第1話 転生
「ここは、どこだ……?」
影無統夜の視界には、広い草原と背後に森、草原の向こうには何か街っぽいのがある。
「何なんだ、これは? 俺は……一体……」
『目覚めたか……』
「ッ!? 誰だッ!?」
統夜は周囲を見渡したが、人はいなかった。
『ふふふ……ワシは、お主からは見えぬところにいる。ワシが、お主をこの世界に送った』
「この世界に送った……? 異世界だと言うのか?」
『そういうことになるな。じゃが、お主も覚えてるじゃろう? 自身の最期を』
「俺の最期……」
『お主はあちらの世界で死んだのじゃ。海外旅行中に、テロに巻き込まれて、な』
「あぁ……」
思い出してしまった。空港内に突然現れた黒ずくめのテロリスト集団。何語かよく分からなかったが、肌の色から推測して中東辺りのテロリストだっただろうか。両親を殺され、周囲の罪のない人々を殺された。そのとき、統夜はどうしたのか。
「殺されただけじゃない……俺は、テロリストを……」
『うむ。殺しておったな。不意を突いて3人。親の仇はとれたかの?』
「ああ。とれたよ」
統夜は、死体が折り重なる中、テロリスト集団に気づかれないように警備員の死体からハンドガンを奪い、油断していたテロリストを射殺した。
警備員がセーフティーを外してくれていたおかげで、統夜にも撃てた。3人殺したのは僥倖だ。
そして、テロリストにAK47アサルトライフルで射殺されたわけだ。
『ワシがお主をこの世界に呼んだのには理由があってな。まず1つ。お主には類い希なるマナ制御力があったことじゃ』
「マナ制御力?」
『簡単に言えば、魔法を使うのに必要な能力じゃ。人間はマナを取り込んで魔力にして魔法を使うのじゃ』
「この世界には魔法があるのか……」
『うむ。さらには、個人の強さを指し示すものもあるぞ?』
「なんだそりゃ?」
『脳内で強く《ステータス》と念じてみるのじゃ』
「?」
とりあえず、統夜は言うとおりにした。
(《ステータス》!)
すると、だ。目の前にスッと四角い半透明のスクリーンが現れた。
「なんだこれ……レベル1?」
そこには……
名前 トウヤ カゲナシ
15歳
男
レベル1
クラス 凶星戦士
熟練度0/1000
体力200
魔力100/100
個人魔法
ファイア、アクア、ウィンド、アース、ライト、ダーク、ファーストエイド
クラス魔法
雷光(Lv1)、マジックショット(Lv1)
特殊能力
凶星化
「なんだこれは……ゲーム?」
『似ておるが違う。この世界にはこの世界の理がある。そのひとつがこれじゃ。強さを表にできる』
「そんなことが……?」
『うむ。ワシがやった』
「なんだと?」
『ワシは神じゃからな』
思わず統夜は絶句した。姿見えぬ声の主こそが神だという。
だが、今の統夜はぶっ飛んだことでも受け入れられた。なにせ、本当なら自分は死んでいるのだから。
「……了解した。死んだはずの俺が生きているということは、何か得体の知れない力が働いている。得体の知れない力があるなら、得体の知れない存在があっても不思議じゃない」
『分かってもらえたようで何よりじゃ。では、次の理由じゃ。異世界に召喚された存在は、世界の理をねじ伏せたために、何かしら化け物じみた力が備わる。異世界から連れてきたのは、その能力が必要になるかもしれないからじゃ』
「必要になるかもしれない?」
『うむ。まぁ、お主に頼み事があるのじゃが、それは後で話す。次に、命に対する考え方じゃ』
「……どういう意味だ?」
『お主は、敵なら殺せる。人間であろうと。違うかの?』
「………………」
統夜は思わず黙り込んだ。確かに、神の言うとおり、統夜は敵なら殺せる。テロリストを殺したように。
直接言われると、何とも言えない気分になるが。
