序章
序章
暗い場所で、僕は目を覚ました。
慣れ親しんだ自室ではない。
僕はこんな場所に心当たりは無い。ここはどこだ。
僕は仰向けに寝転がったまま瞳を動かす。体は何をやっても動きはしない。金縛りにかかっているようだ。
その場所は、何も見えない暗闇のように見えたが、目が慣れてくると、天井の方から少しだけ光が注いでいるのが見えた。
岩か何かで天井は塞がれてしまっているのだろう。あの天井を塞いでいる物をどかしたら、青い空が見えるに違いない。
だとすると、ここは使われなくなった井戸の底などの、天井を塞がなければならないような場所なのか。
それならばとても危険だ。僕が何故こんな所に居るのかは兎も角、早くここから出なければいけない。
僕は起き上がろうとするが、やはり体は動かない。無理矢理動かそうとすると、強い痛みまでしてきた。
必死に眼球を動かして自分の状態を確認しようとすると、右足に鎖のような物が巻きついているのが見えた。
驚いた僕は、左足の方も確認する。左足にも鎖は絡みついていた。
最初に僕が金縛りだと思ったのは、間違っていなかったようだ。
だが、それは精神的な「金縛り」ではなく、僕は本当に鎖で縛られていたのだが。
いよいよもって、奇妙な事になってきた。僕が鎖で縛られているという事は、僕は誰かの手によってここに沈められ、縛られた事になる。一体誰が。
僕がここから出る方法を考えていると、誰かの声が聞こえてきた。
悲鳴。呻き声。許しを請う声。嗚咽。聞いていて気持ちのいい物では、決して無い。
その悲しげな声よりも遠くで、何か歌のような声が響いている。
僕は悲鳴や嗚咽から耳を逸らしたくて、その歌のような声を聞き取ることに集中した。
よく聞いてみると、その歌は賛美歌のようだった。寧ろ祈りに近いかもしれない。
遠くから聞こえているが、その声はとても大勢の人の声のようだった。色々な声が交じり合って、奇妙なハーモニーを作り出している。
だが、そのハーモニーに悲鳴等の悲壮な声が重なって、歌だけならば決して不快ではない音が、今はとても不快な音になってしまっている。
気分が悪い。この音を聞いていたくない。
悲鳴と賛美歌が重なり合って、一番強い音がした時、僕は心の奥底で、ここから出たいと強く願った。
*
今日も今日とて、世界は回り続けるのだ。
それを感じれる者こそ居ないが、それでも世界は回り続けている。
だが、それは誰も感じられない。
その常識を覆そうとする者もまた、存在する。
世界を旅し、世界の流れを知ろうとする者達。
この物語は、若くして旅に出た三人の旅人の物語である。
世界の流れを知ろうとした、三人の旅人の物語。