードッグが哀れに思えてきた。もちろん、手加減容赦は一切ないが。
残った4体が後ずさる。逃がしはしない。
統夜は一気に接近し、残ったウォードッグを血祭りにあげた。
第2層もそこそこ人が多いらしく、そこらかしこで冒険者のパーティーを見かけた。さすがにソロはいなかった。
草原の景色は雄大だ。魔物がいなければ、昼寝していきたいレベルである。
だが、早めに第5層の安全層に向かわないと休めない。統夜はそう考え、次の層へ向かった。
その頃、第4層では非常事態が発生していた。
第4層は安全層である第5層の前なので、中ボスみたいな魔物が出現する。出てくる魔物はいつも同じだ。
……同じはずなのだ。
普通、出てくるのはCランク魔物のオークのはずだった。
そこはコロッセオのような円形闘技場。
2つのパーティーを集めたレイドパーティーによって、中ボスオーク3体を殲滅した。
だが……
「おい……地面から何か出て来るぞ!」
冒険者の誰かが言った。地面が盛り上がっていく。
乾いた空気に照らす太陽。その中にある円形闘技場。
そこで、事件が起ころうとしていた。
そして、そのパーティーの中には……
赤髪の貴族少女も含まれていた。