『まぁ、他にもいくつか理由があるが……とりあえず、これらがお主をワシの頼み事に付き合わせようとした理由じゃ。ワシの頼み事は……時期を見て、夢の中で通達するかの。今のままじゃと、レベルが低くて如何ともしがたい』
「つまり……しばらく自由にしろと?」
『まぁ、そうじゃ。支度金10000ロンドと服は身につけさせておる』
統夜はふと自分の身体を見た。ファンタジーの街の住人、といった服装だった。
『あとは……一般知識かの。直接頭に送る方が簡単じゃな。今から直接知識を入れる。一回気絶するからの』
「えっ……!? ちょっ、ま、うおっ!?」
頭に何かが入ってくる感覚を感じた瞬間、統夜の意識はブラックアウトした。
「うぅ……神ってヤツは強引すぎる……」
『ほぅ……1時間で目覚めたか。最悪一週間は覚悟しておったが』
「殺す気かッ!?」
統夜は思わず叫んだ。
『ふむ……お主のステータスを少し調べたのじゃが……レベル1にしてはちと強いのう。クラスも、この世の理をねじ曲げたせいか、オリジナルなクラスになっておるし……クラス変更もできんようじゃしのぅ……凶星戦士は、神であるワシも知らん』
「イレギュラーな存在なんだな、俺って……」
『まぁ、ワシは追い出さんから、別にいいんじゃないかの?』
「まぁ、神が許すってんならな」
『素直なヤツは好きじゃ。まずはあの街……商業都市ロートンに行き、冒険者にでもなるがいい。ワシはそろそろ行く。達者でな』
「おう。じゃあな」
統夜の頭には、何の声も響かなくなった。
「さて、と……商業都市ロートンか……」
一般知識をもらったので、そこそこ、この世界の平民レベルの常識は兼ね備えている。やり方は強引だったが、今は神に感謝だ。
ちなみに、この世界の宗教は架空の神を信仰しており、唯一実在する神……先ほどの声だけの爺を信仰する宗教はないらしい。
唯一神とかいう名前らしいが。とりあえず、彼自身は信仰されていないことには何も文句はないらしい。むしろ、自らの力で作り上げた文明を尊重するそうだ。
なんと心の広い神だろうか。その割には統夜に強引な方法で知識を植え付けたりとムチャクチャだが。
統夜の現在の装備は、平民の服装にブロンズソード、所持金10000ロンドとマジックポーチだ。
全て神からの貰い物だが。
剣術も頭に押し込まれたので、ブロンズソードも無駄にはならないだろう。
「さてと……まずは商業都市ロートンに向かうか」
そう言って統夜はロートンへ歩いていった。
ロートンへ向かう途中、街と街を繋ぐ大きな道……街道を見つけた。交通量はまばらで、たくさん人がいるわけではないが、いないわけでもない。
統夜はその道を行くことにし、街道の端を歩いていくのだった。
統夜は歩きながら魔法についての考察をしていた。
どうやら、魔法は魔力を消費して行使するものらしい。ただ、魔法の威力には個人差があり、同じ魔法でも個々人で威力が違う。
それは、マナ制御力の強さで決まるらしい。魔力の元はマナという不可視の粒子体らしい。ここらはこの世界の人間は知らないかもしれない。神はいらん知識まで与えてくれたようだ。
あらゆる生物はマナを魔力に変えることができる。より扱いやすい形に変えているのだ。
魔力によって、空気中のマナに働きかけ、色々な現象を発生させる。その際にもマナ制御力が必要だ。
つまり、マナ制御力は魔力量、魔法威力、魔力回復量に関係するわけだ。
そして、神曰く統夜はマナ制御力が優れているそうだ。
統夜が元いた世界にはマナという粒子はなかったため、魔法自体なかった。だが、実際はマナ制御力自体は存在し、あの世界の人間はこの世界の人間よりも軒並みマナ制御力が高いそうだ。その中でも突出していたのが統夜らしい。
そんなことを考えていると、いつの間にか商業都市ロートンの近くまで来ていた。