第10話 ダンジョン【Ⅰ】
地獄のEランク試験依頼から2週間。統夜は順調だった。
レベルこそ1しか上がっていないが、熟練度や貯金は貯まり、E2ランクになっていた。
話は変わるが、Dランク冒険者から従者奴隷の購入が許される。貴族や王族はその限りではないが、ド平民の統夜には関係ない。
統夜としては、回復役と後衛の2人を買うつもりだ。できるだけなら魔法は使いたくない。使えば、実力をさらけ出すことになる。
となれば、統夜は必然的に前衛だ。まぁ、パワーとスピードでも人外なのだが。
だが、そちらは加減できる。魔法は規定のものを使っているため、威力の加減ができないのだ。
初級魔法で広範囲攻撃という人外さを世にさらけ出すのは避けたい統夜。ならば、魔法は使うべきではない。だからこその後衛と回復役だ。
といっても、E2ランク冒険者にはまだ早いし、従者奴隷の相場もよく分かっていないが。
この2週間で、この世界のこともだいぶ分かった。時間の計り方は同じだ。暦も同じ。四季もあるし、紅葉とかもある。
ステータスについてだが、今までハッキリしていなかった体力の扱いも分かった。あれは、大体の予測値とか比較値とか、そういうものらしい。体力100の人と体力300の人がいたら、後者の方が3倍生命力がある。
それだけだ。
魔法や特殊能力についても理解を深めた。
魔法には個人魔法とクラス魔法があるのは知っていた。
個人魔法は、レベルが上がれば覚えるというものではなく、本人の才能や苦労に見合った魔法を覚えるらしい。
つまり、才能もいるが、努力も惜しんではいけないのだ。
ただ、この世界では、才能があるから努力しないなんていう人間が腐るほどいるらしいが。
特殊能力も個人魔法同様だ。ただ、クラスによって、一時的に付加されるものもあるらしい。また、剣技というスキルも特殊能力に入るらしい。曰く、前衛なら大体覚えるらしい。魔力を少し使うが、決して魔法ではないらしい。
かく言う統夜もレベル20になって、剣技を1つ覚えた。
【奪命斬・壱ノ型】という、なんか怖そうな名前だが。
まだ試していないので、威力は不明だ。あまり強くないことを願う。
サラに聞いたところによると、【奪命斬・壱ノ型】という剣技は聞いたことがないらしい。
嫌な予感しかしない統夜だった。
2週間で1しかレベルが上がらなかったが、実はこれでも早かったりする。
早くても1ヶ月、レベルアップに時間がかかる。レベル10~15までくらいなら割とすぐ上がるが、そこからは中々上がらないらしい。
一般人のレベルが10前後なのは、この不可思議な法則のせいだという。
統夜の場合は飛び越えてしまったが。
統夜はボロボロの装備も一新した。
武器はロングソード。一般的な剣だが、その分信頼性が高い。副次兵装として、投げナイフ4本と、アイアンダガーを購入した。
防具は、より軽装なレザー系の防具だ。
統夜は防御を捨て、攻撃と素早さに重点を置いた。……といっても、素で頑丈な身体を持っているのが統夜なのだが。
そんなある日のことだ。
統夜はいつも通りに依頼を受けようとギルドカウンターにいた。すると、サラが興味深い話をしてくれたのだ。
「トウヤさん、最近、ロートンの近くでダンジョンが発見されたのを知ってますか?」
ダンジョン。迷宮とも言われる、不思議な空間のことである。
そこは大量のマナによって、空間が歪められており、たくさんの魔物や罠に加え、色々な物が落ちていたりする。価値のないものから、財宝レベルのものまで存在する。故に、ダンジョンに挑戦する冒険者は、数が多い。
ただ、ダンジョンには危険なものも多く、死者もたくさん出る。ハイリスク・ハイリターン。
それが、ダンジョン・迷宮なのだ。
「初めて知った。難易度は?」
「少なくとも、第8層まではあり、魔物もそこそこ強いので、Cランクに設定されてます」
ダンジョンの最低はDランク。Cランクダンジョンは、まだ簡単な方だ。
といっても、やはり難しいものは難しい。Bランク冒険者4人のパーティーで、ようやく8層らしい。しかも、そこで退却。まだ先はあったらしい。
「そうだな……行ってみるか」
統夜は言った。
「あ、あの……さすがにパーティーを……」
「組むわけないじゃん」
統夜は言い切った。
「で、ですよね~」
サラもさすがに呆れる。
「でも、死なない程度にお願いしますからね! 既に8人死んでるんですから!」
「分かってる。危なくなったらすぐに引き返す」
「危なくなる前に引き返すんです!」
「了解了解」
統夜が本当に分かっているのか、正直心配なサラだった。
統夜はギルドから出て、早速準備を始めた。マジックポーチの特性として、中に入れたものは劣化しない、というものがある。
つまり、わざわざ保存食にする必要はない。
というわけで、統夜は果物や肉、野菜を購入し、マジックポーチに入れた。これで鮮度は保たれる。
少し前に買っていた野宿セットには調理器具もついていたので、それを使えば大丈夫だろう。基本、ダンジョンは数日間に渡って潜らなければいけない。それほどにまで困難なのだ。
ただ、統夜にとって心配なのは、野宿の時だ。
ソロの統夜には、見張りをしてくれる人間などいない。
そういう意味で、統夜は非常に危険だ。
一応、確認されたところでは、第5層は安全層らしく、魔物はいないらしい。
だが、そこまで行くのにも2日かかるらしい。
それに対する統夜の考えは……
「人のいないところで本気出して突き進んだら、どうにかなるだろ」
である。単純明快だが、それしかない。
統夜はまだ見ぬダンジョンの期待の念を抱きながら、準備を完了し、早めに就寝した。
次の日、統夜は、サラに場所を教えてもらって、ダンジョンの入口に来た。場所はロートンから東へ、ロートン川を越えてしばらくした山岳地帯だった。
ここまで来るのに、統夜でも2時間を要した。普通なら10時間近くかかる。
山の中腹にダンジョンの入口はある。
ダンジョンの入口は様々な形がある。洞窟みたいになっている場合もあれば、光の集合体のような形状をとっている場合もある。
今回は後者だった。家屋1つ分くらいの入口があり、その周囲には複数の山小屋が建設され、賑わっている。山小屋の正体は、宿屋や道具屋、武具屋や商業ギルドの出張販売店だったりだ。冒険者や商人を含めて、200人はいる。
まるで活気のある村のようだ。
統夜は準備万端だったため、そこは素通りして、ダンジョンに入った。
光の中に入ると、重力の感覚が消えて、ふっと立ち眩みが起こったような感覚に陥った。
気づくと、そこは既にダンジョンだった。
第1層は洞窟みたいな地形だ。薄暗いが、何故かぼんやりと明るかった。
「さて、と。いっちょ、やってやりますか」
統夜は駆け出した。